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リミット24――死が見える男――  作者: 瀬ヶ原悠馬
第一章 誰か、中にいる。
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7.進展

 中の部屋は入って右手にある扉、そして左手にあるスライド式の窓以外、丁度コの時のように壁に沿って本棚でなぞられていた。


 別の部屋にいけると思われる扉には、openと札が下げられていた。スライド式の窓ガラスを通して見える庭、そこから眩い光が差し込んでいる。部屋の中央辺りの場所に、テーブルと椅子。様子からして本を読む空間ということだろう。


 この部屋の空間や家の外観を見て、親がどこで働いている人なのかとは気になりはしたが、直接聞くまでの気持ちは起きない。


 読書は趣味の一つではあるため、溢れるほど羨ましい。テーブルにノートパソコンを置いて、座るために椅子に腰を掛けた。


 座ってみても、やはりこの光景はあまりにも心地が良い。エアコンが見当たらないのは気になりはしたが、右手扉近くにあるコンセントから延びる冷風機があるため、恐らくそれを頼りにしているのだろう。


 と、そこでふと、隣のopenと札が下げられた部屋が気になった。裏側にひっくり返すと、closeの文字が。当然といえば当然だが、誰かの仕事場かなにかなのだろうか。


 念のためにノックをしているかどうかを確認する。もし在宅していれば挨拶はするだろうから、返事がなかったのは想像に難くない。


 本棚を見て回りたいが、その気持ちは抑えてテーブルに戻り、送られてきたメール内部を見る。電話番号の並びからして固定電話だけらしい。流石にスマホとはいかないだろう。書いてある上から順に電話番号を打つ。


(えぇっと、なんて名乗ればいい? 初めてなのにこんなの任せるか? 普通。平然といろいろ質問出来たのがまずかったかなぁ)


 浅霧に聞こうと隣の部屋に行くが、退屈している割にはテレビの音声がはっきりした。無音の空気があまり好みではないのだろうか。

「浅霧さん」

 帆野を見遣り、テレビの音声を消した。


「どうしたの?」

「なんてかければいいのかと思って」

「うーん、ストーカーの相談を受けた探偵の者ですが、でいいんじゃないですか?」

「ありがとうございます」


(浅霧さんがやってくれないかな)

 ただ、丁寧に教えてくれたのは事実なので、礼を言う。あまりに見ない微笑みで返してくれた影響で、不満なことも遥か彼方へと消え去っていく。とりあえず椅子に座って一息ついた。


 被害者が子どもの場合は親が出るだろうが、植物状態になっているときに電話をかけ、もしストーカーの被害が受けていなかったとしたら。茶化したと捉えられてもおかしくない。しかし、迷っていても先に進まない。思い切って電話を掛ける。


——はい。

 女性が出た。母親だろうか。

——突然のお電話失礼いたします。浅霧探偵事務所の帆野と申します。

——探偵? どのようなご用件で。

——男にストーカーされているって件でお話を伺いたいなと。

——ストーカー? なんの話をしてるんですか?


——聞いていませんか?

——聞いていません。

 語句が強くなっており、どう思っているかはわからないが、どうやら癇に障ったようだ。

——間違いだったようです。申し訳ありません。

——いいえ。

——では。


 ため息が漏れる。

(なんか一気に疲れたなぁ)

 くよくよ考えても仕方がない。まだ一発目ではないか。


 一度深呼吸をするも心臓の高鳴りが緊張を伝えてくるが、くよくよしていると時だけが刻々と過ぎていくため、テンポを崩さず次の被害者宅へ電話する。


 結果、十人と連絡をしたが、ストーカーを目撃したという人が六人だけだった。この差があるのは謎だが、とりあえず連絡は出来たため、浅霧に報告しに行く。


「ありがとうございました」

「浅霧さんがやってもよかったんじゃないですか?」

「初めてなのに受け答えを率先してやってたから。ちょっとやらせてみたいなって思って」


「あぁ、やっぱり。依頼者に対しての質問ですか?」

「そうです」

「まぁ、あれは気になったから聞いただけで」


「普通緊張するものじゃない?」

「しないと言ったら噓にはなりますね」

「でしょ? それでも出来てたんだから、すごいなぁって思ってました」


「あ、ありがとうございます」

 一息ついたところで、テレビの画面が見える場所まで映る。ゾンビが出てくるホラー映画のようだ。


「良い趣味してますよ」

 と、浅霧が楽しげに言った。

「好きなんですか?」

「わりと好きですよ。帆野さんは?」


「率先して見たことはありませんね」

「嫌いでもなければ好きでもないって感じですか?」

「まぁ、そんなところです」

 丁度CMに入り、リモコンを手に持って次のシーンまでカットする。


「あれ、録画してたやつだったんですね」

「そうです」

 モヤッとしたことはあったが、これもまた口に出さず。一連の行動から見て、細かい気遣いはしない人なのだろう。


 少しばかりではあるが、進展はあった。ある程度考察してもいい。それよりも浅霧が事務所で撮った映像のことが気になった。


 車内では確認できなかったため、どうにも後味が悪い。再び隣の部屋へ。他の物には目もくれず、映像ファイルまでカーソルを持っていく。


(あれ)

 映像の更新日を見たが、『未来に撮られた映像』と同じ更新日になっている。更新された時間と近い時間に撮ったのではないか? と、考えはしたが、数秒の単位まで同じなのは不自然と言わざるを得ない。


 他に映像をとったときにそれが影響するかどうかはわからないが、このSDカードに存在する映像は全て更新されると考えてもいいだろう。すぐさま確認する。


 別枠で開かれた映像は真っ黒な画面を映し、反射してうっすらと帆野自身の顔が映る。一秒か二秒の待機後、事務所が映し出された。見えちゃったという帆野の発言からして言葉に変化はない。


 どんな恐怖映像が待ち受けているのかとドキドキしていたが、進めていっても幽霊など映る気配すら感じない。


 が、映像に黒い閃光のようなノイズが所々に入っている。目を凝らしてもう一度最初から再生するも、ノイズが入っているのみでそれ以上の変化はなかった。


 安堵の息が漏れる。ノイズなのであればまだ安心できるというもの。幽霊など映っていようものなら、さすがに身の毛がよだつところだった。幽霊が映っていなければなにも問題ない。


(ノイズなんて頻繁に起きるしな。うん)

 写真の時の手振れと同じだ。例えば、連写をしている中でスイッチを押す指を離す前にいいやと思い、腕を動かすのが少しばかりタイミングが早かった場合、多少の映像のブレれたり、残像のように取れたりする。


 映像のウィンドを消して、一息つく。顔を手で拭うと、帆野の視界に二つの映像ファイルが更新されているのが見えた。


「え?」

 つい一分前の事のようだ。十三時ぴったりの時刻である。部屋を飛び出すと、茫然とした表情で帆野を見遣る浅霧がいた。


「更新されてます」

 なんのリアクションもせずにテレビを止めた。パソコンの元へと急ぐ。ほどなくして、浅霧は左側に中腰でパソコンに目を向けている。

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