消えない過去
天否は今とんでもない状況に追い込まれていた...しかし天否は感情を抑制しているため平然としていた。
「ち、近いですよ…先輩…」
「しっ、天使は音の波形を感知できる奴もいるから、喋らないに越したことはないよ」
「いや、でもっ…こんな…密着して…」
「我慢して、最上位の天使には感情を感知できる奴もいるらしいから」
「いや、逆になんで先輩は平然としていられてるんですか? こんな…狭いロッカーに異性と2人で入ってるんですよ?!」
そう、いま天否は天使から身を潜めるためにロッカーの中に年下の異性と共に隠れている。
話は今日の朝にさかのぼる...
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白姫用の布団を買ったので、天否は自分のベットで寝て、
白姫にはリビングに布団を敷いて寝てもらった。しかしここで新しい問題が生まれた。
「白姫って寝起き悪いのかな?」
白姫が起きる気配が一向にしない。揺らして起こそうとしたが、変な勘違いをされると困るので他に案がないかを朝食を作りながら考えていた。
するとポケットに入れていたスマホが鳴り、画面には師匠と書かれていた。
「もしもし、何かようですか?」
「昨日の件で話したいことができてな、わかってるでしょ?」
「…指輪の件ですね」
「そういうこと、私が見て上げるから今日も会いに来てくれる?」
「まあ、暇ですし」
「それじゃあ10時に来てね。白姫ちゃんもつれてきてね」
「わかった」
そして電話を切って、眼を閉じている白姫に近づいた
「ということだから早く起きて」
「なんでバレたの?」
「耳を澄ませてたでしょ、仕草でわかった」
「凄い観察眼だね。とりあえず着替えるから部屋借りるね」
そして、白姫は着替えを持って俺の部屋に入って、俺は朝食作りに戻った。
天否は個人で活動し始めてからは対天使局に行くことはなくなり、定期的にリンナに方向をする程度だった。こうして2日連続で対天使局に来たのは久しぶりのことだった。
「相変わらず、視線を感じる」
「慣れれば視線を感知できるようになれる」
「それって役に立つの?」
「いや?」
そんな他愛のない無駄話をしながら天否たちは局長室に向かった...。しかし局長室には「訓練室に来てね」と書かれた紙が置かれていて、天否の案内で訓練室に向かった。
訓練室とは、対天使局の地下に作られた巨大な訓練施設であり、端的に言えばめちゃくちゃデカくて、めちゃくちゃ頑丈な箱である
訓練室にはいつも通りの黒スーツを着たリンナが天使による被害に関する書類に目を通していた
「やっほー、二人とも」
「こんにちは。早速ですけどなんで私も呼ばれたんですか? 今日って天否の力の確認なんですよね」
「それは建前で本音は白姫ちゃんと話がしたかったからだよ」
「え?」
「そんな気はしてた。さっさと建前を終わらせよう」
「そだね、時間は有限だし。」
次の瞬間、リンナは目にも止まらぬ速さで拳銃を放った。その速さは白姫ですら捉えることはできなかった。しかし、天否は顔色一つ変えずに銃弾をかわした。
「一時的だろうけど本来の演算能力を取り戻しているみたいだね。一時的だけだろうけど」
「なんで二回言ったの? 一時的だけど」
そんな二人の会話を横目に一人、状況を理解できていない天使が一人いたが、リンナはそんなこと気にせず天否に銃を向ける。
「試してみようかな」
「いいんじゃない、何しようとしてるか知らないけど」
そう言って躊躇なく引き金を引いた...しかし天否は放たれた銃弾を中指と薬指で挟んだ
「久しぶりだけど腕は鈍ってないかな」
「久しぶりの超人天否だ、懐かしい」
「え? ha?」
「白姫、天使訛り出てる」
「まあ、普通驚くよね。訛りが出ちゃうのも仕方ないよ」
リンナは白姫の肩に手をやりながら、拳銃を懐にしまった
「最後に指輪を出してみてくれる? 一つでいいよ」
「わかった」
そう言って天否は腕を前に突き出した、そして中指に青い光が纏わりつき、徐々に指輪の形に変化した
「これでいい?」
「うんうん、でもちょっといい?」
すると、リンナが天否の指輪に触れて目をつぶった...
