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リミット24――死が見える男――  作者: 瀬ヶ原悠馬
第二章 蝿、付きまとう。
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7.情報

 浅霧たちの部屋からオープンスペースまでだと、それなりに距離がある。突き当りまで歩き、左に曲がって中央。


 壁側に沿ったソファーのような木製の椅子、そしてテーブルがあり、部屋から見えた夫婦と目があったのでお互いに会釈をする。


 いきなり浅霧から肘打ちで合図が来た。観光客だろうが情報収集には容赦がないらしい。

「観光ですか?」


 二人とも快く「はい」と返事が来た。そこまで距離を感じない人たちのように思える。庭をまじまじとみたいと思い、一番近いところまで歩を進めて手すりを掴んで体を預ける。


「綺麗ですね」

「えぇ。もったいないですよ」

 と、妻と思わしき女性が答えた。振り返って皆の方を見ると、夫婦に対面するよう浅霧が腰を掛けている。

「ホームページですか?」

 浅霧が言った。


「はい。まぁ、建ったばっかりだから仕方ないですけどね」

「やっぱり。結構、綺麗ですもんね」

 と、帆野は答える。


「村興ししてるからさ、それでだろう」

 と、夫と思われる男性が言った。

「なんでそんなことを」


「自然を愛し、故郷を大事にする人たちのために活性化させてるって、言ってたような。ニュースかなんかで見てないですか?」


「あんまり興味がなくて」

「なるほどね。若い人は政治に興味があるとか聞くけど」

「例外ですね」


「新しくなってるところも見たでしょう?」

 女性が話を続ける。

「景色も綺麗ですし。なにしろ空気が美味しい。観光客も増えてるみたいです。それはそうと、どうしてあなた達はここに?」


「この村のミステリーを探しに、ですかね」

「ちょっと」

 と、考えるよりも先に口から言葉が出ていた。デートと応えようかと思った時に、浅霧はストレートに本題へと入っていった。カップルで訪れているという体があるのに、これでは矛盾していないだろうか。


「ミステリー? 気になるな」

 どうやら話が進みそうだ。後戻りは出来そうにない。

「噂、みたいなレベルですけどね。例えば、この村の田んぼには作物を奪う妖怪がいるとか。夜な夜な農民が寝静まった頃、悪戯をされた妖怪は復讐に田んぼを荒らす、みたいな」


 ところどころ繋がるところはあるものの、それなりに良く出来た上手い嘘のように感じた。思いの外、夫は笑いのツボにハマったらしく、ゲラゲラと笑っていた。


「それ、クマかなんかじゃないですか?」

「まぁ、たぶんそんなところだと思います。こういう噂を調べに来まして。私と彼は、オカルト研究会で」


「へぇ、じゃあ大学生?」

「はい」

「なんだ、てっきりデートなのかと」


「そんな感じでもあります。嫌な人とはいけませんし、付き合い長いですから」

「焼いちゃうねぇ」

 と、二人はお互いに顔を合わせた。やはり二人は夫婦だったようだ。


「私達だって新婚旅行で来たじゃない。焼いてる場合?」

 妻は悪戯な笑みを浮かべて、夫をいじっているようだ。なんとも微笑ましい。


 旅館の仲居が眼の前の廊下をモップを持って通る。どうやら床の掃除をしているらしい。清潔を保つのにもやるのはわかるが、大変な仕事だな、と心の底から思った。


 夫が、腕時計で時間を確認しているのが視界に入る。

「まだ時間あるな。どっか行かないか?」

 視線の先には妻がいる。

「いいね。行きましょ」


 そう言って二人は立ち上がると、「では」と去っていった。今度は近くにいた仲居に声をかける。そこまで離れていないため、こちらにも声が聞こえた。


「すみません、歴史記念館の他に、観光になるところってあります?」

 と、夫が聞く。

「えぇっと、近くに湖があるのと、あと公園に大きな桜の木が生えてますね」


(桜の木か)

 季節的に時期ではないが、花見はさぞ綺麗であろう。行ってみたい気もする。葉があるだけでも良い。大きさというものも伺いたい。


 ただ、やはり歴史記念館以上の収穫はなさそうだ。さすがに忌まわしき風習については書いてないだろうが、あの殺された刑事が言うことも確認が取れる。話の流れで村長の身の上話など、いろいろ聞ければ大いに進展することであろう。


「浅霧さん」

「はい。行きましょう」


 夫婦に続いて仲居に歴史記念館の場所を聞くと、丁寧に教えてくれた。その足ですぐに向かう。

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