81話 <『元』委員長こと初瀬綾音の視点4>
少しだけ残酷な描写があります。
私は全身が熱くなり、涙を必死に堪えた。
やはり、冷膳さんは、海月君の手がかりを探すためにこの男を探していたのだ。
「うう・・・」
ギボルグが小さく呻いた。
「おい、答えろ、お前は何者だ?それと、これはどういう状況なんだ?何でその人に拷問みたいな事をした?もしかして海月にも・・・こんな事をしたのか?!」
凄まじい形相で睨みつける冷膳さん。
「ひいぃ!」
ギボルグはもはや怯えきっていた。
人を散々拷問しておいて根性の無い奴。
そしてギボルグは、冷膳さんに聞かれるまま、全ての真実を語ったのだった。
あの日、訓練官を装って海月君へ近づき、訓練と称して彼をこの塔へ連れ込み、彼に拷問を加えた事。
この訓練が『いいんちょ』の提案であり、これから毎日この訓練は続いていく事。
・・・待って、何それ?
「え?『いいんちょ』って・・・私の事?!私そんな提案してないわよ?」
ギボルグは私の質問に答えた。
「・・・『いいんちょ』が・・・他の勇者に置いていかれないように・・・訓練を激しくさせたと・・・あいつの絶望感を煽る目的で言った・・ぐばぼっ!」
思わず、ギボルグを殴ってしまった。
まさか私が人を殴るなんて・・・
けれどそんな事がどうでも良くなる位、私は動揺していた。
まさか海月君に、拷問が私のせいだと伝わっているなんて・・・
もしかして私は海月君からとんでもなく恨まれているのかもしれない。
そう思うと、怒りと共に、絶望感が襲って来た。
「まさか・・・アンタが『いいんちょ』なのかぐばぼっ!」
「そうよ!あなた、なんて事してくれたのよ!」
私は再び殴り飛ばした。
その後、更にギボルグから聞き出した所によると、
海月君は拷問の後、王女様が待つ部屋へ連れて行かれ、そこで王女様から『勇者の任から外れ、一市民として生活するならこの厳しい訓練も終わる』という提案を受け、それに乗ったという。
しかしその後、王女様から『契約が破棄されたので元の世界へはもう帰れない』、『鉱山で死ぬまで働くように』などと手のひらを返されたらしい。
それを聞いた海月君が『騙された』と憤っていた事も明らかになった。
もちろん、全ては王女様の命令だった。
「あのクソ女・・・!」
冷膳さんの怒りは頂点に達していた。
もちろん、私もだ。
冷膳さんは、落ちていた大きな麻袋にギボルグを放り込んで肩に抱え上げた。
私は、気を失っている女性の傷口へ回復薬をかけ、優しく背負い上げた。
目指す先は、王女様の所だ。
「初瀬さん冷静になって!2人で王女の所へ乗り込むなんて無謀よ!ここは改めて作戦を練った方が良いわ!」
片山さんに小声で止められたけれど、ここまでの事実を知った以上、もう自分を止められそうに無かった。
「ごめん、今は自分を止められそうに無いわ。片山さんは絶対に出て来ないでね。私にもしもの事があったら、後は頼むわね」
私と冷膳さんは塔を出ると、まっすぐ宮殿へ向かった。
大きな麻袋と、血を滴らせた女性を担いだ私達はかなり目立っていたらしく、私達が王女様を探しているのがすぐに伝わったのか、すんなりと宮殿へと通された。
大広間には、王女様と騎士団が居た。
冷膳さんは麻袋を床に放り投げた。
「ぐきゃ!」
麻袋からギボルグが這い出て来た。
私は、背負っていた女性を優しく床に降ろした。
王女は驚くそぶりも無く、
「これは初瀬様、冷膳様、一体どういう事でしょうか?」
冷膳さんは怒りの形相で王女様を見据えると、
「王女さん、このおっさんに見覚えはあるよな?」
「・・・はい。名前は覚えておりませんが・・・」
「惚けんなよ?ギボルグって拷問官だろ?さっき、その女性を地下室で拷問してたぜ?それでぶん殴ったら全部白状した。あんたの命令で海月を拷問して、 契約破棄させて日本へ帰れなくしたって。その上で鉱山送りにしたってな。言い訳はあるかよ?」
王女様は隣に控える騎士団長、ラクロア・スラバントさんへ目配せをした。
彼は私達の訓練官を務めてくれている、とてもお世話になっている人だ。
物腰は柔らかく、爽やかな笑顔が印象的な男性だ。
彼は無言で近づいて来ると、
ズバッ!
