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リミット24――死が見える男――  作者: 瀬ヶ原悠馬
第三章 ドッペル、かっこいい
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4.映像

 自室から持ってきたノートパソコンを使い、早速送られてきたデータを、パソコン版のロードのようなアプリを使ってインストールする。


「なにこれ?」

「どうも、吉田さんが昔に作ったアプリみたい。ロードの原型みたいな感じじゃない? 仲間内に配ってやり取りしてたって」


「ふーん、青春の思い出って感じか」

「そういうのいいよね」

「確かに」


 無事にインストールをすると、早速アプリを開く。学生時代に作ったのかは知らないが、とても質素な作りであった。レイアウトは灰色。


 友達とグループと最初から二つあって、友達の方を選択する。すると、吉田の名前が表示されていて、そのチャンネルを開く。枠の中に枠が増え、鏡に鏡を写すかのように、画面の枠が狭まっていった。


 現れた画面の下側に細長い空白があるが、そこをクリックすると、赤い文字で″ニックネームを入力してください″と出た。左の小さい空白をクリックして、名前を入力する。


――入れました。

 と、隣の細長い空白に文字を入れ、送った先は先頭の行に、浅霧:文章と表示されている。相手が打っているのか打っていないのかはわからないまま、しばらくが立つ。


――ありがとう。じゃあ、データ送るね。

 すると、いくつかの映像データが、浅霧が打った文章の下に表示される。


(なるほどな……)

 アプリによっては、巨大なファイルはアップロード出来ない。その伝達手段としては、自分が作ったアプリを作り変えれば良い。


――時間変わるかもしれないから、今さっき送ったやつをダウンロードすればいいよ。


 ダブルクリックをして、ダウンロードを開始する。

 チャンネルには、次々とデータがアップロードされていくが、こちらが受け取れるまでのアップロード待ちが、状況を教えてくれていた。


 一個目をダウンロードしている中、パソコンの画面に、吉田からロードで通話が来ている。同時に、スマホも連絡が来ていると主張していた。


 浅霧はスマホを手にとって、電話に出る。

「こんにちは」

「こんにちは」

 と、浅霧が答える。

「ごめん……反響して聞こえる自分の声が嫌だからさ、できれば、イヤホンとかで聞いてほしいんだけど……」

「じゃあ、俺が入ります」


 と、言って、まずは浅霧にグループに入れてもらい、そこで三人で改めて通話をし直す。その間に、浅霧はイヤホンを取りに行っていた。


 幸い、音楽を聞いてあの公園に行っていたので、ワイヤレスイヤホンをスマホと接続し、テストのために声を出してもらって、確認を済ます。


 浅霧も準備ができ、丁度ダウンロードをし終わって、映像ファイルを開ける状態にあった。

(これだと、浅霧さんの声、拾いそうだな……)


 そう思って、帆野自身だけはミュート状態にした。うまく聞き取りづらかった場合は、浅霧に言ってもらうことにしよう。


 こうして直に会えない急ぎの中、苦肉の策で講じた映像を探すことになった。

 火事があったと思われる周辺の場所のうちの、一つの防犯カメラ。


「一応、粗里にも言ってあるし、僕も映像見てるから、たぶん大丈夫だと思う」

「ありがとうございます」


 場所は、一軒家が二軒ほど見えるT字路。しかし、分岐の端よりに電信柱が設置させられているためか、殆どV字のようにしか見えない。


 カメラの足元に目を懲らしめ見れば、ギリギリゴミの網が映っているほど。

(ここから広がったのか?)


 ゴミにつけられたと思われる火が、庭の草木に燃え移り、たまたま目が冷めたら、窓からの景色――あるいは、カーテンから漏れる自然光に違和感を抱き、それから気付いた。と、想像するとそんなところだろうか。


 しかし、このエリア一帯は、灰色のレンガに包まれている。ゴミの網がある場所なんて、なおさらそうだ。これから燃え移るなんてことは、あり得るのだろうか。


 倍速にして、視聴していく。

(監視カメラ映像を調べるなんて、いつ以来だ?)

 姉妹の事件の時はそうなのだが、あれからずいぶんと時間が経っている。


 たかが二ヶ月、されどに二ヶ月と言えるのかもしれないが、さほど人生の変化は感じられなかった。


「あっ」

 そんな事を思って視聴していると、浅霧が声を漏らす。

「なにか見つかった?」

 返事をしたのは、吉田だった。


 思ったよりも早く、呉の姿が見つかった。右側の通路から、カメラの方へと近づいている。普段どれくらいの速度で歩いているかは不明だが、速歩きというには遅い。


 が、なんだか目的の場所があるようにも見えず、ゴミの網の前で一旦足を止めると、周囲を見渡している呉の目は、カメラを通してみている帆野や浅霧と、完全に目があっていた。


 すると、今度は左側の通路へと、上がっていく。

「なんか、探してるみたいだな」

「うん」


「一番最初のやつ?」

 と、吉田が聞いた。それに浅霧が答える。

「何分くらいか教えてくれる?」

 浅霧が、録画映像に記してある時間を教えた。


 浅霧は、早速次の映像をダウンロードしている中で、先程の続きの映像を見ていた。再び現れる様子はなさそうだ。


 ダウンロードが終わり、次の映像を見るタイミングになったので、切り替える。その間だけとしかは言えないが、大きな成果はなかったようだ。


 ここは、公園だろう。早海がさらわれた場所の公園ではないが、縦に伸びた通路がある。監視カメラの場所は、丁度通路が真ん中に来るようなところ――そこにある電信柱に、取り付けていると思われる。


