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リミット24――死が見える男――  作者: 瀬ヶ原悠馬
第一章 誰か、中にいる。
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3.予知ビデオ 前編

 翌日。朝十時頃。

 浅霧からつい先ほどロードで連絡が来たため、身支度を済ませていた。クローゼットから私服を取り出し、寝間着から着替えている。


 浅霧の家で経緯を聞いたあの後、まずは被害者宅の情報とストーカーがいなかったかなどの聞き込みをしたいと相談し、ロードで連絡先を交換していた。


――植物人間絡みの事件かもしれないので、事務所に来てください。

――了解しました。すぐ向かいます。

 早起きとは言えないものの健康的な生活を自負していたため、急な連絡と言えど特に支障もなかった。朝風呂や歯磨き等は済んでいたので、そのまま家を後にする。


    ・  ・  ・


 (確か、上だったよな)

 建物前に到着したものの名前すら書いておらず、一階は朝でもシャッターが閉じられていた。玄関が窪んでいて、そこに店名でも書いてあるのだろうか。


 外装は白塗り、二階へ上がる鉄製の階段は黒塗り。扉は一部屋しかついていないので、アパートというわけではないだろう。


 一度来たとはいえ迷う可能性も考えられるので、スマホのマップアプリを使用してここまで来たのだが、遅れてはいないだろうか。


 スニーカーでも上がるのがわかる鉄の響きを背後に、網目でモザイク使用のガラスが入った鉄の扉の前に立つ。


 インターホンを押すと、何故かロードで入るよう返事が来た。早速、家に上がらせてもらう。突き当り正面に壁。左に折れた通路を進むと、玄関近く左手に扉と、突き当り正面に扉があった。


 そこまで突き進み、右手にある扉を開ける。

 横長の広い1LDKの部屋。右側奥に三連の引き戸があるところを見ると、そちらが一部屋らしい。それに添えられるようスタッキングシェルフ、近くに円形のカーペットとテレビと台、そしてL字型のソファー。


 カーペットの頭上にシーリングファンライトがあり、また左側には、帆野と浅霧が会話したソファーとテーブルがある。


 すでに依頼者と思われる女性——貝塚(かいづか)愛実(まなみ)と浅霧が座っていた。丁度その時、帆野の視線に気づいた愛実と、軽く会釈での挨拶を交わす。

 

 右側の一室は恐らく、一見した感じ寝室となっている。見られたくないという気持ちはなく、堂々と開けられていた。あまりまじまじと見るのも気が引けるので、とりあえず二人の元へと移動する。


 こうして近づいたからこそ気が付いたのだが、依頼者は姿勢も整っていて、育ちのいいという印象だ。ベージュのスカートに白色の半袖のブラウス。楚な恰好をしているように感じる。


 浅霧の隣に空間一つあけて座ると、テーブルの上に置いてあるノートパソコンの画面を帆野に向けた。

「この映像を見てください」

 映像ということで程度は強くはないが、気持ちが身構えた。カーソルを持っていき、ファイルを開く。


 左奥にベッド。その手前に洋服箪笥が見切れ、右奥には勉強机、その近くの床にテレビとゲーム――と配置されているも、生活感がまるでない。


 綺麗すぎるという意味ではなく、どう生活していたのだろうと思うほど荒れていた。CDや丸められた紙、飲んだペットボトルなどあふれていて散々なありさまだった。

「三脚かなにかで、入口から撮られてるんですか?」

 愛実に問うつもりで、目を遣る。


「だと、思います。まぁ、そんなもの持ってるはずがないんですが」

 ボブの髪の毛を、右耳の後ろにそっとかける。扉の開かれる音が聞こえたため、視線を戻した。

「あれ、扉の音」


 愛実が言葉を零したので、気になって一瞬だけ目を向ける。やがて、髪がくしゃくしゃに乱れていた女性が入ってきた。この部屋の荒れ方や身なりに関して気にしていないところを見ると、引きこもりということだろうか。


 中央にあるテーブルに座り込むと、カメラの正面をただじっと見つめるだけでなにも行動を起こさない。しかし、異様な緊張感がある。恐らく、その緊張の正体は右手に握られた包丁だ。


 光源となっている要素は、後ろにあるカーテンから漏れる太陽光のみ。それでも事態を把握するには十分なくらいだ。


 パジャマ姿ということは、寝起きからすぐというところは察せられる。愛実に比べて随分と老けているようにも見えるが、顔立ちは瓜二つといっていいほどそっくりだ。


(双子か?)

