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リミット24――死が見える男――  作者: 瀬ヶ原悠馬
第二章 蝿、付きまとう。
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19.近づくリミット

 徒歩でようやくDエリアにたどり着く。建物が右斜め前に見えているだけで、近くは田んぼに囲まれていた。


 ゾンビを極力避けて進んでいく。時間もかなり経ってしまい、次第に近づくリミット。時計を確認してみても深夜四時を回っている。洞窟はすぐに見つかりそうなものだ。


 しかし、ゾンビはここからの景色だけで三人や四人見える。数自体は多くはなく、徘徊する存在は目立つために避けて通ることは出来るとは言え、襲われることも考慮しなければならない。住宅が並ぶ場所に入れば格段にリスクは上がるだろう。


 はっきりとしない意識に加え、歩き過ぎの疲労感。まさか、双子姉妹に続いてまた寝られない状況が続くとは思いもしなかった。


 Aエリアとは真反対に位置するため、幾度となく心に生まれた諦めの感情。振り絞ってここまで歩いてきてようやく努力が報われる達成感が、まだそれなりに距離があるとはいっても実感できるところまでは来た。


「持ちましょうか?」

 浅霧が言う。左手で持ってる刀を通り越した右手を見る限り、恐らく刀ではなく本だろう。

「大丈夫です」

「戦いづらくないですか?」


(確かに、これじゃあちゃんと守れない)

「じゃあ、お願いします」

 と、本を渡す。


 後もう少しが長く感じたが、田んぼに囲まれた空間からようやく建物が目と鼻の先になった。目に飛び込んだ水車小屋と近くに流れる川。石造りの橋を渡ればその空間に行き着く。


 しかし、渡る前からその殺伐とした空気は伝わってくる。ゾンビの声、誰かの話し声。うまく聞き取れはしないが、ここにも住んでいる人たちが多くいるようだ。


 水車小屋と左の木造の建物の間の道を通っていく。すると、左の建物の扉から一人の人間が飛び出してきた。

「ほら来いよ! やってみろ!」

 高郷だ。

「下がってください」


 建物の中から、粘ついた口を開きいて腕を向けたゾンビが襲いかかっている。そのゾンビを鞘から抜かずに何度も殴ってなんとかダウンさせた。


「どうしたんだ、それ?」

「ご信用に持ってください」

「あ、あぁ」


 使った刀を高郷に渡した。

「殻屋さんは?」

「ちょっと、怪我してしまってな」


「怪我? 大丈夫なんですか?」

「あぁ。とりあえず、そこの家で救急箱探して手当したよ」

 だから家から出てきたのだろう。


「噛まれたってことですか?」

「そうじゃない。ちょっと転んだだけだ。大丈夫。心配するな」

「それならよかったです」

「先、行っててくれないか。殻屋さんの様子が気になる」


「わかりました。絶対に無事でいてください」

「もちろんだ」


 高郷と別れ、再び建物に入って浅霧と帆野はそのまま前進した。


 建物に囲まれた広場の中央に、鉄格子で覆われた鉄塔に電線が引かれていた。その周りをここからどうやら電気供給がされているようだ。格子を貫いた先に、朧気(おぼろげ)に浮かび上がるゾンビ。誰にも気づいておらず、頭や体を前後に動かしてたたずんでいる。


 右手の対角線上にいるゾンビの想定しうる経路として、そのまま左に向かって前進しそうだ。


 このまま前進するのは、間違いなく気づかれる。

 左に曲がるにしても建物が並んでいるだけ。こうなれば右に曲がればいいだろうか。木々が見えるのは右の方向だ。


 こうして考えている間にゾンビは、予想通り前進している。ゾンビを常時意識を回し、右に曲がって足を進めた。


 突き当りまで進むも、行き止まりになっている。崖や山になっている思いきや、平坦な地面に木々がはえているだけでどこに終りがあるかはここからではわからない。


 中に入れないよう柵に有刺鉄線が覆われているところを見ると、動物が入ってくるのだろうか。

(探すなら、こっちだよな)


 左手の建物は、一軒家に格子状の黒いプラスチックの柵で囲まれたと庭、私有地にめり込んだ黒い玄関扉に柵に持たれかけさせたような赤い自転車と玄関近くの鉢植えなどが目立つ。

「向こう側に行きますか?」


 と、鉄線を目の前にしてそう答える。

 跨いで通れる高さではない。無理に乗り越えようとすれば、服が破れたり怪我をしたりする恐れはある。そんなことを気にしている場合でもなさそうだ。端から端まで掛けられているため、その隙も一切ない。


 浅霧は柵がどこまで続いているのか気になっている様子で、ギリギリまで顔を近づけて覗いていた。

(なにか、梯子(はしご)のようなものがあれば)


 目視で様々なところを探している最中、ゾンビが姿を表した。

(ヤバい!)

 浅霧の腕を掴んで、共に仕方なく右手の建物に入っていく。


(気づかれたか?)

