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85話 <閑話:俺の寝てる間に・・・>

深夜、あたりは真っ暗闇だった。

ただ、木々の間からほんの少しだけ月明かりがさしているだけだ。


ここはドバシェックの近くにある林の中。


そこにカガリの馬車は止められていた。


御者台には1人の男が座っていた。


ランサムである。


彼はアールが超科学で作り出した人工生命体である。

素材はナノマシン集合体。

頭脳は超科学製の優秀なAI。


なので24時間眠る事はない。


彼はタバコをふかしていた。


「フー・・・うめえ、体に染み渡るぜ」


タバコは日本製。

しかし市販品では無かった。

ごく一部のセレブだけが手に入れる事が出来る特注品の超高級タバコだった。


別にこのタバコがナノマシンにとって有益な訳ではない。

かと言って害になるわけでもない。


アール風に言えば『単なる演出』である。


しかし、彼はその味をしっかりと味わっていた。

そして肺を通る煙の感触。

それも心地良い。


そう、ランサムには感覚が備わっているのだ。


アールの国では、人工生命体といえど、最低限、人生を楽しむ権利は与えられていた。

なので、痛覚のような活動に不利になる感覚こそ備わっていないが、味覚や触覚など、人生を楽しむのに必要な感覚は、ちゃんと感じる事が出来る様に作られているのだ。


ペガサスとユニコーンの合いの子、ペガコーンも、ランサムの傍らに立っていた。

勿論、眠る事は無い。


ペガコーンは人参を食べていた。


「ヒヒーン」


小さく鳴いた。

ペガコーンにも味覚は備わっているのだ。


彼が食べている人参は、日本の農家がこだわり抜いて作り出した超美味しい特製人参だった。


「ヒヒーン」


また鳴いた。


余程美味しいのだろう。


外の様子は・・・いたって平和だった。


一方、馬車の中は・・・風雲急を告げていた。


ガチャリ


そっと部屋の扉が開けられた。


中から誰かが出てきた。


パジャマ姿の・・・滝座瀬麻耶(タキザセマヤ)だ。


彼女はある場所を目指していた。


カガリの寝室だ。


彼女は・・・カガリの寝込みを襲う気なのだ。


彼女には六条優馬に掛けられたスキル『勇者の口づけ』の命令がしっかりとすり込まれていた。


その内容は、


『海月様の所有物になって、毎日思う存分エロい事をして差し上げる』


だった。


『酷い命令だ』


滝座瀬自身、そう思っている。


しかし、どうしても実行しなければ気が済まないのだ。


最初は嫌悪の感覚が優っていた。


しかし、この馬車に乗り込み、カガリがこれまで受けた仕打ちを知って彼に謝罪し、そして許された事。

ホリーやミミとも打ち解けた事。

アールは取っ付き難いが・・・

しかし、何となく居心地の良さを感じていた。


それに加えてスピーリヒル城とは比べ物にならない馬車の快適過ぎる環境。


虫だって食べなくて良い。


それらが彼女の心を思いっきり緩めさせた事で、嫌でしか無かった感情に革命的とも言える劇的な変化が訪れたのだ。


今、滝座瀬は嫌々では無く、本気でカガリに夜這いをかけようとしていた。


『カガリの初めては、絶対に私が奪ってあげるんだから!』


そしてカガリの部屋の前まで来た。


・・・ん?


扉の前に誰かがいた。


何やらドアノブをガチャガチャ回している。


更に近づくと・・・


三津島沙彩(ミツシマサアヤ)だった。


「沙彩!アンタまた抜け駆けしてるじゃない!油断も隙も無いんだから!」


「あ、麻耶?えへへ、部屋、間違えちゃったかな?」


「見え透いた事言ってるんじゃ無いわよ!アンタも同じ目的でしょ?」


「そ、そうだよ。考える事は同じって事だね・・・」


三津島も本気でカガリに夜這いをかけようとしていたのだ。


「沙彩、アンタ、本気なの?」


「とーぜん!本気だよ?それより、麻耶こそ、カガリ君の事嫌ってたんじゃないの?」


「それは、過去の話よ!今はガチで狙ってるんだからね!沙彩、ここは私に譲りなさいよ?」


「はあ?譲る訳無いでしょ?麻耶こそ、私の純愛を応援する気があるならここは譲るべきでしょ?」


「アンタの純愛なんて応援する気無いわよ。どうせこの馬車の快適さにつられただけでしょ?」


「あ、ヒドっ!それは麻耶の方でしょ?」


「違うわよ!私は・・・純愛よ!」


「私の方が純愛なんだってば!それどころか、熱愛だよ!」


「私だって熱愛でもあるんだから!」


「あー麻耶、私の真似しないでよ!」


「真似じゃ無いわよ、本心よ!とにかく、カガリの初めては私が奪うんだから!」


「ダメだよ!それは絶対私が貰うんだから!」


「「そう。なら・・・やるしかない!」」


睨み合う2人。


バチバチバチ!


