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90話 炎の女と出会ったぞ、オイ!

バタバタバタッ!


一斉に倒れ込む冒険者達。


・・・アール!バイタルは?!


≪・・・心配ないわね。みんな死んではいないから≫


・・・良かったー!


≪そうとも言えないわよ?≫


・・・え?


「おーおー、こりゃまたド派手にやってくれたじゃねえか?」


声の方を見ると、武骨な甲冑に身を包んだ赤髪紅眼の美女が1人立っていた。


ミミの威圧の影響は無いらしく、ピンピンしている。


・・・マズイな。


俺は咄嗟に誤魔化した。


「あ、あんたも無事だったか?俺達もだよ。みんないきなり倒れて、一体どういう事なんだろうな?」


「惚けるんじゃねえよ!そっちの嬢ちゃんが今、とんでもねえ威圧を放ったろ?」


・・・まあ、バレてるよな。


「ごめんなさい・・・ちょっと静かにしてもらうつもりで・・・ここまでする気じゃ・・・なかった」


ミミが泣きそうな顔をしている。


俺はミミの頭を優しく撫でてやった。


「大丈夫だよ。みんなちょっと気を失っているだけだ。大した事ないさ」


「はっ!これが大した事ねえだ?ふざけんじゃねえぞ?!」


「そっちこそふざけんなよ?泣きそうな子を脅して楽しいか?この弱い者イジメ女!」


「はぁ?弱い者イジメだと?そりゃ私がこの世で1番嫌いな言葉でな、かなりムカついたぞ!だいたい、そいつが弱い訳ねえだろうが!この中で1番強いじゃねえかよ!・・・私を抜いてだがな?」


そう言うと、女の紅眼から炎が燃え上がった。


≪カガリ、コイツ『弱い者イジメ』って言葉に反応して怒りの感情が膨れ上がってるわ。案外悪い奴じゃないかも≫


・・・悪い奴じゃなくても、戦わなきゃいけない時がある。俺は仲間を守ると決めたんだ。ミミを泣かされちゃ黙ってられないぞ!


俺と炎女は睨み合った。


魔将軍ネフェクティプラゾーマは魔力の弱い俺の力を見誤ったが、炎女は油断が無かった。


「そっちの嬢ちゃんの強さは明白だが、オメェとそっちの無表情女は得体が知れねえ・・・コリャ、ちとヤバイかもな」


「へえ、分かるのか?さすがミミの威圧に耐えただけあるな」


「ミミの威圧って・・・やっぱりオメェらの仕業じゃねえかよ!」


「不可抗力だ。気絶させるつもりじゃ無かったんだよ!お前がミミを脅した事を謝るなら、俺達は黙ってここから退散するよ。勿論、誰にも危害は加えない」


「黙って退散?そうはいかないな」


炎女はそう言うと、右足で床を大きくふみ鳴らした。


バシッ!!!


すると、気絶していた冒険者達が一斉に目を覚まし始めた。


「ん?俺、何で寝てたんだ?」


「ふわぁ、一眠りしたらなんか頭スッキリしたわ」


「悠長な事言ってんじゃねえぞ?明らかにおかしいだろ?!」


「だよな。みんな寝ちまうって何だったんだ?」


「まさか昏睡強盗じゃねえだろうな?」


「それともドバシェック事件の続きがここでおっぱじまるのか?!」


途端にさっきの喧騒が戻り始めた。

しかも不穏な方向に。


しかしそれを炎女の一喝が吹き飛ばした。


「オメエら全員黙りやがれ!さっきからクソうるせえから私の威圧で全員一旦眠らせたんだよ!分かったら黙って粛々と仕事しやがれ!」


「・・・・・」


途端に静かになった。


どうやらこのギルドで炎女の影響力は凄まじいらしい。


しかし、お陰で俺達は助かった。


どういうつもりで助けたのかは分からないが、これで人知れず退散ってのは出来なくなったな。


炎女はつかつかと歩み寄って来た。

瞳の炎は消え、さっきまでビンビンに感じていた闘気も今は感じない。


「嬢ちゃん、さっきは脅すようなマネしてすまなかった」


そう言うと頭を下げて来た。


どうやらアールの言う通り、悪い奴じゃ無かったようだ。


「けどな、あんな力を無闇に使うんじゃねえぞ?只でさえ人間にとってドラゴンの力は脅威なんてもんじゃねえんだからな」


・・・炎女のヤツ、ミミがドラゴンって知ってたのか?!


