95話 戦いの行方は?オイ
「うおおおおおおおおお!!」
冒険者達の大歓声が闘技場を包み込む。
ブルーネルとの結婚式、その最後の誓いは、夢にまで見たキスでは無かった・・・
・・・決闘だったあああああ!!
≪まさかこんな展開になるとはね≫
・・・アールは知らなかったのか?
≪知ってたわ≫
・・・言ってよおおおおお!!
≪さっきウェディングドレスに着替えている時に聞いたのよ。私が『カガリは誓いのキスをとんでもなく楽しみにしてるわよ?』って教えてあげたらそう言われたの。でも、カガリの驚く顔が見たいから黙ってたのよ≫
・・・おい!勝手に人の気持ちを代弁しないでくれるかな?別にとんでもなく楽しみになんてしてないし!
≪安心して良いわよ。決闘が終わったら『思う存分キスしてやる』って言ってたから≫
・・・え?マジで?!
≪興味深々じゃないの!やっぱりとんでもなく楽しみにしてたのね?≫
・・・わああーっ!・・・もう良いよ。そうだよ。とんでもなく楽しみにしてましたよ!だってそりゃそうだろ?キスだぞキス!日本にいた頃の俺なら、そんなのいつできるのかなんて想像すらつかなかったんだぞ?それがあと一歩の所まで来てるんだ。そりゃ興味深々にもなるだろ?それが健全な男子高校生ってモンだ!
「旦那様、それじゃ早速、戦闘服に着替えて来るからな!」
そう言ってブルーネルは退場して行った。
・・・やっぱりやらないとダメか?
≪ここまで来たらもうやる以外の選択は無いと思うわよ?≫
・・・だよな。まあ殺し合うって訳じゃないだろうし、やってみるかな。
暫く後・・・
俺とブルーネルは闘技場のど真ん中で再び向かい合っていた。
目の前には、純白のウェディングドレスに身を包んだ女神のようなブルーネルではなく、武骨な甲冑に身を包んだ軍神の如きブルーネルがいた。
しかも刀身が燃え盛るように赤い巨大な両手剣を片手で軽々と担いでいる。
一方俺は・・・タキシードを脱いで、いつものナノマシン服姿だ。
しかも手ぶら。
「ブルーネル、いつもそんなデカイ剣を持ち歩いてるのか?」
「いや、今は喰わせてる状態だからな。普段はちっこいヤツを持ってるぜ?旦那様のあのとんでもねえ防御力を見たら、初手から最大級の攻撃で崩したくなるってモンだろ?」
「俺が防御力だけだと思うなよ?お前には攻撃もするからな。だって信頼を認め合う儀式なんだろ?」
「当然だ。ドンと来いだぜ!」
神父様が客席の最前列から合図を出した。
「では両者、存分に愛試合って下さい・・・スタート!」
「行くぜ、ファル!」
ブルーネルが声をかけると彼女の両目の炎が一気に燃え盛った。
そして炎の帯が両目から外に向かって勢いよく噴き出した。
炎の帯はメラメラと燃え盛りながらまるで毛細血管の様に縦横無尽に枝分かれしつつ、どんどん伸びていった。
客席から歓声が上がる。
「出た!『炎眼のブルトスカ』の必殺技!いきなり出してくるなんてアイツ殺る気だな?」
「従魔『炎脈』!久々に見たぜ!」
「そりゃ、1年近くスピーリヒル騎士団長の任に就てたからな。数日前に戻ってきたばかりだし久々で当然だろ?」
・・・なるほど、あの目の炎は従魔って事か。
それにしてもとんでもないな。
ブルーネルの目から飛び出した炎は既に網目の様に縦横無尽に張り巡らされていた。
いやこれは、実際に網なんだろうな。
あれで俺を絡め取る気だろう。
「来ねえのかよ旦那様?」
「ちょっと様子見だな。その『炎脈』ってペットには攻撃を当てても良いのか?」
「ペットじゃねえよ、相棒だ。遠慮は要らねえよ。最も当たればの話だけどな?」
そう言うとブルーネルは一気に走り込んできた。
それに合わせて炎の網も迫ってくる。
俺は小手調べに軽くビームを炎の網に当てた。
スッ
ビームは炎をすり抜けて行った。
実体が無いパターンか・・・
コリャやりにくいな。
けど、網である以上は、何処かで実体を伴う瞬間がある筈だ。
それはおそらく、俺を絡め取る瞬間。
そして目の前まで迫った網が俺を包み込んだ。
網が俺に触れた瞬間、実体を伴って俺を締め上げて来た。
・・・やっぱりな。なら今しかない!
