78話 <『元』委員長こと初瀬綾音の視点1>
今日も訓練が終わった。
最初こそ、私達勇者へ気を使って訓練は比較的優しいものだったが、それも徐々に厳しくなってきていた。
それは当然だろう。
この世界の人達は魔王を倒す為に私達を召喚したのだ。
何が何でも魔王を倒せるレベルまで鍛え上げるつもりだろうから。
今のところ、みんなは不満を抱えながらも黙って訓練に耐えている。
六条君と滝座瀬さん三津島さんの3人が、龍王様の所へ『毒処理特効』スキルの有無を確認しに行った。
六条君は、
『もしスキルがあったなら、必ず返却してもらう』
と言って旅に出た。
みんなその言葉に期待しているのだ。
実は私も期待している1人だった。
策を巡らせ六条君を旅に出させた張本人の私が、同時に彼の成功を期待しているなんて恥知らずもいい所だけれど、それくらいにあの虫料理だけは心からウンザリなのだ。
私の今の立ち位置は『元委員長』だ。
みんなは、海月君がお城を出た事を自業自得だと責め立て、嘲笑った。
同じクラスメイトなのに酷すぎる。
その時、私はもうみんなと心を一つにする事は出来そうにないと感じた。
そして私は委員長を辞める事で、みんなへの責任を放棄したのだ。
『今後は、救えなかった海月君への償いを果たす事だけの為に動く』
そう決めてみんなの前でそう宣言したのだ。
宣言した夜、片山クリスティーナさんが部屋を訪ねて来てこう言った。
「私と同盟を組まない?」
話し合いの末、同盟を組む事にした。
具体的には、
・六条君がクラスの実権を握る中、彼に取り込まれない為に力を合わせる事
・この国に対する不信感の共有。そしてこの国が私達に隠している事を探る
・日本へ帰る方法は本当に魔王討伐しか無いのか?別の方法が存在する可能性を探る
・信頼の置ける味方を探す事
・この世界のどんな力にも対抗できるように、レベルアップして強くなる為の協力。そして敵対勢力と戦う際の共闘。
・海月君の捜索と保護、そして彼への償い。
このような感じだ。
今のところはまだ私と片山さんの2人だけの同盟だけれど、いずれ信頼出来る仲間を加えたいと思っている。
今夜も私の部屋で片山さんと打ち合わせだ。
決められた時間になると、
コンコン・・・
ドアが小さくノックされる。
私が迎えに行くと、彼女はすでに扉の内側に立っている。
つまりノックは部屋に入った後、扉の内側を叩いているのだ。
「いらっしゃい。いつも見事なものね」
「『隠密』スキルのおかげでね。ほんと便利よ、色々探るにはね」
片山さんのスキル『隠密』は、気配や姿を隠して行動できる。
他にも忍術系のスキルを色々持っていて、それらの能力を『隠蔽』スキルで隠しているのだという。
「今日も居るの?」
「ええ。しっかりとね。あなたの部屋を監視しているわね。王女の部下が」
そう。
私は王女様によって監視されていた。
裏で片山さんが動きやすくなるように、私が表立って六条君やクラスのみんなと対立しているからだ。
表向き、私はたった1人で孤立している。
そんな状況なのだ。
王女様が私を不穏分子として監視対象にしていても当然だろう。
悔やまれるのは親友の留美とも疎遠になってしまっている事だ。
私は留美も同盟に加えたいのだけれど、
『もっと慎重に様子を見るべきだ』
と、片山さんに止められていた。
留美の事をいまいち信頼出来ないらしいのだ。
理由は、
『彼女が六条と居るのを何度か見た事があるから』
だそうだ。
確かに私も、留美が六条君の傍に居るのを何度か見かけた事があった。
日本に居た時、2人には接点なんてほぼ無かった筈なのに。
『六条君が良い顔をしないから、海月君と関わらない方が良い』
と留美に忠告された事もあった。
それを片山さんに話すと、
『六条側についている可能性があるわね』
と、疑いを強めた。
片山さんが言うには、六条君は、クラスの実質的リーダーでみんなからの信頼が厚いが、一方で、近くに置くメンバーは厳選しているのだそうだ。
それが女子ともなると、特に外見に拘るらしい。
『真村さんの外見じゃあ、六条が傍に置くなんて考えられないのよね。という事は、彼女は初瀬さんに楔を打つ為の駒として利用されている可能性があるわ』
片山さんがそう言うのだ。
私は留美の事をそんな風には思えないのだけれど。
それにもし片山さんの言う通り、六条君が女子の外見だけを見ているような軽薄な男子なのだとしても、留美だって充分綺麗だと思うし、普通に魅力的だと思うから。
でも、
『申し訳ないけど、それってお友達目線での話よね?』
と言われてしまった。
でもそれは片山さんが別格に綺麗だからそう感じるのであって、留美だって肌はスベスベだし、あの長くてサラサラの黒髪は羨ましいくらいだし、性格だって本当に良いし。
片山さんのお姉さんはモデルで、しかも相当な売れっ子なのだそうだ。
そして片山さん自身は、そのお姉さん以上の逸材と噂されていて、高校を卒業したらモデルとして芸能界デビューが決まっていると聞いた事がある。
将来は間違いなく日本のトップモデルになるのだろう。
そりゃそんなとんでもないレベルの美人さんから見たら、私や留美なんてレベルが低く見えて当然じゃない?
