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リミット24――死が見える男――  作者: 瀬ヶ原悠馬
第二章 蝿、付きまとう。
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13.5.露呈 後編

「どうしました?」

「君達って、本当にカップル?」

「え?」

「二人とも睡眠薬を盛られるほどの人間で、なおかつ上の名前でさん付けって」


 唇をかみたくなるほどの失態。これではもう誤魔化そうにもない。言いよどむ。話すしかないタイミングではあるが、なんとか嘘を付けないかと思考を巡らせる。

「実は」

 と、口を開いた浅霧。どうやら説明するしかないと判断したようだ。


「ある人に依頼されて、この村にやってきたんです」

「探偵かなにか?」

「そんなところです。殻屋さんなら、この村の儀式について知ってるとは思いますが」

 そう話したところ、あからさまな嫌悪感が表情から見て取れた。


「儀式? 儀式ってまさか」

 と、正平が言う。夫婦は心当たりがあったのだろう。こちらからオカルト研究部と称して、いろいろその都市伝説めいたことを聞いたから。


「そうです。私が偽ってそれらしい質問をしたと思います。裏を取ろうと思いまして。それに加えて、誰がやりそうかってことを聞き出すっていう目的もありました」


「俺らは知らなかったぞ?」

「ですね。まぁ、一部マニアは知ってるみたいでしたけど。有名なんですか?」

 殻屋に視線を向ける。


「まぁ有名っていうか、どうだろう。とりあえず村人はみんな知ってる。昔の農民の恨みも、赤ん坊を捧げることも。だけどそんな迷信、信じてない人も多い」

「殻屋さんもその一人ですか?」


「当たり前でしょう? 確かに三十年に一度、病気や事故で亡くなってしまう赤ん坊がいたけど。まさかそんなことしてるとは思わないでしょ?


 それに、そんなことでいちいち私たちが言い争いをするのを嫌っている人もいた。認めてるようなもんだし、プライドもある人もいたでしょう。


 なにより、不運で亡くなった人をあれやこれやと陰謀みたいなものと繋げて言うことの方が不謹慎。今や村おこしも起きてる。なかったことにして忘れようとしてたんだ」


 なるほど、とつい唸ってしまう。

「あれが本当に行われていたんです」

「やめなさいそんなこと!」


「じゃあ今まで調べてきたこと、その答えが村の因習じゃないって言いたいんですか?」

「浅霧さん!」

 と、止めに入った。必死に言い換えるよう頭の中で整理する。

「こう考えましょう。それを信じる誰かが、俺らに相談してきた」


「だったにしても、君たちはそれを信じて」

「そういうところなんですよ。実際、常識では考えられない出来事を目の当たりにしてきたんです。それに、殻屋さん。


 一緒に逃げてきた理由。恐らく、本当だったってどこか思っているんでしょう? 受け入れられないのはわかります。けどもう、そんなことで悩んでるときじゃないんです」


 殻屋は歯を食いしばっている。これ以上、諭すように話しかけても追い打ちをかけるようなものだろう。葛藤は本人が解決すべき問題だ。


「帆野さん」

 と、浅霧が言う。

「さっき言いかけてましたけど、なんですか?」

「さっき?」

「殻屋さんが気になったことを聞く前」


「あぁ、あれですか」

 過ぎ去った恐怖がまた、思い起こされる。

「病院、監禁状態だったんですよ。窓は錠前に接着剤。病院の入口は鍵を閉められ。気持ち悪くて頭が痛くて、朦朧としてて」


「怖かった、ですね」

「まぁ、それはそうなんですけど、犯人はあの二人だったってことです。男の方は平助っていう人。知ってると思いますけど」


「はい、占い師の人といた」

「そうです。もう一人の医者もそうです。チラッとですが、言い争っているところを聞いてます。もう、なにも覚えていませんが」


「で、その二人は?」

 と、正平が言った。

「ゾンビになった、そうでしょう?」

 口を開いたのは殻屋。

「そういうことです。俺がこうして生き残れたのもそれが原因です」


「まさか、そんなこと」

 景子が言う。

「見たんですよ、この目ではっきりと」

「うそ、犯罪者より立ち悪いじゃない!」


「ええ。知ってるだけでも医者やその平助っていう人、それに占い師のお祖母ちゃん、寺の住職とその家族、襲われた人複数」


「みんな、儀式に関わりそうな人たちね。なんの因果なんだろう」

「え?」

 つい口から出てしまった。言われてみれば確かにそうだ。あの時は必死でわからなかった。

(偶然か?)


「だってそうでしょう? 死因を誤魔化すために医者が必要。葬式を上げるために住職。平助は村内会に出席してる人、あの婆さんは狂信的だし。でも、変よね?」

「そうなんです。儀式が行われているのにゾンビが発生した」


 そんな時だった。外から、誰かの駆け足がこの部屋に届く。話す声などは、聞こえることがなかった、しかし、その駆け足がこの部屋の近くからどんどんと遠ざかっていき、途端にぷつっと途切れる。


 誰かがなにをして注意したかは定かではないが、恐らくそうだろう。

「まさか、聞く耳を立ててた?」

「だとしても」

 と、正平が言う。

「ここから外に出ないことを徹底すればいい。人数だけ見ても五人だ。流石に襲ってきたりはしないだろう」


 本当にそうだろうか。儀式に関わり、なんとしても明るみになることを恐れて帆野や浅霧を襲ってくるのは人間だったにしても、なにもそればかりとは限らない。


 ゾンビの手がこの紅楽亭に伸びていないとは限らないのだ。人の声とわかれば群衆の力を使って、この扉を開けるかもしれない。恐怖が過ぎ去ることはまだない。

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