数十秒後、リンナは手を放し「もういいよ」と言って指を離した
「…? おしまい? なら帰るけど」
「うん、ありがとう。また会いに来てね」
そして、天否はその部屋を立ち去ろうとして白姫もそれについて行こうとしたが、リンナに手を捕まれた
「白姫ちゃんは、まだダメだよ。まだ全然話せてないし」
「そう…ですか。」
白姫は助けを求めるように天否に眼を向けたが、天否は「がんば」と言って、白姫には見向きもせずに帰っていった
「それじゃあ白姫ちゃん、会話でもしよう」
リンナさんは銃を取り出す。それを見て白姫はため息を吐いてから弓を生み出した
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対天使局からの帰り道、天否は近くの公園の時計を見て、まだ午前中ということに気がついた。さすがにこのまま帰ったらやることがなくなると思い、気まぐれに近くのショッピングモールに立ち寄った
ショッピングモールは休日ということでかなり賑わっていた。子供をつれている家族、女子高生のグループ、デート中の恋人などを横目に、天否は一直線で本屋に向かった
「新刊は…あった」
天否は好きなラノベの新刊を手に取ろうとした時、同じようにその本を買おうとした人の指に触れてしまった
「あ、すみませ…あれ? ルミ」
そこには、白よりのピンクのワンサイドアップの髪をした、少女の姿をした天使であるルミが立っていた。しかし今日はゴスロリ系の服ではなくミニスカでワイシャツにカーディガンを羽織ったシンプルな私服を着ていた
「あれれ? 天否じゃん。天否もこのラノベ好きなの?」
「ああ、この人の作品を読んでライトノベルが好きになったんだ」
「なんで私を見ても全く焦ってないの?」
「驚いたけど焦るようなことではないと思うけど。戦場ならまだしも、本屋で知り合いに会ったってだけ」
「そっか~、白姫が居たら面白いことになってんだろうけどな~。白姫は?」
「今は師匠みたいな人と一緒にいる。リンナって言ったらわかるよね?」
「あぁ~あの人か~。あの人とはあまり遊びたくないかな~。強すぎるんだもん」
「やっぱり天使たちからも人気なんだな、リンナさんって」
「そりゃあ、私達にとってのラスボスだからね。間違いなく「最強の天使殺し」だもん。私と槍君の2人だけじゃ防戦一方になっちゃうよ」
「へえ、やっぱりそうなんだ」
そんな話をしながら、天否はラノベを2冊手に取り1冊をルミに渡した。ルミは「サンキュー」と言ってラノベを受け取り一緒に会計に向かった
「そのラノベ買ってあげる。この前見逃してくれたお礼」
「あれは未来への投資だよ。でもありがとう、正直あまりお金がなくてね。助かるよ」
「ん」
俺は財布からお金を取り出してトレイに乗せた。店員はそれを受け取って手早く会計を済ませて天否に本を渡した。
「どこかで一緒に読む?」
「ごめんね~。槍君におやつ用意してもらってるから。さすがに君でも私の本拠地には入れられないかな~」
「そう? わかったそれじゃあ、また」
「うん! またね~、今度会ったときはもっと凄い殺し合いを楽しみにしているよ~」
そう言いながら、ルミはエスカレーターに乗って下に降りていった...。
天否はルミと別れてから適当にショッピングモール内の喫茶店に入り、ホットミルクを飲みながら買ったラノベを堪能していた。
(やっぱりホットミルクは美味しい、コーヒーは苦いから嫌いなんだよね)
そんなことを思いながらホットミルクを味わっていると天使の力の波長を感知した
(これも指輪を1つ解放した余韻なのかな。本来の探知機能を取り戻せたみたい)
天否は目を閉じて、さらに神経を研ぎ澄ませる...
(天力の数は…13、だけど…まずい、人混みに紛れてる。なるほど…)
天否は残りのホットミルクを口に流し込み、会計を済ませてその喫茶店を出た...
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対天使局の訓練室。白姫とリンナは会話の休憩をしていた...
「光希 真長?」
「そう、これが写真」
そう言ってリンナは白姫に1枚の写真を手渡す。その写真には銀色の髪をした少女が写っていた
「彼女が今年に入ってきた天使殺しの中で一番強かったんですよね?」
「ええ、そうなの。単純な強さだけじゃなくて頭も良いの。しかも彼女はまだ16歳、間違いなく天才と言っていいレベルの子ね」
「へぇー、16歳ってこの世界で若い方なんですか?」
「ええ、もちろん。さすがに天否程ではないけど。あの若さなら天使殺しになることすら難しいもの。けどやっぱりまだ実戦経験が少ないのが問題なのよね」
「まあ、それはこれから積んでいけばいいじゃないですか? それでなんで彼女の話を?」
それを聞いたリンナは少しだけ真面目な顔をした…
「実は彼女が天使殺しになった理由は…父親の死。そして、その父親を殺したのは…天否なのよ」
「え?」
白姫の思考が停止した。天否が大量の人を殺めてしまっていたのは知っていたが、はっきりと言われると、まだ受け入れきれなかった
「ああ、でも安心し…」
リンナが何かを言おうとした時にリンナのスマホが鳴った。リンナさんは「はぁ」とため息を吐いてから電話に出た
「もしもし…なるほどね。それで…え?」
盗み聞きは良くないと思い、我慢していたが。最後の「え?」を聞いて気になってしまった
「あの…どうしたんですか?」
「ああ、いや、いつも通り天使関連のテロが起きたのだが…その現場に居合わせた天使殺しが2人。その2人が…天否と真長らしいの…」
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白姫たちがテロに気づく少し前。天否はショッピングモール内に紛れている天使の気配を探り、地下の電力室に辿り着いた。そこで作業服の男が発電機に何かしているのを目撃した。天否は物陰に隠れ2人の行動をよく観察した
(姿は人だけど、気配が間違いなく天使だ…。照明を落とそうとしているのかな?)
