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72話 <真祖ネフェクティプラゾーマの視点>

魔将軍の1人、真祖ネフェクティプラゾーマは鼻で笑った。


目の前の男、まだ少年か?ソイツが身の程知らずにも自分の相手を名乗り出たのだ。


見たところ、魔力は殆ど感じない。

一般市民とさほど変わらない程度である。

しかも、自分の名を聞いても全く動じる気配が無い。


ネフェクティプラゾーマと言えば、人間界にもその名が轟いている伝説クラスの魔族だ。


古より生き続ける、吸血鬼を統べる真祖の1人、そして魔王軍の幹部たる魔将軍の1人でもあるのだ。


以前、人間の書物に自分の事が書かれていたのを読んだ事があった。

その内容はまさしく恐怖の対象以外の何者でも無かった。


そんな自分の名を聞いて何の反応もしないとは・・・


その時点でネフェクティプラゾーマはこの男を完全に舐めきった。


魔族と戦う事が出来るような実力者ならば、名のある魔族の情報を知らない筈が無かったからである。


しかも、今は『あのお方』より与えられたSSS勇者の力という途轍もない量の魔力が加わって、かつてない全能感を味わっている最中なのだ。


「ハッ!随分と弱そうなヤツが相手カカカカカカカカ・・・」


ネフェクティプラゾーマは何が起こったのか理解出来なかった。


体中の水分が瞬時に蒸発し、瞬く間にミイラの様にカラカラに干上がってしまったのだ。


話している途中で体が干からびて最後まで喋れない・・・


こんな摩訶不思議な攻撃は今まで受けた事が無かった。


魔法なら詠唱の必要があるし、ごく稀に存在する、『詠唱短縮』や『詠唱破棄』のスキル持ちの場合でも、体に流れる魔力の動きで魔法が来るタイミングは把握出来るのだが、この男の場合はそれが一切無かったのだ。


それは、何の前触れも無い唐突な攻撃だったのだ。


『何なのだ?これは?』


SSSの力を得る前なら、この時点で死にはしないものの、かなりのダメージは負っていただろう。


しかし、今のネフェクティプラゾーマには全く効いていなかった。


すぐに干からびた体を捨て、再び男と対峙した。


既にネフェクティプラゾーマに油断は無かった。

それどころか、この得体のしれない男とその仲間は必ずここで殺さねばならないと感じた。


しかしそれでも、SSSの力を得た全能感はネフェクティプラゾーマの心の何処かに慢心を生んでいたのである。


次に、突然、心臓に痛みが走った。

いや、痛みどころでは無い。

これは・・・弱点である杭の痛みであった。


まただ・・・突然、何の前触れも無く、心臓に杭が打ち込まれた。


「ぐぶおうぅっ!・・・ぶはっ!」


口から大量の血を吐いた。


『心臓に杭を打たれる』


これが並の吸血鬼なら即死だっただろう。


しかしネフェクティプラゾーマは真祖の1人である。

この程度で死ぬ事は無かった。


しかし・・・


今度は確実にダメージが入った。


『コイツはマズイ』


ネフェクティプラゾーマは恐怖を覚えた。

あの伝説の真祖が、だ。


いくら伝説でも、そしていくら最強でも・・・

全く理解出来ない力、しかも圧倒的な力を持った相手を前にすれば、恐怖せずにはいられなかったのだ。


しかしその恐怖がネフェクティプラゾーマの身を救った。


『!!!来る!!!』


例の『唐突な攻撃』の予感がしたのだ。

それはスキルでも何でも無い、ただ恐怖から来る危険信号だった。


とっさに横に逃げると、体の半分にまたもや無数の杭が打ち込まれた。


「ぐぶぶぶぶぶぶぶ!!」


見ると、さっきまで自分がいた空間にも杭が現れていた。


『コイツは何も無い空間から突然杭を出せるのか?!』


何という理不尽な力だろうか?


