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リミット24――死が見える男――  作者: 瀬ヶ原悠馬
第一章 誰か、中にいる。
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16.5.録画映像と復元 後編

 約束した身としてはなんだか複雑な感情だ。殺したのが愛実だとすれば、自業自得だと悪意をぶつけてもいい。


 どうであれ、約束を守れなかった事実が心に重くのしかかる。そのせいで今の言葉に上手く答えることが出来ない。


 テーブルの方へと体を戻すと、デスクトップ近くにコップが置かれていた。

「ありがとうございます」


 そう吉田の背中に向かっていった。誰も答えないと思ったのか、吉田が振り返る。コップを持って「これ」と指を指すと、「いいよ」と返事を来た。


 粗里は吉田が座っている場所に向かうと、周りのゴミを黙って片付けていく。

(もしかして、定期的に片付けに来てるのか?)


 にしては部屋が綺麗だなと感じたが、今は関係がないので深掘りしないことにする。目の前の録画映像へと視線を向けて、作業を再び開始した。


 かれこれ一時間ぐらい経ったが、肝心の不審な様子は見当たらない。どれもコンビニやスーパーなど買い物の調達や仕事の移動ばかりだ。


「どうですか? 見つかりました?」

 と、浅霧に聞くと、否定的な言葉が返ってくる。見つかってないようだ。時間ばかりが気になってしまい、正面の窓の上にある壁時計が近くなる。


「出来た」

 そんな中、吉田が声を上げた。どうやら復元が出来たようなので、早速画面が見える位置に移動する。


 映像ファイルが一つ復元されていた。ダブルクリックして映像を見る。

 一度削除されたデータをどこまで復元できたかは不明だが、しっかり見える形で残っていてくれと期待を込めた。


 香奈の部屋と構造が似ているが、部屋は質素で片付けられている。このカメラの位置からだとベッドが映っており、丁度それの足元近くに洋服ダンスと扉に画鋲で固定されたカレンダーが見える。


 画面すぐ下の方に木製の板が見えるため、恐らく机の上に置かれているのだろう。画面左端にある部屋の扉が開かれた。パジャマ姿で乱れた髪の女性が入り、迷いや躊躇(ためら)いといった動作を見せずに首を絞める。


「いい加減にして!」

 この画角からだと、香奈の姿しか見えない。音声からして(うめ)くのは愛実だろう。止めるよう声を絞り出しているが、その説得も香奈には響いていない。


 香奈の手を放そうと両手を使うも、抗うことしかできないようだ。足を暴れさせ、揺さぶられる香奈の隙をついてベッドから二人は転げ落ちる。


 開放された愛実はそのまま部屋から出て行こうとするが、追いかけて腕で締め上げた。千鳥足のように足取りを歩に合わせて二人が動いていると、段々とビデオに近づいていく。


 次第にバランスを崩して、机の角に香奈の頭を強打した。赤く染まる角からずり落ちていく。轟く嗚咽を上げるが、画面から様子は把握できない。”姉さん”と呼ぶ声を拾う。


 やがて後頭部を抱えて香奈は立ち上がるが、襲われたのに関わらず介抱しようとしている愛実を手で払いのけ、そのまま部屋を後にした。茫然と立ち尽くす愛実は、膝から崩れ落ちて見えなくなった。


 その数秒後、断続的に続く重たいものが落ちる音。それが段々と遠ざかっていく。誰かが階段から転げ落ちたようだ。愛実は部屋の出入口へと視線を向けて、慌てて駆け出して行った。


「姉さん!」

 階段を駆け下りる。しかし、泣き声もなにも聞こえない。

 そこで動画が終了していた。


「ちょっと待ってください? これじゃあ、亡くなってるかどうかわからないじゃないですか」

 その前提でここまで進んできたのだから、当然気になってしまった。

「そうだとつじつま合いませんよね」

 と、粗里が答える。

「俺が見たのは、愛実さんで見たんですよ」

「なにが映ってたんですか?」


 と、現象の件で気にして自身の席に座ったまま監視カメラを見ていた浅霧が答えた。口で状況を説明する。

「映ってなくても、亡くなったと考えるしかないと思います。それ以外考えられません」

「で、でも」


「はっきりしなくてもしょうがないですよ。限界がそこなんですから」

 そういって浅霧は自身が使っているデスクトップに視線を戻した。

「僕はなにをすればいい?」

 と、吉田が答える。粗里と帆野が顔を見合わせ、粗里が口を開く。


「監視カメラを見る、かな」

「わかった」

 吉田の回答で帆野は自分の席に戻った。再生させようと三角マークにカーソルを持って行く。

「交代するよ」

 と、粗里が言うので視線を向けるが、どうやら吉田に言っているようだ。


「大丈夫」

「寝れてないんでしょ? いいから」

「って言ってもねぇ、今から飲むわけにもいかないし」

「横になって休むだけでもいいよ」


「わかった」

 吉田は席を外して交代した。

 時が過ぎてまた一時間後。ペースを上げて十倍速にして見ているが、二日前まで見つからない。二人も見つかってないようだ。


「やっぱ殺されてないんじゃないですか? しっかり二人いて、あの時に香奈さんが死んだ」

「帆野さんだって見たでしょ? 愛実さんが倒れたところ。あんな状態で愛実さんが助けに来ないなんて、それこそ考えられません」

「じゃあ、どこに隠したっていうんですか? 車で移動しない距離に隠したとでも? この近くに山なんてありませんよ」


「家の中とか?」

 と、粗里が言った。

「ま、まさか。それだったら俺らが臭いとかで気づいてますよ」

「腐食が進む前だったら、臭いがしてなくてもなにもおかしくない。二日だったかな」


「床下とか屋根裏とか? まさか、溺愛の末にクローゼットに隠したとかないですよね」

 背筋に寒気がしながら、嫌悪に感じることを自ら率先して言う。


「庭に埋めたってことも考えられそうですね」

 浅霧が言った。どれにせよ、自宅のどこかに隠したと考えるのが妥当だろうか。嫌な想像が帆野の頭を過る。死体を隠している中、あの家でなにも知らずに二人で泊まった。そう考えるだけでゾッとする。


「まだ時間はあります。もうちょっと調べてから、自宅にあるって仮説で行きますか」

 時間に余裕があるとはいえ、余った分を念のために目を通すということ自体、悠長なことをしていていいのかとも思ったが、粗里の結論に同意する。


 もちろん浅霧も例外ではない。こうしてもうしばらくの間、愛実の姿を探すことにした。

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