そのあと作業を終えた作業服の天使たちは、耳元につけている小型の無線で誰かに連絡をしてどこかへ去っていった
天否は天使が去った事を確認した後に発電機を調べてみた。すると発電機によくわからない文字が書かれていた
「なんだろう?」
天否はその文字に触れてみる…
「なるほど…」
何かに気がついた天否は発電機に仕掛けを仕掛けてその場を去ろうとしたが、部屋を出る直前に上の階から悲鳴が聞こえた
「始まった…でもまあ、しばらくは隠密行動かな」
天否は慎重に飛びからか出た。そして、さっき聞こえた悲鳴の位置と記憶していたショッピングモールの内部を重ねて犯行場所を予測した
(犯行場所は中央広場。だけどさっきからずっと悲鳴が止まないのを考えると…出入り口はすべて塞がれてるかな)
すると前方から足音が聞こえ、とっさに近くの部屋の中に入った
「倒したらバレる可能性があるから、バレないに越したことはないかな」
そんな独り言を言ったら「同意件です」と返答が帰ってきた。辺りを見渡すと銀髪の少女が椅子に座って天否に拳銃を向けていた
「だれ?」
「いや、こっちの台詞ですよ。何者で何してるんですか?」
「君の同業者で天使の気配を辿ってた。今はその帰り道」
それを聞いたら銀髪の少女は拳銃をおろして天否に近づいた…
「私の名前は光希真長です。お察しの通り天使殺しですよ」
「光希? もしかして海根さんの...?」
「父を知っているんですか?!」
「うん…まあ、昔お世話になったことがあってね…。本当に…お世話になってたよ…」
天否はあの時の事を思い出して、少し感傷に浸ってしまった
「...あの、とりあえず「先輩」って呼びますけど。先輩の名前って...きゃっ?!」
次の瞬間、天否は真長の手を掴んで一緒にロッカーの中に隠れた。本来人が入れる用に設計されてないため2人の体はかなり密着していた
「あ、あの、先ぱ…」
「静かに、天使が入ってくる。バレないに越したことはないからね」
羞恥が真長の呼吸を荒くしたが、天否は顔色1つ変えずにロッカーの隙間から部屋を覗いていた
「ち、近いですよ…先輩…」
「しっ、天使は音の波形を感知できる奴もいるから、喋らないに越したことはないよ」
「いや、でもっ…こんな…密着して…」
「我慢して、最上位の天使には感情を感知できる奴もいるらしいから」
「いや、逆になんで先輩は平然としていられてるんですか? こんな…狭いロッカーに異性と2人で入ってるんですよ?!」
「いいから、静かに」
天否は真長の口を塞いで、自分の呼吸も止めた...
すると天否の予想通り、3人のライフルを持った男が入ってきた。3人は部屋を見渡すと、どこかに行ってしまった
足音が離れていくのを確認したら天否はロッカーから出た
「行ったみたい。もう出て大丈夫だよ」
「あっ…はい」
しかし、真長は呆気に取られており、ロッカーから出ようとしなかった。そこで天否は真長に近づいて手を差しのべた。真長がそれを掴んだら手を引っ張ってロッカーから出した
「ごめんなさい。私、今年天使殺しになったばっかりで、こういう経験がなくて…」
「なら仕方ない。とりあえず情報の共有をしよう」
「了解です。それと対天使局にはすでに連絡しておきました」
「わかった。それじゃあ被害情報だけど、俺はまったくわからない。天使の気配を感じてからずっと地下に隠れてたから。真長はどう?」
「私もあまりわからないですね。でもまあ、今から調べてみることにします」
そう言って、真長はスマホと同じくらいの大きさの板を取り出して、自分の手を当てた。するとその板が形を変えてパソコンに変形した
「へぇ、それが君の武器?」
「まあ、そうとも言えますね。私、トラッパーなので」
そう言いながら真長はショッピングモールの防犯システムにハッキングをして防犯カメラを覗き、被害情報を確認する
「これは…」
防犯カメラにはショッピングモールの客や従業員たちが倒れており、数人がその人たちを中央広場にまとめていた
「これ、何してるんですかね?」
「「生け贄式」の天域を作ろうとしているんだろうね。繭を作る部分は中央広場、質を量で誤魔化そうとしているっぽい」
「生け贄式?」
「天域の繭は本来、天使が自分の天力を使って生み出す。生け贄式はそれを人の生命力で代用するやり方」
「聞いたことなかったです。でも、なんで生け贄式の天域を展開するためだけに、こんな大掛かりでバレやすい方法を取ったんですかね?」
