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リミット24――死が見える男――  作者: 瀬ヶ原悠馬
第二章 蝿、付きまとう。
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18.寺

 向かった先は家の中。今は窓を跨いでニ階全体を見回している。二人の中での案としてまとまったのは、中に入ったふりをして家の中に誘導し、二階からこっそり抜け出すというもの。


 ニ階ベランダからだと三・五メートルはあるだろうか。吊り下がった状態で足元から地面までを考えると、帆野の身長でも一・八メートルくらいはある。浅霧を支えるために帆野が先に降りるとしても、この高さで無事かどうか。


 高身長の人間分くらいの高さ。無事であればいいが、もしなにかしらの怪我をした時は足手まといになるだろう。


 不安材料に気づいてもこんな提案をする他なった。浅霧は危険だと言ったが、古文書を回収することも考えればそれくらいしかなかった。


 ともあれ、問題はゾンビが入ってきた合図だろう。

 そもそも、中に消えたからといって中にはいったと気づくだろうか。浅霧はなにかないかと部屋の中を探しているらしい。聖域の部屋の扉が開いている。


 途端、大きな音が響き渡る。複数の食を欲する唸り声。部屋に入ってきてた、と考えていいだろう。浅霧が聖域の部屋から出てきた。


「ごめんなさい」

「いいよ、無事なことを祈りましょう」

 そうそう都合よくはしごや脚立など見つからなかったようだ。それはそうだろう。


 窓からベランダに出て念のために確認する。足を(もつ)れさせないよう気をつけ、手すりから身を乗り出して確認したが、扉は倒されている。


 そしてゾンビの姿も確認できない。幸い、古文書は傍の建物に近くの扉から離れた位置にある。その近くが足元になるようベランダからぶら下がる。


 手すりが壊れたところは一階の扉に近いため、手すりが存在するところからぶら下がらなければならない。心配する浅霧の顔が見えた。


「大丈夫です」

 振り絞る勇気。命だけを考えれば、これくらいしかない。息を整え、手を離した。着地した瞬間、足裏に響き渡る痛みがあるが、勢いに任せてか体が勝手に反応する。受け身なのかは自覚できなかったが、膝を曲げて尻もちを着いた。


 お陰で壮絶な痛みに襲われることはなかったが、響き渡る鈍痛に耐えてゆっくりと立ち上がる。帆野より少し背の低い浅霧を、鈍痛に耐えて支えることになるが、戸惑っていられない。


 手を広げて受け止める準備をする。浅霧も同様にぶら下がった。受け止めたはいいが、当然勢いがあって着地した時に二人共倒れ込んでしまった。


 浅霧が先に立ち上がり、帆野の腕を無理に肩に乗せて立ち上がらせた。支える人間の体重分があるから反射的に受け身を取ったにしても、腕や足の痛みはある。


 地面に落ちている古文書を拾い、その足で寺に向かうようにしてゾンビから距離を取っていく。


    ・  ・  ・


 気づかれないように気をつけていたものの、占い師の家に入ったゾンビが外に出てきたので、やむなく走って寺の階段を登っている。


 背後をしきりに気を配り、安全を祈って一歩ずつ着実に目的地へと足を伸ばす。寺を目の前にして静寂が包みこんでいた。これだけ静かだとゾンビの声も聞こえやすいだろうが、用心に越したことはない。


 上がりきり、正面に寺が見えたところで浅霧に聞いた。

「どうしますか?」

「あの家に行きましょう」


 指さした先はゾンビが壁を壊した建物。恐らく、中は細かい用具入れだろう。

「あっ、そうですね。行きましょう」

 もしかしたら凶器の刀が見つかるかもしれない。慎重かつ急いでそちらに向かった。


 中は木造の棚が部屋の中央に四列、均等に並べられていた。壁が突き抜けた付近や歩いたと思われる痕跡を残すよう物が散乱している。


 右手の壁際に祭りの道具であろうと見られる旗、折り畳めたテーブル、大木や細長い稲わらなどがかけられている。


 早速浅霧は中に入って左に曲がり、くまなく捜索しているようだ。一方の帆野は、正面の腹くらいの高さまである箪笥に目が留まる。目立つ刀が見当たらないとすれば、この箪笥にしまわれていてもおかしくはない。そこへ向かって歩いていた。


 ゾンビが通っているわけではなさそうで物が散乱しているわけではないが、音を立て慎重に歩く。上から一段目の引き出しを開けた。そこには入っていない。


 二段目を開ける。すると刀が三本ほど、しっかりとしまわれていた。ドラマなどでは模造刀より真剣の方が重いというような話をよく聞くが、本当なのだろうか。試しに手に持ってみる。


 予想以上に重い。他のものと比べてみても、あくまで感覚だが、違いがあるようには思えない。間違えないように真剣と模造刀と分けておいてあるのだろうか。一本だけ右手で持って元に戻し、その下の引き出しを開ける。


