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リミット24――死が見える男――  作者: 瀬ヶ原悠馬
第三章 ドッペル、かっこいい
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10.ドッペルゲンガーと死神

 黒く塗られた鉄の階段を降り、折り返して、突き当たりの住居との敷居を作っている塀まで進む。そこで、鮫島と向き合って、死が見える話をした。


「今まで、よく頑張りました」

 その言葉で、少しばかり涙腺が潤った。

「……今日、浅霧さんに、見えたんです」

「はい。出来ること、ですね」

「俺は男だから……傍にいることはできません」


「大丈夫です。私がいますから。幽霊相手ですし、専門です」

「ありがとうございます……」

「でも、私がいるとなると、このことを話さなければなりませんよ?」

「そう、ですよね……」


「話しづらいなら、私から話しましょうか?」

「でも……」

「傷つけることと、見殺しにすること、どちらが大切ですか?」


 そう言われて、確かにそうだと思ったが、喉から出てくることはなかった。しばらくの沈黙が訪れる。鮫島は、当たりを見回した。

「では、こちらを……」


 渡されたのは、一枚の紙。見慣れない文字のような物が書かれている。何かしらの術式という認識は、出来なくはない。


「結界を張るためのものです。そちらを玄関の角にでも、置いてください。これなら、気づかれずに済みます。まぁ尤も、玄関から入らないような無礼者でなければの話ですが。犯罪者は皆、無礼ですけどね」

 鮫島は冗談交じりに、微笑んで言った。


「ありがとうございます……」

 深々と頭を下げる。

「いいえ。とんでもない。より強力にしてありますから、心配はいりませんよ」

「いつも、持ち歩いてるんですか?」


「これでも霊媒師、ですから」

 脱帽した。頭が下がる。

「私の家にもね、数体の幽霊がいるのですよ。いつも。当然、人形のお祓いもやっています。結界は、日常茶飯事でして。定期的に新しいものに変えて、使っているのです」


「大変、ですね……」

「どちらかというと、人間のほうが大変かしら。人との会話って、難しいじゃない? 幽霊は純粋ですけど」

「そういうものなんですか?」


「ええ」

 見えて聞こえて。そんな生活は、どんなものなのだろうと思ってしまった。周りと違う世界を見て、今までどんな苦労があったのだろうか。


 鮫島は、「では」と言って頭を下げて、その場を立ち去った。帆野も答えて、またお礼を言った。


   ・ ・ ・


 一度一階のbarに行って、粗里に現状の報告をした。

 その後、浅霧の家に戻って玄関に結界を張り、依頼者の話しを聞くソファーに、浅霧と帆野は腰を掛けた。ドッペルゲンガーのことは小萱に任せるとして、帆野と浅霧は、高郷に勝つ方法を模索する。


 帆野は、浅霧に問いかける。

「どう、しようか……」

「ドッペルゲンガーが逆に、えさにはなるよね」

「そうだな……でも、どうやって出し抜くかだよな」


「うん」

「ドッペルゲンガーをどうやって誘い込むか、高郷をどうやってとらえるか……」

「高郷は、鮫島さんにお願いしようよ。あの人なら、姿が見えるだろうし」

「そうだな」


「問題は能力だよね……魂を抜かれたら最後だよ」

「確かに……」


 そうだ。帆野や浅霧は、感知できない状態で高郷を避ける必要があり、かつ、罠にかけて捕まえなければならない。加えて、誘い込むために、ドッペルゲンガーを利用することになる。


 おおよそ、意思という存在はないだろう。それに加え、今は軽犯罪にとどまっているが、いつ人を殺すかわからない。ドッペルゲンガーがなにをしたいかなど、わかりやしないのだ。こんな状況で、どうしようというのだろうか。


(どうにかするしかないよな……)

 とにかく今は、なにかしらの突破口を見つけるため、ネットで検索を掛けることにした。


「浅霧さん、パソコン借りれる?」

「いいよ」

「どうするの?」

「とりあえず、高郷の名前でも検索かけておこうと思って」


「おっけー」

 浅霧からパソコンを借りる。インターネットを開き、ドッペルゲンガーについて検索を掛けた。適当にページを開く。


 帆野自身が知っている特徴としては……

・分身のように瓜二つ。

・ドッペルゲンガーが出てるときは、影がなくなる。

・三日後に本人と出会い、やがて死ぬ。

・日なたには現れない。


 あらゆる作品や伝説を聞く限り、このような噂があっただろう。他にはなにがあっただろうか。書いてあることをまとめる。

・意思を持ち合わせない。

・本人が行ったところ以外の場所には現れない。

・周囲の人間とは会話をしない。

・二度見た人間は死ぬ。


 どこまで言われているような伝説のドッペルゲンガーかわからないが、これでは難易度が跳ね上がったと言ってもいい。

「ふーん……」


 浅霧が声を出したことに反応して、顔を向ける。こちらの視線に気が付き、体を寄せてきた。

「これ、見て」


 スマホの中を覗くと、単なる一般人だろうと考えていたが、予想だにもせず、高郷広明の名がヒットしたようだ。


 それに釘付けになってしまう。内容は、とある都市伝説や心霊の特集記事――要するに、オカルト雑誌と呼ぶのが適しているだろう。


 現在も同じ仕事をしているかわからないが、そこの記事を書いていたらしい。オーパーツや宇宙などが描かれている、如何にも俗っぽい背景をした黒い画面のサイトに、白い文字で描かれていた。顔写真などはない。


