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リミット24――死が見える男――  作者: 瀬ヶ原悠馬
第一章 誰か、中にいる。
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2.5経緯 後編

 そのようなストーカーに付きまとわれているとは一言も言っていなかったため、激しく驚いてしまった。あまり信用されていないのだろうか、と自分自身の頼りなさに憤りを覚える。


「特徴がその顔のない男にそっくりなんですよね。で、フードを被ってて顔がわからなかったって言ってて。今日も仕事行くときとか、早海さんに車で送ったりしてたんですけど、帰りに急にあなたに誘われたって言ってたから、安全だと思って。


 もし、私が受けた相談と早海さんのことが一緒だったらと思って、早海さんの家の周りをずっと歩いてた時に、あなたと早海さんを見つけて」


 そのような経緯があったとは思いもしなかった。帆野はすぐさまお礼を言う。通話した時に見えた死の予言のことを言えずに夜になり、今日の朝からファミレスまでその間にもし()られてしまっていたらと不安になっていたのだ。


「気にしないでください」

「でも、琳の言うように、やっぱり顔がわからなかっただけなんじゃ」


「今日はどうでした?」

「今日?」

 思い出す。視力は一点零と高くも低くもない。公園の角から中央までの距離はそれほど遠くもなく、頭上には街灯もあった。


 あの時はなにかしらの理由で顔を確認できなかったと思ったが、改めて”顔がない男”と聞くと、そうかもしれないと少しばかり思ってしまう。


「ま、まさか」

 しかし、それを完全には否定できない自分がいた。死が見えるという超能力のような力を持っているためだ。


「まぁ、あり得ませんよね。ただ、不思議なことが沢山あるのも事実です。顔が見えないのもそうなんですけど、脱ぎ捨てられた服に見つからない人、突然倒れて植物人間になってしまったこと。私たちがいたのに助けられなかった」


 嫌味を言われたような気がして、申し訳ない気持ちになった。思わず、口から謝罪の言葉がこぼれる。

「すみません。そういう意味じゃなくて」

 と、浅霧が言った。


「透明人間みたいだなって」

 そう続けた。

「それこそ、あり得ないっていうか」

「公園で座っていたところは私でも見ています。あなたと早海さんを公園近くで見かけた時に、見ちゃったんですよ。服が脱ぎ捨てられていくところ」


 唾をごくりと飲み込む。透明だった場合、説明が付くことがある。一緒にいながら助けられなかったこと。十字路で止まっている間、誰にも気づかれずにひっそりと近づき、殺すことはできただろう。


「ふざけるのもいい加減に」

 浅霧の顔は、至って真剣だった。

「嘘を付いてるって言いたいんですか?」

「そういうわけじゃないですけど」


 誤魔化すために話を変えようとする。

「そもそも、どうして自分で見たものが本当だと信じているんですか? 俺なんて、ずっと疑ってたし」

 あっと声が取れる。気が付いたときはもう遅かった。浅霧の目がそれを訴えている。


「なにかあったんですか?」

「いや、なにも」

「あな……帆野さん、ですよね?」

「どうして俺の名前を」


「早海さんから話はよく聞いています」

 変なことは言われてないだろうか、と半ば関係のない心配をしてしまう。

「そもそも知らなかった帆野さんが、どうして早海さんと一緒にいたんですか?」


 ついに、そこを聞かれてしまった。浅霧がその目で見たことをまだ半信半疑でいる中、死が見えるという話をして鼻で笑われないわけがない。逆に、信じてくれと訴えるなど虫が良すぎる話だ。こんな状況ではどうにも話づらい。


「人に話せない内容なら、なおさら話してみてください。そういう事件を沢山扱ってきてます」


 確かに、浅霧は前にそのようなことを話していた。しかし、そうはいっても心霊現象とはわけが違う。念動力のような能力であるならまだよかったかもしれない。この死が見えるというのは、ある意味予知と言えなくもない。どうしようかと迷った末、勇気を出して話した。


