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リミット24――死が見える男――  作者: 瀬ヶ原悠馬
第二章 蝿、付きまとう。
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20.発見

 二階ベランダにいる浅霧の背中を中心として、窓から外に広がる対面する建物。


 鉄塔に集まろうとは言ったものの、こうしている間にもゾンビは襲ってくる。休む暇など与えてくれはしない。


 堂々と中央で待機するわけにも行かず、かといってこのまま家に待機しているのも出来るはずもない。


 身を乗り出して右側の鉄塔が見えるかと思ったのか、浅霧が寝室のベランダから確認しようとする。帆野もそちらに向かった。


「ここからでは、見えませんね」

 同じく、そちらに向かって身を乗り出した。鉄塔の上部が見えるのみ。よくよく考えればそれもそのはずだ。鉄塔から建物を二つほど間を挟んでいる。


「ですね。行くしかなさそうです」

 仰向けに倒れているゾンビを跨って、玄関まで移動した。そのまま同じ道を辿る。鉄塔はもう目の前と言ったところであり、今のところはゾンビが見当たらない。声は聞こえているが、やまびこが返ってくるくらいの声量で、周囲の気配や様子は感じ取れない。


 しかし、そうはいっても鉄塔の前で堂々と待っているわけにもいかず、一番早くたどり着いたであろう浅霧と帆野は、一方通行のこの歩道から出ず、背中を建物の敷地内を阻んでいる石造りの塀に付けたまま覗くようにして様子を窺う。


「すみません、そっち見ていてくれますか?」

「大丈夫です」

 万が一にも建物から出てきて、襲われるということはあってはならないため、浅霧に念のために牽制してもらった。


 こうしている間にも、刻々と時間は過ぎていく。気持ちばかりが急かしてしまい、時計を何度も確認してしまう。


 あれから十分かそこら。ようやく、雲原夫婦が対面に位置する歩道に現れる。片手を振っているので、こちらもそれに答えた。


 正平は斧を握りしめている。どこかで武器を拾ってきたようだ。さすがに腕に覚えがあるとはいえ、抵抗しても関係なくただの食欲だけで襲ってくるような相手だ。武器を使って完全に始末しなければ、こちらがやられてしまう。


(あと、来るとすれば)

 雲原夫婦と同じ歩道か、右側の対角線上にある歩道からか。右斜め前に到着した際、ここからでは上手く判断できないかもしれない。


 覗く姿くらいは確認できそうだが、鉄塔や左右の歩道を時折確認している正平の姿に変化が訪れる。体をすっと引き、首を振って少しばかり後退した。


 左の歩道か、右の歩道か。どちらかにゾンビがいるような反応だろう。やはりスムーズに事は進んでくれないようだ。


 耳を澄ませてみても、確かに先ほどと比べて声は近くになっている様子だ。しかし、それも確定的かと言われるとそういうわけでもない。


 複数の声が同時に聞こえ、そしてまるで四面楚歌のようにどこからともなく耳に侵入してくる。この周りは異常に多い気もするとも感じたが、帆野がいたAエリアも少ないわけではない。建物を考慮してみても、あまり離れていないのだろう。


 そんなことを考えている最中、正平が再び通路を覗くと、左側の歩道に体を向けた。男女一人ずつの姿が目の前に現れる。殻屋と高郷だ。

 急いでそちらの方に向かった。

「殻屋さん。怪我、どうしました?」


 近くに来てみてわかったが、服に付着した渇いた血液に右足だけズボンの裾を上げて、包帯がきつく巻かれていた。


 肩を支えずに歩いてきたところを見ると、殻屋がそれを拒んだのだろう。高郷は気を配って歩いていた。

「大丈夫よ。これくらい」


「噛まれました?」

 そう、ストレートに聞いたのは正平だ。

「おい、なにもそんな聞き方はないだろう」

 と、高郷が守る。ふとして見上げ、雲の動きが分かりそうなほんの少しの間が作られた。微細な表情の動きに意識を向け、その口が動かれるのもただ待っている。

「噛まれました」


「そんな」

 思わず、声がこぼれてしまう。ゾンビになった平助をまじかで見ているため、殻屋は時間が経てば必ずゾンビになると言えよう。しかし、見捨てる判断など出来るはずもない。

(そ、そうだ、きっと)

 平助は噛まれる前に、ゾンビになる可能性がある人物だ。村内会にいた人間で儀式に関与している。常和の恨みを買っている人間だ。


「言わなくていい! なにも伝染すると決まったわけじゃない! さっき言っただろ!」

(そうに違いない。そうなはずだ)

「そうはいってもね! こんな年になってまでみんなに迷惑かけたくないんだよ。放っておいてくれない?」

「そんなこと言って震えてるじゃないか!」


「連れていけない」

 残酷にも正平はそう言い放った。

「あんたそれでも人間かよ!」

「みんなの命を危険にさらすわけにはいかない! そうだろ?」


 誰もなにも言えず、だからと言って簡単に殻屋を引き離すことはしなかった。当然口ではそう言いつつ、皮肉にも自分から離れるのを待つかのように正平もまた、引き離すように突き飛ばすことはしなかった。


 そんな時、殻屋と高郷が来たところから二人のゾンビが気づき、腕を向けて襲い掛かろうとしている。引き離そうとする殻屋だが、高郷は無理にでも助けようと腕を肩に回した。


「こっちだ!」

 そう正平がいって、来た道を引き返す。決断することもままならない。急かされた判断は状況に流されるが如く、殻屋を連れていく形になった。


    ・  ・  ・


 右や左やと進んだ先、洞窟の前にたどり着いた。確かに、普通に過ごしていては気づかないかもしれない。


 有刺鉄線が張られていたように他にも森林に近いところがあり、鉄線を固定している木製の杭を地面から抜いた跡を感じられるそれを超え、しばらく歩いた先にあった。


 とはいえ、進入禁止のマークがあるものの、土のわかりやすい道はあるため、複雑ではないだろう。土の道の通りに進むと、右に曲がった先にその洞窟の入口が見えていた。


「たぶん、ここで間違いないと思う」

 正平が言う。

「ルールを守ったんですかね」

 それに浅霧が答えた。

「え?」

「気づかないわけでもないなと思って」


「まぁ、進入禁止が書かれているところをあえて行くのなんて、冒険心の強い子どもくらいじゃないのか?」


 殻屋が声を発した。

「ここは幽霊が出ると噂されてるところ。当時の殺された村長が住み着いてるらしい。村長の家もこの近くだし、ましてや立ち入り禁止で今は使われてない。洞窟自体、集まりやすいしね。だから選ばれたんでしょう」


 儀式に、ということだろう。未だにその根深い欲は消えていないのだろうか。そうなると、住処(すみか)を脅かされるだけで牙をむいてくる可能性はある。


「そう、なんですね」

 浅霧はそれで納得した様子だが、ゾンビの声は消えることはない。それに立ち向かうように背中を向けたのは、高郷だった。


「俺がやる。行ってくれ」

「でも!」

 そう言わずにはいられなかった。

「時間がないんだろう? だったら早く!」


 正平はなにも言わず、洞窟の中へと入っていく。景子もその後に続いた。殻屋は、高郷と同じように、立ち向かうし姿勢で、こちらには体の正面を向けていない。


「早く行って! どうせ私は助からない!」

「わからないじゃないですか!」

「そんなこと言ってる暇があるなら、さっさと行きなさい!」


 浅霧は、帆野の腕を掴んで洞窟へと引き込んだ。

「たかが二人に死ぬような人じゃないです。信じましょう」

 後を追って洞窟の中に入る。

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