87話 身分証って必要なんだね、オイ
本日はこの1話のみの投稿になります。
飛空挺の中は、馬車に負けないくらいの豪華さだった。
それに加えて更に広くなっていた。
≪そりゃまあ人数も増えたしね≫
・・・いやいや、馬車だってあの人数で広すぎる位だったんだが?
それに飛空挺には馬車には無かった追加の施設も用意されていたのだ。
まずは図書館。
これは東京にある日本最大級の本屋をまんまコピペ感覚で再現したらしい。
やる事が豪快すぎるだろ!
≪この場所は本を取ろうとしたカガリの手と、同じ本を取ろうとした女の子の手が触れ合ってお互いに愛が深まるイベントをイメージして作ったのよ≫
・・・いやいやその程度で愛が深まるとは思えないんだけど?・・・あと、そのシチュエーションって出会いイベントだと思うんだよ。でさ、その女の子が飛空挺内の図書館にいるって事は・・・既に俺と出会ってるって事じゃないか?
≪細かい事は置いといて、とにかく手が触れ合って、そしてゴールインすれば良いのよ!≫
・・・ちょっと中間過程を端折りすぎじゃない?
アールこだわりの施設。
お次はプールだ。
しかも単なる25mプールじゃなくて、滑り台あり、飛び込み台あり、回るプールありの、アトラクション的なヤツだ。
≪ここは勿論、水着の女の子達とキャッキャウフフの大運動会をする為に作ったのよ。騎馬戦会場もあるからね!水着はちゃーんとポロリ仕様にしておいてあげるからね!≫
・・・せんでいいわっ!!
その後も、色々な施設を紹介されたが、その全てに女の子との嬉し恥ずかしイベントが想定されていた。
・・・アールってば、どんだけ大ハーレム帝国推しなんだよ?
まあ、どれも普通に使う分には最高の施設だったから良いけどさ。
ミミなんてそりゃもうはしゃいじゃってるし。
ペガコーンは、デッキ部分に専用の馬小屋が設けられていた。
小屋には超美味しい人参が無限湧きする餌箱が設置されているという親切設計だ。
まあ色々言いたい事はあるが・・・とにかく最高の飛空挺だった。
さて、じゃあ俺たちも行くか。
飛空挺はフワッと飛び立った。
まあ行くといっても隣町だしそれ程時間はかからなかったけどさ。
飛空挺は一応、近くの林に隠しておいた。
ペガコーンはお留守番だ。
隣の街は、ピンラルというらしい。
街の大きさはドバシェックの半分くらいだったが、堅固な城壁に囲まれた街だった。
隣街と言っても、現代の様に街と街が繋がっている訳ではない。
互いに城壁に囲まれて独立しており、ある程度の距離を空けて作られていた。
飛空挺だからすぐに着いたが、歩きだと数時間はかかりそうだ。
ドバシェックの情報はもう伝わっているかと思っていたけど、特に変わった様子は感じなかった。
街の入り口は旅人や商人などで列が出来ていた。
俺たちが列の最後尾に並ぶと、その後ろからもどんどん人が並んで来る。
中々の活気だ。
前に並ぶ男達の視線が一斉に俺たちを突き刺して来た。
正確には、アールとミミにだ。
そりゃ確かに2人共、超絶美女と超絶美少女だからな。
ついでに俺にも
『何でこんな冴えない奴に!』
みたいな目線が飛んできたよ。
これが世に言う嫉妬の目線か?
まさか俺がそいつを食らう事になるとは思わなかった。
人生って分からないものだな。
俺たちの番になった。
門番はアールとミミに目を奪われながらも応対して来た。
「身分証は?」
「それが、身分証を持っていなくて。これからこの街の冒険者ギルドで取得する予定なんです」
すると門番は困った顔をした。
「そうなのか?普段ならそういった場合には通行料を支払えば通してやれるのだが、ちょっと隣町で色々あってだな。実は今、一時的に検問を厳しくしているのだよ。身分証持ちの同伴者がいないのなら、悪いが通してやる事が出来ないのだ」
やはりドバシェックの事はある程度、知られているようだ。
明らかに身分証の無い奴を怪しんでいる様子だった。
やっぱりホリーの言う通り身分証は必要って事か。
それにしても困った。
滝座瀬か三津島のどちらか1人でも連れてくるんだったな。
・・・どうしようか?
≪突破する?≫
・・・おいおい冗談でもやめてくれよ?指名手配なんてされたくないからな!
すると突然、後ろから声がかかった。
「これはこれは、ご無沙汰しておりますなあ」
見ると、全く見知らぬ男がいた。
裕福そうな身なりのでっぷりと太った40代くらいのおっさんだ。
彼の後ろには荷物を山積みした馬車が連なっている。
どうやら商人のようだ。
おっさんは満面の笑顔で近づいて来た。
間近まで来ると、俺にだけ聞こえるような小声で話しかけて来た。
「私が一緒に入ってあげましょう。話を合わせなさい」
どうやら、このおっさんが俺達の身元を保証してくれるつもりらしい。
「彼らは私の友人ですよ。身元は私が保証します」
門番は無言で俺を見た。
俺はコクコクと首を縦に振った。
「ブラボンヌ様がそうおっしゃるのならば、問題ありません。どうぞ!」
門番はそう言って通してくれた。
・・・何とかなったけど、これで良かったのかな?このおっさん、どういうつもりなんだ?只の親切なのか?