≪みたいね。警戒は緩めないでね≫


ミミは手で涙を拭くと、炎女に頭を下げ返した。


「うん・・・ごめんなさい・・・もうしない」


炎女は俺へ向き直ると、


「さあ、嬢ちゃんに謝ったぞ?これで手打ちだな。けど、退散はさせねえよ?」


「ああ、分かってるよ」



狭い部屋の中、そのど真ん中に置かれた小さな机を挟んで、炎女と俺達は向かい合って座っている。


ここはギルドハウスの一室、打ち合わせルームだ。


結局炎女に捕まってしまい、事情聴取される事になったのだ。


別に力づくって訳じゃない。


『俺達はただ冒険者登録しに来ただけなのに"今はそれどころじゃない"と断られた』


と伝えたら、


『冒険者登録は私が何とかしてやるから、その代わり話を聞かせろ!』


と言われ、ここに連れ込まれたのだ。


この部屋は、盗聴防止の魔法が施された、冒険者用の打ち合わせルームなのだそうだ。

確かに冒険者なら、同業者に聞かせたくない話も多いだろうしな。


「まずは名乗ろうか。私はS級冒険者のブルーネル・ブルトスカだ。オメェらは?」


「俺はカガリ、ただの冒険者志望だ。この子はミミで、こっちはアール、2人とも俺の仲間だ」


ブルーネルは俺達を交互に見ると本題に入った。


「じゃあ最初から聞かせて貰おうか?」


「最初からって、さっき言っただろ?俺達はただ冒険者登録しに来て…」


「その事じゃない。ドバシェックの事だよ」


「・・・は?」


・・・マズイな、コイツ、どこまで知ってんだ?


「その嬢ちゃんはさっきドラゴンの威圧を使っただろ?あれは名前の通りドラゴンしか使えねえスキルだ。って事は嬢ちゃんはドラゴンで今は人間に変身してるって事だ。そもそもドラゴンってのは人間にも魔族にも組しねえ中立派だ。それが、ドバシェックで大量に目撃されてる。街を覆い尽くす超巨大ドラゴンなんてのも報告されてるしな。そんなあり得ない事があった直後、隣街にもドラゴンの子供がいるなんて、そりゃ『自分達は関係者です』って言ってるようなもんだ。それに、ドバシェックじゃ『空飛ぶ馬車』なんて珍妙なモンも目撃されてるんだが、実は今朝、私は見ちまったんだよな、街の東に『空飛ぶ船』が降りる所をよ。馬車と船じゃ違うけど、珍妙って意味じゃ共通してるしな。だからドバシェック事件の関係者がこの街にも来ているとハナから予想してたんだ。まさか速攻で見つかるとは思って無かったがな・・・それで、お前らは一体何を企んでるんだ?」


「まるで取り調べだな?まあ別に隠す事じゃないから良いけどさ。企んでもないし。けど、話してもどうせ信じないと思うぞ?」


「それはお前の話し振りから判断する。いいから話せ」


・・・アール、どこまで話せば良いと思う?


≪私の正体と超科学の事さえ内緒にしてくれればあとは全部カガリに任せるわ。もし話がこじれたらその時はフォローしてあげるわよ≫


・・・『ぶっ殺す』以外のフォローで頼むぞ!


俺はミミを見た。


「ミミの事は話して良いか?」


ミミはコクリと頷く。


「全部・・・カガリにまかせる」


「分かった・・・ブルーネル、これから話す事は、絶対に内緒にすると誓うか?」


「事件が事件だ。約束は出来ない・・・だが、お前らが良い奴らだと分かったなら・・・このS級冒険者ブルーネル・ブルトスカの名にかけて悪いようにはしないと誓おう!」


「上等だ」


俺は、話し始めた。


俺達が冒険者登録をする為にドバシェックの街へ向かっていた事。

途中、魔族と龍人族との戦闘に遭遇した事。

そこでミミを助けた事。

そして魔将軍のガージャックを倒した事。

ミミに事情を聞いた事。

ミミは龍人族じゃなくドラゴンと人間のハーフだった事。

魔族が罠を仕掛けてドラゴンをドバシェックにおびき寄せていた事。

俺達が空飛ぶ馬車に乗ってドバシェックへ駆けつけた事。

そこでは龍王が魔将軍ヒットハイドの魔法陣で縛り付けられていた事。

ヒットハイドは魔法陣の力で街の人間を殺し、おびき寄せたドラゴンも殺し、龍王からは勇者の力を奪い取った事。

ヒットハイドがコンコルディアスと呼ばれるボスらしき魔族に勇者の力を渡した事。

コンコルディアスの能力でヤツの眷属達に勇者の力を共有されてしまった事。

その勇者の力はSSSという絶望的な程に強い力である事。

俺達はヒットハイドとネフェクティプラゾーマという2人の魔将軍を含め、多くのSSS化した魔族達を倒した事。


そして最後に、亡くなった街の人とドラゴンは残らずゾンビになったので、全員、俺の魔法で跡形もなく火葬にした事。


俺が元勇者である事や、六条達との戦いなど、大筋から外れる部分は端折ったものの、大体の事は話しきった。


ブルーネルは、余りにもぶっ飛んだ話に唖然としていた。


が、俺の話を疑っている様子は無かった。


「まさか、そんなとんでもない事になっていたとはな・・・」


「俺の話を信じるのか?」


「まあな、隠してる事もありそうだが、今話したことに関しちゃ信じるぜ。お前の話し方や素ぶり、連れの2人の反応からして、信じるに値すると判断した。最も、そっちの銀髪女の顔からは何も伺えなかったがな」


・・・そりゃアールの顔は完璧なる無表情だからな。でも声なら意外と感情豊かだよ?


それにしても、ブルーネルが俺の話を疑う素ぶりすら無く、拍子抜けした。


「まさかこんなにすんなりと信じてもらえるなんて思わなかったよ」


「なんだ?不服か?」


「とんでもない、すごく嬉しいよ!」


何せ、クラスじゃ『ウソ月』なんて呼ばれてたからな。


すんなり信じて貰えるってのは、なんと幸せな事か!


俺の中でブルーネルへの好感度は急上昇した。

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