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84話 <片山クリスティーナの視点1>

「何よ、あれ・・・」


私は自分の部屋で1人、唇を噛み締めていた。


不覚だった。


突然、王女が強硬な手段に打って出たのだ。


「・・・2人にはクエストを与える事とします」


初瀬さんと冷膳さんが王女と対面した大広間、当然、私も『隠密』スキルを使って部屋の隅に潜んでその一部始終を目撃していた。


王女は天に向かって両手を広げると、


「勇者と契約したる聖王女フアナ・ファルガ・スピーリヒルの名により、クエスト『魔王討伐へ繋がりし試練』の発動を請求する。勇者初瀬綾音には魔族に落とされし街パルチの奪還を、勇者冷膳菜綱には魔族に落とされし街リンケルの奪還を命じる!」


・・・何、それ?


私は1人心の中で呟いた。


どうやら良くない事が起こった。

それは一瞬で感じ取る事が出来た。


『王女が切り札を使った』


そういう事なのだろう。


王女はニヤリと笑ってこう言った。


「今、お二人の目の前にはクエストの内容が浮かび上がっている筈です。念の為、私からも補足致しますね・・・クエストとは、勇者の力を貴女がたに宿らせる儀式を執り行った者、つまりこの私だけが発動できる大いなる試練なのです。なお、失敗した際には、魔王討伐の意思が無いものとみなし、契約は破棄、『落勇者』へと落ちて貰いますのでご注意下さい」


・・・何それ?理不尽過ぎるでしょ?!


しかし結局、初瀬さんと冷膳さんが何を言っても王女は聞き入れず、2人は強制的にたった1人でそれぞれ目標の街を攻略する事になった。


着の身着のままで城を追われた2人。


「ごめんなさい・・・」


私はあの時、飛び出して2人をかばう事をしなかった。


しても無駄だと思ったからだ。

例え動いたとしても、2人と同じ運命を辿るだけだっただろう。


なら今は私1人だけでも城に残って、2人を助ける術を探すしかない!


・・・でもそんなのは只の言い訳に過ぎないと自分では理解していた。


理屈では私の選択は間違っていないだろう。


しかし、心情的には、私は2人を見捨てた気分になっていた。


だって間近に居たのに、ただ見ている事しか出来なかったのだ。自分を責めたくもなる。


しかし、


「今は落ち込んでる場合じゃない」


私は強引に気持ちを切り替えた。


収穫はあった。

王女の裏の顔がハッキリと分かったのだ。


やはり、海月君は王女の悪意によって城を追放されていた。


王女は否定していたが、ギボルグの言う通り、海月君は鉱山に送られたのだろう。


拷問の件だって、海月君の破損した称号を修復する為の治療だったなんて、デタラメにも程があった。


こんな調子なら、これからも王女は大いなる悪意で私達を翻弄してくる筈だ。


なぜ王女はそこまでするのか?


本来、私達は魔王討伐の重要なピースの筈だ。

しかも初瀬さんと冷膳さんはS勇者なのだ。

そんな貴重な戦力を、いくら王女に反抗的だったとはいえ、簡単に切り捨てられるだろうか?


私なりに考えてみた。


今回の勇者召喚はこれまでとは比べ物にならない位の大豊作らしい。


いつもならSが1人出るか出ないか、Aだって1人か2人程度しか出ないらしいのだ。


つまりその程度の戦力でも、これまでは魔王討伐が成功していたという事になる。


それが、今回はSが9名にAが6名、おまけにSSまで居る。SSSの海月君はもう居ないが、それでも異常すぎる大戦力だ。


そう考えると、Sとはいえ、不穏分子が2人くらい減っても、戦力的には全く問題無いと考えても不思議じゃ無いだろう。


もしそれが理由なら、戦力はまだまだ有り余っている。

つまり王女の粛清は続くかもしれないという事だ。


しかし、


『これ以上、私の味方になり得る人を減らさせる訳にはいかない』


そう思った。


私と初瀬さんは同盟を組んだ。

大まかに言うと、対六条、対王女、そして海月君救出の同盟だ。


この主旨に賛同してくれる人は少ないながらも居ると思っている。


その中の1人が冷膳さんだったのだ。


同盟に加わるという事はつまり、王女にとっては『不穏分子』という事だ。


ならば、もし少しでも反抗的だと思われたなら、また今回の様な強硬手段を取ってくる可能性がある。


つまり、


『王女に動かれる前に味方に引き入れなければ!』


それしかないと思った。


あの時、初瀬さんと冷膳さんが騎士団によって連れて行かれた後、ポツリと王女の呟きが耳に入ってきた。


「はあ〜。後で勇者様を集めて今回の件を報告しなければなりませんね。新たな反抗者が出ないように上手く伝えなければなりません・・・どうしたものでしょう?憂鬱ですわ」


王女がどう言い繕うのかは分からないが、もしそこで反抗する人が居れば、王女の粛清対象になる可能性が出てくる。


「そうはさせない!」


もう悠長に様子見をしている時間は無い。


「すぐに味方に引き入れないと!」


私は焦っていた。


だって、私が目を付けている次の同盟候補者が今回の一件を聞けば、王女に噛み付くのが容易に想像出来たからだ。


それに私自身、やる事は山積みだった。

六条と王女を警戒しながら、海月君を救い出し、日本に戻る別の方法も探さないといけない。

加えて、初瀬さんと冷膳さんの救出も追加されてしまった。


・・・私1人じゃとても追いつかない!


