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79話 <『元』委員長こと初瀬綾音の視点2>

「許せない・・・!」


私は思わず声に出していた。


「私だって許せないわよ」


片山さんも同意する。


私は海月君の書面を見せられたあの日の事を思い出した。


あの時、王女様は言ったのだ。


海月君が署名する事で既に契約破棄となっていて、この先、彼が元の世界へ戻る事は出来ないと。


そしてこの世界で『落勇者』として死ぬまで迫害の対象として生きる事になると。


それがもしも、拷問によって無理やり書かされたものだったとしたら、それは彼の将来が、そして夢や希望が全て『意図的』に奪われた事になるのだ。


「そんな事、許せる筈がないでしょ・・・!」


また思わず口に出していた。


つまり、それくらい怒っていたのだと思う。


訓練初日の朝、私は確かに海月君を見た。

私達とは合流せず、そのギボルグとかいう薄気味の悪い男に連れられて遠ざかっていく彼の後ろ姿は今でも脳裏に焼き付いている。

それが彼を見た最後だった。


あの時、すぐ彼のところへ行き、無理やりにでも連れ戻していれば・・・


いくら後悔してしきれなかった。


「私だって同じ気持ちよ。あの時、無理やりこっちの訓練に合流させていれば・・・そう思うわ。だってあの場で海月君の事を考えてあげられたのは、私と初瀬さんだけしか居なかったのだから。だから最低でもどちらか1人はあの時に動かなくちゃいけなかったのよ・・・動かなかったせいで、彼は日本に戻る事が出来なくなってしまった。いくら彼がこっちで悲惨な目に遭っていたとしても、戻る事さえ出来れば、日本で普通の生活が送れたんだから!」


片山さんは目に涙を溜めていた。

つまりそれだけ後悔が深いのだろう。


それを見て私は決意を新たにした。


だって片山さんも救ってあげたかったのだから。


それには彼女の力も借りつつ、全力で頑張るしかない。


私は片山さんに言った。


「私は委員長は辞めたけれど責任を放棄した訳じゃないわ。責任の全てを海月君一人へシフトしたのよ。だから海月君は必ず見つけて保護するし、彼も一緒に日本へ帰れる様に、その方法を何としても見つけ出すつもりよ。だから片山さんも一緒に頑張りましょう!」


片山さんは涙を拭きつつ聞いてきた。


「もちろんよ・・・でももし方法が見つからなかったら?」


「それは・・・分からない・・・そうならないように頑張るしか無いわ」


片山さんは、少し間を空けてから自分の考えを告げた。


「・・・私は・・・その時は海月君と一緒にこの世界に残るつもりよ」


「え?片山さんどうして?!」


「私だってもちろん日本に帰りたいけど、それは海月君だって同じでしょ?もし彼だけ帰れないのなら、私も帰る資格は無いと思うし・・・」


片山さんの言葉を聞いて私は大きな衝撃を受けた。


海月君に対する責任から言えば、私だって彼を見捨てておめおめと日本へ戻る事は出来ない。


でもその事を認めたくない自分がいた。


だって、他ならぬ私自身が、何としてでも日本に帰りたいと強く思っているからだ。


だからこそ、海月君も含めて全員で一緒に帰る方法が『見つからない』可能性については、敢えて突っ込んで考えてこなかった。

考える事を放棄したのだ。


私達は、魔王を倒せば戻れるという保証がある。


でも海月君はそれが無い。


私は口では『それでも帰る方法を見つける』なんて言っているが、そんなものが見つかる保証は全く無いのだ。


王女様だってそんな方法は知らないと言っていた。

私と片山さんは疑っているけれど、それが真実の可能性だって当然ある。


なら、もし海月君だけが帰れない事が確定した時、そんな中、魔王を倒す目処がついてしまった時、私はどうするのか?


敢えて『戻る選択』を捨てて、海月君に付き合ってこの世界に残るのか?


果たして私にそんな決断が出来るのか?


片山さんは残るつもりと言い切った。


今の私はとてもそこまでは言えない。

だって、何が何でも絶対に帰りたいから・・・帰りたい理由があるから。


「・・・・・」


結局、私は片山さんにかける言葉が見つからなかった。


「大丈夫よ。初瀬さんにまで残れなんて言うつもりは無いから」


私の気持ちを察したように片山さんはそう言った。


彼女は続ける。


「海月君はこの世界では称号を剥奪されてしまった。村人でさえ『村人』という称号で村人に相応しい能力を得ている世界なのに・・・でも彼は村人にさえなれない・・・龍王は『彼の称号は破損してしまった』と言ってたわよね?『この先、彼の身に称号が宿る事は無いだろう』とも・・・という事は、彼は本当に何も持って無いのよ。そんな状態で、しかも今はこの見知らぬ異世界に独りぼっちなのよ?日本に帰る希望すら無くした絶望の中で・・・それって余りにも寂し過ぎるでしょ?それならせめて私くらいは一緒に残って寂しさを和らげてあげたいのよ」


「けれど・・・それでも残るなんて決断、片山さんだって寂しいじゃない・・・」


「私はS勇者だし、この世界でもそれなりにやって行ける力は貰ってるから。それに魔王を倒したなら英雄として崇められるかもしれないし、マイナスばかりじゃないと思うから。それに海月君といれば1人じゃないし」


「それって海月君と・・・その・・・結婚とか・・・するつもりなの?」


「え?流石にそれは無いけど、私の庇護下で養ってあげる事にはなるんじゃないかな?・・・もし海月君が私の弱みを盾に結婚を迫ってきたら、仕方なくしてあげるかもしれないけど。でも仕方なくよ?私、別に彼の事が好きって訳じゃないから」


「そうなんだ・・・」


片山さんの覚悟には頭が下がる。


だってやっぱり私にはとてもそこまでの覚悟なんて決められないから。


今はまだ・・・・・



「・・・・・一つだけ」


少しの間、2人の間に漂った沈黙を破って片山さんが呟いた。


「残る覚悟は決めたんだけど、一つだけ心が挫けそうな事はあるのよね」


「それって・・・?」


「食事よ。この世界の食事は最悪過ぎるから」


「それは・・・分かるわ!」


私達は、この世界の食事の悪口をひとしきり話した後、この先の事について打ち合わせた。


もちろん、拷問官のギボルグについてだ。


ギボルグを捕まえ、海月君に何をしたのか?


その後、彼はどうなったのか?


そして・・・誰に命令されたのか?


それらを聞き出す為の作戦を練った。


片山さんは、


『以前から目を付けていた同盟候補者をこの作戦に巻き込んで、その真意を見極めたい』


そう提案して来た。


正直なところ、無理やり巻き込むのは本意じゃないけれど、綺麗事ばかりは言ってられない。


それに私もその人については、同盟相手として期待できると考えていた。


だからこの際やむを得ないだろう。


『巻き込む事になってごめんなさい!』


私は心の中で謝罪した。


そして私達は着々と方針を固めていったのだった。

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