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リミット24――死が見える男――  作者: 瀬ヶ原悠馬
第三章 ドッペル、かっこいい
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2.依頼

 bar近くの借りてる駐車場に車を止め、裏口から入った。厨房は、依然として殺風景だ。ひと目見ただけでも、清潔に保たれていると言って良い。


 横に広がった厨房を、入って左に曲がり、売り場へと出る。そこには、テーブルの上に上げられた椅子が、等間隔に並べられている。


 店内の中央――着崩したスーツを来た、五十代半ばくらいの、貫禄のある佇まいが目に写った。


 背中に預けず、腕を組んで座っている男性がいる。

(どこかで見たような……)

「いつまで持たせるつもりだ!」


 出会って早々、怒鳴られる。どうやらご立腹のようだ。その場へ急いで、依頼主と思われる相手の正面に立っている、粗里の横に立つ。カウンターの中で足を止めた浅霧は、驚いた様子でいた。

「浅霧さん?」


 呼びかけに反応して足を動かし、帆野の左に立つ。

「出来るやつなんだろうな」

「ですから、派遣したわけではありません」

「だから、私はやっていないと言っているだろうが!」


「それを証明するためにも、彼らを呼んだんです」

「そんなことをしている暇などない!」

「その間の安全は保証します。分かり次第、最高の人材を紹介しますから」


 どこか不満げだが、静まったようだ。状況的に聞けるだろうと考え、帆野は話す。それに声を発したのは、粗里だった。


「こちら、議員の(くれ)三郎(さぶろう)さん」

(議員……通りで、見たことあるわけか)

「どうやら、自分になりすました誰かが、犯罪を重ねているみたいでね」


「はあ……そうなんですか」

「うん。私の界隈では有名なんだけど……裏の掃除屋を雇って、いろいろと隠滅や工作をしてて」


 なんだか、雲行きが怪しくなってきた。そんな人に対して、なにを協力しようというものなのか。死神とどうかかわっているのだろうか。なりすましているのが死神、と仮定しても、そんな能力はなかったはずだ。


 それに、なりすましたなんて事がなくても、本人がやっていてもおかしくないくらいの、相応の人物ではないだろうか。


「はい」

「その人が、死神にやられたそうなんだよ」

「やっぱり、そうなんですか……」

「やっぱり?」

 呉がそう呟いて、こちらを睨みつけてくる。


「いえ、別に……」

 疑うような目で、見つめている。浅霧は、少しばかり不思議そうにこちらを見ていた。公園の時と同じような顔をして。


 なにはともあれ、死神が絡んでいるということで、帆野や浅霧を呼んだのだろう。

「お前たち、知ってるのか?」

 そう、依頼主に聞かれたので、はいと答える。


「そこで、私に新たな人を紹介してくれって。だけど、何分悪用されたくはないから……しっかりとした意思や目的があった上でなら、紹介しても良いと、電話する前に伝えたんだよね。


 二人を呼んだのは、なりすましている相手の調査の手伝いをしてもらいたくて。死神からのゲームなら、因縁があるでしょ?」


 文脈からして、あえて正義という言葉を使わなかったのは、悪を以て正義を為すという、大義名分をあまり使いたくはないのだろう。


「わかりました。死神って言ってましたけど……挑戦なんですか?」

「そこがいまいち、はっきりしなくて……死神がなにをしようとしてるのか、よくわからないけど、今回は、そんな挑戦というわけでもなさそうなんだよね。よろしくとか、言われました?」