「「舐められてる」か「自信がある」のどちらかだと思うよ。となると相手は少なくとも上級クラスかそれ以上を覚悟していた方がいい」
「安心してくださいね。私、これでも優秀ですので!」
「そうなんだ。なら、まずは上手く上に戻ろうかな。そうしないと何も始まらないから」
「了解です。それではバレないにように、防犯カメラで敵の位置を確認しながら動くとしましょう」
すると、真長の使っていたパソコンが、再度姿を変えてスマホの形に変化した
「それじゃあ、出発しましょうか」
「了解」
(空気の振動で敵の位置は把握できるから、防犯カメラは必要ないけど。水を差したくないから黙っていることにしよう)
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連絡を受けたリンナと白姫はショッピングモールにやってきていた。周囲は警察や自衛隊が包囲しているが、もちろん全員リンナの差し金であった
とりあえずリンナは近くの天使殺しに状況を聞いた
「被害情報は?」
「はっ! ショッピングモール内には客が取り残されており、内側の情報は不明です」
「わかった、ありがとうね」
情報を把握したら白姫の手を掴んで、現場から離れたビルの屋上に連れていった
「リンナさん、いったい何を?」
「人の体温がショッピングモール内の1ヶ所に集まっていて、動く気配はなし。内側から天使の気配がするのを考慮すると…生け贄式だろうね」
「生け贄式…ですか。確かに状況から察するに間違いないでしょうけど。あんな効率の悪い上にリスクも高い事をしますかね」
「そこで、白姫ちゃんに質問なんだけど。こんな効率悪くてリスクも高い事をやろうとする物好きな天使に心当たりは?」
「ん~…正直、最上位の天使には、こんなことをやりそうな物好きが多いいので、わからないですね」
「そっか~」
「ああ、でも、最上位の天使であるのは確定だと思いますよ。生け贄式は最上位天使にしか使えないですから」
「ふむふむ、なるほど~。貴重な情報をありがとね」
「それで、これからどうします? このまま上空から突入しますか? 生け贄式を使うのだとしたら、取り残されている人達にも手出しはしないはずですし」
「ううん、ここは我慢だよ」
「我慢?」
「うん、だって退路は塞いでおかないとね」
「そうですか。まあそこは任せます。…ん?」
その時、白姫の脳に天否の声が直接語りかけてきた…
(あっ、天否、無事? あ~うん、私達の世界ではこの技術は結構使われてたから。…今はリンナさんと一緒…まあリンナさんなら1人でも問題ないと思うけど…了解わかった)
「白姫ちゃん? どうしたの?」
「ああ、いえ。急用ができたので失礼しますね」
「ああ、そう? なら…天否によろしくね」
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「びっくりするぐらい順直ですね。何か起きるんじゃなかと不安になります」
「なに言ってるの。事はすでに起こってるよ」
そんなことを話し合いながら、2人は天使が放った探知ドローンから隠れるために近くの服屋に隠れていた
「どうします、もう中央広場も目視できますし。私の天術で作った罠を道中に仕掛けてますので、始められますけど」
しかし返答は返ってこず、天否の方を向いてみたら、天否は目を閉じてうつむいていた
「おーい、せんぱーい?」
「ん、なに?」
真長が心配で、頭を触ろうとした瞬間に天否は目を覚まし。真長は声をあげようとしたが必死にこらえた
「な、なにしてたんですか?」
「ちょっとした頼みごとを…。とりあえず民間人の救出を最優先に逃げ腰で動く。問題ないよね」
「あっ、はい。民間人は気を失っていますので、そこは私の天術で運びます。先輩は殿をお願いしますね」
「わかった…」
2人は店から出て、中央広場に目を向ける。そこには銃を持った天使たちが4人。2階と3階にも2人、天使が構えていた
「閃光手榴弾が開始の合図です。先輩も食らわないように気をつけてくださいね。それでは」
そう言って、真長は足音を殺しながら1階に降りて行った。
(閃光手榴弾が投げられたら、2階と3階の天使を手早く殺し。民間人を運ぶ真長を守る…)
天否は作戦の概要を考えていたが、意識がだんだん遠くなってしまい…
(こんな…時に…時間切れ…?)