私の反論に片山さんは呆れ顔で、
『それ、本気で言ってる?・・・初瀬さん、あなた、私に全然見劣りしてないんだけど?・・・クラスの男子が四大美人とか噂してるの知ってるわよね?もしかして、本当に自覚無いの?』
そりゃ、四大美人とか言ってるのは知っているけれど、それは私が委員長だから入っているだけなんじゃないの?だって、他の3人は甲乙付けがたいレベルだけれど、私はかなり地味だし、色気も無いだろうし、とても互角なんて思えないわよ。
片山さんは1つ溜息をついた。
『はあ〜。本当に自覚無いのね・・・まあ良いわ、とにかく、六条はかなりの面食いよ。私は以前、粉かけられた事があるし。初瀬さんもあるんじゃない?』
そういえば、日本に居た頃、やたら親しげに接して来た事があった。
確かその時、彼は一緒に居た留美にはやたら冷たかったのを思い出した。
『そうでしょ?やっぱりおかしいのよ。まだクロと決めつける訳じゃないけど、慎重に見極めないと。失敗すれば、私達も海月君の二の舞になりかねないんだから』
そういう訳で、同盟のメンバー候補から留美は外れているのだった。
私は、部屋に忍び込んで来た片山さんに尋ねた。
「勘付かれてない?」
「『隠密』スキルで隠れながら『扉抜け』スキルで部屋に入っているから大丈夫、勘付かれて無いわよ。それにあなたの部屋を監視している奴は雑魚っぽいしね」
「そう・・・それで、何か分かった?」
「ええ。六条が居なくなってから、見つかるリスクが随分減ってかなり動きやすくなったから。今日は衝撃の事実を持ち帰って来たわよ!」
「それって日本に帰る方法?」
「それはまだ全然ね。お城の奥にある禁書とかを読み漁っているのだけど、今のところは、何も分かってないわ」
「そうなの・・・それで、衝撃の事実って?」
「訓練初日の朝、私達が海月君を最後に見たあの日、彼と一緒にいた訓練官の男を覚えてる?」
「もちろん。薄気味の悪い雰囲気の人だったけれど、その人が見つかったの?」
「ええ、見つけたわ。その男の正体も掴んだしね・・・訓練官なんてのは真っ赤な嘘だったのよ。その男の名前はギボルグ、このお城お抱えの・・・拷問官だったのよ!」
「拷問官?」
「ええ。敵国のスパイやこの国にとって都合の悪い人物を捕まえると、この男が拷問にかけて、情報を聞き出したり、見せしめにしたりするのですって。その後ろ暗い仕事柄、表立って知られている存在じゃないのだけど、王女なら知っていて当然よね?」
私は衝撃で目の前が一瞬、霞んで見えた。
『拷問官』
日本に居た時はそんな言葉、使った事すら無かった。
それくらい、日本の常識的にあり得ない存在なのだ。
もし、海月君がその男に拷問を受けていたのだとすれば・・・王女様が持ってきた海月君直筆の書面、あれは無理やり書かされた可能性があるだろう。
もしそうなら・・・
「許せない・・・!」




