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リミット24――死が見える男――  作者: 瀬ヶ原悠馬
第二章 蝿、付きまとう。
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17.5.占い師の家 後編

 迷っている最中、浅霧は早々とベランダに出た。後に続く。窓をきっちりと大胆かつ慎重に閉め、外の様子を確認もせずにそのまま浅霧の元へと急いだ。

「とりあえず、ここでゆっくりしていくしかありませんね」

「ですね」


 危機的状況には変わりない。こんなことを繰り返していてどうにかなるのだろうか。雲行きが怪しい未来に不安が募る。

「それ、なんですか?」

 どうやら手元の手帳と古文書に反応したらしい。


「あ、あぁ、見つけましたよ。儀式の本。それとメモ帳です」

 と、メモ帳を開いて見せた。これでようやくこの中の文章が読める。予想通り一ページ目は電話番号と名前が記載されていた。電話番号は履歴に残っていたのと一致するようなものもある。


 此田(これだ)明憲(あきのり)網田(おうだ)平助(へいすけ)中蓮(ちゅうれん)愛華(あいか)厩橋(うまやばし)長介(ちょうすけ)、常和和也、登坂(とさか)鶴子(つるこ)

(常和さんの名前だ)


 恐らく、鶴さんと呼ばれていた占い師の老婆に平助と呼ばれていた人物がいること、そして常和の名前が書かれていることから村内会のメンバーであることは間違いない。浅霧もそう呟いていて、帆野も同意した。続きを読んでいく。


 高塚(こうづか)切子(きりこ)早北(はやきた)冬華(とうか)林田(はやしだ)(ふみ)左右田(そうだ)是清(これきよ)外池(そといけ)純一(じゅんいち)


 次のページに行く。

 田嶋(たじま)幸十郎(こうじゅうろう)遠野(とうの)勘吉(かんきち)鋲詰(びょうづめ)久助(きゅうすけ)田辺(たなべ)理子(さとこ)。その下に下線が引かれている。この人たちだけということだろうか。


 これではまだ、間接的な証拠としても言えない。ただ村内会のメンバーを目盛っただけに過ぎない。その先も見ていく。一切の規則性がなく、半分なぐり書き。かけるスペースがないと見ると、次のページに行くというイメージだろう。


 日時が書かれていたり、宅配関係のもの。もはや電話を受け取った際のメモに関係はないであろう、代金の計算が書かれていることもしばしば。


 何枚もめくってもそれは変わらない。外れかと思った時、無理矢理破った形跡のあるのが見える。穴が空いた中を金属製のリングを通して止めたものではなく、背表紙や紙同士にしっかりくっつけられたメモ帳なのだから、丁寧に破れば形跡を残すことはないだろう。


「破られてますね」

「はい」

 その後のメモを見る。


――手伝わなくていい。余所者。紅楽亭。縄。失敗。

「これ」

 帆野と浅霧のことだろう。

「縄なんて使われてないですよね」

「確か、病院にそれらしき縄があったな」

「でも、素手じゃなかったですか?」

「確かに」


 言われてみればそうだ。平助と医者――もしかしたら、医者の女が殺すことが出来ず、平助を呼んだのではないだろうか。占い師の話では村内会のまとめ役とも言っていた。


 察せられるところがあったにせよ、肝を冷やすようなメモ。明るみになることは考えなかったのだろうか。このメモにしてはタイミング的に隠滅出来なかったのだろうが、生贄の儀式と思われるメモは誰かがが破った、と考えるのがシンプルだろう。


 その時、塀の上部から唸り声が聞こえる。見上げると、すでにゾンビが手すりから身を乗り出していて、そのままこちらへと落下してきた。


 無我夢中で逃げようと走る最中、ベランダから足を滑らせて木造の手すりを壊し、腕一本で宙吊りの状態になった。手すりの隙間を縫ってこぼれる、古文書が視界の端に見えた。


「大丈夫ですか! 帆野さん? 帆野さん!」

 イヤホンから聞こえる塩染の声。答える余裕は持ち合わせていない。

「帆野さんが落ちました。今、私が引き上げます」


 この音で全てが知らされる。足元の状態を知ることは叶わないが、近づいて来ているのは直感でわかった。


「浅霧、さん!」

 浅霧は帆野を引き上げようと手を伸ばしている。ここからの風景では二階の窓を見るので限界だ。建物と建物の間に入ったゾンビはどうなっているかわからない。


「早く!」

 そんな中、部屋の中にいたゾンビが反応したのか、窓を雑に叩く音が聞こえた。割れるのも時間の問題だろう。


「自力で上がる!」

 浅霧は落ちてきたゾンビの方を見やり、そちらへと向かった。


(早く、早く上がらないと!)

 足元になにかが触れる。下を見ようにも視界の端に建物が写るばかりで、どうなっているかは未だに把握できない。


 ありったけの力を込めて体を持ち上げた。両手、片足が木造のベランダに乗ったところで、窓ガラスが激しく割れる。


(急げ、急げ急げ!)

 手を伸ばして粘ついた口を開けたときには、しっかりと対面していた。頭部目掛けてナイフを振り下ろそうと思う。しかし、頭には一筋の気持ちが過った。”儀式を解けば、ゾンビ化が止まるかもしない”と。


 殺すことを躊躇っている間、ゾンビに腕を掴まれる。狭い足場の中、噛まれないよう奮闘している最中、ゾンビを上手く突き落とした。


 ベランダに手を掴んでいるが、伝って登ろうと数人のゾンビが駆け上がろうとぶら下がっているゾンビを掴んだ際、重さに耐えきれず落ちていく。


 ドミノ倒しのように倒れていくゾンビの声を聞き届ける中、荒い息が整っていく。だんだんと落ち着いていくと同時に、浅霧の様子が意識に上ってきた。そちらに体を向けると、頭に突き刺さったゾンビの亡骸を前にして座り込んでいる。


 代わりに包丁を抜いて、浅霧の肩を支えた。

 大丈夫、なんて軽く声をかけても、こんな状況なのだから大丈夫ではないのは明白だ。結局、言葉が見つからず、ありきたりな言葉で持ち上げる他なかった。


「しょうがない。しょうがないよ。こんな状況だから」

 呪いを解けば助かるかもしれなかった命。どう見てもゾンビであるとは言え、人を殺したことに後悔があるのだろう。ただ、申し訳なさそうに謝罪の言葉を呟くだけだった。浅霧の背中を撫でている中、手元にあったメモ帳と古文書を思い出す。

(メモ帳、メモ帳はどこだ!)


 古文書は下に落ちてしまったが、メモ帳はどこにあるか知りもしない。周囲を見渡していると、隣の建物のベランダの出っ張りのおかげで落ちずに済んでおり、上手く支えてくれていたようだ。今度はポケットにしっかり入れておく。


 しかし、これからどうしたというものか。ここから戻るか、それとも隣の家に渡るか。落ちてしまった古文書も回収しなければならない。それも含め、この状況を打開する策はあるのだろうか。

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