 すると、そこにもまた刀があった。そちらを持ってみると、右手の方よりも少しばかり重いように感じる。こちらが真剣と見てもいいだろうか。


 模造刀を上から二段目の引き出しに戻し、一応真剣を一つ一つ鞘から出して血が付着していないかどうかを確認する。当然、そんなことが見つかる由もない。

(まぁ、そりゃあそうだよな)


「誰かいるんですか?」

 そんな時、イヤホンの向こう側から塩染めの声が聞こえた。なにも答えず、そちらに意識を向ける。

「驚くと思うけど、安心してくれ。俺はちゃんと喋れるし、自我もある。襲ったりしない」


 ゾンビの唸り声が大きくなるが、なにも襲われずに済んでるようだ。しかし、声をかけている相手というのは恐らく生存者だろう。こんな状況で出てくるだろうか。


 足音が聞こえる。周囲がくぐもって反響しているような足音から、徐々に反響が少なくなっていく。トンネルか洞窟なのだろうか。広ければ、地下もあり得るだろう。

「お前は!」

(この声は)


 そうだ。思い出してみれば、その人がいなかった。(くるわ)である。

(生きてたんだ!)

「こんな見た目だけど、俺はちゃんと自我がある。わかってくれ」


 しっかり控えめに喋っているようだ。

「なんで、こんなところに」

「実は」

 と、今までの経緯を話す。


「こっちにはないぞ」

「でも、この洞窟なら」

「俺、ここに隠れてたんだよ。だからわかる、こっちにはない」


「塩染さん、その中です」

 切羽詰まったように声を上げた浅霧。どうしたというのだろうか。

「なんですか?」

「誰か他にいるのか?」

 と、廓が塩染に聞く。その問に塩染が答えた。


「おい、いきなりなんだ! やめろ!」

「その中です。早く!」

 そこで通話が途絶える。事態が飲み込めないので、浅霧の元に近づいた。


「どうしたんですか?」

「全てが解けました。さっきの人が生き返らせる本を使った人です」

「あの人が?」


「はい」

「説明してください」

「洞窟ですよね。塩染さんも言ってましたし」

「そうですね」

「覚えてます? 女将さんの言葉。執念だったと思う、まさか見つかるなんてって言ってましたよね」


「そういえば、あ」

 そうだ。最初、依頼したときの塩染の言葉も合わせて思い出す。確か、洞窟か地下で儀式をしているところを見つけた、と。先程の言葉からもそのような含みを感じた。


「そうです。儀式の行われた場所がもしあの洞窟なら、常和和也さんなら知ってます」

「でも、あの人は」


「憑依です。死神が、塩染さんに隠させた理由もそれだと思います。怨念が強かった常和和也さんの魂を見つけ、誰かに憑依させるために常和さんの話を伏せさせたんだと思います。悟られるとまずいので」

「確かに、依頼を受けるときに聞いたら、たぶん気づいたかも」


「ですから、その内容を伏せたんです。私たちが聞き込みをしている間に、常和さんが村から出られないよう閉じ込めて、その本を使う。どうやって血液を手に入れたかはわかりませんが、その血液を使って儀式を行い、関わった重要な人たちを選んだ。

 その間、あれも憑依みたいなものですから、声が届きづらく見つかりにくい儀式で使われた洞窟を逆に利用したんだと思います。あそこにいた理由がそれです」


 もしそうであるのならば、血液の入手経路は医者の女だろう。その人を脅し、占い師、住職、村長などの血液を取らせた。

 それならば、なんら不思議なことではない。

(それに)

「あのメモにも、廓さんの名前はなかった」

「村内会のメンバーと電話番号か書いてある奴ですか?」


「そう。浅霧さんには確か、名前は伝えてなかったと思うんですけど。ほら、歴史記念館のところでいた男の人」

「一人は、高郷さんですよね。その前のですか?」

「そう。その内容だけは伝えたと思うけど、名前がなかったのに話の内容をよく知ってたんだよ。それに、自分でメンバーだとも言ってましたし」


「なるほど。だったら、間違いないですね」

「だ、だったら」

 と、慌ててロードを使って通話するが、しばらく経っても電話に出ない。電源を切られたのだろうか。


「まずい」

 浅霧がスマホをいじり、全ての人間に連絡を入れた通知が帆野のスマホに表示された。今すぐに塩染のエリアへと向かうだろう。

「急ぎましょう」


「待ってください。刀持っていきませんか?」

「そうですね」

 箪笥のところまで向かい、真剣が入っているであろう刀を背中に浅霧と帆野は背負った。全部で合計三本あるため、三本目は帆野が持つ。証拠となる刀に血が付いていない以上、真剣であるすべてを手に持たなければならない。

 儀式が行われた洞窟であろうエリアに、早速向かっていった。

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