「どうします?」

「中にはいりましょう」

「はい」


 黒い玄関扉を押すと、甲高い金属製の音を出して無抵抗に開いた。ゆっくりと中へと入っていく。横長の二階建て。そこから先をどうするか。もし、この通路に入ってきたとしたら。それこそ袋小路と言っても過言ではない。


 木造の茶色い玄関扉の左上に見える電球は、自動で動いているのだろう。ほのかに周囲を照らしている。玄関を正面にして左に曲がれば、庭にたどり着ける。


 ここから見える庭の風景は一部分しかない。窓が割られ、外に破片が飛び散り、一緒に網戸や窓の枠が石造りの地面とすのこにかけて寝そべっている。ここで襲われた痕跡だろうか。


 庭に入るにしても、あの格子状の柵からゾンビの姿が見えてしまう。逃げ込むにしても、建物に入るしかないだろうか。


(いや)

 森の方に逃げ込むのがベストかもしれない。しかし、建物の敷地内であるのに関わらず、格子状の柵にもグルグルと有刺鉄線が巻かれ、かつ乗り越えられないようにしている。これではまるで、入らないようにしているようにも見える。


 ひとまず、ここから声だけでも様子を把握しよう。唸り声は聞こえるが、少しばかり遠い気もする。

「来てますね」

「ですね」


 早々の判断で仕方なく中に入ることになった。もしまだ中にいたらと思うと、入ったとしても安全とは限らない。気が休まらない中、建物の中に入ってゆっくりと扉を閉める。


 入って正面は壁になっていて、きれいな草原と青空の絵が掛けられていた。

 目立った下駄箱がないところを見ると、右手にある天井までの両開きの戸が下駄箱代わりということだろうか。玄関はあまりに綺麗だ。絵が掛けられた傍にある入り口の先は、リビングになっていた。


 割れたガラスの破片は、部屋の中には一切見られない。窓が飛び出しているところから考えても、やはりリビングから出たと見ていいだろう。そんな事を考えている間、浅霧は中に入っていた。その後に続く。入って右手、突き当りから二階へ上る階段、玄関の向こう側はトイレと風呂。


 帆野の前にあるのはテーブルに椅子が四脚。奥にソファーとテレビが見え、右手奥はキッチンになっているが、散々な有様だ。


 乾いた血液が床を汚し、椅子が倒れてテーブルの位置がずれている。キッチン側と帆野側の両方、左手にある窓はその痕跡を残しているのみ。窓としての役目を一切担っていない。


 浅霧はもうリビングには見当たらない。二階へ行ったのだろうか。立ち止まって耳を澄ませてみる。

(ゾンビの声は、聞こえた)


 距離に変化はない。近づいているか、あるいはもう敷地内には入っていると考えても良い。しかも、二人分だ。片方は家の中からのようにも聞こえなくもない。


(どっちだ!)

 窓か玄関か。あるいは外か中か。浅霧の心配をしている上で外にいるゾンビにも意識しているせいで、その場から全く動けなくなっていた。背中と前方を交互に視線を向け、鞘に納めたままの刀を構える。そんな時、空気を読まずに左ポケットに入っているスマホが振動した。


 洞窟が見つかった連絡だと察する。

(くそっ!)

 確認したくても出来ない。途端、二階から強い振動と物音。


「浅霧さん!」

 ゾンビは病的な口の中をひけらかし、手を前に出して帆野を噛もうとする。その頭を何度も頭を殴るものの、打撲などにひるみもせずに近寄ってきた。

「くっそおおお!」

 高郷の時には気絶させられたのに、今回はできない。あの時はたまたま当たった場所が良かったのかもしれない。浅霧の説が頭を過るも、ためらっていては助けられずに帆野も死んでしまう。途端に死の恐怖が襲い掛かってきた。噛まれた後の自分の姿を想像すると、体が勝手に動き出して蹴り飛ばしていた。刀を鞘から引き抜いて、頭上めがけて勢いよく突き刺した。


 なんとか動きが止まる。異様な虚無感と危険と隣り合わせだった精神的疲労が身に沁み、足を立ち止まらせて荒い呼吸を繰り返していた。そんなことも束の間、混沌とした状況に慣れつつある意識は、浅霧の存在を探り当てた。


 二階に急ぐ。襲われては仕方ない。彼らの脳を貫かない限り、何度も向かってくる。

 半回転した階段を上がった先は真っ直ぐな通路になっていたが、二つの扉は開いたまま。雰囲気で近くの部屋からそれがする。足早に向かおうと部屋を覗いた時、背中を向けて息の上がっいる浅霧がいた。


 浅霧が振り返る。

「どうやら、隣の部屋にいたようです」

「すみません、俺の不注意で」

「いいんです。二階から見れば、わかると思って」

「あ、あぁ、ありがとう」

「大丈夫です」


「もしかして、さっきのロードって」

「はい、私が送りました」

「ごめん、てっきり洞窟が見つかったのかと」

「勘違いさせてすみません」

「気にしないでください」


 寝室とその廊下で一息ついた時、スマホが再び震える。鞘に刀をしまい、スマホを手に取った。

――洞窟が見つかった。

 雲原夫婦からだ。

――わかりました。鉄塔わかります? あそこで集合しましょう。


 皆からの返信があり、目立つ鉄塔の周りで集合することになった。

「証拠、これだとわかりにくいですね」

「あっ」

 言われてみれば、確かに血が付着していては判別するのに難しくなる上、素手で握りしめてしまっている。これでは使い物にならないかもしれない。


(血?)

 そうだ。思い返してみれば、あれだけ切られているのにかかわらず血液一つ吹き出していない。

「浅霧さん、血出てないですよ」

「そう、ですね。言われてみれば」

「ゾンビってそういうものなんですかね」


「ゾンビ映画とか見てても、血は出てましたけど」

 あくまでフィクションということだろうか。とはいっても、これは現実世界だ。どんなに荒唐無稽なことが起きようとも、ここで心臓を荒ぶらせ、死と隣り合わせの恐怖を感じたこの感情が証明している。


 なにかしらの根拠や理由があるのだろうが、今考えていても仕方がない。鉄塔に早く向かおう。

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