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リミット24――死が見える男――  作者: 瀬ヶ原悠馬
第二章 蝿、付きまとう。
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15.呪物

 浅霧と帆野が泊まる部屋。

 人数が増えただけあって部屋は狭いが、縄で縛られた女将を以外は仲間である。現在は高郷をいれた六人。


 入口近くの手前の部屋で壁を背にして立っており、女将は奥の部屋。こちらから見える位置に縄で縛られた状態で座らせる。


 帆野が立ってる対面にいるのは、左から高郷、正平、景子の順。こちらは右に浅霧、そして残る殻屋の順。


「紹介します」

 なにから話そうかとも思ったが、正面にいる高郷の紹介がまだだったので、それから始めた。

「なんか、呪物コレクターだそうです」


 皆が一同にして怪訝な表情をした。無理もない。呪物を集めている、なんていう物好きを目の前にしたら、そういった反応にもなることだろう。


「おいおい、そんな目で見るのは止めてほしいな」

「ゾンビが出たって言ったら、信じます?」

 何気に食いついたのは、浅霧だった。


「ゾンビ? いるのなら信じるぞ」

「呪物でそういったものになることはありますか?」

 思わず驚きの声を漏れてしまった。確かに、この村には呪いの類いが行われ、そういった書物が存在しているのはわかる。


「どういうことですか?」

 こちらに視線を向けるが、なにも答えずに高郷に戻す。

「うーん、ゾンビねぇ。呪い殺す、不幸にさせるとかなら聞いたことあるけどなぁ、ゾンビか。俺は見たことはないけど、もしそんな呪物があるなら、是非持ち帰りたいもんだけどな」


「そうですか」

 確かに呪物の話はしたが、ゾンビとそれが繋がるところはなかったはずだ。どこの物かは知らない。ここに伝わる呪物も聞いたが、それは人を生き返らせる代わり、憑依させる人間と血液が必要というだけの話ではないのだろうか。


「なんで、呪物なんですか?」

「ちゃんと行われているのにゾンビがいるなら、他からそうなったって考え方も良いんじゃないですか? 今までのことを整理すると、呪物が引き金となっていても」

「まぁ、わからなくはないですけど」


「ゾンビって言うけどさ」

 と、高郷が言う。そのまま口を動かした。

「そのゾンビって、誰がなってるの? 村人全員とか?」

 それに帆野が答える。その説明の時――女将が目を見開き、口をパカッと開いたまま食い入るように聞いていた。


「なにを驚いてる?」

 その表情の変化を見逃さない。早速、質問を試みる。悔しげに唇を噛み締め、わかりやすいため息を吐いた。


「一人、赤ん坊が死んだ。儀式のことでどうこうじゃない。ただ、その時に止めるよう入った刑事と、子どもの親がいて」

「待て。聞いてないぞ。もう一人、亡くなった人がいるのか?」


「そう。常和(ときわ)和也(かずや)さん。亡くなった紗華(さやか)ちゃんのお父さん。執念だったと思う。まさか、場所がバレるなんて」

「じゃあ、その日で三人」

「そうね。貴方がた二人が、この事を調べてるって聞いて」


「でも、なんで話すように?」

「だって、医者にお坊さんに占い師でしょ? みんな関係する人がゾンビになってるし。今の話からして、呪いでなったかもしれないなんて言われたら、もうこの村を守る必要もなくなって」


「儀式に参加してたのか?」

「いえ。流石にそこまでの手を汚す勇気が出なかった。祟りを恐れてるくせに、止める儀式は他人にさせるなんて卑怯よね」

「場所は教えられてたってこと?」


「そうね。欠席した人は他にもいるんじゃないかしら。女性なら尚更でしょう」

「なるほど」

「しかしまぁ」

 と、正平が口を開く。

「なんで反対派の人間なんかの子どもを。こうなることくらい考えられただろ?」


「段々信仰も薄くなって、今や古い人だけが熱狂的に信じてる。賛同しててもね。生贄を捧げるためだけに子どもを出産したい、なんて思う人なんていないでしょ?


