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リミット24――死が見える男――  作者: 瀬ヶ原悠馬
第二章 蝿、付きまとう。
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5.決断

 昼食の会計を済ませて煌々と照らされるコンクリートに足を踏み出す。

「どうしたんですか?」

 やはり、浅霧も同様に態度が変だと感じたらしい。


「自分のが、見えちゃったんです」

「自分の?」

「例の、能力じゃないですけど」


 今まで驚きもしなかった浅霧の表情が狼狽の色を見せた。

「え? ほんと?」


 不可思議な現象にたいしてもなお信じる浅霧に疑いを向けられる。

「俺だって、信じたくないですよ」

「大丈夫。私だっています。二人で頑張りましょう」


 浅霧自身のことを訪ねてくると思ってはいたが、それは聞かないらしい。自分がもし相手の立場だったら、そんなことは言えもしない。


「落ち着きたいですか?」

 あまりの優しさに反射的に顔を見てしまった。特に微笑むわけでもなかったが、帆野の答えをじっと待っている。


「いいですか?」

「構いません」

「すみません」

「大丈夫です。車に戻りましょう」

 頷いて返事をし、同じ道を辿っていく。


    ・  ・  ・


 車内は柑橘系のいい香りがする。少しばかり心が癒されていくのを実感するが、自分が死ぬという事実はなにも代わりはない。


「一応聞いておきます。調べるか調べないか、まず決めてください。私はどちらを選んでも尊重します。曖昧な気持ちでいても、私も助けられませんから」


(そりゃ、そうだよな)

 むしろ、はっきり言ってくれたことが頼もしい限り。

「ありがとうございます」


 言葉では言い表せほどの恐怖が、確かに心に居座っている。しかし、だからと言ってここで引き下がって、果たして後悔なく生活できるだろうか。責任感と恐怖心が(せめ)ぎ合っている。


 そもそも、自身の耐えられる限度をすでに度を越している。ここで引き下がると考えた時、早海のことが頭をよぎった。死神との一件がある以上、自身の手でしっかりと一子報いたい。せめて魂を取られてしまったその後悔を振り払いたい。


 帆野自身の恐怖より、早海の方がより怖かったはずだ。毎日背後を気にして夜中(やちゅう)を歩く。そんなに恐ろしいことはない。他人などその場で助けてくれる保証もなく、心細かったはずだ。


 近くにいたのになにもできなかった。今ごろ人生や帆野のことなど、いろんなものを責めているかもしれない。


 であるなら、この件に関してはいろんな意味でも降りてはいけない。たとえ、それが立場上警察に任せる事案であって、自分がやってやるという気持ちが傲慢であったとしても。


「やります。降りるわけにはいきません」

「わかりました。なにか見てないんですか?」

「えっと、絞殺でした」

「大したことでなくてもいいんで、他にありませんか?」


 殺される瞬間をひねり出す。

(そういえば)

 なにかを思い出したわけではないが、改めて言われたら気になったことがあった。首を絞めるのであれば、紐や手という選択肢である。


 背景は見えないとは言ったものの、その周辺であるならば見えたはずだ。直接の死因がそれであるならば余計にそうだ。嫌な気持ちより勝る挑戦的な感情、そんなエネルギーが涌き出てくる。


 その視点で思い返すと、ひものようなもので縛られたのではなく、素手で首を絞められていることが分かった。そのように伝える。

「相当力がありそうですね。他にありますか?」

「人数はわかりません」


「両腕を二人で押さえて、一人が首を絞めるということも出来そうですね」

「はい。ただ、浅霧さんの姿が見えませんでした」

「一人にしなければ良さそうですね。他にはありますか?」


「えぇっと。あ、腕に(あざ)があります」

「どの辺ですか?」

「左手の、腕時計で隠れそうな部分。その部分に茶色いあざが」

「あざ。ありがとうございます。これで絞れましたね」


「こちらこそです、これで多少は」

 先程とは随分と気が楽になったが、やはり殺されることを考えると不安が増す。だが、これ以上は考えても仕方がない。


 どこから話を聞くか、考えることにしよう。

「誰から、話を聞きましょう」

「村長に聞きますか?」

「いきなり、ですか?」


「はい」

「聞いといてなんですけど、結構怪しまれませんかね」

「でも、そうなると誰にすればいいでしょうか」


「うーん」

 この村で亡くなったということは、葬式をあげるときに、住職に頼むだろうし、医者に診断してもらうだろう。


 あるいは、儀式をしてる最中に殺されたということは、その現場にいた全員がグルになっている可能性も高い。


 その旨を浅霧に伝えた。

「なるほど。そしたら、この村の人に、それとなく風習やらなにやらを聞きますか」

「そうですね。ただ、歩いてる人に声かけるっていうのは、ちょっとねぇ」

「旅館の人にでも、良いんじゃないですか?」

「なるほど、それ良いですね。仕事中にボソッと」


「お願いします」

 と、突然振られて面食らう。

「俺が話しかけるんですか?」

「私は苦手です。それに、避けられる件もありますから」


「そ、そうですね。わかりました。俺が聞きましょう」

「ありがとうございます」

(しかし、よくこれで今まで続けられたな)


 このハンデを抱えながらでは、一人で、というのはあまりに難しいだろう。帆野の前に、誰か一緒に行動していた人はいたのだろうか。


「わかりました。困ったときはフォローしてください」

「はい」

 話がまとまったので、旅館探しを再び始める。

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