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83話 <六条優馬の視点>

ドバシェックの街、そこで俺は奴と再会した。

『ウソ月語り』こと、海月カガリだ。


奴は、破損した称号から一体どんな手品をやりやがったのか、『バグ』なんていう反則的な力を身につけていやがった。


俺は奴と戦い・・・惨敗した。


奴はこの俺に『判決を下す』などと上から目線の物言いをしてきやがった。


俺の顔と声とスタイルをぶっ壊して懲役15年、しかも勇者の称号を封印するだと?


フザケるな!


俺は選ばれた存在だぞ?

そんな事が許されて良い筈が無い!


しかし、奴の力は圧倒的だった。


俺は選ばれし男の象徴である、顔と声とスタイルをなす術なく奪われた。


奴はバグの力で俺を猛烈に太らせやがったのだ。

ただ太らせた訳じゃない。人間の限界を超えて太らせやがった。

500キロだと?

そんな体重いくらなんでもあり得なさ過ぎるだろ?


結果、人を魅了してやまなかった俺の声は、口や首にこびりついた脂肪に阻まれて変声し、魅惑のスタイルは、完膚なきまでに崩れ去ってしまった。

顔なんてもはや絶対に見たくない。


・・・ああ体が重い。


SS勇者の力が無ければ、今頃、自分の体重に押し潰されて死んでいるところだ。


果たして俺はこれから、どうなるのだろう?


ああこんな運命・・・まさしく悲劇の主人公じゃないか!


主人公・・・俺に相応しい言葉だ。


ならば主人公の俺は決して死なない。

そして決して屈しない筈だ。


しかし目の前のクソ野郎は容赦なく俺のSS勇者の称号を封印しようとして来やがった。


嫌だ!そんな事は絶対に嫌だ!


ああ神様仏様海月様助けて下さい!


俺はなりふり構わずウソ月野郎に縋った。


最後の手段として、俺は滝座瀬と三津島の身を捧げた。


元々、コイツらは龍王に捧げるつもりだったから問題無い。


ただ、このとんでもない美女達がウソ月野郎ごときの持ち物になるのはムカついた。


しかしこの場は仕方がない。

城に帰ればまだ女は居るしな。


急に、ウソ月の様子が変わった。

俺達を無視して突然現れた魔族と戦い始めたのだ。


それは凄まじい戦いだった。

奴だけじゃない、奴の女達も全員とんでもない強さだった。


しかも強いだけじゃない。

全員、強烈に美しかった。


ウソ月野郎の分際であんな良い女達を手に入れやがって!

アイツらはこの俺こそが手に入れるべきなのに!


俺は嫉妬に燃え上がった。

いや、あんな奴に嫉妬する訳がない。

これは怒りだ。

俺が手に入れる筈だったもの。

SSSの力、バグの力、そしてあの女達・・・


SSSの力は手に入れた。

だが奴は悔しがるどころか気にする素振りも見せなかった。


奴にはまだバグの力と女達が残っている。

だから余裕をかましていられたのだろう。


待っていろよ!

絶対リベンジして、バグの力も貴様の女達も全部俺のモノにしてやるからな!


何はともあれ今はとにかく逃げる事だ。

逃げさえすればやり直せる。

そしてレベルを上げまくって最強にさえなれれば、今回のような醜態は決して晒さない。


何しろ俺にはSSの力に加え、SSSの力まで宿っているんだからな。

SSSの方はまだ扱いきれてないが、時間さえあれば何とかなるだろう。


バリンッ!!!


突然、響き渡る破壊音。


ドバシェックの街を囲っていたあの忌々しい黒い檻が破壊されたのだ。


これは・・・逃げるチャンスだ!