暗闇に火花が散った。


「「しゃおらっ!」」


2人が同時に動いた。


ガッツリと互いの手と手を組み合った。

ロックアップの体制だ。


「「ぐぬぬっ!」」


一進一退、押したり引いたり、ぐるぐる回ったり。


しかし徐々に均衡が崩れて来た。


滝座瀬が押され始めたのだ。


ゆっくりと後退する滝座瀬。

押し込む三津島。


ついに滝座瀬が、カガリ部屋の扉に背をついた。


一気に押し込む三津島。


バタッ!


急に扉が開いて2人は勢いよく部屋の中へ倒れ込んだ。


ドシャッ!


折り重なって倒れる2人。


「あ、開いた・・・」


「開いたね・・・」


ゴクリ。


2人の生つばを飲み込む音が鳴った。


「スー、スー」


カガリの寝息が聞こえる。


ドキッ!


2人の心臓が一気に鼓動を早めた。


カーッと顔が熱くなる。


「私、好きな男子の部屋・・・初めて入ったよ」


「私だって初めてよ!だいたい、今まで好きな男子なんて居なかったし・・・六条だって気になる存在止まりだったから」


「私も・・・こんなドキドキした気持ちになるの初めてだよ・・・これが本物の恋なのかな?」


「知らないわよ・・・でも、入っちゃう?」


「うん・・・入っちゃおう」


2人は・・・カガリの左右から布団の中にもぐり込んだ。


カガリの温もり、そしてカガリの匂い。


2人の頭は興奮のあまり・・・


ボンッ!


パンクした。


そして・・・気を失った。



2人が目覚めると、そこは、リビングだった。


ソファの上に2人は寝かされていた。


「ん?ここは・・・」


起き上がった2人の前に仁王立ちしているのは・・・


ホリーだった。


「やっと起きましたか、このエロ魔人共が!」


「エ、エロまじん?」


「そ、そんなのじゃないわよ!」


「ガガリ殿の寝込みを襲っておいてどの口が言いますか!」


2人は正座させられ、延々とお説教が続いたのであった。


ぐったりする2人。


一方、


『言ってやった!』


って感じで満足そうな顔のホリー。


しかし、三津島がふとある事に気づいた。


「あれ?でもさ、ホリーってば、何で私達の夜這いに気付いたの?」


「そ、それは、ガガリ殿のお部屋の前を通りかかった時、扉が開いていたので様子を見てみたのです」


滝座瀬もおかしな事に気づく。


「でも、それっておかしくない?普通、そっと扉を閉めて終わりよね?どうしてガガリのベッドを覗いたのよ?」


「そそ、それは・・・ぞ、賊が侵入したのではと・・・」


ホリーがしどろもどろになって来た。


三津島は追及の手を緩めない。


「それに、こんなド深夜に何でガガリ君の部屋の前を通ったの?あの廊下って、ガガリ君の部屋に用事が無かったら通らないよね?」


「そ、そそそれは、トイレに行くつもりが・・・まま迷って」


「ねえ沙彩、怪しくない?」


「うん、怪しいよね。ホリーって、ガガリの女じゃないんだよね?」


「あ、当たり前です!私とガガリ殿は・・・仲間です!固い絆で結ばれた同志なのです!」


「ねえ麻耶、これって自覚無いパターン?」


「分かりやすいわね」


「ふ、2人とも何を言っているのですか?!」


「まあまあ、落ち着きなさいって!」


「そうだよ?ホリーってば、もしかして初恋だったりする?」


「は、ははははははつ恋ぃぃ??」


2人によるホリーへの尋問が始まった。


そして3人は、お互い抜け駆けしない協定を結んだのであった。



その頃、ミミの部屋では・・・


「スヤスヤ・・・」


何も知らないミミはぐっすりと眠っていた。



そしてアールの部屋・・・


「惜しかったわね・・・あのヘタレ共、まさかベッドで興奮し過ぎて失神しちゃうなんて、計算外だわ」


アールは、ガガリが眠っている時に起動する『第三の目』を通じて、バッチリと3人の騒動をチェックしていたのであった。

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