味方は喉から手が出る程に欲しかった。


私は『隠密』スキルを発動させ、急いで部屋を飛び出した。


そして向かったのは・・・


三太刀葵(ミタチアオイ)さんの部屋だ。


彼女の名前は初瀬さんとの打ち合わせでも、同盟の有力候補者として常に名前が挙がっていた。


彼女も私達と同じS勇者だ。

しかも海月君の称号剥奪を決める多数決で賛成しなかった1人であり、六条がボイコットした訓練に参加したメンバーでもあり、冷膳さんともかなり親しい様子だった。

宇土が暴れた時も冷膳さんと共にすぐ部屋を出ている。


冷膳さんとの違いは、ギボルグを探していなかった事くらいだった。


つまり同盟相手の条件として申し分なかった。


しかも彼女は、あのブルーネル・ブルトスカ元騎士団長にも認められた程の凄腕でもあったのだ。


私は日本にいる間、彼女の事は殆ど知らなかった。

しかしこの世界に来てからの彼女のインパクトは物凄かった。


なんと彼女は、室町時代から続く『三太刀流剣術』を代々受け継いできた道場の一人娘であると共に、流派の次期当主だったのだ。


その強さは際立っていた。


実際、模擬試合ではSS勇者である六条をも圧倒していた。


彼女が味方になってくれれば百人力だ。


コンコン・・・


三太刀さんが出た。

そして部屋に入れてくれた。


私はこれまでの事を話した。


六条の罪、海月君の悲劇、王女の非道、そして冷膳さんの受難。


三太刀さんは、


「むむむ・・・」


と言って熟考を始めた。


長い沈黙の後、彼女は返答した。


「すまない。今回は力になれない」


「・・・・・え?」


予想外の返答だった。


冷膳さんの勧誘を先にしたが、実は私が一番確実だと見込んでいたのはむしろ三太刀さんの方だった。


彼女の言動を見るにつけ、その実直さ、誠実さ、情の厚さは、信頼に値するものだと思っていたのだ。


それに加えて彼女の凄まじい強さ。

S勇者とはいえ、戦闘では素人同然の私達にとっては、最も頼りにしていた人材だった。


その三太刀さんが同盟を拒否した。


「・・・どうして?」


三太刀さんはすまなそうな顔で言った。


「昨夜、急に王女から個別の呼び出しがあってな、私にこの世界の『剣聖』と試合わせてやると言って来たのだ。そしてクエストというものを受けてしまった」


「クエストを?!」


「ああ。おそらく冷膳菜綱と同じモノだろう。私の場合は、この世界の『剣聖』と試合って勝てばクリア、負ければ、クエスト失敗で『落勇者』となる。強者との試合は剣を志すものとして何よりも大切でな。私は『望むところだ!』と、その提案を受けたのだ」


「そんな・・・」


「すまない。お前の勧誘がもう少し早ければ、一も二もなく同盟とやらに加わっていたのだが・・・」


私は目の前が真っ黒になった。


最も頼りにしていた人を、王女に先手を打たれ持っていかれたのだ。


全てが上手く行かない。


冷膳さんの時もそうだ。


私達は、冷膳さんにギボルグを見つけさせ、拷問道具を発見させる事で彼女の疑惑を煽り、彼女の真意を見極めるのが目的だった。

その上で同盟に誘うつもりだった。


あくまで穏便に。


決して、拷問場面を見せるつもりなど無かったのだ。


だから、前日の夜、ギボルグが帰った後に塔へ忍び込み、拷問対象が誰も居ない事をしっかりと確認したのだ。


しかし、蓋を開けてみると、なぜか拷問対象が居て、冷膳さんは凄惨な拷問の現場を目撃してしまい、怒りで歯止めが効かなくなった。

そしてそれにつられた初瀬さんまでが暴走してしまった。


なぜ居なかった筈の拷問対象が居たのか?


考えてみると変だ。

そう思うと不自然な事はまだあった。


怒り狂った冷膳さんと初瀬さんは王女を探した。


すると、まるで待ち構えていたかの様にすんなり王女に会うことが出来たのだ。

しかも、ラクロア団長以下、騎士団も幹部連中が勢揃いしていた。


それに、王女は目配せ1つで騎士団長にギボルグの首を跳ねさせた。


そして拷問された女性を引き取らせた。


言葉も発さず、目配せ1つでだ。


それって、事前にこの展開になるのが知られていたのでは?


三太刀さんへのクエストも不自然だ。


なぜ昨夜なのか?


しかもなぜよりにもよって三太刀さんだったのか?


・・・ダメだ、疑いだすとキリが無い。


『流石に私の考え過ぎだろう』


私はそう結論した。


いや、そう考えるしか無かったのだ。


だって、私1人しか居ないのだ。

余計な事で足止めされている余裕なんて無いのだ。


だからこそ、


・・・罠だろうがなんだろうが突き進むしか道は無いじゃない!!!


私は心の中でそう叫んだ。

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