そのまま、天否は意識を失った…
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「王? 王~?」
天否が目を開けると、そこには小学生ぐらいの背丈をした女の子が天否のことを揺らしていた
「…マロか」
「はい! あなたのためのマロ ヴバフヴベアスです。まあ、消えかけてるんですけどね」
そう言った、彼女の体は消えかけていた…。そんな彼女を気にも止めず、天否は周囲を見渡した
「マロだけ?」
「いえ? ラジ様も居ますよ。呼んできます?」
「いや、平気、そこに居るから。というか、どこにでもいるから」
そう言って、天否は体を起き上がらせる。周囲は何もなく真っ白な空間が広がっていた。
そんな無限に広がっていると思えるような白い空間が1ヶ所に集まり、緑色の髪をしたマロと同じぐらいの少女へと姿を変えた。彼女の名前はラジ、天否が契約した天使だ
「久しいな、少年。いや、お前はもう19歳だったな」
「いや、あなた達に比べたら、まだまだ少年だよ」
「お前の魂に刻まれている知識と経験は、少年とは呼べないけどね。とりあえず先手でお前の疑問に答えてやる。まず精神世界での時間の流れを無限に引き伸ばしているから、現実の方のことは気にしなくていい」
そう言いながら、ラジはどこからか本を取り出して、積み重ねて椅子の代わりにした。しかし積み上げ過ぎて足が地面に届いておらず、ぷらぷらと揺らしている
「あと、わかっていると思うが、余韻の時間がもうすぐ切れる。もう、本来の演算機能や術式を発動する機能も停止している。まあ、それはマロを見ればわかるか」
「私としては、久しぶりに力を使った時に、私を選んでくれただけで大満足ですけどね」
「まあ、少年がマロを選んだのは、君達の中でも癖が無いからだろうけどね」
そう言って、ラジはまたもや本をどこからか取り出して、その本を読み始めた
「とりあえず、こうしてマロに残された時間も少ない。再度力を解放するのも手だが、言っておくけどオススメしない。治しきれていない精神で彼らを使役するのは危険だ」
「だよね、あの時の二の舞になるだけ。だから無理はしないようにする。マロ、あと何回力を使える?」
「使える力は限られてますね。えっと…知識関連の力はもう意味ないですから除外しますけど、錬金術と灼熱は1回が限界。千里眼はどうせ使わないでしょうし…哲学や工学はこの状況では意味なし。使い魔召喚も今の私の状態じゃあ無理ですかな」
そのあとも、マロはペラペラと喋り続けて止まらなくなったので、天否とラジは無視することにした
「マロの言ってること端的にすると「今の私は無能です」だ」
「「違う」と言えない…」
「とりあえず、指輪の力には役に立たない。現実に戻れば再度少年の脳に制限がかかる。考え事があるなら今のうちにしておくといい」
「ないから戻るね」
「そうか、またな少年」
そして、天否は目を閉じた…
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天否が目覚め辺りを確認すると、意識を失った直前と特に変化はなく、ラジの言った通りまったく時間が経っていなかった
(これ以上は今の頭には頼らない方がいいかな、それと力の余韻が終わった瞬間には隙ができちゃうから気を付けないと)
頭の中で再度自分の今の状態を整理して、天否は隠れていた店から外にでる。こっそり真長につけていたGPSで彼女の場所を確認すると、作戦の開始位置に到達していた
真長は閃光手榴弾を中央広場に向かって投げて、天否は目をつぶった…。天否は閃光手榴弾が爆発する直前の天使達の配置を記憶していたため、目をつぶったまま行動を開始した
まず、3階の天使が居た位置に向かって天使の気配を探った。真長が使った閃光手榴弾の光には天力が含まれており、天使は天否たちを察知できないが逆に天否も天使の位置を察知できない。
しかし、天力を察知できなくても、天否の五感は生きているので、ある程度の位置は把握できた。そのまま天使に近づいたら人形の天使の心臓部分にナイフを刺して、すぐにもう1人の天使の方に向かった
そのまま他の天使達も倒して、光が収まった時には1階以外の天使達は全員倒すことができていた
(もう目を開けても平気そう…かな)
天否は慎重に目を開き、光が収まったことを確認する。すると、まあまあな爆音が1階から聞こえてきた
「なんだろう?」
天否は1階の方を見下ろしてみた。すると真長が明らかに他の天使よりも禍々しい気配を放っている男の姿をした天使と対峙していた
真長は相手の天使に銃を向けているが、相手はまったく焦っていたなかった
「どうしたのかな~。俺には勝てないって気づいちゃった? だよね、だよね。君らみたいな弱い奴らじゃ俺には勝てないよね~」
そんな相手の煽りには乗らず。真長は周囲を常に観察していた
「ほら、何か言ってよ。君顔良いし、声も良いなら俺の玩具にしてもいいかなって思ってるんだよ? この最上位天使であるこの俺、ジルドのね」
