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リミット24――死が見える男――  作者: 瀬ヶ原悠馬
第三章 ドッペル、かっこいい
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11.変化

 シャッターが閉められたbarの店内。腕を組み、貧乏ゆすりをしている呉の姿があった。


 監視カメラの映像を説明の際に、なにか使うかもしれないと思い、浅霧のパソコンを念の為に帆野が持ってきていた。


 帆野の右隣に浅霧、その右隣に粗里と並び、呉に報告をする。

「俺がやってないということ、ちゃんと証明できたんだろうな」


 怒られるとわかっているのに、言わなければならないというのは、これほど億劫だとは思わなかった。言いにくいことを言わなければいけない。


 深呼吸をして、覚悟を決める。

「はい。出来ます」

 貧乏ゆすりと、顔色が変わる。言葉を続けた。


「けど……それには、今日一日だけは、休日だと思って、休んでもらいたいんです」

 机を叩いて立ち上がる。

「俺がどんな仕事をしているのか分かってるのか!」


「分かっています。日本に必要な人だと理解しています。ただ、これは濡れ衣を晴らすのに必要なんです。それに、先生が見つけた人たちは皆、不在の中でもやっていけないほど無能な人たちなんですか?」


 だんだん雰囲気が柔らかくなっていく。

「……いや。あいつらはよくやっている」

「信じてみては?」

 腕を組んで、しばらくの間が空いた後、口を開いた。


「それで、証明されるんだろうな」

 曖昧な答えでは、また非難されるだろう。不確定要素はあるが、断定して答える。

「わかった。じゃあ、連絡してくるから待ってろ」


 すぐにスマホを取り出して、連絡を入れた。

 やがて、電話を終えてスマホをポケットに入れる。

「他に聞きたいことは?」

「恐らく……癇に障られると思うんですけど、昨日一昨日と、以前のスケジュールを聞けませんか?」


「それを早く言え! さっき電話しただろうが」

「すみません……これは必要なことなんです。もしかすると、先生の関係のあるところに、現れると思うんです」


「関係のあるところ?」

「はい。(なす)り付けたいのか、わかりませんが……」

 呉の近くに、背のついてない丸椅子を持ってきて、左手に抱えていたパソコンを椅子の上に置く。


「これ、見てください。撮られた監視カメラなんですけど……」

 呉が選挙ポスターに落書きをしている瞬間の映像を見せた。


「なんだこれ……俺じゃないか!」

「先生そっくりの誰かがやってるようです」

 瞳には怒りがにじんでいる。帆野は説明を続けた。

「ここの公園とか、場所に心当たりはありますか?」


 こちらに一度視線をやると、食いるようにして画面を見ている。

「ああ……確か、ここの近くで演説したな」

「では、こちらは」

 今度は、火遊びの現場近くの映像を見せる。


「ここは……わからん。この角度だと、なんとも言えん」

「ありがとうございます。ちなみに、演説した日とかは……」


「毎日してるからな。いろんなところで。この場所でした日は覚えてない」

「ですよね……逆に、回った日とかは、把握できたりしますか?」


「ちょっと待ってろ」

 再び、スマホで電話をする。しばらくの応対があった後、電話を切った。

「地図、持ってるか?」

 仕方がないので、スマホのマップを表示させた。

「住所は、このあたりでいいですか?」

「ああ」


 スマホを見せる。器用に手を動かしていき、指で円を描いた。

「この辺だ」

「ありがとうございます」


「それ聞いてどうするんだ?」

「今日、先生の偽物はまたやります。その近辺の推測です」

「なるほどな。これで、濡れ衣だと証明されるんだろ?」


「はい」

 リラックスして、椅子に座る。粗里に視線をやる。

「おい、お茶」

 傲慢な態度は崩れることなく、いつもの調子に戻った。粗里は、厨房に行く。


 後は、ドッペルゲンガーであることを小萱に証明するだけだ。

 粗里が持ってきたお茶がテーブルに置かれ、礼もなしにそのコップを手にして、飲み物を口元に運んでいく。


 勢いよく口の中に流し込んでいる呉、事務所でただじっと待っていることになるだろう。帆野達は、裏口を目指すために足を動かした。ふと、振り向きざまに見えたような幽霊のように、視界の端に不可解なものが映る。


 思わず、確認するために顔を戻してしまった。目を疑う現象が、そこに起こっている。手元が、少しばかり薄くなっていたのだ。


 なにも言わずに足を止めたまま、釘付けになっているリアクションからして、浅霧も粗里も気づいているようだが、上手く切り出せないでいるのだろう。


 コップをテーブルに置こうとした時に、その自体にようやく、呉は気がつく。テーブルから少し離れたところからコップが滑り落ち、お茶を揺らしながら立った。


 激しく狼狽している。

「こ、これはなんだ!」

 左手で薄くなった右手を触る。まだ、そこに実体はあるようだ。懇願するような目でこちらを見た。浅霧と顔を見合わせ、隠していた内容をしっかり話す。


 今回は心底腹を立てたようで、店からでようとした。

「俺は帰る! 真面目に相談した俺が馬鹿だった!」

 粗里は止める。


「うるさい! どけ!」

 粗里と同じ様に、帆野も止めに入った。

「では、その手が」

「それでも、呉議員の威厳ですか?」

 内輪ながらに一騒ぎが起きている中、貫く雷鳴のように浅霧が言い放った。


「なんだと?」

「そんな弱腰なんですか?」

「弱腰だと?」


「その手のことを見ても、私たちがふざけてると言うなら勝手にしてください。あなたのせいにされても、私は知りません。人を殺しておいて逃げたいなら、死んでください。けど、覚悟があるなら見せてください。さっきの発言はどこに言ったんですか?」


 態度は一変して、粗里と帆野の手を振り払い、スーツを乱暴に整えだした。なにも言わず、自分が座っていた椅子に座る。


 とりあえず、ここから出ることだけは止められてホッとしている。後は粗里に任せ、浅霧と帆野は待機のために、裏口から店を出た。

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