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リミット24――死が見える男――  作者: 瀬ヶ原悠馬
第二章 蝿、付きまとう。
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6.旅館

 会計の時に店主からもらった地図を使って、駐車場から五分くらい離れた場所の紅楽亭(こうらくてい)という旅館についた。建築したばかりなのか、光沢のある茶色の外観に横に広がった木造の平屋だった。


 玄関に入ると手前左右に下駄箱があり、一つ一つのケースに鍵がついていて、スリッパと交換するようになっている。当日予約はできたので、名前を伝える。


「九号室です。ごゆっくりどうぞ」

 と、鍵を渡される。

「あれ? 一個だけですか?」


 当然だ。付き合ってもない相手と一つの部屋で寝ることなんて考えられない。

「えぇ、そうだと聞いていますけど」


「同じ部屋で大丈夫です」

 と、浅霧がなにを考えてそう発言したのかはわからないが、付き合ってもいない相手と同じ部屋になってしまった。


 予約したことをキャンセルするわけにはいかないので、事はそのまま進む。浅霧はいつもとなんら変わらない。


 どうしてという理由が頭の中を交錯している中、スリッパに履き替えた浅霧は、すぐに階段隣――二階に上がる階段のすぐ足元、そこから伸びた通路へと歩を進めていた。


「どうかしました?」

「え? あぁ」

 同様にスリッパを用意してトボトボとその後をついていく。


 該当する部屋にたどり着いた。引き戸ではなく、しっかりとした扉の作りになっている。覗き穴の上に9号室と書いてあり、鍵を開けて浅霧が先に中に入る。


 広がる和室。玄関から一段上げられた先の空間には広々とした畳。部屋の奥には開けられたカーテンから覗く、中庭らしきものが見えている。


 どうやらここの中庭一体を部屋が囲んでいるらしい。間仕切りのような襖が中央に設けられており、少しばかり安心して足を踏み入れた。


 一方の浅霧は部屋の角に荷物をおいて、玄関右側にある洗面所を覗いていた。既に没頭しているらしい。


 扉が開きっぱなしなところを見るとトイレを覗いているのだろうが、その扉に向かっていることを前提に浅霧に声をかける。


「別々の部屋じゃなくていいんですか?」

 こういうのははっきり聞いた方が良い。どう思われようが、(くすぶ)っているよりかはずっとマシだろう。

「カップルと見られているのに、違う部屋というのは不自然じゃないですか?」


「まぁ、確かにそうですけど」

 先ほどデートとはなったが、二人で旅行してても別々に泊まるカップルもいそうではないだろうか、と思ったが、それはそれで変ではあるだろう。


 そもそもそこまでするなら、二人で旅行なんて行かない。そう考えると、先程の受付のことは非常に失言だったように思える。

「大丈夫です。なんとかなります」


 きっと顔に出てたに違いない。励ましてくれた浅霧は、トイレから出てきて眼前にいた。表情一つ変えずに左の肩の方へと過ぎていく。気がつけば浅霧を目で追っていた。


 部屋の奥にある自身で置いたキャリーケースから服を取り出して、押し入れにあるハンガーを使ってしまっていた。その姿を見て、帆野自身も別の押入れの中に皺にならないよう必要な数、ハンガーに掛けていく。


 一応、三日間くらいを目処に服を用意してきたのだが、これ以上かかった場合は服を購入するか、前に着た服を着る他ない。当然、服は洗濯できないのだから、出来るだけ早く解決したいものだ。


 貴重品は時計とスマホ、財布や自宅の鍵くらいしかないもので、殆どはズボンのポケットに収まる。この部屋の鍵を閉めなくても、盗まれても困るというものはない。


「歩いていていいですか?」

 突然話しかけられたので、驚いてしまった。気がつけば浅霧が隣に立っていた。

「この辺りですか?」


「はい」

「あれ? 聞かないんですか?」

「まぁ、聞きますけど、それよりもこの辺りを見たいんですよね」


 時間に余裕があるわけではない。悠長なこと言ってられはしないが、だからといってこのまま身構えるばかりでは疲れてしまうのも確かに頷ける。身の危険があることを除けば、だが。


「わかりました」

「一緒に周りましょう」

「いいんですか? 別行動で俺がそれとなく、とかいろいろ聞き出そうとか考えてたんですけど」


「まぁ、それはぶらぶらしてるときに聞けばいいですし、私がいれば殺されることはないでしょう」

「え?」

「避けられる、と言いましたよね?」

「まぁ、確かに」


 そのことをすっかり忘れていた。避ける人と避けない人の差がどうのこうのと考えていたようなことを朧げに思い出した。


 そうは言っても、これから人を殺そうと考えてる人間がはたして避けるだろうか。覚悟して突っ込んできそうなものだ。


「どこ行きますか?」

 部屋の奥に進んで窓越しに中庭を覗いてるらしく、そちらの元へと向かった。

「あそこです」


 と、指を指した方向の先には、中庭を覗けるオープンスペースが存在していた。池に生い茂った草や花等々。


 見るだけでとても癒やされそうな空間であり、夫婦らしき二人組が座って中庭を見ながら喋っていた。見回る気もなかったが、これには興味が惹かれる。

「いいですね。行きましょう」

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