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リミット24――死が見える男――  作者: 瀬ヶ原悠馬
第三章 ドッペル、かっこいい
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5.報告

 barの店内に三人で入って、貧乏揺すりをして座っている呉の元に行く。ここに来る前、三人で話し合ったのだが、目の前にいる呉三郎も影が無かった。


 これで、概ねドッペルゲンガーの説は当たっていると言っても過言ではない。

「遅いぞ!」

「すみません……」


「で、どうだった?」

「あなたの顔がはっきりと映ってる」

 と、浅霧は言った。


 呉は驚いた様子で、勢いよく立ち上がった。反動で椅子が倒れることも、気にも止める様子もない。

「そんな馬鹿な! 私はやっていない! お前らまででっち上げるつもりか?」


 浅霧に、指を指して詰め寄る。

「お前、浅霧と言ったな? 復讐か。あ?」

 鼻息を荒くしているが、しばらくして血の気が引き、後ずさる。

「ここにいるみんなが見てる」


 浅霧に協力していると思われるだろうから、付け加える内容を考える。

「浅霧さんに、肩入れするまでもないです。放火現場は見つかっていなくても、選挙ポスターへの落書きや、エアガンで通った人を、撃ったところも映っていました」


「は? なにを言ってるんだ! さっきから、子ども地味たことをぺらぺらと……!」

「俺もそれは思いました。もう一度確認しますけど、汚職事件のもみ消しや、脅迫行為はしてたんですよね?」

「あぁ。殺せと命令したことも認める」


「重罪の方認め、軽犯罪は認めない……それもおかしいですね」

 粗里と浅霧の方を見遣って、そう答えた。

「それを見越して、わざと認めないのかも」


 視線に答えることなく、じっと呉を見つめている浅霧が答える。眉間に皺を寄せ、掴みなかろうとしたので、呉に立ちはだかる。

「殴るんでしたら、協力しません」

 拳をぐっと握り、力を抜く。スーツを整えた。


「ただ、三人で相談したんですけど、なりすましの可能性が大いにあります」

「だろ? そうだろ? よくわかってるじゃないか」

「なので、今、ディープフェイクを使って、その映像は無かったことにしてます。完全に消すことは出来ません。違和感がありますから」


 消した方が得だろうが、見たものをなかったと判明した場合、その部分だけの数分間が撮影されてなかった事実だけが残る。


 となると、再捜査――録画を押収する時にその部分だけが消されていた、と考えた場合、それでは怪しいと思われるため、圧力が掛かっていることを利用して、仮に単独で捜査をしたにせよ、なんらかの見間違いを誘発できるのではないかと考え、修正することを考えた。


 押収することは、滅多なことがない限り、あり得ないだろうが、仮にあった場合、問題なのはディープフェイクを検査するソフトを使われることだ。そうならないことを期待するばかりである。


 倒した椅子を立たせ、深く腰を掛けた。

「きつく当たってすまなかったな」

「いえ」

「出来たら、俺は帰るからな」


 出来るまで待機しよう、また事務所に戻ろうと振り返る。

「お父さんに言うことは?」

 と、浅霧が言った。

「あぁ? あの青臭いやつか……」

「認めたよね?」


「大体な? 綺麗事ばかりで、渡り歩ける世界じゃないんだ……俺がやったことで、多くの国民が救われるなら、そんなことはどうでもいい。なのに、たかがそれだけのことで……」


「私に理解してほしいんですか? 黙らせた人が、今更理解してもらおうと説明するんですか? だったら、やらないでくれます?」

 浅霧は、拳をぐっと強く握りしめている。

 呉は、それ以上何も語らなかった。謝りもせず。


「じゃあお前は、ただ頭を下げるだけで許せるのか?」

「許せるわけないでしょ!」


「じゃあ、謝る必要はない。お前が殺したいなら、そうすれば良い。だけどな、簡単には殺されてやらないならな? 精々考えればいい。全員に恨まれようが、嫌われようが、成さなければならんのだ」


 それ相応の覚悟があるということだろう。警察に捕まるのも、証拠をきっちり上げ、認めさせるまでやってみろ、とこの調子なら言いそうだ。


 目的のためなら手段を選ばない、罪悪感があるかどうかはわからないが、その座って待っている様子が、覚悟や貫録を見せていた。


 目が合うと、呉は立ち上がって、胸ポケットから名刺を取り出した。

「もし、秘書になりたかったら、ここに電話して来い。給料も弾んでやる」


 浅霧がこちらに目を遣るのに合わせたが、呉に視線を向けた。すでに当たりの強さや、浅霧との因縁、覚悟はあると言えど、悪行の数々。その時点で、この事件以降、関わりたくないと思っている。ただ、名刺を渡したという行動自体が、無性に腹が立った。


 浅霧と友人でもあり、仕事の相棒である帆野に渡すとは。どのくらいの関係性なのかも知らず。聞いていなかったとはいえ、なんとなくでも察せられるところはあるのではないだろうか。


 デリカシーもなく、自分の目的だけを考え、利用できるか否かだけしか頭になく、人を観察していない。断るだけでは気が済まない。


 その名刺を受け取ると、目の前で破り捨てた。

「お前!」

「呉先生と同じ覚悟は、俺には持てません。あなたの仲間にもなりたくありませんし、俺の命が持つかどうか……」

「情けない……! こんなやつを頭の切れる奴だと思った私が馬鹿だった」


「プライドなんかないですよ。いくらでも情けないと言ってもらって構いません」

「覚悟はできてるんだろうな?」

「脅さないでくださいよ。情けない俺は、そんなこと言ったらビビってしまいます。この事件でチャラにしてもらいませんかね? ねぇ、国を背負った大先生」


 何も言わず、足を組んで体を背けた。

 映像が完成するまでに時間がかかるため、ひとまず三人で厨房へと戻るため、足を進めていった。

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