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リミット24――死が見える男――  作者: 瀬ヶ原悠馬
第二章 蠅、付きまとう。
24/70

1.話せるゾンビ

 あれから二週間が経つ。依頼料は失敗に終わったため、当然愛実からは支払われることはなく、今月の収入は零と言っても過言ではない。


 焦りを感じてバイトでもしようかと思ったが、粗里が雇ってくれるらしい。依頼がない時はこうして、barの手伝いをしている。現在、テーブルのアルコール消毒や食器類の片づけなど、諸々の店じまいの後片付けの最中である。


 思ったよりも相談事はあるようだが、予知ビデオのような内容ではない。この二週間であったのは、飼い猫探しだけだ。


 どうせなら能力を活かしたらどうだと提案されたが、日向彼方の件があったこともあり、あまり乗る気はしない。そうは言っても、見捨ててきたような罪悪感は嫌というほど味わってきていた。負担を天秤にかけた時に罪悪感の苦しみの方が大きく、日向の罪滅ぼしにもなると思い、半ば流されるように応じる。幸い、これまでに見た人間はいない。


 事故などは伝えようもないが、自殺や事件は”なにかお困りなことはありませんか?”と聞くことによって、ある程度話を繋げることは簡単だろう。浅霧も過去に”解決に活かしたら?”という粗里から提案があったそうだが、未だそれは解明している途中らしい。


 恐らく、すれ違っただけでは相手のことがよくわからないため、考えられないということではないだろうか。


(これは終わった、これもやったよな)

 一つ一つのテーブルや椅子を指さし確認する。今立っているところから一番奥——入口から入って左奥のテーブルがまだやっていなかったため、そちらに向かって同じように丁寧に拭いていく。


「ありがとう」

 粗里の声は、対角線上に位置する反対側の厨房から声が聞こえる。

「いえいえ」


 香奈は今、警察に捕まって聴取を受けているようで、順当な流れで判決が出るだろう。


 双子姉妹の事件後、早海だけが生き返らなかったことに両親は愕然としていた。数日しか経っていなくとも、周りとの差に触発されて”うちの子は死んだ”と落胆していた。


 事実は話せないため、帆野と浅霧でなんとか説得を試みて死亡判断を食い止めはしたが、その心は擦り切れているくらい察しが付く。


 このテーブルを終えて全ての掃除が終わる。カウンターにいる浅霧に声を掛けた。

「浅霧さん、そっちは?」

「終わりそうです」

(なら、手伝う必要もなさそうか)


「どうやら依頼のようですよ」

 そんな時、カウンター裏から鼻を摘む粗里が姿を見せた。嫌な予感がする。ホームレスやゴミ屋敷の人だろうか。


 浅霧と共に向かうが、先に外に出ていった。思わず手で鼻を覆う。臭いはすでに漂ってくるため、すぐにでも理解した。


 この臭いの正体は、以前に嗅いだことがある。死体の匂いだ。彷徨った蠅が一匹乱入していた。意を決して扉を開けると、外は裏路地。死体が横になって依頼者がいると思いきや、そこに五メートルほど間隔をあけた場所に、警察官の制服を着た男性が立っていた。


 蠅が周囲に飛んでいたり、人の腐った臭いがしていたりと散々な有り様だった。顔は具体的にはっきりしなかったが、ゾンビという認識を軽々と想像する。


 身の危険から部屋の中に入ったが、浅霧はまだ外にいる。扉の隙間が作って浅霧を中に入るよう促すも、一切見向きもしない。


「犯人を捕まえてほしい」

「知らないんですか?」

 浅霧が平常に応対してるため、慌てずにそのまま裏路地へと向かった。男と対面する。


「驚かせてしまって申し訳ない。警察官だから自分で捜査すればいいけど、こういう外見だからなにも出来ないんですよ。わかってほしい」


 ゾンビであるのに、随分と紳士的で口も頭もしっかりしているようだ。

「わかります」

「犯人はこの目で見ました。でも、死んだ人間の言うことなんか聞いてくれないでしょう? だから、あなた方の力を貸していただきたい」


「はい。話を聞きましょう。ちょっと待っててください」

「ありがとう。あぁ、なんかこれ言えって言われたから言うんですけど、死神からのプレゼント、だそうです」

 部屋に戻ろうとした足をあの言葉が制止させた。

「死神?」

 と、帆野が聞き返した。つい引っかかってしまった。


「そうです。俺を助けてくださった人。死神と名乗るのが少々違う気もしますが」

 どうやら感謝しているようだが、こちらからすれば因縁の相手。これはゲームということで考えていいだろう。姉妹のように一筋縄ではいかない依頼になりそうだ。


「少々お待ちください」

 再度言って部屋に戻った。

「さすがに浅霧さんの」

「嫌です」


 最後まで言い終わる前に否定が入った。相当な嫌悪感を抱いているようだが、なにも二階に上がってくれと言ってはいない。誤解をされたのではないかと思い、訂正しようとする。


「いや、上げられないからどうします? って言おうと思って」

「わかってます。ゾンビだから仕方ないにしても、上げるのは嫌です」

「当然、店も無理ですよ」

 粗里が言った。なおも口を動かし続ける。

「厨房なんてなおさら」


「まさか、俺の家に上げてくれって流れになってます?」

 不安がこぼれた言葉に粗里は強い否定を込めて首を振った。浅霧が口を開く。


「自分が嫌なことを人にさせるほど、情がないわけじゃないです。これじゃあまるで、私があの人のことを嫌ってるようであまりいい気持ちはしないですね。なんとかしてください」


「え? 俺に振られても」

 視線で訴えられたので、思わず答えてしまった。ほとんど受け答えしかしない浅霧が、珍しく率先して自身の感情を話している。


 否定的な反応をしたものの、口にしてくれたことに微笑ましくなって少しばかり頭を働かせることにした。とは言っても、帆野自身を含めて三人のあらゆる場所を使えない。


 臭いが移ることや腐敗が進んだ肌から零れ落ちる皮膚片や皮脂など付着するものと考えると、やはり抵抗感があるというものだ。


(廃墟かなんかあれば)

 しかし、そこが心霊スポットのようなものであれば、そこへゾンビを連れて行くという混沌とした状況になるだろう。


「あのー俺、車で来たんですよ」

 裏口から警官の声が聞こえた。

「通話しませんか? それなら誰にも聞かれずに済むでしょ?」


 盲点だった提案がなされる。帆野、浅霧、粗里三人で互いに視線を合わせた。

「またなにか困ったことがあれば、いつでも言ってください」


 粗里がそう言って、店内へと入っていく。

「ちょっと待ってくださいよ。誰に相談すればいいんです?」


 どうやら帆野や浅霧に伝えたことを、警官に向けていった言葉だと思って断られたと誤解しているらしい。帆野は慌ててそれを否定して、携帯番号を交換する旨を伝えて外へ出る。浅霧はいち早くにその場から立ち去った。


 口で息をすることを意識し、帆野のロードの友達登録をするためにスマホ画面を相手に見せた。

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