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リミット24――死が見える男――  作者: 瀬ヶ原悠馬
第三章 ドッペル、かっこいい
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13.被害者

 結局、九時までなにも起きることはなく、さすがに一つ屋根の下で一日過ごすのは気が引け、家に帰った。風呂や歯磨きを終え、すでに二十三時を越している。


 寝室を薄暗くして、ベッドの背に腰を掛け、足を伸ばして座っていた。傍にあるのスタンドテーブルの上に、仄かに光るランプを置いていて、そこから周囲を淡く照らす。共に、温かい緑茶を用意していた。


 まだ、ドッペルゲンガーの連絡はない。小説を読んで暇をつぶそうとしていたが、頭の中には事件のことが浮かぶ。


 粗里から連絡が来たのだが、どうやら高郷はうだつの上がらない人だったようだ。趣味の呪物集めを特集して、編集長まで上り詰めたものの、科学的検知からまとめた記事を攻めて何度か慣行したが、売り上げはイマイチ。


 一部からはかなりの支持を得ていたようだが。

 科学的な内容からの切り口を期待している人は、読者層にはあまりいなかったようだ。


 かなりこだわりが強く、クセの強い人物だったらしい。自分のこだわっていることに関しては、一切の妥協を許さず、ついてこれずに退職した社員もいた。


 一時期、パワハラと訴えられ、業績も芳しくなかったために平に降格。それからは、やり返すかのようにいじめられたらしい。


 そこまでの人には見えなかったのだが、所詮は表と裏の顔。軽い付き合いだけでは、わからないこともあるだろう。


 その後、第二波と言わんばかりの、周囲を跳ね除けるほどの業績を一気に上げていった。それが、あの関東連続植物人間事件の特集を組んでから。自作自演だったようだ。


 一部の説は、そこが発端ということもあり、例えば、死神の説の大元はここらしい。他には、帆野が知っていなかった公安の人体実験、とある宗教のテロ行為などを上げていた。


 その時に、良く″それくらいのことも書けないくせに、俺の悪口言ってたのか?″などと、事あるごとに周囲に嫌味を吐いていたらしい。


 嫌がらせてしてきた人の魂を抜いて、復讐することも出来ただろうが、それよりもネチネチと小言を言ってやり返したかったのだろう。


 丁度、早海の魂を返した時期から退職し、自宅に引きこもっていたらしい。就職している気配はないが、不思議と部屋からゴミ屋敷のような異臭がするということはなく、近隣住民ともトラブルを起こしていなかった。


 だが、女性の出入りがあったようだ。歳が離れているように感じて、ひどく印象が強かったと近隣の人は言っていたそう。とはいえ、今流行りのロリータファンションというお洒落をしていたらしく、そのせいもあったかもしれない。


 そこまで老けている印象ばなかったが、恋人の一人や二人は出来たことあるようにも帆野は感じたため、意外性はなかった。


 ただ、それ以上に呪物を集めていて、かつ、魂を抜き取って保管していた人間が、まさか人を家に呼べるまでの神経があったとは中々に恐れ入る。


 そこから出入りも増え、彼女と思われる女性と、何度か出かけていたらしい。そういう状況から推測して、呉を脅迫したのは恐らく、貯金の底をつきたということだろうか。相手の女性からお金を貰わなかったのは、見栄からなのかはわからない。


 スタンドの上のスマホが震える。手に取ると、小萱の名前が表示されていた。電話に出る

――お疲れ様です。わかりました?

――夜遅くにすみません。まだいますか?

――あぁ……すみません。今、自宅にいて。浅霧に連絡取ってもらえませんか?

――では、報告だけ。見つけました。


――ほんとですか!?

――ええ。ようやくです。それまでに、何件か周囲で通報があって。中々尻尾を掴めず……

――では、信じてくれますね?

――浅霧さんに確認が取れたら、ですけど。

――随分と慎重ですね……


――当然です。あり得るような話じゃない、超常現象の類のものをはいそうですかと信じて、逮捕できるチャンスを逃すなんて愚かです。


――確かに。確認取ってください。わかったらSMSにでも。

――わかりました。

――あ、それと……今さっき存在を見て、今は目の前にいるんですか?


――いえ。一応、上手いこと説明して、他の刑事たちにも来てもらってます。

――二回見たら死ぬそうなので、気を付けてください。


 言葉を発するまでに、多少の間がある。

――わかりました。気を付けます。

 スマホの奥の方から、誰を叫ぶ声が聞こえた。


――越峠(こしだわ)! 越垰! おい! 返事しろ!

 走る音が聞こえる。

――どうしたんですか!

 先程よりも少しばかり、遠いところから小萱の声が聞こえる。なにかあったらしい。

――わからない……急に倒れて……


 また足音がする。

――救急車呼んでください。

――あ、ああ……

 再び歩く音が聞こえた。

――たぶん、その通りだと思います。

 今度は、至近距離から耳に届く。少しばかり、気づかれぬよう潜めていた。


――まさか……

――倒れました。ドッペルゲンガーの噂は本当のようです。

 言葉を失う。捕らえるのにも、かなりの苦労を要しそうだ。


――ごめんなさい。協力できなくて。

——え?

――怖くなったと言いたいんじゃないんです。病院に行って、検査をするまでわかりません。ですが……もし、帆野さんが言うように、そうだったとしたら。捕らえるのに協力はできません。私だって刑事です。どうにかしたい。でも、もう一回会ってしまっている。


 感情を押し殺したような声で、言葉がひねり出された。

――大丈夫です。それも考えてたことです。気にしないでください。無理に協力しろと、さすがに言えません。

――……本当にごめんなさい。

――気にしないでください。今のうちに帰宅してください。もう一度出くわさないよう……


――だ、誰ですか!

 荒い息が滲んできている。足音さえ聞こえず、現場でなにがあったのか、それすら想像するのが難しいほど情報が乏しい。

――小萱さん?

――ドッペルゲンガーでは、ないですよね……


 こちらからは一切現場は見えない。ドッペルゲンガーかもしれない、そんな事実を聞きたくて、問うているのでは当然ない。気持ちを汲み取ることに決めた。

――違います。絶対に。俺が保証します。

――……ありがとう。


 声色に少しばかりの変化を見せた返答で、電話を終える。

(小萱さん……無事で帰ってくれ……)

 そう祈り、スマホを握りしめた。

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