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リミット24――死が見える男――  作者: 瀬ヶ原悠馬
第一章 誰か、中にいる。
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16.録画映像と復元 前編

 ハッカーの家から徒歩十分ほどのコインパーキングに停車させた。午後三時前後なため、人がそれなりにいる。車の通りが多い中、歩道を歩くも浅霧の言っていた"避けられる"という奇妙な現象が身をもって体験した。


 こちらに視線を向けることなく、すれ違う時に避けるように建物側と道路側に行く。ほとんどといっても過言ではない。一部そばを通ってもなにもない人もいるため、全員ではないようだ。


 その中の一人、暗闇を見つめているような疲れ切った目をした女性の死が見える。どうやら自殺のようだ。首元に縄が見え、力の抜けた両足が見えた。


 避けない人間にはどんな特徴があるのだろう。病んだ人、人並みの警戒心がない人なのだろうか。

(じゃあ、なんで俺は大丈夫)

 結局、決定的な要因など今では思いつかなく、考えても仕方ないと思って思考を放棄した。


 当然だが、被害妄想と思えるほどの微弱なものではない。明らかにそれは起きている。慣れていないからこそ、なにもしていないのに関わらず、段々と罪悪感が生まれてきた。服装がいけないのか、それとも体臭が悪いのか。身の回りのことまでが気になってくる。


 しかし、そんなことも束の間、マンションの前にたどり着くとエレベーターまで向かう。矢印上のボタンを押し、物音もしない静かな動作をアナログで表示された階によって知らされた。


 待機している中で、階段からスニーカーのような床を擦る足音が耳に入る。そちらに目を遣ると、すでに女性が帆野たちに目を向けずにホールを歩いていた。近隣の住民だとは思わなかったのだろうか。


 エレベーターが到着したため、乗ってそのまま四階の三号室へと向かう。

 吉田(よしだ)と書かれたネームプレートがあり、その部屋のインターホンを押す。自身の現象に気を遣ってだろうか。浅霧は扉からやや離れた位置に立った。なんだかとてもやり切れないような複雑な感情になる。


 いつもこうして配慮しているのだろうか。理解も出来ない状態で避けられ、少なくとも不快な気持ちになった。


 扉がガチャっと開き、中から寝癖が治ってない眼鏡を掛けた無精ひげでパジャマ姿の吉田が出てくる。


「あ、電話で聞いた?」

「はい、粗里さんから」

「うん、中に入って。手伝ってくれるんでしょ?」

 浅霧に気を配って中に入る。間取りで言うと2LDKだろうか。一人暮らしにしては十分すぎるほどの広さだ。


 玄関からダイニングが見えるが、部屋は綺麗に整えられていて漂っている空気も心地よい。靴を脱いで、さっそくリビングへと案内された。


 リビングと打って変わって、主に生活しているであろう部屋の角に置かれた机の周りには、空のペットボトルやカップ麺の容器が散乱している。


 机の上に一台のデスクトップが置かれ、右側の足元に三台のマザーボード。裏側に通している配線は混雑している。残り二台のデスクトップは、一つのテーブルにキーボードとマウスが共に置かれていた。


 恐らく、元は共同して使っていた物を今回二人が来るということで、分割させて操作できるようにしたのだろう。

「そこに座って。映像はすでに用意してあるから」


 帆野と浅霧は座布団に座って、早速映像を確認する。

「それにしても、これだけ探すの大変だったんじゃないですか?」


 作業をしている最中、帆野が聞いた。

「まぁね。住所の周辺を片っ端から集めてね。後は、愛実さんが見つかれば良いんだけど、どれくらい前まで見ればいいか聞いてなかったから、さすがに一人は厳しくてね」

「いえいえ」


 ありがとうとは直接言われていないが、お礼と察して帆野は返した。しかし、本当に絞り込むことは出来ないのだろうか。このまま見続けてても倍速などをして見逃しでもしてしまったら、もう一度確認しなければならない。


 そう考えると定速で見るのが正確だが、そんなことをしては時間に間に合いそうもない。とりあえず見るだけ見て、やりながら考えよう。


 もし、自分が愛実だったら。未来の映像が撮られたことを見て、心配した翌日にでも相談するだろう。友人に相談すると言っていたから、恐らく空いても二日ばかり。


 そこまでの予想はできても、問題はこの先だ。香奈が亡くなってから呪いが掛かるまでの時間――つまり、未来に撮られた映像のデータが現れるまでの期間がどれくらいということだろう。


「あぁあああああ」

 思わず声を上げてしまう。

「どうしたの?」

 浅霧が声に心配を含ませる。考えていたことを言語化する。


「うーん、確かに難しいですね。”取り込んだのは、昨日の二十三時”と言ってたので、その予想は当たってると思います。確実に言えるのは、一昨日より前の映像ってことでしょうか」

「なら、愛実さんの家から一番近い監視カメラを見ようか」

 吉田はそう言った。探している間に頭を走らせる。


 死体を運ぶと考えると、当然ながら重い荷物になる。テレビでも見たことがあるが、旅行などに使われるキャリーバッグなどが一番定番だろうか。キャスターが付いていれば、非力そうな愛実でも運べるかもしれない。


「バッグを持っているときが注目ですね」

 と、浅霧が言う。

 次に車だ。あの家に車を停車させる場所はない。


(ってことは)

「この近くのコインパーキングって、浅霧さんが止めたところですよね」

「そうですね。あ、なるほど」

「名案だね。そこの監視カメラを探してみる」


「一応、他の場所もいいですか?」

 と、提案したところ、吉田は「入っているよ」とファイルの場所を指定してくれた。


 貝塚家近くのコインパーキングはすぐに分かったため、映像データが転送されてきたそれを浅霧と共に確認する。


 途方もないが、倍速をせずに目を凝らした。しかし、来る人は意外にも少ないため、倍速でもいいのではと思い始めて開始十数分で倍速にする。


 ふと浅霧の様子が気になり、一時停止させて画面を覗く。すると、帆野がやってる倍速以上に早くやっているため、少々心配になった。


 浅霧と画面を交互に目を遣るも、視線を一瞬だけ返しはしたが、作業はそのまま続けていた。自身の画面に戻して再生する。


 段々と胡坐(あぐら)も疲れてきた。適度な背伸びをしているとき、吉田が席を立って帆野の後ろを通る。足音が遠ざかっていくので、恐らくキッチンへと向かったのだろう。


 未だ映像には愛実の姿を映していない。その時、インターホンがこの部屋に鳴り響く。粗里だろうか。扉の方に体をひねると、吉田が対応に行った。


 予想は当たっている。扉を閉めて吉田はキッチンに行った。

「いやー、予想以上に簡単でしたよ。”近隣から争ってるって通報がありました”って言ったら、血相変えて”録画してあるんで捕まえてください”って」

 そういってSDカードを吉田に手渡した。


「よくバレませんでしたね。争ってるって言っても、普通その場で通報しません? 来るにしても遅いですよね」


 不安に思ったことを口にする。吉田はさっそく自身の横を通って行った。粗里は視線に答える。

「なんだか相当滅入ってるみたいですよ。なにがなんでもやり返したいじゃないですけど」

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