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リミット24――死が見える男――  作者: 瀬ヶ原悠馬
第一章 誰か、中にいる。
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6.姉妹のすれ違い

 ただ茫然と待っているというのは、これほどに苦痛だっただろうか。ほんの数分の間であっても、その時は何時間のようにも感じられた。


 隣のソファーでくつろぎ、テレビを見ている浅霧を見て、えさを目の前にして待たされた犬のような気分になった。涎だらけどころか、足まで震えていることだろう。


 汚くしなければいい、そう自分に言い聞かせて席を立つ。

 進んで正面に行くと、丁度リビング入り口から死角になっていたところが明らかになった。


 そこには、トロフィーの(たぐい)が棚に保存されていた。近くに愛実か香奈の写真、家族で撮った入学式の写真なども一緒に飾られている。


 下段から目を通していくと、小学生のころからすべてを残しているのだろうか、背表紙からでは詳細がわからない使ったノートやファイルなどが並べられていた。こうして順に目を通していた時、アルバムを発見する。


(そういえば双子って、必ずクラスが一緒にならないようにしてるんだっけ)

 そんな噂を耳にして、多少の申し訳なさを抱くも好奇心に勝てず、手に取ってしまった。小学生の頃のアルバムのようだ。


 先生の写真、そしてクラスの生徒の写真。六クラスもある、いわゆるマンモスと呼ばれる学年だったらしい。


 貝塚愛実の名前が一組にあった。そして、四組に香奈の名前。どうやら噂は本当だったらしい。

(確か、自由ページがあったような)


 帆野の卒業アルバムには自由ページがあり、友人からのメッセージなどを書ける場所が設けられていたが、他校にもあるのかと思い、最後のページまでペラペラとめくっていく。すると、しっかりスペースが設けられていた。


 ぎっしりとそこに書かれているわけではなく、三人しかいない。一人は「中学も一緒だからよろしくね」、もう一人は「別の学校に行っちゃうけど、ずっと友達だよ。メールアドレス書いとくね」、「同窓会で会おうね」と。

(すげぇな。携帯持ってるのか。俺なんて高校生の時に貰ったぞ)


 貧乏というよりかはむしろ、親がしっかり貯めていてくれた家庭だったのだが、家が遠くなかったためにスマホの需要がわからず、帆野自身から拒んでいた。親としてはなにかあったら連絡が出来るようにと心配だったようだ。


 好奇心を満たせたので棚に戻す。その時、隣にもう一冊同じアルバムがあることに気付く。双子なのだから、二人分のアルバムといったところだろう。どっちがどっちかはわからないが、もう一つの方を手に取って自由ページを開く。


 先ほどのアルバムとは違って、数がざっと見て十数人にも上る。人気者のようだ。不思議と愛実の名前も書いてあり、そこから察するに姉である香奈のアルバムだろう。


 あの対応から見ると愛実の方が人気ありそうとイメージを抱くが、実際のところは逆のようだ。一つ一つ見るにしても時間がかかるため、愛実の文章を見つけた。読む前に他の人をざっと目を通すと、総じて「一年間ありがとう」というメッセージ。


 一方の愛実は——小学生の時からずっと一緒だったけど、いつもと変わらず憧れのかっこいいお姉ちゃん。来年もよろしくね。


(あぁ、なんだかわかる気がする)

 これを毎回実の妹に言われていると考えると、反ってその眼差しが重圧になりそうだ。概ね、人気がないのは姉に対する思いが強すぎることだろうか。姉と間違えられた時の愛実はどう反応するのだろう。


 確かに、事務所に来たときも強烈なリスペクトを感じた。もっと言うのであれば、不名誉なことから必死に庇っている、と言ってもいいだろうか。


 そのような、太陽と言わんばかりの強い眼差しを受けた。これ以上の詮索をしなくてもいいだろうと思い、棚に戻す。


(中々に複雑かもな)

 どんよりとした気持ちの中、目立っていたトロフィーが気になって目線を上げた。主に陸上競技のトロフィーだが、名前を確認すると香奈の文字が刻まれていた。

(愛実さんはなにもしなかったのか? 憧れていただけで)


「はぁ」

「どうしたんですか?」

 驚いて、反射的に振り返る。

「いつからいたんですか?」

「ついさっき。いいのやってないなぁって思って」


 腕時計に見遣る。あれからこれ数十分くらい経っていた。

「この時間ですからね。なんとなく、こっち側が気になって棚を見てみると、アルバムやらトロフィーやらがありまして」

 先ほどの読んだものを説明する。

「ふーん、仲悪かったんだ」


 浅霧の視線の先から察するに棚を見ているようだが、手に取ったのはアルバムかと思いきや文集だった。

「愛実さんってどこ?」

「クラスですか?」


「はい」

「えぇっと」

 双子が別のクラスになるかどうかという命題にしか興味がなかったために、そういえばと思った。卒業する時には必ず文集は書かされる。


 アルバムでもう一度確認できたため、何組かを教えた。一応、香奈の作文も見るのだろうと察して、香奈のクラスも記憶する。

「ありがとうございます」

 見開きのページを寝かせていたために、帆野にも見えるような位置にしてくれたのかと察して、読み進める。


「読み終わったら教えてください」

「はい」

 中身は——やはりと思った。香奈のことに関する憧れと称賛の文章。これでは、なんだかオタクというか信者というか。その単語が一番適しているだろう。成長してから読み返したとしたら、どんな気持ちになるのだろうか。


 恐らく、人生最大の黒歴史に匹敵するほどのもので、燃やさずにはいれられないだろう。そもそも、他人の目を気にして書くことすらかなわない。


 読み終わったことを伝え、香奈の文集を探す。浅霧の方が早く読み終わっていたようだ。


 一方の香奈は、学校や友人との思い出。そこから学べたことを将来に生かしたい、という悪く言えば中高生が書きそうな、良く言えば小学生にしては大人びた、卒業文集に相応しい内容。


 あの姉にしてこの妹はと、いくらか比べられたのではないか、とまで邪推してしまう。書くのであればこんな文章を書いてみたい。


 スマホの振動音が聞こえる。ひょっとしてと思って自身のポケットも探ってみたが、浅霧から文集を渡されるところを見ると浅霧のスマホのようだ。


 画面を見ては悪いと思い、視線を文集へと向ける。帆野は読み終わっていたが、浅霧の確認は取れていない。


 どうしようかと迷って浅霧の横顔を見つめる最中、画面を消してポケットに戻した。好意的な視線か、あるいは電話の内容に興味があって聞く耳を立てていると勘違いされたのかと思い、焦って背中を向けてしまう。


「帆野さん」

「すみません、読み終わったのかと確認しようと思って」

「ん? あぁ、読み終わりましたよ。それより、被害者の電話番号がわかったようです」


 ノートパソコンの方に送られたらしく、どうもスマホと連携しているらしい。ファイルデータはスマホでは確認できないため、浅霧からパソコンを借りて電話してとお願いされた。


 いきなりの大仕事で即答することはできなかったが、結局断ることも出来なかった。ひとまずテーブルに向かうと、当の本人はリビング入り口から見える、テレビの隣にある部屋へと足を踏み出していた。


「こっちの部屋、いいかもしれません」

 パソコンの電源を入れた後、背後から浅霧の声が聞こえた。そちらに目を向けると、扉から顔を覗かせている。


「え?」

「車に戻らなくても大丈夫だと思いますよ」

(電話のことか? その部屋なら、聞かれる心配はないかもって感じか)

 ノートパソコンを持って、お邪魔しますという気持ちを持って入る。

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