海月達は相変わらず魔族と戦闘中だった。


俺は迷わなかった。


滝座瀬と三津島が『連れて行ってくれ!』と縋って来たが、蹴り飛ばしてやった。


この2人はここで俺の醜態を目撃してしまっている。

今はこのまま城に帰す訳には行かないのだ。


ウソ月野郎ならコイツらにメロメロになって決して離さないだろう。

それならコイツらが城へ戻りたくても戻れない。


俺は2人を置いて逃げた。


滝座瀬、三津島、悪いな。

お前らは、次に俺が奴をぶっ殺した時に取り戻してやる。

その時はもう奴のお古になっているだろうが・・・お前らの顔に免じて許してやろう。


それにしてもこの体は重すぎた。

まともに走れない。


このまま逃げてもすぐに追いつかれてしまうだろう。


俺は街の中へ逃げ込んだ。


街の中は死者で溢れかえっていた。いや、正確には、動いている死者だ。


つまり、ゾンビだった。


外傷一つない、綺麗なゾンビ。

まるで生きている様だった。


しかし、そんな事はどうでも良い。


俺はゾンビ共を容赦なく叩き潰しながら隠れ場所を探した。


魔族との戦闘が終わればウソ月はどこかへ去って行くだろう。


それまで隠れていれば俺の勝ちなのだ。


いつの間にか俺は街の中心付近まで来ていた。


目の前には何の変哲も無い民家があった。


俺はなぜかそこが気になった。


家に入ってみる。


そこには・・・ドラゴンの赤ん坊がいた。


死者しかいないこの街で・・・赤ん坊は生きていた。

スヤスヤと気持ち良さそうに眠っている。


俺はそいつをぶっ殺すべく、懐から短刀を抜いた。

長剣はウソ月との戦いで折れてしまっていたのだ。


俺は短刀を振り下ろした。


「ガキンッ!」


短刀は、龍の鱗に阻まれ、傷一つつける事が出来なかった。


赤ん坊でもこの強さなのか?!


ならばコイツをぶっ殺せばかなりのレベルアップになるだろう。


しかし、その前に赤ん坊が目覚めてしまった。


「ふわぁ〜」


赤ん坊と目が合った。


赤ん坊は俺を見ると・・・・・


「ごはん」


・・・は?


赤ん坊は口からヨダレを垂らしだした。


「ぷよぷよ・・・ごはん・・・おいしそう」


・・・はあああ?!


突如、赤ん坊が襲いかかって来た。


「ぷよぷよ・・・脂肪・・・おいしいそう・・・好き!」


俺に齧りつこうとものすごい勢いで突撃してきた。


俺は咄嗟に、大口を開けた赤ん坊の上顎と下顎を左右の手で受け止め、踏ん張った。


「がががが・・・」


「や、やめろ!俺はエサじゃない!」


必死の攻防。

こんな所で食われてたまるかよ!


しかし、コイツは赤ん坊の癖に、とんでもない力だった。


次第にグイグイ押し込まれて来た。


このままじゃ・・・食われる!


しかし俺は渾身の力を込めて何とか赤ん坊の口を閉じる事に成功した。


チュ!


・・・ん?


必死の攻防で赤ん坊の口が俺の顔の間近まで迫っていた為、閉じた口の先端が勢い余って俺の唇に触れてしまったのだ。


これは・・・キス・・・なのか?


ピコン!


俺がキスを意識した瞬間、目の前にウインドウが現れた。


〜〜〜〜〜

スキル『勇者の口づけ』が発動しました。

龍王の娘ヴァーニャは六条優馬の支配下に入りました。

〜〜〜〜〜


スキルが発動だと?


まさか、人間以外にも通用するとは思わなかった。

しかし発動条件は、


『お互い同意の上での口と口のキス』


だ。


なぜこんな『ただの事故』が同意の上のキスだと判定されたんだ?


確かに俺は口が触れた瞬間、キスを意識した。


しかしコイツは・・・?


