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リミット24――死が見える男――  作者: 瀬ヶ原悠馬
第三章 ドッペル、かっこいい
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9.死神の正体

 しばらくの時間が過ぎ、十五時を過ぎたところ。あれから、一時間以上は経過しているだろうか。今のところ進展がない。


 鮫島からの連絡は来て、もう少しでそちらに向かえそうという連絡が来た。後は、身代金の進展だろう。様子を窺うことが出来ない。


 この先、どんな展開が待ち受けているかわからないが、不安や心配の気持ちが続き、今度は、逆に奮い起こされるようポジティブになってきた。


 死神にようやく勝てる、そんなような気がしていた。このまま浅霧の命が奪われず、あるいは、帆野が助ける、間に合わせて死神を止めることできるかもしれない。


 似顔絵を描ける人は、まだ見つかっていない。このまま会うにしても、迷惑をかけるだけだろう。


 インターホンがなる。恐らく、鮫島だろう。帆野が玄関に向かい、扉を開けると、小萱と薄紫色の着物と赤い帯を巻いている一人の女性が現れた。


 卵型の顔で、後ろに髪を束ねている。鼻筋がよく通っており、凛々しい顔立ちの落ち着いた雰囲気のある人だ。


 女性が頭を下げる。

「鮫島です。警察の方が見えてますが、なにかあったのですか?」


「いえ……なんか疑ってるみたいで」

 小萱が口を開く。

「疑ってますよ。人を呼んでなにをしようとしてるんですか? ちなみに、一回の入り口を監視してるんで。裏口から出ても無駄です。しっかりそこも映してるんで」


 体を扉側に寄せて、二人を招き入れる。鮫島は、頭を下げて、「失礼します」と言って中に入る。その後に続いて小萱が入り、リビングまで移動する。

「話は、聞かせてもらいます」

 と、小萱が言った。それに帆野が答える。


「別に、依頼があっただけですよ」

 鮫島に目を向ける。

「小萱さんは、姉妹の事件の時に一緒にいたので、ある程度状況は知ってます」

 死神の詳細全てを、この二人に話す。目を見開いて話を聞いていた。口を開いたのは、小萱だった。


「とても、信じられません……そんなこと。どうやって捕まえるんですか……」

「そこが困るんです」

「超能力で誘拐なんて、アホらしいですよ、そんなの」


 鮫島が口を開く。

「幽体離脱、ということでしたか……ただ、そうなると幽霊は幽霊なので、通り抜けられるというのは、自然な考えだと思いますけど、そこはどうしてでしょうか。消えずに走って逃げるなど……」


「恐らく、実際に生きていて、戻る身体があるから、幽霊とは違う制約があるのかもしれません」

「その考えでしたら、しっくり来ますね。聞いてわかりました。似顔絵、ですか?」

「はい……でも、人が見つかって……」


 そんな時、小萱が声を出した。

「出来ますよ。過去に、犯人の人相を書く仕事をしてたこともあるので」

「本当ですか?」

「はい」

「では、お願いしても?」


「わかりました」

 リビング中央から右手のソファーに移動し、鮫島と小萱は隣同士で座り、浅霧は覗ける位置に立って、鮫島側の後ろから。そして帆野は、二人の肩の間からみていた。


 記憶を掘り起こし、なんとか鮫島は思い出していく。輪郭や鼻、眉毛の形と、段々と浮かび上がってくる。ついに、死神の正体がわかるかもしれない。


 ポケットにあるスマホが震える。取り出して、粗里からの電話を出た。鮫島と小萱に背中を向ける。

――わかったよ。

――ほんとですか?!

――相手も細心の注意を払ってたみたいだから、結構手こずった。写真取れたから、今から送るね。


 そこで、電話が切れる。

 早速、ロードで写真が送られてきたので、そのファイルを開いた。


「帆野君!」

 声をかけられたが、そんなことよりも写真に映った顔を見て、言葉を失った。家から出てきたところを撮っているようで、手元に金があるわけでもなかった。


 恐らく、金は幽体離脱して手に入れたのだろう。その後は、運転したのか、歩いて帰ったのかは分からない。


 問題ないと判断して、家から出てきた一部始終、と言ったところだろうか。同居人がいれば、他の人間も可能性があるだろうが、そこは似顔絵と照らし合わせればいい。


 しかし、そこに映し出されたのは、高郷広明だった。

「高郷さん……」

 返答がなかったから心配したのか、浅霧は後ろからスマホを覗いていた。

「そっちは?」

「似顔絵も、高郷さんに似てる」


 立ち上がっていた小萱が、絵を見せる。確かに、帆野が村で見たその人そのものだった。


 まさか、生きていたとは思わなかった。

 この時、霧神(きりがみ)村で起きた事件を思い出した。最後、洞窟内で起きた、赤ん坊を助け出すときのこと。


 誰かに足を踏まれ、帆野は遅くたどり着き、浅霧は吹き飛ばれて池に落ちた。誰かわからない何者かにやられたという時点で、死神ということはわかっていた。


 あの事件は、助けられる前、そして何者かが乗り移った後に魂を盗まなければならない。つまり、その間でしか魂を盗むことは出来ないのだ。当然、思考として誰かを助けに行く人間がいてもおかしくはない。


