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リミット24――死が見える男――  作者: 瀬ヶ原悠馬
第二章 蝿、付きまとう。
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21.洞窟

 一切の明かりがない。入口付近は外の明かりがあるために、まだ安心していられる。仮に儀式をしていたとして、明かりくらいは有りそうなものだ。ここで感じないというのは、それほど入り組んでいるのだろうか。


 先陣を切った正平が、スマホのライトを使ってもなお映される光景は半分から下。地面に向けようものなら、スポットライトが当てられたくらいのサイズだろう。


 浅霧と帆野も続き、スマホのライトを照らして周囲を照らす。四個の電灯により、かなりの広さを映しているため、これなら死角となるところは背後くらいだろう。


 なだらかに下降している、真っ直ぐな道のり。次第に、外の明かりすら届かなくなっていく。前方全体を照らしつつ、周囲を警戒して歩いていった。


「なんだか寒いですね」

 と、景子が言う。

「そうですか?」

 どちらかというと湿気を感じられ、微妙な温度で蒸されているような生暖かさがある。


「霊感があるんだよ」

 正平の言葉でわかった。だからこその温度差だろう。

「あぁ、そうなんですね。納得です」

 幽霊の伝説も衰えていないのだろうか。石や土の表面が湿って独特の臭気が混ざり、かすかに潮の匂いが漂っている。


 しかし、ゾンビに襲われている経験があるせいで、幽霊など対して怖くないと思ってしまう。今の自分が冷静なのかどうかすら判断できない。


 すると、洞窟の穴が分かれているのがわかった。

「どっち行きます?」

「二手には分かれませんよ?」

 浅霧が言う。


「まぁ」

 そう声に出したのは正平だった。

「確かにな。左から行ってみるか?」


 それに返事をしたのは浅霧。左に向かうことが決まる。景子が左の道に入り込んだ時、異様な気配を感じた。滲みよる足音。誰かの足音にそっと身を潜め、嫌らしく存在を主張する何者か。


「止まってください」

 帆野の声で止まった一同。やはり、聞こえる。

「聞こえません?」

「聞こえる」


 景子が真っ先に答える。

「なんですか?」

 浅霧はどうやらわからないようだ。

「足音です」


「確かに、聞こえますね。誰ですか?」

「さぁ、もしかしたら」

 幽霊ではなく、塩染か常和かもしれない。

 すると突然、耳元に息を吹きかけられた。


「うわぁ!」

 明らかにくすぐったい。振り返ってもなにもいない。

「どうしました?」

 真っ先に反応したのは浅霧。景子は、帆野の後ろを指差した。

「あそこに男の人が!」


 血の気が引く。心臓も高鳴り、怖気を呼び起こす。冷たい手でぐっと浅霧に握られた。振り返るとそこには、黒いシルエットで足元が見えた。

「うわぁ!」

 驚いて浅霧を連れて後に下がる。


「動くな!」

 今度は背後から男の人の声。幽霊だと思って一斉に身構えが、景子一人だけがそちらに明かりを向けていた。

「ゾンビ!」


 慌てて後ろを振り向くと、蠅にまとわりつかれているゾンビの姿をした警官、塩染が銃を構えていた。相変わらず腐臭も凄い。


「なんだ塩染さんか。なにしてるんですか?」

「動くなと言ってるだろ」

「どういうつもりですか?」


「出来なかった雪辱を果たす。でなきゃ、蘇った意味がない」

「どういうことだ、説明しろ!」

 と、正平が言った。元々の依頼のことやらこれまで隠していた一切のことをすべて話す。


 絶句しているようだ。突然だろう。話の大本は、そもそも非現実的なもの。

「雪辱って、常和さんのですか?」


「帆野さんにはあのように伝えたけど、実際はどうも気になって、もう一回常和さんの自宅に向かったんだ。その時に、常和さんがスマホを持って家から出ていくところを見たんだよ。


 声を掛けても反応がなくて。気になって家の中に入ったんだ。気づいたら赤ちゃんがいない。


 もしかしたら、常和さんが言ってたことが本当に起きたんじゃないかと思って。常和さんは赤ちゃんのオムツにGPSを仕込んでて、その後をつけたんだよ。だけど、儀式はもう始まっていた。あいつの前で娘が殺されたんだぞ!」


「だからと言って、全員が犠牲になっていいなんてことはないでしょう!」

「だからなんだ! 娘さんを生き返らせたいと思って当然だろ!」


「生き返ると思ってるんですか?」

「俺はこうして死体に戻った。腐っているとはいえ、意思を持って自分の言葉で喋ってる。常和さんは別の人の体を借りて、今もこうして行動できてる。あり得ないことが実際に起きてる時点で、出来ると考えてもおかしくない!」


