第1話【背負う者と背負わぬ者】
第零章 プロローグ
第1話【背負う者と背負わぬ者】
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Side ???
暗い部屋に月明かりが差し込む。月明かりに照らされるのは美しい銀色の髪を持つ女と血のように赤黒いワインを飲む顔を覆うようなローブを被った男だけ。
「なぁ、正義とは何だと思う?」
部屋の主のように座ってワインを飲んでいた男が女にそう問いかける。
「正しきことでしょう」
問いかけられた女は何を当たり前のことをという風に答えを返す。
「正しさねぇ」
何を思ったのかその回答にカラカラと笑いながらワインを傾ける男。その態度に不満を思ったのか女が男の座っている椅子の足を蹴る。それによってワインを零しそうになり慌てる男を見て女は溜飲を下げる。
「それで、何が言いたいのですか?」
「何簡単なことさ。孤児救済という正義を掲げ、大量の孤児を囲い込んだダリア伯爵閣下。しかし、実際にしているのは見目麗しい者は教育して奴隷として売り払い、それ以外は暗殺者に仕立て上げる。これが世間様の言う正義というなら正しさは何処にあるんだろうなぁと思っただけさ」
男は立ち上がり両手を開いてフラフラと踊るように室内を歩く。それは酔った足取りではなく、いくつもの死体を明確に避けた歩きだった。女は無言で言葉を聞いた。何も返さず。
「俺らは悪だ。人を殺し、人を貶める。その行為は悪以外の何物でもない。でも、俺らは俺らの思う正しさを貫く。こいつらはそれすらない正しさどころか信念すらない。ただ人を食い物にし私腹を肥やすただの豚だ!」
「だから私たちがいるんでしょ」
熱くなって声を荒げる男に冷静に女が告げる。その声は何処までも冷たかった。
「私たちが、正しさを持たない言葉だけの正義を掲げる奴らに鉄槌を下す。それが例え神だろうが。不条理なこの世界を私たちアダージョが変える。そうでしょ。私たちを束ねる第1のリアズ」
「俺は、俺らは悪だ。正義を語る偽物に正義を語る重さを理解させる。さぁ、行こう! あとは、もう止まることはできない」
そう宣言し2人はその場から霞のように消えていった。
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Side タツミ
俺は事故で死んだ。信号無視のトラックに引かれて即死だったらしい。
らしいというのも全部女神さまから聞いた内容だ。
俺は今生きている。
女神さまが俺にこの世界を救ってほしいと俺を呼び出したんだ。
かわいい王女様や偉大な王様に言われて俺はいろんなところで訓練したり戦った。
東にある野蛮な部族の壊滅や、悪魔を崇拝する邪教の村落、人をペットのように買う悪徳貴族など様々だった。いろんな悪い人達を倒して俺は今みんなに勇者として崇められている。
そんな俺にまた一つ任務があると呼び出された。
「今度はどうしましたか王様」
「うむ。勇者タツミよ。此度はアダージョという危険思想の持主たちを倒してほしい。奴らはあのダリア伯爵を殺した犯罪者だ。護衛に守られた伯爵を殺せるものたちだ。勇者出なくては難しいだろう。首だけで良いので持ってきてくれ」
王様は玉座に座りながらそう言った。ダリア伯爵といえば、人をペットのように買っていたあの何とかっていう公爵を倒すように危険を承知で進言したまじめな人で孤児院なんかも経営している人格者として有名な人じゃないか。
とんでもない悪人も居たもんだ。俺はこの世で学んだのは悪人は殺さなきゃならないってことだ。過去に一度生かしてとらえた犯罪者がいたんだが看守を殺して脱獄しようとしたらしく俺が殺さなかったせいで数人が殺されて騎士団長が始末をつけてくれたらしい。
それ以降俺は悪人はしっかりと殺すようにしている。彼らも女神さまのもとへ行って清い人間として生まれ変わってほしいものだ。
「わかりました。そんな極悪人は許せません。ダリア伯爵の仇必ず討たせてもらいます!」
「頼んだぞ。あぁ、それとリアナが会いたがっておったぞ」
「かしこまりました! リアナ姫に挨拶してから向かいます!」
リアナ姫は奥ゆかしいきれいな王女だ。頭もよく優しくていい匂いがする。前世では童貞だった俺だが今世では姫のようなかわいいお嫁さんが欲しい限りだ。勇者というだけでいろんな女性が寄ってくるしハーレムというのも…。
「あ、リアナ姫」
どうやら考え事をしていたらリアナ姫の部屋の近くまで来ていたようでリアナ姫が部屋から出るところだったようだ。
「これは、タツミ様。お会いできて光栄です」
「俺もリアナ姫とお会いできて光栄ですよ! これから任務でしばらく王都を出るのでご挨拶に伺いました!」
リアナ姫もこちらに気づいたようでかわいらしく挨拶してくれる。
「それは! そうですか、悲しい事です。良ければこちらのキュリーを一緒に連れて行ってくださいませんか?」
俺が任務のことを言うと一瞬何か考えるような素振りをしてから悲しそうに後ろに仕えていた女性騎士を指してそういった。
「え! 凶悪犯の討伐なので危険ですが」
「キュリーはこれでも騎士団の中で上位の強さをしていますし、勇者様が外で変な女性に誑かされてしまうのではと私心配で。でも、キュリーならどんなことをされても安心ですし勇者様も男性ですから我慢ばかりはよくないと思うのでぜひお連れになってください」
恥ずかしいのかまくしたてられるように言われてうなづいてしまった。キュリーと言われた騎士は金色の長い髪をポニーテールにした綺麗な女騎士なので嬉しいところだ。
「それでは行ってまいります! 吉報をお待ちください!」
「はい! どうかご無事で!」
そう言って俺は女騎士を連れて凶悪犯を倒す旅へと出た。
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