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リミット24――死が見える男――  作者: 瀬ヶ原悠馬
第三章 ドッペル、かっこいい
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7.5.小萱秋華 後編

 声を潜め、浅霧に話しかけた。

「なにがしたいんだろう?」

「さぁ……」

「帆野さん」

 と、急に小萱から声を掛けられる。


「はい?」

「今は、なんの調査をしてらっしゃるんですか?」

「今は、なにもしてないですよ?」

「お二人共、仲がよろしいんですね」


「そりゃまぁ……二人で仕事してますし」

「まぁ、仮にお仕事をしていても、答えられませんか?」

 うまく答えられなかった。


「いいんですよ。警察も、話せないことはたくさんありますから」

 また、黙ってしまう。なんとか絞り出そうとして、謝る言葉しか出てこなかった。


「それはそうと、あの姉妹の事件以来ですね。お二人と会うのは」

「……そうですね」

「死神とやらの正体は、掴めましたか?」


「警察こそ、どうなんですか?」

「いえ。ありのまま話せませんしね……かいつまんで話して、納得しては貰いましたが、上手く進んでいません。他の事件の後回しになってる感じですね。被害者は皆、生き返りましたし」


「琳は、帰ってきていません……」

 少しばかりの沈黙が続く。なにかまずいことを言ってしまったか、とも思ったが、そんなことはないはずだ。この話から、呉の件と繋がりもしない。


「お友達ですか?」

「はい……」

「そうですか……さぞ辛かったでしょう。彼女だけですから」


「被害者に、話は聞いたんですか?」

「もちろん。ひどく衰弱してる様子ですよ。ただ、人を見たら怯えるような、そこまではありませんでした。全員には聞けませんでしたけどね」

「そうですよね……親とか、家族に拒否されるのもあるでしょうし」


「聞いた時は病院だったので、帰ってからよりかは聞きやすいタイミングではあったと思います。それでも、帆野さんのように″もういいでしょ?″って、言われることもありました。ですから、全員は聞いていません……それでも、みんな口を揃えて同じことを言っていました」


「そう、ですか……」

 さすがに、どんなことを聞いたのかという、そんな野暮な質問は出来なかった。


「私は信じられましたけど、他の人は皆、頭を抱えていました。一応、捜査陣の中では、精神的ストレスによる幻覚や幻聴ということで、片付けてはいますが……


 集団での植物状態に加え、ほとんど全員が息を同時に吹き返すという事件ですから、疑問を多く残り続けています。気持ち悪がってはいましたね。


 話せる範囲で良いです。なにか見つかりました? 当然、続けてるんですよね?」


「はい、ある程度は……」

「信じがたい内容ですか?」

「はい……」


 帆野のスマホが震える。振動からして、電話だろう。名前を見ると、粗里からだった。スライドして、電話に出る。


――はい。

――帰った?

――いえ。

――どうしようか……なにしてる?

――ええっと……


 と、言いながら、ゆっくりと小萱の背後に近づいていく。気配に反応したのか、チラッと後ろを見るように首が動き、手元に何かしらの動きが見え、内側の胸ポケットに手を入れたのが見えた。


 しっかりと振り向いて、小萱と目が合う。

「どうかしました?」

「なんでもありません」

 抜き足差し足忍び足。ゆっくりと下がり、浅霧の隣に座る。


――わかりません。

――そっか……うーん、呉さんがまた癇癪起こしてて……

――はい

――話聞いてみたんだけど、小萱さんらしいよ。聴取しにきたの。


――なるほど……

――また圧力かけるっていうから、ちゃんと止めたけど……

――マジですか、それ。

――うん。


(どっちが馬鹿なんだよ……)

 呆れて言葉も出なかった。あれだけ人を馬鹿にしてきた人間が、頭に血が上ると周りが見えなくなるとは、全くもって人のことを非難できる筋合いはない。


 汚い手を使わなければ上に登れなかった原因は、こういうところにあるのか、とさえ思う。


 扉が開く音が聞こえる。足音に、そしてなにかを手に取り、やがて箒で掃く音が状況を知らせた。

――どうしようか。一応、正面に車が見えるけど、誰も乗ってないみたい。彼女の車かわからないけど、とりあえず、一人で捜査してるのは確かだと思う。


――どうしましょうか……

 小萱の背中を見る。顔が下に向いている気がするが、本当になにをしているのだろうか。なんだか嫌な予感がする。得体のしれない、煽る不安。動いてはいけないような気がする。


 しかし、ここしかチャンスがないようにも思える。今こうして、ここでソファーに座っている。何故、ソファーでくつろいでいるのだろうか。


 その時、粗里が「あっ」という声を漏らした。箒を持った手が、また動き始める。

――どうしたんですか?

――いや……うん。後でいい?

――は、はい……

――ごめんね。

――いえ。


 電源を切られる。どうしたというのだろうか。後になって気がついた、という流れのように感じる。ともかく、呉をどうするかという話が無くなったということは、しない方向で、かつすぐに切らなければならないなにかが見つかったということ。


 スマホを、躊躇(ためら)うようにポケットにしまった。

(……普通にしていよう)

「喉乾いてきちゃった。貰っていい?」

 呆気にとられたような顔をしている浅霧。すぐに表情を崩す。


「いいよ」

 立ち上がろうとする浅霧を止めて、帆野は冷蔵庫に向かう。中を開けて、烏龍茶を貰った。食器棚からコップを貰う。とくとくとコップに注がれている状態を背景にして、死角になって見えない壁の奥に意識を向けた。


 小萱の様子が気になる。こちらを覗いたりして、などと想像していたが、そんなこともなかった。冷蔵庫にペッドボトルをしまって、コップを片手にソファーに戻ろうとする。


 死角が消え、小萱の姿に焦点を合わせたままソファーに向かっている道中、未だ顔を下に向けていた様子が映る。


 ソファーに座れる位置に立ち、口に流し込むと同時に座る動作をすると、コップの中にある烏龍茶の水面が揺れ、少しこぼしてしまった。


「大丈夫?」

 浅霧は、白いハンカチを渡して来た。

「ありがとう」

 ガラスのテーブルにコップを置く動作と同時にハンカチを受け取り、自分の服や床を拭く。


「洗って返すよ」

「いいよ、私のうちだし」

「ごめん」

「気にしないで」


 ハンカチを浅霧に返し、この部屋から出ていった。

 小萱に動きがある。思わず、目が釘付けになった。立ち上がるタイミングで、視線をコップに落とす。


「では、ありがとうございました。なにかあったら、連絡してください」

 顔を上げると、浅霧は隣に座っておらず、代わりに小萱が立っていた。

「はい」

 表情を変えずに、頭を下げる。


「浅霧さんも、なにかあったら連絡してください」

 扉の開閉の音がする前に、その声が聞こえた。

「わかりました」

 そのまま、この部屋を出ていく。浅霧が俺の隣に座った。


「なんだったんだろうね」

「わかんない……」

 緊張のひとときがすぎる。どうなるかと肝を冷やしたが、なにもなく終わってよかった、と少しばかり安堵した。

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