「うるさい、静かにしてください」
そう言って真長は天使に向かって銃弾を3発放った。しかしどの玉も天使に届く前に錆びていき、そのまま空中で消滅した
「おー。やっと喋ってくれたね。うんうん、声も良い。はい玩具に決定! おめでとう!」
「おめでたくない。貴方みたいなのは全員殺すと決めてるんです」
そう言って再度、真長は銃弾を放った…そして同じように防がれた
「連れないね~。君の断末魔を聞くために、そこの下等生物どもを一人一人目の前で殺してあげたいところだけど。こいつらも一応生け贄としての役目を作ってやったからな~」
「「作ってやった」ですか…」
「そうそう、下等生物に役目を与えたんだから、俺って優しいよね。玩具ちゃん」
「…殺します」
(私は…復讐を果たすまで…止まるわけにはいかないんですよ)
そして、真長はポケットから防犯カメラをハッキングしたときに使った板を取り出し、宙に投げた
「さあ、始めましょう…トラッパータイムです」
すると宙に投げた板から「戦闘要請 承認」と声が聞こえ、拳銃に変形した。真長はその拳銃をキャッチしてジルドに向かって2発放った
「無駄無駄~。俺は酸素を操れる。だから銃弾を風圧に耐えきれなくなるほど錆びさせることなんて造作もないよ」
そしてジルドは自信満々な笑みを見せた。しかし、弾丸はジルドに向けられて放たれたはずなのに、なぜかジルドを避けるような歪な弾道を見せ、ジルドの周りを回っている
「あれ? なにそれ?」
「今、使ったのは銃弾じゃなくて自律式AI搭載型の超小型ドローン「my」です」
そして弾丸と変わらない大きさの球体から羽が生えて、ジルドを囲むようにして停止した
「そんな小さな球体で何ができるのかな?」
「確かに小さいですけど、この世界では何でも軽量化しようとしてるんです。なので小さいからって侮っていたら足元巣くわれますよ」
真長は拳銃を構えた。そして構えたと同時に周囲に浮いている「my」が青白く光始めた…
「何度やっても…」
「無駄じゃないです」
そして、真長が引き金を引くと、真長の拳銃と「my」から青白い電撃が放たれた。ジルドは反応が遅れ、すべての電撃に直撃した
「私だって「天使殺し」であり天術を使えます。それにこの世界の科学技術も舐めないでください」
真長はジルドにそう言ったが、すでにそこにジルドは居なかった
「逃げましたかね? けどそう簡単には逃がしてあげませんよ」
すると民間人が集められていた方向から天否がやってきた
「それは民間人を運んでからにして。人命優先」
「あー、そうですね。人命優先…忘れるところでした」
「忘れたらだめだよ。復讐が目的で「天使殺し」になる人も多い。そういう人は目の前で助けを求めている人達が見えなくなる」
「だから、ちゃんと助けを求める人達が見えている自分達はその人達を助けるべき…ですか。ふふっ、その心掛け気に入りました。私もそうなれるように、自分の復讐を早く終わらせたいですね」
「復讐?」
「はい…父を殺した「最強の嫌われ者」にです。必ず…息の根を止めてやります」
そう言う真長の瞳には憎悪が宿っており。その言葉には怒りが混じっていた。しかし、それらのことに天否は疑問を感じた
「でも、「最強の嫌われ者」に会ったことはあるの?」
「…無いです」
「「最強の嫌われ者」が善人だったら、それでも殺す?」
「…」
「やっぱり…あまり恨み慣れてないね。憎悪や憤怒は感じるけど揺らぎがある。まあ、復讐は悪いことではないから止めないけどね」
「…先輩は神魔天否を知っているんですか?」
その質問の回答に天否は少し悩んで、嘘はつかないが自分が天否であることは隠すことにした
「神魔天否は…悪人だよ…揺るぎない程のね」
(そうであることが、せめてもの俺の償いだし)
「…先輩?」
「ほら、とりあえず民間人を運ぼう。まだ完全に安全って訳じゃないから」
そして、真長は「my」を更に2体出して、4体の「my」が民間人の四方に別れ、それぞれの「my」の体に紫の光を放った。すると「my」に囲まれている場所の重力が軽くなり人々が宙に浮いた
「このまま、出口まで運びますね」
そして、民間人を連れて真長は歩き始めた。出口までの距離は大したことなかったが、まだ敵が潜んでいるので、天否は周囲の警戒を怠らなかった
「…真長、止まって」
急に天否が出口の手前で止まって、周囲を見渡した
「どうしたんですか?」
真長が困惑していると、物凄い速度の尖った鉱石が真長と民間人達に向かって飛んできて、ギリギリで天否が指輪を使い、炎の壁で防いだ
「うぇ?! 今のって?!」
「真長、民間人を連れて早く外に出て。その扉に仕掛けられていた天術は解除したから」
「え? 扉に天術が?」
「うん、炎を使った時のついでに。いいから外に出て、次、今みたいに民間人を狙われたら防げない」
すると、後ろから誰かが歩いてくる音が聞こえた
「おいおい、せっかく下等生物を使ってやろうとしてるのに、逃がしちゃうの?」