目にも留まらぬ速さでギボルグの首を斬り飛ばした。
「な、何を・・・!」
ラクロア団長は、何事も無かったかのように、女性の元へ行くと、女性を抱き上げた。
そして、部下達へ引き渡した。
王女様が口を開いた。
「よくぞ報告してくれましたわ。その者は確かに我が国の拷問官でした。しかし、その権限を逸脱し、夜な夜な女性を攫ってきては拷問を加えているという噂があり、我々も内偵を進めていた所だったのです。現場を押さえて頂いて感謝致します。その女性は私が責任を持って保護しますわ」
「ふ、ふざけんな!それが本当だとしても・・・いきなり殺すなんてあり得ないだろ?!」
「我々の世界では当たり前の事ですわ」
冷膳さんは明らかに動揺していた。
そりゃ、目の前で人が殺されたのだ。
私だって震えている。
けれど、私が真っ先に頭に浮かんだのは、
『やられた。証人の口を封じられた』
この事だった。
私は冷膳さんに代わって王女様へ問い質した。
「ギボルグの罪は置いておきましょう。けれど、私と冷膳さんは彼からハッキリと聞きました。王女様が海月君へ行った仕打ちについてを」
王女様は悪びれた様子もなく、やれやれとばかりに一つ息を吐く。
そして口を開いた。
「仕打ちというのは、先程、冷膳様が仰ったお話の事ですわね?良いでしょう。ではご説明しましょう」
王女様は、転がったままのギボルグの遺体を横目に見て、
「確かにその者は拷問官です。そして、あの日、海月様の訓練を担当した者ですわ。お伝えしなかったのは、皆様の世界では拷問は嫌悪の対象になると、過去の勇者にまつわる文献に載っていたからです。皆様に余計な疑いを与えない為の措置でした。しかし、この世界では、拷問は普通に存在しております。もちろん、無闇やたらには行いませんが、敵国のスパイや、犯罪者、もしくは魔族など、許されざる者に行う事で彼らから情報を引き出しているのです」
「その理屈は分かります。もちろん賛同はしませんが・・・けれど、なぜ海月君に拷問をしなければならなかったのですか?!しかも、私が海月君に拷問するよう言ったと・・・ギボルグはそう言いました・・・なぜ、そんな嘘をついたのですか?!」
「海月様は、龍王様にSSS勇者の称号を剥奪されました。その後、彼の称号がどうなったかご存知でしょうか?」
「『破損』と表示されたと、そう聞きました」
「その通りです。つまり壊れてしまったのです。龍王様も治せないと仰いました」
「それが拷問と何の関係が?」
「この男は拷問官であると同時に、医者でもありました。しかも、拷問する事で得た知識を加える事で医学として独自の境地に至っておりました。あの日、海月様には、この男の治療を受けさせていたのです」
「治療ですって?!」
「はい。破損した称号を元に戻す為の治療です。それは、独自の医学を持つこの男にしか出来ませんでした。そしてこの男の治療は拷問官ならではの、まさしく拷問じみたものでした・・・この男がなぜ初瀬様の提案だと発言したのかは分かりませんが、もしかすると、仲間からの檄として海月様の奮起を促したのではないでしょうか?でなければ治療の辛さに耐えられないと判断したのかもしれません・・・とにかく、治療の為とはいえ、海月様には本当に辛い苦痛を与えてしまい、申し訳ない限りです」
「そんな・・・そんなデタラメを信じろと言うのですか?!」
「デタラメではありません。とはいえ拷問に近い事をしたのは事実。お2人が憤られるのも無理はありません・・・しかしそれをした張本人は先程処刑しました。これでお気持ちも少しは晴れた事でしょう?もし足りなければ、その死体をお渡ししますので煮るなり焼くなり好きになさって下さい」
「ふざけないで下さい!私達は、彼の処刑など望んでいませんでした」
「なら拷問して同じ苦痛を与えたかったと?」
「そんな訳ないでしょう?私達は、真実を明らかにしたいだけです!ハッキリ言います。私達は、王女様が称号を無くして不要になった海月君を処分する為にした事じゃないかと疑っています!」
「それは酷い言い方ですね。私とて傷つきますわよ?」
「それならなぜ海月君を鉱山送りにしたのですか?」
「そのような事はしていません。彼は、治療とはいえ、拷問のごとき苦痛はもう耐えられないと言って、自ら契約破棄を申し出たのです。それはあの書面の文言を読めば明らかでしょう?・・・とにかく、海月様は今頃、どこかの街で普通の穏やかな生活を送っておられる事でしょう。それで海月様がお幸せならばそれで良いではありませんか?」
「・・・・・」
王女様は、私が言う事に顔色一つ変えず、即座に反論して見せた。
全ては嘘に決まっている。
それは明らかだ。
しかし、いかにも辻褄が合っているような言い分でことごとく躱して来るのだ。
・・・これは、手強い。