 確かにそうだ。ぐうの音も出ない意見である。

「警察官でしょ? なら」

 半ば強引に、通じてくれと願をかけて心に訴えかけるようなことを言う。

「今はもう違う。こんなことになって誇りもクソもあるか! いいか? ここから動くな。まだ銃弾は残ってる」


(どうする、どうすればいい)

「ひとつ気になってるんですけど、いいですか?」

 と、浅霧が言った。塩染はなにも答えず、浅霧に顔を向ける。


「気になったって言ってましたけど、訴えてからずいぶんと時間が空いてますか?」

「一週間ほどな」

「だったら、なんでそんな当日になって気になったんですか?」


「その間、巡回してたら、不自然な動きをしてたもんで」

「不自然、ですか?」

「ああ。祭りでもないのに祭具のようなものを運んでいる姿や、そうそう。米とか水とかもあったかな。当然、君が持ってる魔除けとして使われたり、悪霊退散の儀に使われる刀を持ってた。持ち出すことなんてめったにない。聞いてみても、とぼけるだけだったしな。まさかと思って」

「当日に、ですか?」


「いいや、数日前だったと思う。当日に見たのは、なにかを抱えて走ってた二人を見た時だ」

 手に持っていた儀式の書を開いた。帆野は察して、そちらに明かりを向ける。解読できるように当時の文字の右下に、文字が追記してある。探すのに少し手間取ったが、その記述はしっかりと記載されている。


「確かに数日にかけて、儀式をやる前の下準備みたいなものがあるみたいですね。米やら水やら、御供え物もあるみたいです。たぶんですけど、ここの霊に対する献上みたいなものでしょうか。ほら、見えますか?」


 と、本を見えるようにかざし、帆野は表面に明かりを照らせるよう、体の位置を少しずらした。

「それがなんだっていうだ」

「なにかしらの証拠にならないかと思って。ここに書いてあること、照らし合わせたいんです」

「死んだ人間から聞いたなんて言えないだろ」


 浅霧が黙ってしまった。

(俺が、俺が助けに入らなければ)

「こういうのはどうでしょう。生きているときにやったと見せかければいいんですから、例えばその、あなた直筆の紙、とか。


 そう、録音とかもいいかもしれません。巡回してる時に見た光景を録音して残しておくとか。万が一あった時に残したものと言えば!」


「駄目だ! 無駄なんだよ! そもそも、儀式をするってわかってたんだ。録画くらいとっくに常和さんがやってる!」

「え?」


「あの人は、儀式を止めようと乗り込んだ時に、みんなに見つからないようカメラで録画してた。それを憑依してから後日、警察に届けた。だが、ちゃんと捜査されなかったんだ。事情は知らないが、きっと政治家の連中だ。村おこしをしてるやつがいただろ。圧力だ」


「そんな」

 恐らく、浅霧は誘導して銃を取り上げる機会を作ろうとしたのだろう。万策尽きてしまった。まさか、政治家に圧力をかけられるとは考えもしなかった。今まで調べていたのは、なんだったというのだろうか。


「そんな簡単に諦めていいんですか?」

 と、浅霧が言う。

「なに?」

「私には親しくさせてもらってる心強い警察官がいます。信じてみてくれませんか? だから、お願いします」

「そ、そんなこと言って、俺から拳銃を奪おうって魂胆じゃないのか!」


 完全に読まれている。当然と言えば、当然だろう。

「あなたは警察官です。私達とは経験が違います。それくらい反応できそうなものじゃないですか? 私には、隙を付ける自信なんてありません」


 塩染は、周りの様子を窺いつつも、銃を構えながらその本に近づいていく。顔を近づけ、文章を読んでいる様子だった。


 銃は浅霧と帆野の間、雲原夫婦に全員に向けられるよう意識して立っているのだろうか。しかしながらこの位置からだと、上手くすれば銃を奪うことが出来るかもしれない。

(よし!)


 意を決してその手をしっかりと押さえ、一気に上部に向ける。危機を察知した塩染の発砲。それは斜め上へと打たれ、火花が散って瞬時に明るくなった洞窟内部と轟く銃声。鋭い悲鳴が流れるも、無事であると祈って手から銃を引き離そうとする。


 電流走る脳内に、親指を抑えることによって持っているものを落とさせるという、ドラマとかで見るようなことが過る。


 伸びた銃口を握りしめて出来るだけ上に向け、片方の手で親指を離そうとする。ことはしっかりと進み、銃は落下して一命をとりとめる。

「動かないで!」


 どうやら暗がりの中で銃を探していたのだろう。それを使って塩染を抑えることに成功したらしい。

 こんな悲しいことがあってはならない。同じことを繰り返してはいけない。


「雲原さん。この人、見ててもらえませんか? 二人で行ってきます」

「わかった」

 正平は答え、浅霧から銃を受け取った。雲原夫婦に任せて、入って右の分かれ道へと向かう。

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