「ジルド、生きてたんですね」
「あの程度の電撃程度で最上位天使が殺られるわけないじゃん。確かに結構痛かったけどね」
ジルドが生きていたことに真長は不甲斐なさを感じて自分の唇を噛んでいた
「にしても、まさかこんなビックに出合うなんて…俺も運が良い。こんにちは「最強の嫌われ者」さん」
それを聞いた真長は、最初は空耳だと思い無視をしようとしたが、今までの天否の発言や言動を思いだし、その事が事実だと気づいてしまった
「…っ!」
「さっき言ったこと、もう忘れたの?」
錯乱した真長が天否に銃を向けようとした時に天否はそう言った
「たしかに、俺が神魔天否だというのも事実だし、君の父を殺したのも事実、あの過去が消えることは一生無い。だけど今倒すべき敵はジルドで、守るべき人達が後ろにいる」
「…」
この窮地で一緒に行動していて少し尊敬していた相手が父の仇という事実に、もはや、真長は喋れるような精神状態ではなかった。しかしその声はちゃんと彼女に届いていた
「…必ず、話してくださいね」
「…俺が話さなくても、君ならきっと辿り着けるよ」
「それでは…必ず生きてください。先輩が死んだりしたら復讐できなくなっちゃいます」
そう言って、真長は民間人を連れて外に出た
真長達が外に出たことを確認して、天否はジルドの方に向き直した
「なんで待ってたの? いくらでも攻撃できただろうに」
「下等生物を捨てて「天使殺し」を1人この場所から離したんだ。流石に傷を負った状態で2人を相手にする余力はない。相手がお前なら尚更だ「最強」」
「残念ながら、今の俺はそんな大層な人間じゃない。他の2人の「最強」とも差が大きくなってるし。まあ「最強の天使殺し」のリンナさんとは、もともと差が大きかったけど」
「お前の情報は結構出回っている。力を使えなくなっていたのも、少しだけなら使えるようになったのも、さっきの炎で使えなくなったのもね」
「別にそこは問題じゃない。指輪を使えなくても、少しは戦える」
そして、天否は拳銃とワイヤーフックを取り出した
「たしかに、力を使えなくてもお前は驚異だ。だから俺も全霊を持って相手することにしてあげる」
次の瞬間に周囲が急激に神々しく光だし、空間が歪んだ。
「生け贄式は無理でも、即席で天域を展開することも可能なんだよね」
「天域で戦うなんて、日常茶飯事」
「威勢がいいな、けど俺の天域はそこらの雑魚とはレベルが違うぞ」
そう言ってジルドは周囲の酸素を片っ端から自身の周りに集約させた。その影響で周囲の建物が崩れ始めた
「ここが天域でよかったな。表の世界なら被害甚大だったろうに。お前自身も酸素不足でピンチじゃないのか?」
「たしかに全部正解。けどそれを何とかするのが俺の仕事だよ。それに策はもう仕掛けてる」
「あ?」
「地下に仕掛けられていた天域の術式を見つけてね。少し細工させてもらったんだ」
「はあ? だがこうして天域は展開されている。いったいどんな細工を…」
その時、崩れゆく建物に白い光が射し込んだ。そしてその光はだんだんと広がっている
「なっ?! はあ?!」
ジルドは状況を理解できず混乱している。そして崩れた天井から1人の天使が舞い降りてきた…
「ごめん、遅くなった」
「ううん、遅くなってないから大丈夫。ありがと、白姫」
白姫はふわりと着地をして、着地した瞬間に鶴のような羽が周囲に舞い散った
「お前は…!」
「こうして面と向かって話すのは初めてですね。同じ最上位天使ですし、ある程度は貴方のことは知ってますよ」
「は! こっちだってお前のことは知ってるぞ。裏切り者の白姫。序列はお前の方が上だがここは俺の天域だ、流石に部が悪いんじゃないのか?」
「部が悪い? 何を言っているの? それは貴方の方でしょ?」
「あ? 何を…」
「だって、もうここは私の天域だから」
すると、白い羽が空から降り始めた…
「まあ、本来の30%しか展開できてないし。私自身、自分の天域をよく理解できてないのだけど…」
「はあ?! なんで?! 天域の上書きを俺に気づかれずにするなんて、不可能だ!」
「言っただろ? 細工をしたって。白姫には俺の見つけた天域の術式の上に白姫の天域の術式を仕掛けてもらった」
「私、天力の性質を見分けるのが得意なの。それで、どうする? 戦う? 逃げる?」
その質問に対して、ジルドは歯を食いばり、何も言わずに崩れた天井から逃げていった
天否は逃げたジルドを追いかけようとしたが、白姫が「大丈夫だと思う、あの人が待ち構えてる」と言い、そのまま天否と白姫はその場を去った
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「クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!」
ジルドは自分の不甲斐なさを嘆きながら白姫に乗っ取られた天域から離れようとしていた
(せっかく準備をしてきたのに。せっかく偉そうにしていた上の奴らを見下せるようになれると思ったのに! クソ!)
