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60話 <密かなるアールの活躍>

この回は、カガリ視点ではありません。

アール、ホリー、ミミの3人は、じっとカガリの戦いを見守っていた。


今回はカガリに任せるとみんなで話し合っていたからだ。

なので、カガリに助太刀を頼まれたり、余程の事が起こらない限りは動かないと決めていた。


今のところ、自分達が動く心配は無いだろう。


龍王はカガリの攻撃を受けて気絶中、ヒットハイドと呼ばれた魔族は、上半身をふっとばされている。


ちょっと気になるのは、ヒットハイドは下半身だけで未だに立っている事だ。

スキャンしてみると、僅かに生体反応があった。

つまり、まだ生きているのだ。


『魔族の生態はまだまだ謎ね』


アールはそう思った。


しかし、ヒットハイド以外の魔族は大した事無さそうだ。


殆どの魔族は龍王以外のドラゴン達と共に、『黒光檻』の外側にいる。


内側にいるのは1人、ザコっぽい奴だけだ。

そいつも、さっきのカガリの火力を見てすっかり戦意を失っているみたいだった。


今、カガリに攻撃を仕掛けているのは、滝座瀬麻耶と三津島沙彩、確か2人ともS勇者だった筈だ。


しかし、その攻撃は素人同然だし、動きも悪い。


2人が放っている魔法は悪くないエネルギー量だが、それだけだ。


素質こそ素晴らしいが、レベルは大した事無いのだろう。


アールは、ミミに聞いてみた。


「ねえ、あの2人のレベルってどの位?」


「2人とも15・・・ザコビッチ」


「六条は?」


「80・・・カガリからみればザコ・・・私じゃ・・・たぶん勝てない」


しゅんとするミミ。


ホリーはミミの頭を撫でた。


「ミミ殿は私がお守りします!ご安心を!」


「ん・・・ホリー・・・ありがとう」


その様子を微笑ましく見守るアール。


『まさか私が微笑ましさを覚えるなんてね』


アールは自分の気持ちを不思議に思いながら、六条を見た。


六条は、懐から取り出した液体状の薬らしき物を顔にかけていた。


完治はしていないが、多少見れる顔に戻った六条は、ザコ悪魔を見ていた。

ミミの鑑定によると、ザコ悪魔はドッタートという名前らしい。


六条がドッタートを見る理由は・・・SSS勇者の玉以外には無いだろう。


実際、アールがドッタートをスキャンしたところ、その手に玉の力らしいエネルギー反応があった。


さて、どうするか?

しかし、アールは動かなかった。

もし、六条が玉を手に入れても、大した問題にはならないと判断したのだ。


この場は『黒光檻』で封鎖されており、六条が逃げる事は出来ない。


それに、もしSSS勇者の力を六条が使いこなせたとしても、余裕で対処可能だと想定していたのである。


『この展開はまだ私が動く程の状況じゃない』


それがアールの結論であった。


そして六条が動いた。


走り出すと一気にドッタートへと肉迫した。


「げっ!落勇者!何するつもりど?!」


「落勇者?その設定はもう終わってるんだよ!・・・輝き斬れ!光勇剣[豪]!」


すると六条の右手に光で出来た剣が現れた。そして剣を振りかぶりドッタートへ斬りつける。


ドッタートは口から刃状になった舌を出して受け止めた。


しかし、受け止め切れなかった。


六条の光勇剣は、舌を切断して、そのままドッタートを真っ二つに斬り捨てたのだ。


ドサッ!


