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居場所がなくなる恐怖

 午後の授業、ここからはいつも通り教室へ戻った。

 さっきの一件もあって新垣さんはずっと青い顔をしていた。


 僕はそのことを気にも留めず、授業に集中することにした。午後一番の授業は、歴史の授業となっていた。近代史だ。

 近代史の最大トピックと言えば、件の怪獣出現が一番大きく語られることになっている。故に、僕の祖父、父の名前は国内担当の操縦士として大々的に教科書にも書かれていた。


「ヒデオ君のお父さんもお爺ちゃんも、凄いよなあ。ウチの親なんて、何しているかもよくわからない」


 隣に座る女子がそんなことを言っていた。

 当事者の立場からすれば、とてもそんなことを思えもしないが、まあそう言いたい気持ちはわからなくもなかった。


 ただまあ、その辺は今日の授業で特別触れるわけではない範囲。今日触れる部分は、もう少し後の話。

 具体的に言えば、技術革新が進んでいき、AI技術が発展してきたくらいの話。


「というわけで、AI技術は人々のマンパワー解消のために研究され始めている技術ということだ。将来的に、AIが人類に代わって仕事をする時代が来るだろう、とも言われているな」


 えぇ、と言う声が教室に上がった。


「先生、そうなると将来的には、人の仕事はAIが代わりにこなすようになるということですか?」


「うん。そうなるだろうと考えられている」


「どうして? 別に人が仕事をすればいいんじゃないの?」


「皆は、出来る人が限られている仕事があることを知っているか?」


 先生がそう問いかけた途端、視線がこちらに寄せられた。

 まあ、今の先生の問いかけに対して僕の方を見るのは、おかしな話だと内心では思っていた。


「先生、元々はサラリーマンだった人でな。会社勤めをしている時、資格を持っている人しか出来ない仕事がある場面をチラホラ見てきた。

 一平社員の立場から見れば、あの人は難しい仕事を出来る凄い人、としか思わないかもしれないけど、経営者目線で見ると話が変わってくるんだよ」


「どういう風に?」


「あの仕事は出来る人が限られている。つまり、出来る人がいない時間は進まない。滞りやすい仕事に見えるわけだ」


「なるほど。だからAIにさせる、というわけか」


「何もAIに限った話じゃないけどね。仕事をするにあたって、誰でも出来るようにする、というのは大事なことなんだよ。

 先生もよく、小学生にでも扱えるようにしろ、わかるような資料を作れ。そんなことを言われたもんだ」


 先生の言葉に、周囲が感心げに唸った。

 僕はと言えば、特に何も思わず、これから始まる次の章の内容を少しだけ先読みを始めていた。


 その晩、またもや深夜帯に怪獣が町を襲いにやってきた。


 ロボットのコックピットに搭乗しながら、ふとさっき授業で話していた先生の話を思い出していた。


 先生は言っていた。

 サラリーマン時代、会社で誰にでも扱えるようにしろ。資料を作れ、と。


 だけど先生の言う話は、何も民間企業に限った話ではない、ということに、一体あのクラスのどれだけの人が気付いていただろうか。


 誰でも……まして、小学生でも出来るようにしろ。

 先生がかつて、サラリーマン時代に上司に言われたらしい言葉。


 その言葉、多分そのまま、このロボットの設計者達にも降り注いだのだろう。何せ、僕がこのロボットに搭乗した五年前、まだ僕は小学生だったのだから。

 

 相当の努力をしたのだろう。

 相当の努力をして……このロボットを、怪獣せん滅を、誰にでも出来るように調整したのだろう。


 このロボットの設備、性能は、今や多分誰でも操縦出来る仕組みになっていた。

 それこそ、小学生にも……障がい者にだって操縦出来る仕組みになっているだろう。


 多分、僕がこのロボットに今も搭乗している特別な理由は……ほぼない。強いて言えば、形骸化した世襲制という仕組みと、失敗した時のリスクを鑑みた結果だけ。

 それだけのために、僕は今でもこのロボットを操縦することになっていた。


 高度経済成長期を経て、昨今の技術革新を経て。


 人の仕事がAI技術に奪われようとしているように。

 もうまもなく、僕のこの仕事は消えてなくなるのだろう。


 別の人に取って代わられるのか。はたまたセンサー技術が発展して無人化するのか。

 どっちかはわからないが、とにかくそんな日ももう遠くはないのだろう。


 日々変わっていくこのロボットの内装を見て、そのことを肌で感じて……。






 僕は、少しだけ焦りを覚えていた。


 この仕事への誇りはない。自己犠牲の精神だって、きっとない。ただ、この仕事を辞めたいとは思っていなかった。

 この仕事は続けたい。


 いいや、続けなくてはならない。


 僕には、父も母もいない。


 僕は、天涯孤独なのだ。


 ……まだ右も左もわからない僕がこの世界で生きていくのに、政府の援助がなければ途端に路頭に迷うことになるだろう。そうなれば、僕はもう……。


 だから、僕は死ぬまでこのロボットに搭乗するしかないのだ。

 搭乗して戦って、自分で居場所を守るしかないんだ。


 守ってくれる人がいないんだから。


 自分で、どうにかするしかないんだ。


 だから、授業だって真面目に受けないといけない。

 いつか政府から不要と判断された時、守る場所を掴むため、努力を惜しんではならない。


 生きるため。




 生きるために……。




 時々思う。

 いっそ死んだ方が楽なんじゃないかって。


 でも、祖父や父がそうだったように、周囲に罵倒されながら死に行くのは……嫌だった。


 せめて、このロボットの最終手段として備え付けられた爆弾で……。

 それで、怪獣相手に自爆特攻をし、死ぬ。


 それでも周囲が美談として扱ってくれるかはわからない。

 だけど、多分自分の中での踏ん切りは付くだろう。


 どうだ。

 僕はやり切ったぞ、と。


 そんな日が来るかはわからないが……その覚悟を持って、僕は今日も怪獣との戦闘に邁進していた。


 でも、多分これだけは明確にしなければならないのだろう。




 僕は多分、この世界のヒーローなんかでは……きっとない。

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