 万が一にも球技をしている際に、ボールが出ないよう、人の身長の倍以上はある、高いところまで網に覆われた公園が、右側に見えている。通路を中央にして、画面左には住居。


 監視カメラ近くの公園を背にして、選挙ポスターが貼られている板に、十数人のポスター。名前も書かれていて、老若男女と言ったところだろう。呉のポスターもある。


 早送りにして映像を見ていく。すると、しばらくして、呉が現れた。歩く速度は、前の映像で見た時と、大差ない。


 選挙ポスターの前に立つと、映像に突然、ノイズが入る。一瞬のことで終了したが、手元に持たれた黒い棒状の物を持って、片方の手のひらでピタッと板に貼り付けた。黒い棒状のような物を持った拳は、ポスターの顔に近づいていく。


 悪戯書きをしている。しかし、どうも不自然だ。

 脅迫から殺人まで、数々の悪行を重ねてきた人間が、そんな子供じみたことをして、なんの得になると言うのだろうか。


「呉さんが落書きしています」

 と、浅霧がいう。

「え?」

 吉田が意外そうに答えた。

「選挙ポスターにです」

「ま、まぁ犯罪は犯罪だけど……なんか子どもっぽいね」


「はい」

 この違和感はなんだろうか。本人であるのは間違いないはずなのに、なにか釈然としない。


 すると、スマホが震え始めたので、通知欄に表示された粗里からのメッセージを覗く。

――目撃証言とかの確認もしたくって、仲間に連絡を取ったところ、エアガンで人を襲ったらしい。


「エアガン……?」

 そんな馬鹿な、と思った。

「変だね」

 と、吉田が言う。


「いざとなれば、人殺しの依頼なんてして、汚職事件を平気でもみ消すような人が、エアガンで歩いてる人を襲うなんてこと、あるんでしょうか……」


 恨みがあるとはいえ、浅霧も引っかかっているようだ。無論、ないとは言い切れない。しかし、呉が行ったことは全て、是非はともかく理由があったが、今回の一連の犯罪はどれも、明確に感じられる動機がない。ただの悪戯、嫌がらせと言ってもいい。


「あっ……」

 映像を止めずに流していた浅霧が、突然声を漏らした。気になって聞き返す。

「影ってある?」


「影?」

 一個目の映像は、あくまで犯行の一部始終でも映しているか、はっきりと本人であるのかと顔を意識していたせいで全く気にならなかったが、選挙ポスターが貼られている奥にある、街灯の光を通った時に、影らしい影が映し出されていなかった。


 見間違いかと目を疑うほど。巻き戻してもう一度確認するも、確かに影がない。薄くもなく、街灯との距離が一番近いところでも、影の濃さなどすら伺えない。


「ドッペルゲンガー……」

 浅霧が、そう言葉を漏らした。そんなわけ、とも言いたいところだが、今までのことがそれを言わせない。


「まさか……」

 吉田はそう言った。当然の反応だろう。

 こちらから依頼しているだけで、概ねの事情は知らない。もちろん、ゾンビの件なども知らず、姉妹の事件の時は、証拠の映像を復元してくれるように頼んだだけだ。


「だって、あれは都市伝説でしょ?」

「はい。ですけど、この影がないのは……」

「見間違いじゃないのかい?」


 ミュートを解除する。

「最初に依頼した姉妹の事件は覚えてますか?」

「うん」

 未来に撮られた映像のことを話す。


「うーん……君たちが体験したから、なおさらそう思うのは理解できる、くらいしか言えないね。ごめんね」

「いえ……」

「信じていないわけじゃないんだ。だけど、他の可能性も考えるべきじゃないかなって思って。余計なお世話だったかな?」


「大丈夫です。当然の考えだと思います」

「僕は頼まれたことをやるだけだから、こんな意見言う立場じゃないんだけど……」

「いえいえ、そんなに負い目に感じないでください」


「うん……もうちょっと調べてみて、別の可能性を見つけられたら、連絡するよ」

「ありがとうございます」


「けど……たぶん、この映像は警察も見つけると思う。もう見つけてるかどうかはわからないけど、削除するのは逆に危険だと思う。なにかを重ねて、誰もいなかったことにしてもいいけど……」


「うーん……」

 例えば、背景をなさねて違和感なく、存在を隠すにしても、警察がいた映像を見ていた場合、編集が加えられていることが明らかになってしまう。そうでなかったにせよ、疑われるのは濃厚だ。


 圧力をかけたからこそ、捜査には消極的になっていそう。その想像は難くない。しかし、誰か個人が見ていた場合、組織や出世など、圧力に屈しない人間であれば、正義感だけで再捜査させられてしまう可能性もある。


(いや……?)

 改まって、録画を押収する理由を考える。

 目撃証言だけで動くことは薄いにせよ、録画を見た誰かだけが疑いを持つというだけの話で、それ以上の捜査は伸びないのではないか。


「帆野くん?」

 思考が交錯している意識から、呼び覚まされる。浅霧は、こちらを見やっていた。

「隠しましょうか。粗里さんがよければ……」

「僕から聞いておくよ。それじゃあ」

 と言って、連絡が途絶えた。


「浅霧さん」

「うん」

 その足で、一階のbarへ向かう。

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