俺は赤ん坊の言葉を思い出した。


『ぷよぷよ・・・脂肪・・・おいしそう・・・すき!』


・・・俺は『食料として』しっかり意識されていた。


赤ん坊はまだ俺を食おうとしていた。

必死に口を開けようともがいていたのだ。


「やめろ!俺を食おうとするな!命令だ!」


すると赤ん坊は途端に大人しくなった。


俺は恐る恐る手を赤ん坊の口から離した。


赤ん坊は潤んだ瞳で俺を見つめていた。

ヨダレを垂らしながら・・・


「ぷよぷよ・・・脂肪・・・食べたい・・・ダメ?」


「駄目に決まってるだろうが!」


「やだ、食べたいよー」


「絶対駄目だ!俺はエサじゃない!」


「・・・分かった」


やっと理解したか、この駄龍め!


けどまてよ、さっきスキルが発動した時、


『龍王の娘ヴァーニャは六条優馬の支配下に入りました』


とか表示されてたよな?

コイツ、まさかあの龍王の子供なのか!


ならコイツを送り届ける事で龍王に貸しを作っても良いな。

奴にSSSの力の使いこなし方を聞くのも手だ。


・・・いや、待てよ?


「おい、お前、龍王の子供なら『鑑定』は使えるのか?」


「うん・・・使えるよ?・・・ユーの名前はろくじょーゆーま、SSゆーしゃでしょー?」


「そ、そうだ!他には?」


「うーん・・・かんてーの結果、ろくじょーのお肉はチョーおいしーことがはんめーした」


「エサとして鑑定するんじゃねえ!」


・・・そうか、鑑定が使えるのなら使い道はある。これは急いで龍王に返すのは勿体ないかもな。


「ねえ、食べちゃダメ?ぷよぷよのところだけでいいから・・・イタくしないよ?・・・キズも治すし」


「だから駄目だって・・・おい、傷を治せるのか?」


「うん。ワレの回復まほーはチョーつよいよ?」


「なら・・・この邪魔な脂肪だけを食って、傷は綺麗に治す事は出来るか?傷痕も残さずだぞ?」


「できると思う」


「痛くしないって言ったな?」


「・・・一瞬・・・チクッとするだけ」


「・・・良いだろう。なら試しに一口だけ食わせてやる」


「ホント?やったーぷよぷよ食べるー!」


そう言うが早いか、俺の腹にガブリ!と食らいついた。


ブチブチッ!


勢いよく俺の腹の脂肪が齧り取られた。


しかし、どうせ痛みは一瞬の事・・・どころかずっと続き、チクッとするだけ・・・どころか強烈な痛みが腹を暴れ回った。


「い、いでえええええええええええええええ!!」


とんでもない激痛だった。


赤ん坊はというと、


「もぐもぐ・・・ぷよぷよおしいー」


思いっきり俺の肉を堪能していた。


「ぐおおおお!ごの駄龍が!はやぐ治せ!」


「もぐもぐゴクリ・・・あーおいしかったー。じゃいくよー。治れ治れ痛みよ治れ!キズものこさずキレイになーれ!」


赤ん坊が思い出したように魔法を唱えると・・・なんと傷が一気に塞がった。


あれだけ凄まじかった痛みもすぐに消えた。


そして腹を見ると、傷痕も残さず脂肪だけが綺麗に減っていたのだ。


「はあ、はあ、お前・・・食ってないで早く回復しろよ!!」


「おかわり!」


「聞いてんのかこの駄龍が!」


コイツはどうやらポンコツらしいが、回復魔法だけは一級品のようだ。


この世界の回復魔法はあまり強くないと授業で習った。

ならばコイツの回復魔法はこの世界ではかなり貴重な筈だ。


・・・これは、掘り出し物を拾ったかもな。


コイツの魔法なら、掛けるタイミングさえ間違えなければ、本当に一瞬チクッとする程度の痛みでこの忌々しいぜい肉を減らせるかもしれないな。


だいたい、一刻も早く魔王を討伐しなければならないってのに、地道にダイエットなんてやってられるかよ!


だって・・・500キロだぞ?


どれだけカロリー消費すれば痩せるんだよ?

道のりが果てしなさ過ぎるわ!


それに俺はこの醜い姿と速攻でおさらばして、また元の超絶イケメンに返り咲きたいんだ!


それなら・・・やるしかない!


こうして地獄の『脂肪食いちぎられダイエット』が始まった。

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