 いろいろなところを注意深く見ようと思ったときに、左下にある字幕の日付は目を疑うものだった。明日の日付である。時刻は十時四十二分と、現在の時間から見た場合、あと十分もすれば丸一日経ったと言える。


「これ」

「どうしたんですか?」

 これに愛実が反応した。

「いや、なんでカメラの撮影日が来週なんだって思いまして」


「こういう事件を扱いになられているんでしょう? そうお伺いしましたが」

「あ、帆野は今日から共に働くことになった、相棒みたいなものです」

「そうなんですね。失礼いたしました」


 いいえという気持ちを込めて、微笑んで会釈する。ノートパソコンへと画面を戻したが、画面の中の女性は未だに茫然とレンズを見つめている。


 その瞳に吸い込まれると同時に、自身と目が合っているように感じて、ほんの少し居心地の悪さを覚えた。


 ようやくなにかを語るも、口の動きだけで声が聞こえない。どれくらいの長さかは、体感でも中といったところだろうか。長くもなく短くもない。音が入っていない以上、スローにして解析しない限りはわからないだろう。


 扉の音は確認できたものの、声を含めた他の音何一つ聞こえない。胸に包丁の切っ先を向けて、呼吸を整えているように見える。


 だが、刺さることもなく、なにかに打たれたように後方へと倒れてしまった。包丁は力が抜けた手から解放され、散乱したCDや紙の上に落ちる。


 状況をまるで整理できない。包丁を使って自殺すると思いきや、そんなこともなくただ倒れた。

(なるほど)


 その映像を見て、早海の一件を思い出した。まだそうと限ったわけではないが、確かに浅霧が感じる気持ちもわからなくはない。浅霧の横顔に目を向けると、帆野に合わせた。


「えぇっと――まず、この人は?」

 双子かどうかをまず確認したい。清潔感のある愛実とは全く違うが、十中八九そうだろうとは思う。

「姉です。姉の香奈(かな)です」

「香奈さんは、どうされてます?」


「家にいますよ」

「会えたりしますか?」

「うーん、難しいと思います。引きこもりで、私以外の人とは会う気はないので」

「そうですか」


 ということは、直接香奈から聞くことは出来ないだろう。愛実に頼んで家に入れてもらい、無理にでも助けに行くか。考えられてそれくらいだろう。


「すみません。先に聞くべきでしたね。お名前は?」

 愛実は、自身の名前を伝えた。

「貝塚さんから見て、お姉さんの様子が変だったとかはありますか?」


「ありません。そんなことは。家に引きこもってはいるんですけど、とても誇らしい姉です」

 どこか迫ってくる対応に、一歩気持ちが引いてしまう。とりあえず意図を汲み取ることを考えると、自殺するまでのことではないと言いたいのだろう。


「そんなことより、そのビデオを解析していただけませんか? 姉を助けるのに協力していただきたいですし、無関係なのであれば無視しますから。予定では明日なので、一刻も早くしてほしいんです」

 そう急かされたので、ビデオに関することだけを聞くことにする。


「今お応えできるとすれば、この日付は、仮に編集して作ったというわけではないんですね?」

「していません。そもそも、映像に映ってる日付を私がどうやっていじるんですか?


 当然、編集もしていません。そんな技術もありませんし、そういう悪戯(いたずら)を私がする意味もないですから。それに、映像ファイルの日付は、昨日の夜になっていると思いますけど。画面の日付が未来になってたら、そりゃあファイルの日付だって気にしますよね?」

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