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リミット24――死が見える男――  作者: 瀬ヶ原悠馬
第二章 蠅、付きまとう。
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2.依頼

 浅霧の後に続いて二階へと向かい、キッチン前のソファーへと向かう。浅霧とは向かい合うように座った。


 仕事上で使うためにインストールしたのか、塩染(しおぞめ)信吾(しんご)とフルネームが書かれていたので非常にわかりやすい。


 流石にこちらから乗車しているかどうかわからないので、電話がかかってくるのを待つ。スピーカー機能を使うため、予めスマホはテーブルの上に置いた。


 しばらくしてスマホの振動が訴えた。取られた受話器のマークを横にスライドさせる。

「もしもし? 聞こえてます?」

「聞こえてますよ」

「なにから話せばいいですか?」

 視線で浅霧に合図を送る。


「殺された相手からで、よろしくお願いします」

「殺したのは、霧神(きりがみ)村の人たちです」

「霧神村?」

 聞いたことがない名前だ。塩染に聞き返した。


「ええ。昔から死体が歩き回ると信仰されている、不思議な村です。どうも、当時の村長が農家を扱き使って食い物を巻き上げていたことが原因らしい。逆らったものは、散々な罰を与えられたそうです。


 そんな時、反乱が起きたようで。こうして村長が打たれて次の代になったわけですが、その村長の呪いが、死者を冒涜して皆殺しにしようとしたのがきっかけ。


 週の始まりで村長への祈り、週の終わりで感謝、そういった事を繰り返し墓の前で行っているんです。土葬でやっていたころは本当に歩き回ったそうで、今は火葬になってるんですけど、生きてる人間がなることも恐れているらしくて、未だ昔の儀式が続いていて。三十年に一回、赤子を手にかけなければなりません。それが今年だったんです」


「それって」

 恐ろしく根拠のない事で人一人の命が失われているということが、現代でも発生していることに困惑する。昔ならば真剣に悩んでいてもわからなくはないが、今や科学が発展してある程度はわかるはずだ。


 幾度となくあり得ない現象を体験してきたが、今回はあまりに度が過ぎている。


 恐らく、それを目撃してしまった塩染は止めに入った際に殺されたということだろう。映像作品でも呪われた風習などあるが、あれに匹敵するものと言える。


「なるほど、それで殺されたんですね」

 と、浅霧が言った。

「えぇ。その証拠を村の中から探してきてほしい、というのが俺からの依頼です」


 浅霧と目が合った。なんだか聞いているだけでぐったりとしてきて、ソファーに腰を預けてしまった。観光客を装って村に入るイメージは出来ても、やはりいろいろ詮索をしなければならない。もし勘ぐられたら、という不安が強まった。


「なにで殺された、とか覚えてますか?」

 今度は帆野が聞く。証拠を探すにしても闇雲にとはいかないので、その辺りの事を詳しく。

「刀、だったと思います」

「刀ですね。詳しい状況を」

「その儀式に使うんだろうと思うんですけど、その時刀でバッサリとやられた記憶があります」

 暗くて見えなかったが、当時の傷はそのままなのだろう。


「儀式の具体的な内容は伺えますか?」

「俺は途中から入ったので、はっきりとしたことは言えませんが。祭壇の中央に赤子。占い師の婆さんがその前にいて、その後ろに二人が正座して祈ってた。


 その周りを数人か十数人が松明を持って歩き回り、なにやら呪文めいたことを。刀を振り上げたところで、俺が入ったんです」


「なるほど」

 使う祭壇。呪文というからには、なにか本などが必要なのだろうか。それに拳銃を持っている相手を殺せると考えたら、集団で襲い掛かったと考えてもおかしくはない。

「そこで、銃を構えたんですね?」


「そうです。皆さんは手を止めたんですが、唯一婆さんだけが止まらなかったので、威嚇射撃を」

「それで止まったんですか?」

「止まりましたけど、まぁ罵詈雑言の嵐ですね」


「どんなこと言われたんですか?」

「馬鹿とか戯けとか、そんなんです。銃を構えながら迫ってその刀を取り上げようとした際、周りにいた人間から羽交い締めにされ」

「そのままグサリ、という感じで?」

「はい」


 祭壇に本。そして刀を探せばいいだろう。場所も気になるが、その場所には跡形もなく物もないだろう。しかし、一応聞いて損はないかとも思った。


「どんな場所だったか覚えてますか?」

「地下、洞窟? とにかく、暗いところなのは間違いありません」

「他にありますか?」


「すみません。覚えてるのはその儀式の最中くらいなんです」

「いえ。よく、そんなところ見つけましたね」

「ええ、まぁ。くまなく巡回してますから」


 巡回してて見つかるものだろうか。しかし、ここで聞いたところで答えてくれるとは考えにくい。

「ありがとうございます。ということは難しいですかね? 他の人の顔とか見れました?」

「いえ、はっきりとは言えませんし、人はそれなりにいますから」


 これは裏取り調査も含めて、原住民に聞くとしよう。

「わかりました。俺はおっけーです」

 浅霧に視線で訴えたが、首を横に振るだけの回答だった。これ以上聞きたいことはないようだ。


「ありがとうございます。断られたらどうしようかと思いました」

「化けて出ることになりますか?」

「まぁ、実際化けてはいましたからね。そこを拾われたわけですし」


「拾われた?」

「彷徨ってるときに声を掛けられて、その時に相談に乗ってもらったんです。気が付けば自分の体に戻ってました。まぁ、まるっきり体の感触はないですけどね。動いてるっていう自覚はありますけど」