俺はナノマシン服を刃状にして炎の網を斬り飛ばした!
いや、斬り飛ばせなかった。
実体が無かったのだ。
・・・どういう事だ?
そのくせ、炎の網は未だに俺をガッチリとホールドしていた。
・・・これは、反則級だろっ!
なんと『炎脈』は攻撃する際の実体有りと防御する際の実体無しを同時に存在させていたのだ。
・・・あり得ないだろ?普通は有り無しを切り替えて使う筈だし!マジモンのチートかよ!!
計算が狂ってしまった。
すぐに網から抜け出すつもりだったのだが・・・
俺はホールドされて動けないまま、ブルーネルの攻撃を受けるハメになったのだ。
「うおらあぁぁ!!」
彼女が持つ大剣の一撃が俺の脳天に直撃した。
ガガガガッ!!
凄まじい一撃。
バリアに守られダメージこそ無いが、それでも思わず戦慄を覚えてしまう程の衝撃だった。
そして驚く事にそれはただの一撃では無かったのだ。
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!
剣が炎の網に触れた瞬間、網全体が鋭い刃の如く斬撃を伴って締め上げてきたのだ。
斬撃&締め上げる圧力の相乗効果で俺のバリアが悲鳴をあげる。
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!
俺の目の前にアラートが表示された。
<警告>
バリアの耐久力が低下しています。
至急、強度レベルを上げて下さい。
現在の強度レベルは『最弱』です。
推奨レベルは一段階上の『中弱』です。
・・・マジで?!
『最弱』とはいえ、超科学が誇るバリアを砕く程の勢いかよ?
ブルーネルってばマジで強いな!
俺はバリアのレベルを『中弱』に上げた。
ブルーネルは俺を見てニヤリと楽しそうに笑った。
「やっぱり硬えな!じゃあこれならどうかよ?!」
次の瞬間、さっきまで俺を締め上げていた炎の網がフッと跡形もなく消えた。
いや、消えたのではなく、吸収されたのだ。
大剣に。
すると大剣は更に一回り大きく、超大剣へと変化した。
グゴゴーン!!!
そして爆発的に増大した攻撃力によって、なんと俺の両足が膝まで地面にめり込んでしまった。
<警告>
バリアの耐久力が低下しています。
至急、強度レベルを上げて下さい。
現在の強度レベルは『中弱』です。
推奨レベルは一段階上の『弱』です。
またバリアが破られそうだ。
流石はS級だな、凄まじ過ぎるぞ!
リーンズの時は『最弱』設定でも全く危なげ無かったんだが?
アイツだってA級だろ?まさかここまで実力に差があるなんてな。
リーンズの奴、偉そうに『ブルーネルより強くなれば良いだけだ!』とか言ってたけど、一生頑張っても勝てなかったんじゃないか?
「オラオラもっと行くぜえ!」
そう言うとブルーネルは超大剣で猛ラッシュを仕掛けて来た。
ドゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!
クソ重そうな剣を振り回してる癖に、とんでもない速さで斬撃を当ててくる。
足が膝まで地面にめり込んで動けない俺は、全ての攻撃をまともに食らってしまった。
相変わらず凄まじい攻撃だったが、バリアのレベルを上げたお陰で、警告は出なかった。
しかし安心は出来ない。
俺は、めり込んだ足伝いに地面全体へ『超振動』を放った。
これは以前、アールが魔将軍のガージャックに使った、凄まじい振動で敵の体を内部から破壊する技だ。
バリバリバリバリバリバリバリバリッ!!
たちまち、地面が粉々に崩れて行った。
ブルーネルはサッと飛び退き、俺はめり込んだ足を引き抜いた。
「闘技場の地面をボロボロに崩すなんざ、流石は旦那様、スケールがデカいぜ!」
「ブルーネルこそ、何だよその技は?俺の防御が何度も崩されそうになったんだけど?」
「そりゃ嬉しいな!じゃあお次は私の持つ最大級の攻撃で締めと行くか!」
・・・あれ以上強いのがまだあるのかよ?