≪まあ無事通れたし何でも良いじゃない。もし悪党だったらその時にぶっ殺せば良いだけだし≫
・・・いやいやぶっ殺さないから!今の発言、俺たちの方がよっぽど悪党っぽいぞ?
そして俺達は無事街に入る事が出来た。
俺はブラボンヌさんにお礼を言った。
「ありがとうございました。助かりました」
「いえいえ、困った時は助け合いですよ。所で皆さんは身分証をお持ちでないという事でしたが、どうしてまた?」
俺はブラボンヌさんに、自分達は冒険者を目指して田舎から出てきたばかりで、これから冒険者ギルドへ向かってそこで身分証を取るつもりだと告げた。
「ほうほう、これから冒険者にね。それはそれは夢いっぱいですなあ。気に入りました!では、皆さんの新たな門出を祝して、食事でもご馳走させて下さい!」
「・・・お気持ちだけありがたく頂戴します。実は先を急いでまして」
折角のお誘いは嬉しいけど・・・ご馳走って、虫だよな?もう二度と虫料理は食いたくないんだよな。
「そんな事を言わずに!ぜひとも、我が家へお越し下さい!豪華な虫料理をご馳走しますから!」
やっぱり虫だった。
何度か断ったが、なぜかしつこく食い下がって来る。
結局、俺が折れて、ブラボンヌさんの家で、水で乾杯する事になった。
水って・・・なんじゃそりゃ?
そこまでして祝いたいなんて、どんだけ俺達の門出を喜んでるんだよ?
とんでもなく良い人だな!
・・・なワケ無いだろうけど。
何か俺達を引き止めたい理由がある筈だ。
・・・アールはどう思う?ぶっ殺す以外の答えで頼む。
≪うーん、ぶっ殺す以外って難しいわね・・・だってコイツの脳波をスキャンしてみたけど、それはもう悪意に満ち満ちていたわよ?確実に何か企んでるわね。殺して差し上げる?≫
・・・差し上げません!言い方変えてもダメだから・・・ってか、ブラボンヌさん悪意に満ち満ちてるの?ヤバイじゃん。
結局、このおっさんは、単なる親切で助けてくれた訳じゃ無かった。
俺達に対して思いっきりロクでも無い事を企んでいたのである。
俺は、脳波スキャンによる嘘発見能力を使って、ブラボンヌが何を企んでいるか探る事にした。
ヤツの家まで行く途中、ブラボンヌに色々と当たり障りの無い事を話しかけてみた。
一見、ただの世間話に見せかけて、誘導尋問にかけていく。
超科学の嘘発見能力は凄まじく、嘘が100%分かるどころか、隠し事の方向性まで見通せてしまうのだ。
ブラボンヌは普通の世間話をしているつもりだろうが、実は自ら秘密を暴露していたのだ。
結果、ブラボンヌの家に着くまでに、ヤツの狙いが分かってしまった。
ヤツは表向きは真っ当な商人、裏では、違法な奴隷商人だったのだ。
この世界には奴隷が存在する。
その殆どは、法律に基づいて正式な認可を得た業者が行っているのだが、中には、違法な方法で奴隷を仕入れている人攫い組織があるらしい。
ブラボンヌはその違法業者だったのだ。
ヤツは俺達が身分証を持っていない事に目を付け、攫っても足がつかないと踏んだ。
そしてヤツの家に誘い込み、水に睡眠薬を混ぜて眠らせた後、違法なやり方で無理矢理に奴隷契約を施すつもりだったのだ。
目当てはアールとミミ。
2人の超絶美しい美貌ならとんでもない値段が付くと皮算用していた。
因みに俺は鉱山奴隷にして売り払うつもりらしい。しかもスチル鉱山に・・・また鉱山かよ?ってかそこ、俺の鉱山だから!
とにかく、ブラボンヌは極悪人だったのだ。
初めて知り合った人がコレって、どんだけ運悪いんだよ?
とはいえ、ネタは割れていても、やっぱり現行犯で捕まえてやりたい。
そこで、あえて罠にかかってやる事にした。
「ミミ、飴舐めるか?」
「うん・・・ほしい!」
早速、頬張るミミ。
実はその飴には、ナノマシンが含まれていた。
ソイツらが睡眠薬を中和するのだ。
そしてもう一つの役割は・・・
『ミミ、聞こえるか?』
「え?・・・カガリ?」
『静かに・・・今、俺の魔法でミミの心の中に直接話しかけてるんだ・・・ミミからの返事は聞き取れないから、俺の話が分かったら1つ咳払いをしてくれ」
「・・・こほん」
俺はミミに、ブラボンヌが悪いヤツでこれから俺達で懲らしめるからと、作戦の内容を伝えた。
ブラボンヌの屋敷は周りの家とは比べ物にならないデカさだった。
そして家の中もかなり豪勢な作りになっていた。
まあ馬車や飛空挺には全然敵わないけどな!
俺達はその一室で大きなテーブルを囲んで水の入ったグラスを片手に乾杯を行った。
「それでは、前途ある若者達の門出を祝して、乾杯!」
「「「乾杯!」」」
グイッと水を飲み干した。
この世界って、水だけは美味しいんだよな。
・・・じゃあ、作戦開始と行くか!
バタッ!
俺達は一斉にフラフラと倒れこんだ・・・
フリをした。




