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リミット24――死が見える男――  作者: 瀬ヶ原悠馬
第三章 ドッペル、かっこいい
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8.膠着状態

 小萱は、帰ったと思われる。

 一応、道路側の窓――座っている位置から右の突き当たりの、カーテンもかけられていない窓を覗きに行った。


 近づいただけでもすぐに分かる。粗里の言っていた通り、遠くではあるものの、見える位置に車が一台、止めてあった。


 小萱の姿は、確認できていない。気づかれたらと思って、まじまじとは見れなかった。カーテンを閉めた後、盗み見ようとしても、やはりこの距離では見えにくい。


「どうしたの?」

 急に部屋が暗くなったためなのか、反応したらしい。浅霧の方に体を向け、そちらに向かって歩いた。

「正面の車」

 窓を、親指で指して言った。

「小萱さんがまだいると思う」


「やっぱり? さっきのも、なんかの試しだったのかな」

 浅霧は、こちらに向かってくる。帆野の右隣に並んだ。カーテンの隙間を開けて、外を覗こうとしていたので、慌ててカーテンを抑える。


「ち、ちょっと、気づかれるぞ?」

「まぁ、どうせ決めつけてここにいるんだろうし、いいんじゃない? 間違ってるわけじゃないし」


「わざわざ教えなくてもいいだろ……」

 浅霧は、カーテンを握って隙間を開け、外を覗いた。

「やっぱり小萱さんだね」

「え?」


 浅霧の右隣に移動して、肩の間から窓の外を覗く。断言はできないが、車に小萱の姿があった。女性のスーツ姿というのは、この距離でわかる範囲。


 だが、小萱と決めつけてもいいだろう。タブレットと思わしきものをバッグの中に入れている最中だった。


「ふーん……やっぱり、侮れないね」

「え?」

 浅霧は、カーテンを閉め、こちらを見た。

「さっきね、タブレットを横にして、車の窓に立てかけてあったんだ」


 その時、予感が的中したと思った。粗里が零した言葉も、それに関わっていたものだろう。


「あっ、危な……あの時、呉さんを移動させようとしてたら、とんでもないことに……」

 粗里との電話中、なにしているのかと覗きに行った時に、胸ポケットになにかをしまった瞬間を目撃した。


 帆野と電話をしていると判断するや否や、咄嗟の判断で事務所に顔を出す前に、車にタブレットを立てかけ、タブレットとスマホでカメラ通話をし、両方ともミュートか音声を切りにしておく。


 そして、待機してるその画面を、じっと覗いていたのだろうと思う。カメラを使わなかったのは、思いつきである証拠だ。苦肉の策でこの手段を取ったのだろう。


「注意したほうが良いね」

「だな……これじゃあ、聞き込みも出来ないよな」

「どうだろう」

「え?」

「鮫島さん、呼んだんだよ。うちに来てくれるって言うから」


「こ、こんな状況で?!」

「大丈夫じゃない? 別に、変な人が来るわけじゃないし」


「……前から思ってたけどさ、不用心すぎないか?」

「警戒だけしてても、どうしようもないしなぁ……固まってなにもしなかったら、結局先に進まないわけだし。慎重に立ち振る舞ったとしても、結果的に疑われるなら、堂々と行動してるほうが動きやすいし」


「そういう人のなのは理解したけど……」

「そんなに危ない?」

「うん」

「じゃあ、その時になったら、教えてね」


 予想外の答えに驚いてしまう。頭に、予言された死も同時に、呼び起こされた。

「あ、ああ……もちろん」

「どうしたの?」

「いや、意外だったもんで……多少、怒られる覚悟で言ったんだけど」


「どうして怒るの?」

「いや……だって、はっきり言っちゃうわけだし」

「うーん……言葉自体は、心配してくれてるように聞こえたしなぁ。大丈夫だよ」


「そ、そう?」

「うん。怖くないわけじゃないよ? けど、この状況だと、まだ手遅れってわけでもなさそうだし。内容からして、粗里さんを匿ってるかどうかの部分で怪しんでるだけで、今回の事件の真犯人として疑ってるわけでもなさそうだし。


 その素振りを感じたら、流石に帆野君に相談してるよ。けど、今はそんなタイミングじゃない。今は大丈夫だから」


「そ、そうか……確かに」

 相変わらず冷静だ。帆野はどちらかというと、不安や恐怖、想像力も人並みにあると自負している。だからこそ、そのうち浅霧が足を滑らせないかと心配だった。


 今このタイミングなら、死が見えたことを伝えられる流れかもしれない。喉まで出かかったが、結局全て飲み込んでしまった。


 浅霧は、今起きている事柄をまとめて考えることを得意としているが、死にそうな時になってからでは遅い。


 その対策を考えるのは自分の役目だと、その浅霧を支えられるのは自分だと、そう思っていても、音に出すことさえできなかった。悠長なことを言っていられないのに、また後回しにしてしまう。


   ・ ・ ・


 しばらくの時が過ぎる。テレビを見て、暇をつぶしていたが、時の進みが遅いように感じた。仕切りに時計を気にして、呉の癇癪が始まらないかとも思った。


 時折、浅霧の様子を確認して。だが、浅霧に、テレビ見ないかと誘っても、大丈夫と言ってスマホをいじる。少し間を開けてその隣に座っては、テレビを見に行くためにソファーに座る。


 日常的な行動だとしても、そわそわしているように見えるくらい、落ち着きがなかった。


 先程のカーテンまで向かい、外を見る。随分と粘り強いようだ。上司からのストップは掛かっていないのだろうか。他の仕事だってあるだろうに。そんな時、止まっている小萱の車に、男が近づく。


 声は小さいが、怒鳴り声に近い。

「いい加減にしろよ! こんなところで粘ってもどうしようもない。聞き込みするぞ!」

「絶対に離れません!」

「あのなぁ……! 頼むよ……わかってくれよ! なぁ? 追ったってしょうがないんだぞ?」


「見ました。完全に」

 そんな時に、二人がこちらを見上げる。驚いて素早く隠れる。

「小萱さん?」


 真後ろに立っているとは知らず、驚いて後退してしまった。

「ごめん」

「大丈夫。なんか、上司からのお叱りみたいだぞ」

「さっき、見ましたって言ってたよね」


「だな」

「ビデオだったりしない?」

「え……それまずくないか? 押収されてたら……」

「うーん、たぶんそれはないんじゃないかな。追ったってしょうがないって言ってるし」


 それで判断して良いのか、とも思って喉まで出かけたが、それを引っ込める。

「まだ、わからないもんな」

「うん。今のところはね」

 そんな時、粗里から電話が来た。スマホをポケットから取り出して、応答する。


――はい。

――死神から電話があった。

――え?!

――金を、指定したロッカーに置いといてくれってことみたいで。


――そ、それって、チャンスじゃないですか?

――そうだね。ただ、この状況だと動けないから、誰かにお願いするよ。


――わかりました。では、待ってていいですか?

――うん。分かり次第、電話するから。

――ありがとうございます。


 電話を切る。浅霧が気にしていたので、粗里と話した内容をまとめて伝える。

「ふーん。支払いだと、銀行の名義でわかっちゃうからかな?」

「だろうな、たぶん。でも、そこまで警戒することか?」


「念のため、じゃない?」

「なの、かな……こっちの動きがバレたとか……」

「うーん、たぶんキレてなにかすぐに仕掛けてくると思うよ? ゲームだって、挑戦してくるくらいだし」


「そ、そっか……確かに」

 ソファーに戻り、テレビを見ることにする。じれったいが、今は待機するしかない。

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