そんなことを考えながら、ジルドはショッピングモールの上空に飛び出してそのまま大気圏まで逃げようとしていた。しかし天域を抜ける直前に物凄い威圧が彼の動きを止めた。そして自分の進行方向の先にいる人物を見て絶望した
「君が…この事件の犯人で合ってるよね?」
周囲に広がる神々しい光が霞むような、圧倒的な存在感を放っている女性。顔には笑顔を浮かべているが、ジルドからしたらその笑顔は恐怖でしかなかった
「うっ、嘘…だろ? 勝てるわけないだろ、この世界で一番強い天使殺し、神魔リンナに…」
「張り合いがないな~、やる気だしてくれないならさっさと殺しちゃうよ。天否達はもう外に出てるみたいだし」
そう言ってリンナは目の前に片手サイズの小さな炎の玉を作り出して右手で弾いた。そして弾いた玉はジルドの少し横を物凄い速度で通り抜けた。そしてその玉が着弾すると大爆発を起こし背後のショッピングモールだったものはすべて跡形も残らず灰になっていた
「やっぱり歪んだ天域の強度は落ちるんだね。参考になったよ。あっ、そうだ君、自分の右腕を見てごらん」
ジルドは言われた通り恐る恐る自分の右腕を見てみる…すると、腕は無く、右肩に残った焼き焦げた跡しかなかった
「ひっ!?」
「ごめんね~、外したんだけど余波で焦がしちゃったみたい。やっぱ加減って難しいね」
ジルドは回復を試みるが、一切治る気配がしなかった
「無駄だよ、私の炎は相手の完全を焼き崩す。今の君はその状態が100%でこれ以上回復はできないよ」
それを聞いてジルドは自分の焼けた右腕が生えていた部分を押さえながら、恐怖に耐えられず逃げ出した
「まったく…時間もないし。終わらせちゃおっか」
すると、リンナはさっきの比にならない程の炎を生み出し、それをジルドに向かって放った…
そしてジルドは灰と化した…
「はい、おしまいっと…それで? さっきから覗いてたけど、私になにか用でもあるのかな?」
リンナがそう言うと崩れ始めた天域の一部が歪み中からルミが出てきた
「いや~、凄い力だね~。流石、四大天使の1人と契約してるだけのことはあるね。てか、暑い」
「ごめんなさいね。すぐに崩れる天域だから加減してなくて。もはやこの天域内の温度は太陽の表面と同じくらいの温度になってるもんね」
「はぁ~、貴方とはやっぱり戦いたくないかな。それじゃあ、私は普通にプライベートでたまたま立ち寄っただけだから。天否によろしく伝えといてね」
「ええ、わかったわ。それじゃあ、あなたとは戦場で会わない事を期待しておくわね。第4位さん」
それを聞いたら、ルミは歪みに入って消えていった…
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民間人を連れ出した真長は、後の事をリンナの部下達に任せて、ベンチに座って缶ココアを飲んでいた
(すこし…落ち着いたかな)
天否の正体を知った時のぐしゃぐしゃした感情は一旦収まり。今の真長に残ったのは天否に対する疑問だけだった
(…本当に、先輩がお父さんを殺した張本人なのかな。もし、そうだとしたら、先輩の言葉は嘘ってことになりますけど。そうとは思えなかった…)
思考を巡らせている真長に1人の人物が声をかけた…
「こんにちはー。君が…光希真長で合ってる?」
「はい…はい?」
真長は自分が話しかけられたことに驚き、顔を上げた
「俺は双月ルジ。リンナさんから伝言とこれを託されて、伝えにきたんだ」
「伝言ですか?」
「そうそう。内容は…「あの事件の資料の閲覧を許可する。頑張ってね」だって。それでそれがその事件のデータ」
そう言ったら、ルジはポケットからUSBを取り出して、真長に投げた
「それじゃあ、俺は仕事が残ってるから。それと、君にとってその事件は…ちょっと辛いものになるかもしれないけど、頑張ってな。あー、それと天否達はもう帰ったからそこで待っててもでてこないぞ~」
「えっ? というかあなたも先輩のことを?! …って双月ルジって!」
ルジの正体に気づいて慌てる真長を無視して、ルジはその場を離れた…
(海根さんの娘さんか~。大きくなったな~、まあ、年の違いは4歳差しかないんだけどな。でもやっぱり彼女には、ちゃんとあの事件の真相に辿り着いて誤解が解けてほしいな)
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「天否、勝手に帰ってもいいの?」
「事情聴取とかめんどくさいから。それに、リンナさんは馴れてるから」
「そうなんだ、なら早く帰りたい。私も初の試みをして疲れちゃった」
「俺も疲れた。今日の夕食はデリバリーでいいよね」
「うん。とりあえず、帰ろっか」
そして、2人は近くの警察官にバレないように家に向かって歩き始めた…
(また会おうね、真長…。それまで答え探しを頑張って)