俺はバリアの強度レベルをもう一段階上げた。
ブルーネルは、再び目から炎を出すと、今度は超大剣にグルグルと纏わせ始めた。
「私の奇剣『炎喰らい』に、相棒のファルガヤスクを纏わせた。これで双方の強さは増幅され、攻撃力が爆発的に跳ね上がるんだ!」
「よし、それじゃあ今度は俺の攻撃とどっちが強いか比べてみようじゃないか!」
・・・そっちが炎なら、こっちは水で行くか。
俺はブツブツと詠唱の真似事をした。
ここには多くの観衆がいるからな。
・・・流石にこれから行うド派手な攻撃に無詠唱ってのは不審がられるだろうからな。
≪さっき無詠唱で地面をぶっ壊してたわよね?≫
・・・あ、あれは蹴り技だ!って事にしとくわ。
そして俺は右手を高々と天にかざし叫んだ。
「出でよ!水の女神!!」
すると、俺が手をかざした上空、その何も無い空間から、大量の水が流れ落ちた。それはさながらナイアガラの滝の如く、途轍も無いスケールで闘技場へ降り注がれる・・・かに思えた。
「うぎゃあああああ!」
「死ぬうううううう!」
「何してくれてんだあああああ!」
慌てふためき断末魔の叫びをあげる観客達だったが、一向に落ちて来ない水を不審に思ったのか、恐る恐る天を見上げた。
するとどうだ、水はまるで天空に浮かぶダムの様に空を覆い尽くしているではないか。
「何じゃこりゃあああああ?!」
「これがあの小僧の魔法なのか?!」
「ヤバ過ぎるだろ!」
ブルーネルも苦笑いしていた。
「旦那様、これはスケールが違いすぎるだろ?私のコンボ技がショボく見えるぞ?」
「驚くのはこれからだぞ?」
天空のダムは、単なる水溜りからその姿を徐々に人形へと変化させた。
そして・・・
天を埋め尽くす超巨大な女神が姿を現したのである。
女神は闘技場を見下ろした。
「人間達よ。この水の女神アルプロハスが、我が身をもって冒険者カガリの剣とならん!とくと見よ!」
そう言うと、その姿を一振りの巨大な剣へと変えた。
剣は徐々に小さくなると、ゆっくりと闘技場へ降りていった。
そう、俺の元へと。
そして俺が天に掲げた手の前で剣の柄がピタリと止まった。
俺はそのまま剣を握り込むと、軽く素振りをした。
「うん。軽いな」
「・・・・・」
「待たせたな。じゃあ…」
・・・あれ?
シーン
客席は誰一人話していなかった。
てか、固まっていた。
ブルーネルを見た。
ブルーネルは・・・やっぱり固まっていた。
「ブルーネル!」
「・・・・・」
「ブルーネル!!」
「・・・・・お、おう」
良かった、我に返ったようだ。
「大丈夫か?」
「・・・・・お、おう」
「試合、やめる?」
「・・・・・お、おう・・・じゃない!やる!続けるぜ!・・・それにしてもまさか女神をこの目にするなんてな。とんでもない野郎を旦那様にしたもんだぜ!・・・けど・・・相手にとって不足はねえ!」
惚けていたブルーネルの闘志が再び燃え上がるのを感じた。
超大剣『炎喰らい』が真っ赤に染まり、刀身に巻き付く従魔『炎脈』ファルガヤスクがメラメラと激しく燃え盛った。
俺も負けじと女神アルプロハスの剣を構えた。
アルプロハスの剣は、まるで澄み切った清水の様に、一点の曇りもなく光を反射し輝いていた。
「うおりゃあああああああ!!!」
「ちぇすとー!!」
ブルーネルの剣と俺の剣が交わった。
ガキンッ!・・・ズブシュー!!
剣と剣が触れた瞬間、とんでもない量の水蒸気が爆発的に辺りを包み込んだ。
「うおおっ!」
「何だこりゃ?!」
「何も見えねえ!」
冒険者達の騒ぐ声が聞こえて来た。
辺りは水蒸気の霧で真っ白だ。
間近にいるブルーネルの姿はおろか『炎喰らい』の刀身さえ見えない。
何も見えない霧の中で、ただただ、剣と剣の鍔迫り合い勝負が続いた。
それはひどく長い勝負に感じたが、ついにぶ厚い水蒸気の霧が少し晴れて来た。
新たな霧の噴出が止まったのだ。
その時、闘技場を一陣の風が吹いた。
霧が完全に晴れ、目の前のブルーネルがハッキリと見えた。
ブルーネルの闘志は衰えていなかった。
しかし・・・
『炎喰らい』のあの超大剣は、只の小ぶりな剣に変わっていた。
色も燃える様な赤ではなく、只の鉄色だ。
そして刀身に纏わり付いていた『炎脈』も消えている。
ブルーネルは鋭い瞳のままニヤリと笑った。
そして、
「流石は旦那様だぜ。こりゃ私の完敗だな!」
そう言って剣を引いたのだった。
「うおおおおおおおおおお!!」
歓声が爆発した。
『誓いの決闘』は・・・俺の勝利に終わったのだった。
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