 と、最後に呉に顔を向けて話した。

「言われてない」

「なるほど……」

 死神が関わっていることは間違いないが、オカルト地味た事件というわけでもないかもしれない、ということだろうか。それより、なりますましというところが気になる。


「なりすましって仰ってましたけど、それはどういう……」

「はっきり言いたまえ!」

「すみません……変装ということですか?」

「わからん。目撃証言だけなら気にする必要もないが、その付近を歩く私が、監視カメラに写っていたらしい。馬鹿言うなって言ったんだがな」


「行った覚えがないのに」

「覚えではない! 行ってない! 何度言ったらわかる!」

「行ってないのに、写っていた。それで、なりすましって思ったんですね?」

「そうだ」


「ちなみに、夢遊病なんかは……」

「ないな。合ったにしても、家族が気づいてる」

「……どんなことをしたんですか?」


「警察の言うことだと、放火らしい」

「放火……ああ、今朝やってたニュース」

 ある一軒家の庭が、燃え盛っていたというようなニュースをやっていた。幸い、住人は無事であったようだが、近くにゴミ捨て場があるようで、そこから火が移ったのではないか、と。


「私が火遊びをすると思うか! 子どもじゃあるまいし……学生を当たれと言ったんだがな。遠回しに聞いてたようだが、私がやったと言ってるようなもんだ。


 だから、警察に圧力を掛けてきてな……その前に、その死神って輩にどうにかしろと聞いたんだが、メカニックなことは出来ないという」


「ええっと……つまり、映像かなにかがあって、その上で呉先生に聞いたということですか?」

「そうだ。中々、頭の回転が速いじゃないか」

「でも、なんで死神にそんなことを?」


「はぁ、それはわからんのか、お前は……」

(いちいち癇の触る言い方だな)

「さっきそこの者が言ってただろ! 私が頼りにしている、裏の人間が殺された。あいつは、昔のことをネタにして、私に脅迫してきたんだ。スキャンダルを教える代わりに、金を支払えと」


「あぁ……ということは、死神が、裏の人間に成り代わったと」

「そうだ」


 なんでそんなことを、と思った。あれだけの人間の魂を奪っていたところから察するに、単に魂をコレクションしていただけの変人だと思っていたのだが、これでは的が外れていたことになる。


 確かに言われてみれば、時間を掛けたくらい、大事に集めた魂を、あっさり初めてのゲームで一人を除き、返したのは違和感がある。てっきり、早海という素晴らしい魂を見つけたからなのだと思っていた。


「スキャンダルって、なんのですか?」

「なんのってなんだ!」

「すみません、誰の……」

「はっきりとそう言わんか! 選挙で争うであろう人間の弱みとか、なにかあった時のために、官僚たちの弱みだ」


 政治家というものは、こういうものなのだろうか、と心底呆れる。態度に出さないよう、注意を払って言う。


「脅迫するわけですね」

「ああ。代わりに教えてやるからってな。調子に乗りやがって」

「脅迫っていうより、取引みたいですね……」


「ああん? 私にケチつけてるつもりか?」

「すみません……そういう訳では」

 腕を組んで、口を開く。

「万が一にも、映像なんかあっては、私の政治生命が終わってしまう……それでここに来たというのに、こいつはまた断った」


 粗里に何度も指を差して、そういった。

「今も変わりませんよ。理由は」

 と、粗里が言う。どうやら、なにかの因縁があるように感じた。

「なんの話をしてるんですか?」

 粗里は、こちらに顔を向ける。


「昔にちょっと……」

「私に贈賄の嫌疑が掛かった時に、あろうことか、秘書が裏切ったんだ。恩義も知らずに……」


「正しいことをしただけでしょ?」

 と、今までだんまりだった浅霧が、突然言葉を発した。

「年上に向かってその口の利き方はなんだ! 親に習わなかったのか?」

「あんたに敬語なんて使う義理ない」


(まさか……)

「秘書って、浅霧さんの……」

「私のお父さん」

「へぇ、越朗の娘か。通りで……私が憎いなら、勝手に恨んでろ。お前に構ってる暇はない」


 歯を食いしばり、ぐっと拳を握り閉めた。呉に体を向ける。頭に浮かんだ嫌な想像を聞こうか聞くまいか迷ってる最中、呉が口を開く。


「早く調べんか! 一刻も争うんだ。早くしろ」

 粗里は、スマホをポケットから出して、そのまま厨房へと向かっていく。浅霧は、後を追うようにこの場所から立ち去ってしまった。残された帆野は、その連絡の行方を知るべく、この部屋を後にした。

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