崩れ落ちたドッタートの手から玉を奪い取った六条。


その顔が歓喜に包まれた。


「やった!これでSSSは俺の物だ!」


六条は迷わず玉を口に入れ、そして飲み込んだ。


「・・・・・」


しかし、何も起きなかった。


「なぜだ?龍王はこれで力を得ていた筈だぞ?」


焦る六条。


しかし、次の瞬間、六条が・・・消えた。


SSS勇者の力が目覚めた・・・・・訳では無かった。


アールの視線が追い付くと、六条は、何者かの大きく長い舌に巻かれ、物凄い速さで引っ張られていたのだ。


舌の出所を見ると、それは、ヒットハイドの下半身からだった。


ヒットハイドの千切れた腰周りの切断面から、同じ太さの舌が長々と伸び、六条を絡め取っていたのだ。


長く伸びた舌は、物凄い速さでヒットハイドのからだへ収納され、遂に六条も飲み込まれてしまった。


「マズいわ!」


さっきまで静観していたアールが焦った。


六条は、カガリの最も重要な復讐相手だ。

それがこんな訳の分からない展開で呆気なく命を落として良い筈が無い。


だって、カガリはまだ、六条を一発殴っただけだからだ。


六条には、カガリの気が済むまでボコられて貰わないと困る。


だから、アールは動いた。


ヒットハイドの下半身へ肉迫すると腰の断面へ手を伸ばして、飲み込まれていた六条を巻き付いた舌ごと引き千切って引っ張り出した。


しかし・・・六条の胸には大穴が開いていた。


そこに玉の反応は無かった。


六条は、胸ごと抉られて玉を抜かれたのだ。


「これは・・・致命傷だわ」


まだ息こそあるが、死ぬのは時間の問題だった。


「何で私がこんなクズの命を助けなきゃいけないのよ!」


アールは1人悪態をつきながら、六条の治療に当たった。


六条の胸の組織はゴッソリと欠損していた。


時間が許すなら、ゼロから組織を急速培養して埋める事も出来るが、六条は虫の息だ。培養する時間は無かった。


そこで、六条に巻き付いたヒットハイドの舌の組織を使って応急処置を施した。

まず舌の組織で欠損部分を応急的にカバーする。

それで命を繋ぎつつ、六条本来の組織を急速培養し完治させる。


これで完璧だ。


アールは処置を終えると、再びヒットハイドの下半身へ腕を突っ込んだ。


玉を探す為だ。


実は、幾らスキャンしても、ヒットハイドの体から玉の反応が消えていたのだ。


理由は分からないが、ヒットハイドの体の中で何かが起こっているのは確実だった。


「うっ!」


アールが小さく声を上げ、腕を引き抜くと、その腕は・・・


肘から先が無くなっていた。


「「アール!」様!」


驚いたホリーとミミがアールへ駆け寄ると、


「大丈夫よ。ちょっとしくじったわ。玉を取り戻して来るから、その間この体を見ていてくれる?」


そう言うと、眠るように目を閉じた。



ナノマシン集合体にはその1つ1つに、『技術ランク』というものが存在する。


例えると、人間の細胞1つ1つに役割や重要性そして力の差があるようなものだ。


アールの体を構成しているナノマシンも、1つ1つ差があって、その全てが高い技術ランクで出来ている訳では無かった。

ランクの高いナノマシンがランクの低いナノマシンを統率し、それらが無数に集まって組織になり、体を動かしているのだ。

それに高いナノマシンでしか使用出来ない技術も数多く存在していた。


アールの体には高ランクのナノマシンが比較的多く含まれている。それはもちろん、カガリを守り、サポートする為だ。


だから、斬り落とされた腕にも、高ランクナノマシンが相当数含まれており、その腕だけでも、充分な戦力足り得たのである。


その腕は、自分に起きた状況をしっかりと把握していた。


ヒットハイドの下半身へ突っ込んだ腕。

しかし、中にはもう玉は無かった。

その代わり、空間に穴が空いていたのだ。

その穴は、どこか別の場所に繋がっているらしい。


玉は、間違いなくその穴から何者かによって奪い取られたのだろう。


アールの腕は、その穴を潜り抜けた。


そこは、どこかの部屋だった。

かなり広い部屋だ。


雰囲気的に近いのは、カガリ達が召喚されたスピーリヒル城の広間か?


ならば・・・もしかすると魔王城?


その瞬間、何者かに腕が斬り落とされた。


アールの腕には、弱いレベルに下げてはいたがバリアが掛かっていた。

それにアールの腕自体だって相当な硬さである。


それをサックリと斬り落としたのだ。


敵は相当な遣い手だ。


『SSSの力を欲する位だ、それにあの実力・・・・・魔王かもしれない』


アールはそう思った。


斬り落とされた腕を放置して、そいつは姿を表した。


黒髪赤目で、スラッと背は高いが肌は病的に青白い。

しかし、目の覚めるような美男子だった。


その男は、鋭く尖った犬歯を剥き出しにして1人呟いた。


「ようやく、我が悲願が叶った・・・これで我が魔族が・・・神をも凌駕する力を得るだろう」


男は、口を開けて玉を飲み込もうと・・・


しかし出来なかった。


ズガガガガガガガガガガガガガガガガ!!


アールの手から、ビーム機関銃の雨が浴びせられたのだ。


男の体は粉々の蜂の巣になった。


しかし、まるで時間が巻き戻ったように男の体は元の姿へと再生してしまった。


「ほう、腕だけでもその様なマネが出来るとは・・・しかも魔力を一切感じぬ。奇怪な!」


男はアールの腕をみて呟いたが、その目が思わず見開かれた。


アールの腕がウネウネと形を崩したと思うと、その体積を増して・・・・・アールの姿になったのだ。


「これはこれは、奇怪を通り越して・・・こんなに美しいお嬢さんになるとは!ようこそ、我が城へ」


アールは、男を頭からつま先まで舐めるように見て、問いかけた。


「あんた・・・・・魔王?」


男は、ニヤリと笑うと、


(ワレ)が魔王かと?ふふふ、鋭いではないかお嬢さん、まあ、この場ではこう答えておこうではないか。魔王のようであり、そうでないようでもある。と」


「謎々は嫌いなのよ」


アールは再びビーム機関銃を浴びせた。


ズガガガガガガガガガガガガガガガガ!!


男は今度は軽やかに飛び上がって躱すと、部屋の天井へ足を着き、逆さまに立ちながら、片手を胸へ宛て、一礼した。


「我が名はコンコルディアス。今はそれだけで良かろう?」


アールはその完璧なる無表情でコンコルディアスを見上げた。


「いいわ、じゃあ名乗ってあげる。私はアール。魔王以上に魔王しちゃってる女よ!」

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