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ユイさんは経験豊富な女性

「カトリーナはあなたが思っているほどちんちくりんなんかじゃないですよ。ほら、その証拠にこんなに可愛らしいじゃないですか」

 ユイさんは私の後ろに回り込んできたのだが、何事だろうと思って私が振り返ろうとするよりも先に後ろから私の胸を持ち上げるように手を添えてきた。

「ほら、見てください。私がカトリーナの胸を持ち上げようとしても全然その形がわからないじゃないですか。こうして胸に触っている私ですら気付かないほどの膨らみしかないんですよ。こんなに慎ましい女性に対してちんちくりんとは失礼じゃないですか。古来より日本では慎ましくしている女性が美しいとされてきたのですよ。こんなに慎ましくお淑やかな胸をしているカトリーナこそ真の大和撫子と言えるのではないでしょうか」

 私は胸を触られた驚きよりもあったのだが、ユイさんが言っている事に対してなぜか無性に腹立たしく思って殴ってやろうかと思っていた。だが、私の力ではユイさんに抵抗することも出来ず、口で反論するしかなかったのだ。

「ちょっとやめてよ。私の胸を触らないでよ。それに、日本とか大和撫子とかこの国で一番可愛いとか意味不明なこと言わないでよ。日本とか大和撫子とかっていったい何なのよ」

「この国で一番可愛いとは言ってないですよ。思ってはいるけど、それは言ってないです。えっと、日本というのは私が以前いた世界にある国の事で、この世界よりも文明的にも文化的にも発展していたと思いますよ。ただ、こっちの世界とは違って魔法とかの概念が無かったのでこちらの世界の方が済みやすいと言えなくも無いですね。ですが、食に関してはこちらの世界に慣れてきたと言っても大きな差があると思いますよ。そもそも、こちらの世界ではまだまだ安定して食糧を供給する体制が取れていないというのもあるのですが、こちらの世界の食糧供給が安定したとしても食文化という点では日本の方が何段階も先へ進んでいると思います」

「そういう事聞いてるんじゃないんだけど。それに、私が抵抗出来ないからっていつまでも胸を揉むのはやめてよね」

「あと、大和撫子についてなんですが」

「それももういい」

 私は全身の力を込めて抵抗したのだが、もちろん私の力程度ではユイさんに抵抗なんて出来ないのだ。そんな事は分かっているけれど、このまま好き放題にされるつもりなんて無いのだ。

「あ、すいません。カトリーナの事を悪く言われてついムキになって反論してしまいました。コトハさんもカトリーナの良さに気付いてくれたと思うので、これからは二人で仲良くするんですよ」

「ちょっと、私の胸から手を離しなさいよ」

 誰よりも強くて美しいユイさんがここまで私に執着する理由がわからない。そりゃ、私もこの世界では上位に入るくらいの可愛らしさだとは思うのだけれど、ここまで盲目的に好かれるものなのかと聞かれると答えに詰まってしまう。ただ、いつだったかユイさんが言っていた私には他の人に無い特別な能力があるという言葉が耳に残っていた。

「あの、ユイお姉さまのその説明だとそのお姫様がちんちくりんではないという事の反論にはなっていないと思うのですが。私はそのお姫様の見た目に対してちんちくりんだと言っているわけでして、胸が小さいのはそのちんちくりんを否定するというよりも肯定する言葉のようにも思えるんですが」

「確かに、コトハの言う通りですね。カトリーナは世間的にはちんちくりんなお姫様という評価に落ち着いてしまうかもしれませんね。ですが、安心してください。世界中の誰もがカトリーナの事をちんちくりんだと思っても私はそう思ってないですからね。何せ、年齢の割には未発達すぎるその体を見た色欲大魔王がちょっと引いたくらいですし、コトハがそんな感想を持ったとしても何の不思議もないのですからね」

「そういう事は大きな声で言うんじゃないわよ」

 私はユイさんの言葉を遮ろうとしてその辺にあった木の棒で殴ろうと思ったのだが、私が思っていたよりも木の棒が重かったので持ち上げる事すら出来ずにいた。それを冷ややかな目で見ていたコトハは小さくため息をついていたのだが、なぜかユイさんは私のもとへ近付いてきて私の代わりに木の棒を持ち上げていた。いや、持ち上げていたのは木の棒ではなくとても長い丸太であったのだ。

「カトリーナにこれを持つのは無理ですよ。何に使いたいのかわからないですが、力のないカトリーナにはこれを持つのは不可能ですよ。これをどうしようとしたのですか?」

「どうしようとしたかって聞かれたから言うけど、これでユイさんを叩いて止めようとしたのよ。ただの木の棒だと思ったら丸太だったんで驚いただけよ」

「そうだったんですね。ですが、さすがに私でもこれで自分を叩くことなんて出いないですよ。そこまで腕も長くないですからね」

「いやいやいや、そういう問題じゃないでしょ。なんでユイお姉さまはそれを持てるんですか?」

「なんでって、これくらいの太さだったら大丈夫でしょ。さすがにあそこにある岩だったら片手では無理ですけど、これくらいの丸太だったら武器のない時にそのままだったりちょっと加工して使ったりもしますよ」

 ユイさんは私がどうしてもこの丸太を使おうとしていたのではないという事を知ってゆっくりと丸太を置いていた。その丸太の一部を切り取って謎の魔法を使って木材に加工してしまったのだが、そんな事をして怒られないのだろうか。

 案の定、その丸太を使おうとしていた人がいたようで何か遠くで話し込んでいるのが見えたのだが、その内容まではわからなかった。その人達の代表者らしき人がユイさんに話しかけてきていたのだが、この村で行われるアイドルイベントの会場設営をお願いされているようだった。

「私の一存では決められないのでカトリーナに許可を頂いてもよろしいですか?」

 全員の視線が集中しているのだが、こんな状況で断ることなんて出来るのだろうか。そもそも、この村にやってきたのはアイドルイベントを見に来たからなのだし、その手伝いをしてより良いモノが見れるんだったらイイのではないかと思う。

「ユイさんが手伝うってのは良いと思いますよ。私は何も出来ないですけど、ユイさんが皆さんの役に立てるんだったら嬉しいですし」

「ありがとうございます。これで何とか来月の開催に向けて余裕も出来そうです」

「え、来月?」

「そうですよ。来月のイベントに向けて手伝いに来ようっていうのが今回の目的ですからね」

 私はこれからアイドルイベントが行われるのだと思っていたのだけれど、それはただの勘違いだったようだ。そう言えば、今日行われるなんて言っていなかったよな。なんて納得できるわけがないのだ。

「あと、さりげなく私の胸を揉むのをやめなさいよ」

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