 もしかしたら、具体的な日程を知るためだけに、信仰してるフリをしてる人もいたのかもしれない。信じない人の中から選ぶしかなかった。自然死にしようと考えてはいたんだけど、日程も知らされてない上、誰も紗華ちゃんをさらうなんて教えてもいないのに、常に紗華ちゃんを見張ってたみたいだし」


 概要はつかめた。が、やはり被害者が他にいるというのが気になった。塩染は何故、それを黙っていたのだろうか。話していれば、もう少しなにか変わったかもしれない。


「なんで逃げなかったんだ」

 呆れた口調で正平がいう。

「常和さん?」

「そう。当然だろ。自分の子どもが殺されるかもしれないって思ったら」

「私に聞かないで。私は他所の子より自分の子のほうが大事よ。でも、あの人はたぶん、子どもが殺されるそもそもが嫌だったんじゃないかしら」


 正平は難しい顔をして、そのまま俯いてしまった。沈黙が部屋を包み込む。

「その呪いを解きに行ったほうが良さそうですね」

 と、浅霧が切り出した。周囲から反対の声は、当然湧き上がった。そんな代物に命を張って危険な外を歩くなど、あまりに対価が合わないものだ。止められる確証もなければ、それのせいと決まったわけではない。


「俺は賛成だな」

 高郷だけは例外だった。呪物コレクターという変人の意見だと思っているのか、反対も賛成も出ない。沈黙がこの場の空気を包みこんでいる。高郷もそれ以上の意見を言うことはなかった。


「今までのことを整理しても、呪いの結果って考えるしかないと思いませんか?」

「そうだけど」

 と、正平が言う。


「まだ見つかってないなにかって考えるほうが自然だろ」

「そうは言われても、そのために時間を持て余しても仕方がありません」


「時間なら、明日の朝になってからでも」

「その時には遅いんじゃありません?」

「なんで」


 まさか、と高郷が口を開いた。

「いや、でも、あれはゾンビになるんじゃなくて死ぬんだぞ?」

「そうですけど、動機を考えればわからなくはないと思います。子どもを殺された恨みで捧げ、その子どもを生き返らせるために儀式を行った。生贄は殺した人にすれば良い。一石二鳥です」


(確かに、辻褄は合うけど)

 引っ掛かることがあった。

「待ってください。浅霧さん、親も殺されてますよ?」

「まぁ、そうですけど、それなら筋は通りませんか? それを前提にして行動すれば、なにか見つかるんじゃないでしょうか」


「でもさ」

 と、正平が言う。

「それと時間がどう関係あるの?」

「朝までに誰にも見つからず成功すれば、子どもが生き返ります」


「あぁ、なるほど」

「でも、わざわざ止めること?」

 殻屋が言った。被害者の気持ちを組んでのことだろう。


「だって狂った因習で殺されたのよ? 村長やあの婆さんは自業自得。そんなやつらを犠牲にして生き返らせたとしたら、わざわざ止める必要も」


「他の人も犠牲になります」

「もうどうせみんなゾンビになってるよ、きっと」


 一つの可能性が頭をよぎる。

(もし、蘇りの儀式が途中で終わったとしたら)

「もしかして、止めればみんな生き返ってる可能性があるって考えてるんですか?」

「わかりません。ですが、行動してみても悪くないと思います。捕まえることだって出来るかもしれません」


「いいか?」

 と、控えめに手を上げて、高郷が言う。

「断じて言うぞ。俺の情報は自信がある。ゾンビなんてことは聞いてない。他の可能性を考えないか?」

「どんな呪物にせよ、なにかしらを用いてこの自体になったと考えられます。なのであれば、みんなを助けるために行動してもいいんじゃないでしょうか」


 皆が皆、黙ってしまった。

 不確かな点はいくつもある。

・死ぬ存在がゾンビになった理由。

・亡くなってると思われる常和和也の存在。

・呪いを解けば生き返る。

 賭けて動くか、それともじっとしているか。どちらの選択が正しいのだろうか。

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