56話 <ドバシェックの陰謀4>
六条達のくだり、後半です。
本日の分はこの投稿でラストです。
「「死んでも取り返さなきゃ!」」
滝座瀬と三津島が同時に呟いた。
「ぎへへへへへ!オレっちに勝てると思ってるのかよ?このビッチ共はよお?」
「だからビッチじゃ無いってば!」
「調子に乗らないで!このキモ魔族!」
「吹き放て、斬旋風[強]!」
「凍て貫け、氷甲弾[強]!」
ふたりは魔法をキモ魔族へ放った。
しかしいずれも命中せず、空を切ってしまう。
キモ魔族こと、ドッタートはいとも容易く2人の魔法を躱して見せたのだ。
いくらS勇者と言っても滝座瀬と三津島のレベルは低い。戦いも素人同然だった。
それに比べてドッタートは魔族の中でもそれ程強い訳では無かったが、それでも今回の作戦に動員される位には戦闘経験は豊富であった。
そしてドッタートの強みはその素早さにあった。
奴がトップスピードで戦えば、滝座瀬と三津島はとても敵わないだろう。
案の定、
「ぎへへへへへ!ちょっくら遊んでやるど!ってかあ?」
シュピンッ!
「きゃ!」
ドッタートのスピードアタックを受けた2人は、再び三津島が滝座瀬を押し倒す事で辛うじて攻撃を回避した。
「あっぶな!今度は胸を刺される所だった!死んでたかも!」
「あ、ありがとう、三津島さん…」
「沙彩って呼んで!」
「うん、私も麻耶で良いからね!」
2人はこれまで、ただ六条を通じての関係性しか無かったが、ここに来て急激に絆が深まった。
お互い、六条という『この世界で最も信じていた人』から酷い仕打ちを受けた者同士だ。
そして次々に襲って来る命の危機。
2人の絆が急激に深まるのは当然と言えた。
「吹き放て、斬旋風[強]!」
「凍て貫け、氷甲弾[強]!」
しかし、いくら絆が深まっても、碌に戦闘経験も無い2人の攻撃は単調そのもの。
何も変わらなかった。
馬鹿正直にドッタートへ向けて正面から魔法を放っては余裕で躱され、逆に必殺のカウンターを食らう。
その繰り返しだった。
ドッタートはもはや完全に遊んでいた。
そんな絶望的な状況の中、何度も致命的な攻撃を受けているにも関わらず、未だにかすり傷で済んでいるのは、三津島のスキル『大災視』のお陰であった。
本来はもしもの時にしか発動しない筈の『大災視』だが、今はフル回転で三津島に自身の危機を伝えまくっていた。
つまり、それだけ『もしもの時』が今この瞬間、何度も何度も繰り返し訪れているという事だ。
「麻耶、私から絶対離れないでね!このスキルは私への危機にしか反応しないから、少しでも離れれば、麻耶の危機が見えなくなるし!」
「分かった。ごめんね、頼りっぱなしで・・・」
「そんなの良いって!2人して『死んでもあの玉を取り戻さないといけない』んだから!」
「ねえ沙彩、私達、どうしてこんなに必死に命まで掛けてあんな玉なんかを取り戻そうとしてるんだろ?」
「さあ?でも、そうしないといけないんだよね?」
「うん。嫌で仕方ないけど・・・やらなくちゃ・・・」
「吹き放て、斬旋風[強]!」
「凍て貫け、氷甲弾[強]!」
一方、六条はというと、龍王と対峙していた魔族=ヒットハイドに睨みつけられ、大量の冷や汗を流していた。
話はほんの少し前に遡る。
滝座瀬と三津島に玉の奪還を命じた後、龍王が六条へ話しかけて来たのだ。
「やめておけ・・・少年・・・お前では奴に・・・勝てねえ」
龍王が途切れ途切れに言葉をかけてきた。
「何だと?」
「ドラゴンは皆『鑑定』スキルを使える・・・そいつのレベルは・・・565だ・・・今のお前では・・・到底敵わねえ」
それを聞いて六条は戦慄した。
今回旅に出る際、六条は王女から国の秘宝であるレベルアップの秘薬を授けられていた。
それを飲んでただ1人大幅なレベルアップを果たしていたのだ。
そのレベルは実に80。
自分ではもはや最強に近いと自信を持っていた。
なのに・・・
『あの魔族が565だと?』
『あり得ねえ。80なんてクソの役にも立たねえだろうが!』
『あのクソ王女、ガラクタを飲ませやがって』
六条は心の中で王女に悪態を吐きまくった。
六条が冷や汗を垂らす中、
ヒットハイドは、六条へ問いかけた。
「貴様等、勇者だな?」
「・・・・・違う」
六条は・・・・・否定した。
「・・・・・え?」
龍王は・・・・・唖然とした。
「はて?違ったか・・・まさか勇者ともあろう者が称号を偽る筈もあるまいし・・・ならば貴様等は何者だ?」
「・・・・・落勇者だ」
「少年テメエ・・・何をっ!」
龍王が慌てて六条へ言葉を投げかける。
ヒットハイドは、興味深そうに六条を見た。
「ほう、落ちた勇者か。しかしその割には『落勇者の匂い』がしないが?」
六条は座学で習っていた。
『落勇者』になると、隠していても何故だか周囲に『落勇者』だと勘付かれてしまう。
その現象を『落勇者の匂い』というらしい。
六条は平静を装って答えた。
「そりゃあ、これからなるんだからな」
「これからなるだと?ならば貴様、やはり勇者ではないか!」
ヒットハイドの目が険しくなった。
六条の冷や汗も一気に増した。
奴のレベルは565。
今の自分ではどう転んでも勝てないだろう。
戦うだけ無駄だ、瞬殺される。
なら今は如何に誤魔化してこの場を逃れるか?
答えは無い。
しかし見つけなければ、命が無い。
六条の頭は今、フル回転していた。
「確かに、ステータス上はそうなるが・・・俺はもう勇者を捨てているんだ。だからあんたの敵じゃない」
「信じられんな」
「信じてくれ!あんた、さっき言ってただろ?『勇者ともあろう者が称号を偽る筈が無い』って!本物の勇者が自分を『落勇者』なんて言う訳ないんだ!だから『落勇者』と名乗っている俺は既に落勇者なんだよ!あんたの敵じゃない!」
「・・・確かに。これまで戦って来た勇者達は皆、誇り高き者共であった」
六条は、かつての誇り高き勇者達に感謝した。
「だろう?だから信じて…」
しかし六条の言葉はヒットハイドに遮られた。
「そして、これまで出会って来た落勇者達は皆、等しくクズであった」
その瞬間、ヒットハイドの殺気が一気に高まった。
「しまっ…」
「死ねえい!」
ヒットハイドが問答無用で殺しにかかって来たのだ。
落勇者設定は地雷だったか?!
六条は、かつてのクズ極まりなき落勇者達を怨嗟した。
『駄目だ!』
六条が死を覚悟した瞬間、
ドカーーーーン!!
大音声と共に、何故か龍王が大爆発した。
「うぐおおおぉぉぉ!」
龍王の苦しげな声が上がる。
しかし、その謎の爆発に助けられ、ヒットハイドの攻撃の手が止まった。
ドッタートと滝座瀬・三津島の戦いも中断されている。
「よっしゃあ!まずはクソデカい的へ挨拶がわりに一発ぶちかましてやったぞ!」
「挨拶じゃないでしょ?こういう時は『復讐の狼煙を上げてやったぜ!』よ!」
そんな掛け合いをしながら現れたのは・・・
海月加架梨と仲間達であった。