「ありがとうございます、そうだったんですね。だから」

 神妙な顔をして俯いた。やがて顔を上げる。


「信じますよ。私にも、それっぽいこと体験してますから」

「え?」

「もっとも、そんなわかりやすいものでもないんですけどね。私の場合、人に避けられるっていう」


 集中治療室前や警官など、そのように感じたことはあった。早海の家族はそうではなかったため、なにかしらのオーラが出ているだけか、とも捉えていた。


「なんというか、気のせいなのか嫌われてるのかわからないですね」

「はい。中々悩みました。人ごみの中歩いていると、私のところだけドーナッツみたいになってまして」


「ドーナッツですか。毎回起きるんですか?」

(そこまでなると気の毒だな)

「はい。老若男女関係なくなんで、通る人みんなそうなんです。帆野さんとか早海さんとか、一階のマスターとか、大丈夫な人もいるみたいですけど」

「なるほど」


 まだ、なにかの能力と決まったわけではないが、事例が違うとはいえ、同じような悩みを抱えている人が偶然にもいて少しばかり気持ちが安らぐ。

「それで、信じられたってわけですか?」

「はい。まぁ、うちの兄も変なことして消えちゃって」


「消えた?」

「仮想現実ってあるじゃないですか。いわゆるVR。今生きてるこの世界がそれなんじゃないかって話、よくあると思うんですけど、あれを証明するために一生懸命だったんですよ」

「お兄さんが?」


「はい。そこで、ゲームとかであるグリッチって知ってます?」

「あぁ、壁抜けとかするために変な行動をとって抜ける奴」


 グリッチ——ゲーム制作者側が意図的に作っていない、不具合やバグを利用する裏技、テクニックのようなものの事。壁抜けやワープなどがある。ある手順を踏んで異常な力を手に入れたり、いきなりエンディングなるものもある。


「そうです。それが出来れば証明できるんじゃないかって。二十歳も越えてるのに、外に出るたびやってるんですよ? まぁ、家から出てくれたことはありがたいですけど。


 そしたら、急に“ついにできたんだ”とか言って、私を連れて実家の角に行ったんです。まぁ例えていうならなにかの儀式ですかね。


 踊ったり、体を捻ったり。そしたら、手の先が家の中に入ったんです。その状態で歩いていったら、中に入っちゃって。その後、急に眩暈がして、起きたら兄がこの世から存在しないことになってた」


「さすがにいくらなんでも、そんな話は信じられませんよ」

「目の前で起きてなければ、私だって信じてません。でも、それからなんですよね。私が避けられるようになったのも」

「なにかの偶然じゃないですか?」

「まぁ、普通はそう考えますよね」


 偶然じゃないか、とは言ったものの、頭の片隅にもしかしたらという考えはある。グリッチを起こした日を聞けば、帆野自身が能力に目覚めた時期と重なるかもしれない。


 だが、それ以上にあまり関連性があると直観的にも感じられなかったため、あくまで頭の片隅にあるだけの疑問で口にするまでもなく煙のように消えていく。


「私も費用には協力します」

 なんの脈略もなく、浅霧がそう口にした。

「え?」


 費用というのは、病院の入院費。早海は、母子家庭で奨学金を借りて大学に入ったこともあって、家族の貯蓄も少ない。母親が一人で払うのも苦労が付きまとうため、こちらも協力したいと帆野は願い出た。その件のことだろう。


「あぁ、入院費用ですか。良いんですか?」

「もちろん。私にとっても唯一の友人ですから」

「費用も当然ですが、早く解決しないといけません。お母さんが諦めてしまったら、元に戻らないかもしれない」


 そうは言っても、そもそも助かる保証がないために不安でいっぱいだった。その反面、浅霧は意地でも救うという強い意志が見える。その気持ちに触発され、代わりにと言ってはなんだが、調査に協力したいと願い出た。さすがに浅霧ばかりにやってもらうのも気が引ける。


「大丈夫です。これが本業みたいなものですし」

「恥ずかしい話、昨日仕事辞めたんですよ。時間は山ほどあります」

「そうですか? でしたら、よろしくお願いします」

 こうして、浅霧と二人で調査が始まった。

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