「気が付けばっていうのは、視界が真っ暗になったとか」

「そんな感じです。その前に確か、触られたような気がするんですよ。暖かいって感じがして、しばらくしたら」

「なるほど。ありがとうございました」


 浅霧と以前に死神が使う能力を考えていたのだが、また新たなヒントといったところだろうか。恐らくは確定的になったに違いない。


「明日になってしまいますが、良いですか?」

 と、浅霧は続けた。

「良いですけど、ゾンビなんで日の光は遠慮してください」


「わかりました。太陽が出てるときは、傘とかさしてもらいましょう」

「ちょっとちょっと、紫外線だってコンクリート反射するの知ってますよね?」


 帆野が慌てて疑問を投げかけた。このままだとそれで話が進んでしまいそうだ。

「じゃあ、UVカットとか」

「頭とかぬるわけいかないでしょう。それ以外でなんとかなりません? どのみち日中で出ても目立ってしまいますから、どこかに隠れてもらわなければ」


「だとすると、見つかるまでトランクの中ですか?」

「うーん」

 ゾンビとは言え、死人をそんな扱い方をしたらまるでこちらが殺人者のようになってしまうのと、なにより雑に扱ったとして祟られないか心配だ。そんなことを気にして言葉を濁してしまった。


「祟らないですよ、流石に。トランクでお願いします」

「ほんとですか?」

「なんで助けてもらうのに恨まなきゃいけないんですか。心配し過ぎです」

「わかりました。何時ごろがよろしいでしょうか?」

「いつでもいいですよ」


 浅霧に視線を送ると、しばらくしてスマホの画面に目を戻し、代わりに浅霧が答えた。午前十時と決まる。


 そこで通話が終了した。ひと段落してソファーに腰を掛けるも、塩染の事が気になった。あのまま放っておいてもいいのだろうか。異臭は車から漏れるだろう。


 見つかっても、動けば誰もゾンビとは思うまい。風呂に入ってない警察官のコスプレをした変なホームレスと考えるかもしれないが、それはそれでなんだか非現実的な気がしていた。


「ある程度わかってきましたね」

 と、浅霧から声を掛けられる。現実に戻された。

「なにがですか?」

「死神のことです」

「あぁ、なんか引っかかってましたね。なんでしたっけ?」


「拾われたって言葉です」

「言ってましたね」

「今までのことを整理すると、もしかして”魂を集めてる”んじゃないでしょうか」

「え?」


「人の魂を抜いたり、それを戻したり。当然、魂を抜くだけで傷つけてないので、植物人間なわけです」

「なるほど。でも、なんでそんなこと?」


「まぁ、趣味じゃないでしょうか。ゲーム感覚で挑戦してる事ですし、ましてや能力が能力ですから。それに気が付く誰かかがいたら、嬉しくてたまらないんじゃないでしょうか」


 もしそうだとすると、あまりに不愉快すぎる動機ではある。そうなると、早海をなぜ返さなかったのかも説明が行く。


 特別と言っていたところを見ると、他の人間とは違う強い輝きのある魂ということだろうか。なににしてもふざけているとしか思えない。


「確かに。その可能性はありそうですね。じゃあ、元々霊能者とかそういうことですか?」

「まぁ、その可能性もなくはないですね。幽霊の援助や憑依、幽霊になれることが出来るってところを考えると、もしかしたら幽体離脱とかありそうだなとも思いまして」


「幽体離脱ねぇ」

「その時になれば、幽霊を見ることが出来る。自分が取ってない魂と話を聞いたりできるのも、納得が出来ます」


「確かに、本人が幽霊なわけですもんね。でも、やっぱり服が気になります。着る必要ないじゃないですか」


「隠す意味は、恐らく抜き取った魂の方にあるんじゃないでしょうか。想像してみてください。黒い影に見える死神に、重なるようにして別の存在が見えたとしたら」


 黒い影。嫌な炎上が絡んで影が薄くなっていたある説を思い出す。ある意味、植物人間を大量に出した時にストーカーがいるのといないのとで差があったのは、そういうことだったのかもしれない。


 服を着ていなかったから誰も見えなく、それまではストーカーの報告はなかったが、服を着たことによって視覚化され、ストーカーの相談をしている人間がいた。


 恐らく服を着る判断をしたのは、その時に霊感があった人物に出会い、その時に危機を感じて逃げて行った経験があるからだろう。


 それから霊感がある人物にたとえあったとしても、服は見えているのだから単なる人間として認識され、死神はそのストーカーだと思われる確率はぐんと下がるだろうし、同時に人間の仕業にでき、顔がなかったとしても大抵は”あり得ない”としてスルーされる。魂も隠すことができ、自分が殺される恐れを同時に回避できる。一石二鳥の騒ぎではない。


「なるほど。もろにわかってしまいますね。それに、除霊されたとしたら」

「そうですね。除霊できる人に出くわした場合、終わりですからね。本来の目的を達成できなくなってしまいます」


 これで死神と呼ばれた存在がはっきりとしてきた。普通であれば人の命を奪う神なのだろうが、相手にしているのはそれに比べて強くない悪霊といった類。


 生と死の狭間を行き来すると考えれば少々不気味だが、雲を掴むような、加えて人に脅威がある恐ろしい存在であったが、前者が無くなっただけでも少しは安心できるというものだ。

(よし、良い調子でこなすことが出来そうだ)


 一通り話し終わったので、今日はこれで解散した。

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