16.捜索開始
「どうしますか?」
悩んでいても仕方ない。不安や心配性の帆野が、先陣を切って話すとは自分ながらに驚いている。
「じゃあ多数決にしましょうか」
浅霧がそのあとに続いた。
「賛成の人」
手を上げたのは、浅霧、帆野、高郷、景子の四人。この時点でこの場から動くことが決まった。
「でも、探すにしろよ。どう探すんだ?」
と、高郷が言った。案があると答えた浅霧が、自身のリュックの中から地図を取り出す。中央に広げて、その周りを六人で囲んだ。
「班ごとに分かれて探しましょう。私と帆野さん、そして雲原さん夫婦、高郷さんと殻屋さん」
地図を指で四分割にし、左上の枠からAからDと順に四つ分けた。
「ちょっと待て」
と、正平が言う。
「これだと一つだけ開くんじゃないか?」
確かに、これでは人数が足りない。
「私たちに知ってる人がもう一人います」
(まさか)
恐らく、トランクに閉じこもった塩染だろう。どう説明するのだろうか。
「そいつ、生きてるのか?」
「大丈夫です。車にいるので、そこを捜索してもらいます。では、Aから私と帆野さん、Bは雲原さん夫婦、Cが殻屋さんと高郷さんでお願いします。Dは頼んでおきますから」
一斉に立ち上がり、この部屋を後にしようと足を踏み出す。
「待って!」
背後から女将の声。皆が振り返る。
「このまま置いていく気?」
「君は」
正平が口を開いた。
「人を殺そうとした。わからなくはないだろ?」
言い訳をすることもなく、歯を食いしばってうなだれる。居心地の悪い奥歯に物が挟まった感覚で頭を埋め尽くした。その鬱憤を晴らすかのよう、唸り声を帆野は上げる。
「わかったよ。その代わり、ついてくるなよ? この旅館を守るんだ。いいな?」
顔を上げたが、なにも答えない。潤んだ瞳がこちらを見つめるだけだった。ため息を吐いた正平が、帆野の左肩を掴んで縄を解きに向かう。次に、右肩をツンツンと突かれた。耳元に顔を近づけたそうな浅霧に耳を貸す。
「イヤホン持った?」
「ポケットに入ってます」
視線を感じたのでそちらに目を向けると、殻屋がその一部始終を見ていたのか目が合った。鼻が効くというかなんというか。見逃さない洞察力が凄まじい。
しかし、細かいことを聞かずにそのまま先を歩いてしまった。ゾンビが過ぎ去ったのと同じくらいの安堵が身に染みる。正平を最後尾にしてこの部屋から後にした。
・ ・ ・
一人ずつロードを交換して、一つのグループを作ってから各所に向かった。完全に他の人から離れたことを確認して道が開けた場所を二人で立ち、右耳にだけワイヤレスイヤホンをつけ、周囲を確認して電話を掛ける。
「もしもし?」
「はい、塩染です」
今までの経緯を電話で話す。
「はあ、そんなことが。わかりました。私はそちらの方に向かえばいいんですね?」
「はい。それともう一つ」
「なんでしょう?」
「なんで隠してたんですか?」
少しばかりの沈黙が続く。集中力が切れたのか、周囲への警戒心が高まった。
「死神から言われたことです。どうしてかも聞くなと」
「気にならなかったんですか?」
「気になりましたよ。でも、脅されてできなかった。俺だって鬱憤を晴らせないのは嫌ですから。常和さんの罪滅ぼしも出来ない」
「そうですか。わかりました。このままつけっぱなしにしてていいですから、お願いします」
「わかりました。なにか異常がありましたら、伝えます」
「うちのメンバーには気を付けてください」
駐車場があるのはBエリア。そして、紅楽亭があるのもBエリア。この辺りを警戒して移動しなければ、雲原夫婦に見つかってしまう。通話を切らずに周りを警戒して、帆野と浅霧も歩き始めた。
・ ・ ・
右に折れた、突き当りまで住宅に挟まれた道路。
道中に何人かゾンビを目撃したが、見通しが良い場所は非常に助かっている。Aエリアの道のりまでは良かったものの、ここから先は探すと言っても中々骨が折れるというもの。
その場所は、寺や監禁されていた病院などがあるところ。畑は多くなく、全体的に木造住宅が並ぶ。見通しも悪く、見つからないように蘇りの儀式をするのも難しくはない話だ。
洞窟か地下と言っていたが、地下である場合は一軒一軒探さなければならない。
「どうします?」
ぽつんと二人だけしかいない道路の真ん中で、ひっそりと浅霧に声をかけた。
「そうですね」
家から道路にはみ出している血液、凄惨な光景が脳裏を過る。ここの辺りは、呪いによってゾンビになった加害者が多い。
確認できるだけでも、住職、占い師、病院にいた平助と医者。そのため、襲われた被害者も多いだろう。
この場に立つことは危険だが、八方塞がりの場所で立つよりかは安全である。他のゾンビはどこに行ったのだろうか。どれくらい歩き回って広がったのかすらわからない。
「洞窟なら森側を探せばいいと思いますけど、地下とかだとねぇ」
「地下でも絞られてるんじゃないですか? 流石に、関係のない人の家の地下とかには作らないと思うので」
「確かに、そうですね。じゃあ占い師の婆さんの家とか、寺とか?」
「はい。証拠を探しながらでも」
「そうしましょう」
当然、残しているのかどうかの疑問が頭の中に浮かんだが、今やそんなことを言っている場合ではない。仮に呪いを解いたとして復活する可能性を考えた場合、証拠を抑えておいて損はない。浅霧の意見を呑んで、先へ進んだ。