 いなかったらいなかったで、楽に盗むことができる。それはなにも、浅霧や帆野だけとは限らない。誰かが謎を解いてしまう可能性もある。


 死神は、ゲームを楽しむかのように帆野や浅霧に勝負を挑み、勝った。狙ってた魂は恐らく、″儀式によって死んだ人間の魂が憑依するのか。仮に成功したとして、その魂を盗むことはできるのか″ということだろう。


 実験は、成功したのかわからない。結果的には、死神の力で洞窟に留まっていた村長の幽霊を代わりに憑依させ、絶望のドン底に突き落とした。


 計画からして、現場にいて、状況を判断しなければいけない。何故、霊体の状態でずっといなかったのかは不明。生贄になった後、実体をもってそこにいるのは、明らかにリスクが高い。


 それはともかく、あの現場にいて、ロードが不気味で不可解な現象ににならなかったのは、高郷だけ。


「帆野君?」

 思考から意識が戻ってくると、心配そうな顔をして浅霧が覗いていた。

「これで……解けたな」

「村のこと?」

「うん」

「そうだね」


 浅霧も同じようなことを思ったらしい。

 しかし、今回は違う。死神よりも早く事件に関わっている。高郷が今、欲していそう、欲しがりそうな魂とは。

「ドッペルゲンガー……」

「え?」


「あいつが欲していそうな魂だよ!」

 浅霧に向く。

「なるほど……」


「だろ? あるかどうかはわからない。けど、特殊な魂を欲してるなら、あいつは絶対に食いついてくる」

「ど、どういうことですか?」

 状況が読み込めない小萱が、浅霧から少し離れて、帆野の側に立つ。浅霧と顔を合わせる。


「いいよ、話しちゃっても。ここまできたら」

 小萱に顔を向けた。

「落ち着いて話を聞いて下さい。お願いします。この人は、高郷広明と言って……」


 小萱は、真剣な顔をしてただ帆野の言葉を待つ。今回の事件、そして村の事件を話した。事の経緯をただじっと聞いている。


 気がつけば、浅霧と小萱の間に鮫島が立っていて、くいるようにして聞いている。小萱がため息をつく。

「それを信じろと?」

「俺は、そうしか言えません……」

 しばらくの間、沈黙が訪れる。念を押した。


「小萱さん。あなたも、眼の前で憑依を見たでしょう?」

「今回はそういう、心霊の類とは違います。百歩譲って、幽体離脱やゾンビに儀式は良いとしても、ドッペルゲンガーって……さすがに、それを信じるなんてことは出来ません」


 鮫島が口を開く。

「そう思われても致し方ありませんものね……私は、そういう非現実的な事を、常日頃から体験している身です。ですから、慣れていると言えば、慣れております。


 けど、一警察官が、そのような話をすべて信じるというのも、無理があるでしょう。それに、今のところ犯人をかくまっている。話した以上、このままでは、その議員さんは、この人が逮捕してしまいます」


「その流れが自然です」

 帆野は、言葉にすることが難しかった。どうすればいい、と。先程のリアクションを見せて、話さないわけにはいかないと思ったのだが、その選択は間違いだっただろうか。


「こういうのはどうでしょう?」

 浅霧が声を上げた。顔を向ける。

「外でまた似たような事件が起きた時に、もし、呉議員が私たちが匿っていたら」


「それは……確かに、そうですね」

「で、でも、そんなゆっくりしてられないだろ?」

 浅霧は、こちらに顔を向けた。

「ドッペルゲンガーって、現れてから三日後に本人が死ぬんだよね」


「三日後? ま、まぁ、たしかにそうだけど……三日間は大丈夫っていいたいの?」

「うん」

「でも……」

「現れて、すぐに火遊びをしたって言うなら、今日で二日目だよね。あと一日はある」

「そうだけど……」


 浅霧は、小萱に顔を向ける。

「もし、呉さんが匿っているときに事件が起きなかったら、その時は逮捕してください。でも、その事件が起きた場合……協力してくれますか?」


 しばらくの沈黙が続く。考えが決まったのか、表情に変化が現れ、口を開いた。

「わかりました。今日はひとまず、このまま帰ります」


 話がまとまり、小萱はリビングを後にした。鮫島と対面し、口を開いた。

「今日は、これで大丈夫でしょうか? またなにかございましたら、ご相談に乗りますよ」

 帆野は、深く頭を下げる。


「助かりました。思い出していただいて……」

「いえ、お役に立てて良かったです」

 鮫島は、背中を向けて、リビングから出る扉に向かおうとしている。


 死の予言の話、言うか言わないか悩んでいる中、どんどんその背中は遠くなっていく。頭の中で交錯する中、勇気を振り絞って、鮫島に声を掛けた。振り向いて、「なんですか?」と答える。


「すみません……相談があります。ここでは、ちょっと……」

「わかりました。外で話しましょう」

 帆野は、浅霧に体を向ける。

「浅霧さん、ごめん、ちょっと用事があって、鮫島さんと話しがしたい」

「う、うん、わかった」


「ごめんね」

 歯切れが悪そうに浅霧は応対した。鮫島と家を後にする。

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