ネフェクティプラゾーマは堪らず『コウモリ化』した。


これは自らをコウモリと化して、実態を消す事で敵の攻撃を躱すいわば無敵の回避スキルだ。


コウモリになっても男は容姿無く攻撃してきた。

光の弾を無数に打ち込んで来たのだ。


しかし、無敵の今ならそんな攻撃は全く効かない。

さっきの杭による攻撃すら問題にならないだろう。


『コウモリ化』の欠点は一つ、この姿だと攻撃が出来ない事だ。


ネフェクティプラゾーマはコウモリでやり過ごしながら反撃の機会を伺う事にした。


しかし、すぐにそんな余裕も無くなってしまった。


コウモリの塊が急に消滅したのだ。


また前触れの無い攻撃が来た。

しかも今度は突然消えてしまったのだ。

消えたコウモリ達の反応は全く感じなかった。

この世界の何処かに居さえすれば、感じる事が出来る筈なのだが、それが全く感じられないのだ。


という事は・・・


『この世から消滅した』


そういう事なのだろう。


『固まっていてはマズイ!』


ネフェクティプラゾーマはコウモリの体を分散させた。

そして的を絞られない為に激しく動き回った。

更に、魔力を湯水の如く使ってコウモリを増殖させまくった。


ここまでやってはじめて、男は攻めあぐね始めた。


どうやら男が攻撃する際、的を絞る必要があるのだろう。

という事は付け入る隙があるとすれば、的を絞らせない事だ。


『ここから反撃開始だ!』


ネフェクティプラゾーマは、増殖に増殖を重ねたコウモリから無数の実体を作り出した。

男の攻撃でかなりの数が消されたが、それでも8体が実体化出来た。


こうなればこっちのモノだ。


8体のネフェクティプラゾーマは、男に的を絞らせないよう高速で不規則に動きながら、男を翻弄して行った。


『謎の攻撃』に掠って体がゴッソリ持って行かれる事はあったが、今は、増殖したコウモリ達を巨大なドーム状に囲わせる事で周囲の魔力濃度を高めて体力の消耗を防いでいるのに加え、コウモリを幾らでも補充して傷を癒せるので、何とか凌ぐ事が出来ていた。


このコウモリのドームこそ、ネフェクティプラゾーマの必殺技『蝙蝠窟(ヴァンパイアドーム)』であった。


この『蝙蝠窟』の中ではネフェクティプラゾーマから発せられる魔力が滞留する事で更に濃密さを増し、体力の消耗を抑えるだけでなく、時間を追うごとに魔力的優位が跳ね上がって行くという利点があった。


逆に、敵にとっては、ネフェクティプラゾーマの濃密な魔力に長時間晒され続けることで体が蝕まれ、急速に体力を消費してしまうというデメリットがある。


ネフェクティプラゾーマが強敵と戦う際に用いる必殺の空間であった。


案の定、それ程時間がかからない内に、男が()を上げた。


あの『唐突なる消滅技』の嵐が止んだのである。


『ようやく隙が出来た!』


そう判断したネフェクティプラゾーマは、8体で一斉に男へ攻撃を繰り出した。


「「「「「「「「貰ったあああああああああ!!」」」」」」」」


ネフェクティプラゾーマ達の攻撃が届く寸前、男が何かを叫んだ。


その瞬間、


パッ!


男が消えた。


そして・・・


『蝙蝠窟』を構成していた蝙蝠達が、一斉に燃え上がった。


そして一瞬で燃え尽きてしまった。


蝙蝠のドームが消えたその先で8体のネフェクティプラゾーマを待ち受けていたのは・・・


全てが真っ赤に焼け付く世界だった。

それは広く、どこまでも広く、視界の全てを覆っても覆い尽くせない位に広大な・・・灼熱地獄だった。


8体は、即座にその身に宿る全ての魔力を集約してその身を守った。


そして1体は、放つ寸前だった氷魔法を放った。

攻撃の為ではなく、自らを守る盾としてだ。


しかし、SSSの魔力をこれでもかと込めて放った凄まじい量と強度の氷は一瞬で蒸発してしまった。


1体は、男へ放つ予定だった雷魔法を広大な灼熱地獄へと放った。


・・・何の効果も無かった。


1体は、闇魔法を放った。これは、敵の魔法を無力化しつつ敵にへばりつき、その体を食らい尽くす『闇のベール』という強力な魔法だった。


SSSの魔力が込められた『闇のベール』は、本来ならばどんな魔法をも飲み込んで無力化できる筈なのだが・・・それすら一瞬で燃え尽きてしまった。


ボッ!


ついにネフェクティプラゾーマの体も燃え上がった。


「うがあああああああ!!!」


必死に抵抗するが、からだの炎は更に激しくなり、全身が瞬く間に炭化していく。


1体が堪らずコウモリ化した。


しかし『蝙蝠窟』のコウモリ達が一瞬で燃え尽きた様に、その1体が分散したコウモリ達も速攻で消し炭になって消滅した。


ならば今は『あのお方』から貰ったSSSの力を最大まで絞り出してその体を守るしかない。


それでも炭化した体が回復する事は無かった。

いや、回復しないのではなく回復が全く追い付かない程に体が燃え上がっているのだ。


SSSの力を持ってしても・・・


1体は、最後に男が発した言葉を思い出していた。


『大・太陽葬!』


太陽葬・・・太陽・・・


「太陽かああああああああああああああああああああ???!!!」


そしてネフェクティプラゾーマ達は全員、灰も残らず消滅した。

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