(これ、どこかで……)

 最初の植物人間事件の時に、オカルト的な視点から掘り下げていた雑誌だ。


「借りていい?」

「うん」

 結果的に、パソコンとスマホを交換するようになった。浅霧からスマホを手渡されると、パソコンを体の前にずらして見ている。


 記事の内容を読んでみると、都市伝説やオカルト雑誌には似つかわしくない、特異的な視点で語られている。てっきり、突拍子もない陰謀論や、新たなUMA(ユーマ)を発見して造語まで作るとか、そういうことをしているのか、と。現に、テレビで見たこともあった。


 扱っている内容は心霊系などだが、タッチはむしろ、科学的や映像技術の観点から見た切り口。むしろ、存在しないと言わんばかりの暴きようだ。あまり認めたくはないが、かなり有能なように見える。少しでも、悪い評判を聞いてみたいくらいだ。


 思わず、浅霧と同じように唸ってしまった。

「はい」

 浅霧にスマホを返そうとする。それを受け取り、帆野は再びパソコンに向き合う。


「だから、知ってたのかもね」

 文脈から分かりにくい投げかけをされ、思わず驚いてしまう。


「鮫島さんの事」

 と、浅霧が付け加えていた。マウスをころころと動かしている手が止まる。浅霧に向いた。

「そうか……界隈で有名なんだもんな」

「うん」


 ドッペルゲンガーの話に戻す。

「逮捕の件だけどさ、小萱さんがドッペルゲンガーを目撃したら、免れるわけじゃん」

「うん」


「どうする? 一回見たことになるからさ、高郷を捕らえるときには、小萱さん……呼べないよな」

「……確かに。鮫島さんしか、頼める人いないのかな」

「粗里さんもいるよ」


「そうだね」

 そんな時、帆野のスマホに電話が来る。相手は粗里だ。粗里の慌てる荒い息が聞こえた。


――どうしたんですか?

――み、見てしまった……

――はい?

――もう一人の、呉さん……


――え?! どこで!

――外に。厨房の中にいたんだけど、前を通ったんだ。中にいるはずなのに、どうしてだろうと思って外に出たんだけど、逃げてしまって。

――本当ですか?!

――間違いない! 見間違いないよ! 絶対! 誓ってもいい!

――ドッペルゲンガーの説が濃厚になりましたね……


――うん。

――もう一度は会わないよう、お願いします。

――どういうこと?

――二度会うと、死ぬ可能性があるようです。

――ほんとに?

――わからないですけど……


――注意することに越したことはないけど……中々、難しいね。

――そうですね……

――相談くらいなら乗ってあげられるから、なんかあったら言ってね。

――はい。


 電話を切る。

「見ちゃったんだ」

 帆野の受け答えで、なんとなく察したようだ。

「うん」

「……これで、私と帆野君、鮫島さんだけになっちゃったね」


「……その人数で、なんとかするしかないな」

「うん」


 この三人で出来そうなこと。姉妹の事件のときは、二人でなんとか止められるところまでは行ったが、そこまで容易くないような気がしていた。


 より具体的にするために、帆野と浅霧は、検索を続ける。ただ、目新しいものはなく、高郷のことは、検索をかければヒットしたというだけで、記事もそれほど多くを書いていなかったようだ。


 読者層にはある意味、合っていないのかもしれない。真実を追求するのではなく、世界は牛耳られているというような、そういった刺激的な内容を欲しているイメージを持っていたから、その様に感じた。


 一方、ドッペルゲンガーも、それ以上の目新しいものはない。

「なんかない?」

 帆野は、浅霧に言った。


「うーん……ダメ。思いつかない」

「そっか……俺も無理だ。どこにとかは思いついてないんだけど、ドッペルゲンガーをおとりにして、高郷を釣る。どうにかしてはめる……とかしか」


「以前のように、鈴の音を合図にして、とか?」

「あの時のやつを利用するの?」

「そうそう」

「同じ罠に引っかかるとは思えないけどな……」


「だよね……」

「そうか……今回、鮫島さんがいるもんね」

「うん。あの人に頼んで、いる場所を見てもらうことはできるよね」


 ただ、頭に引っかかってしまう。カメラかなにかを通して伝えてもらったとして、直前の行動に対する判断と、伝えるのにラグが発生する。


 つまり、浅霧や帆野が見れていれば、その場で予想して動くことは出来ても、他人の目を通しているために判断に遅れが生じる。その点が、非常にリスクが高い。


 帆野は頭をふる。

 これでは堂々巡りだ。依然として、先に一歩も進んでいない。


「ねぇ……」

「なに?」

「ドッペルゲンガーは、呉に関係がある場所にあるんだよね。行ったことあるとか」

「そうだけど……」


「議員のポスターが貼られてるところに行くとか、わからなくないよね」

「そうだな……」

「聞いてみたら、なにかわかるかな」

「場所を把握するの?」


「そう。先を越せる」

「……なるほどな」

 浅霧の言う事は最もだ。しかし、これでは確実に疑っていると思われ、呉なら間違いなく癇癪を起こすだろう。


(色々不安だけど……今はこれが限界か)

 気合を入れて立ち上がる。

「よし。呉さんに聞いてみるか」

「うん」

 リビングを後にした。

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