54話 <ドバシェックの陰謀2>
六条優馬は、元委員長である初瀬綾音との舌戦に敗れ、龍王を探す旅に出るハメになった。
龍王が海月から奪ったSSS勇者の力の中に『毒処理特効』スキルが含まれていたかどうかを確認する為だ。
『毒処理特効』スキルとは、魔獣の肉から毒を抜き去って食用肉への転用を可能にするスキルで、今、勇者全員が喉から手が出るほど欲しているスキルであった。
もし含まれていた場合には、そのスキルだけでも返して貰わなくてはならない。
これは、もはや勇者達全員に共通する目的になっていた。
もしかすると彼等にとっては、魔王討伐よりも重要かもしれない。
六条にとって初瀬に舌戦で負けた事は腑が煮え繰り返る程の屈辱だった。
しかし、ことこの旅に関してだけを取るならば、実は願ったり叶ったりだと考えていたのだ。
何故なら、六条自身、海月が『毒処理特効』を持っていたのではないかという疑問には早くから思い当たっていたし、クラスのみんなが虫しか食べられない今の状況にしても、魔王討伐へのモチベーションという意味では、早急に対処しなければならない事態だと思っていたからだ。
六条自身、今は王女の好意で魔獣肉を食べさせてもらっているが、いつまでもみんなに内緒で食事をする訳にもいかない。
無理に続ければ、確実に怪しまれるだろう。
それに、旅先など、みんながいる前では平然と虫を食べて見せなければ示しも付かない。
しかし、
『あんなグロくて不味いもの、絶対に食いたくない!』
この事であった。
かつて六条が、虫料理を見て大パニックに陥ったみんなを纏めた時、1人平然と虫を食べて見せたが、あれは単なるパフォーマンスであって、完全なる痩せ我慢であった。
『SS勇者の俺が何で虫なんて食べないといけないんだ』
これが六条優馬の偽らざる本音であった。
六条には、今回の旅で1つの思惑があった。
それは、自分が『毒処理特効』スキルを手に入れる事である。
あれだけの大混乱を巻き起こした虫食なのだ。
もし自分1人だけが『毒処理特効』スキルを手に入れられれば、クラスを完全に支配出来る。
六条は思う。
『初瀬だって言ってただろ?魔獣肉を食わせてくれるならあの海月の女にだってなってやると』
あの堅物の元委員長にそこまで言わせるのだ。
『ならば俺になら、自分から喜んで尻尾を振ってくるに違いない』
初瀬だけじゃない、四大美人、三大アイドル、二大エロス、そしてその他の女子、全てが六条の掌の中にすっぽり収まるだろう。
男子だって同じだ。
魔獣肉を盾に取れば、みんなを思うがままに使い倒せるだろう。
六条がレベルアップする為だけに、彼らをサポート役へと回らせる事も出来る。
それに、もしもの際には捨て駒にだって出来る。
もし龍王が『毒処理特効』を持っていなければ、これらの野望は潰えるが、それならそれで『この俺に無駄足を踏ませた』として、初瀬を責める材料にはなる。
とにかく、六条にとってこの旅はどちらに転んでも自分にとってプラスになる旅だったのだ。
六条はこの旅に自分の手駒を2人同行させた。
滝座瀬麻耶と三津島沙彩である。
滝座瀬は四大美人の一角、三津島は三大アイドルの一角で、当然ながら相当な美人であり、しかも2人共がS勇者であった。
六条と滝座瀬は、日本にいた時から親しかった。
恋人関係では無かったが、互いに意識していた位には親密だった。
しかし三津島とは特に親しかった訳ではない。
それどころか、お互いに殆ど絡んだ記憶が無かった。
それは、美男美女で並び立つ2人にしては不思議にも思える希薄な関係性ではあった。
そんな彼らも他のクラスメイトと共にこの世界に召喚されてしまった。
見知らぬ異世界で不安しか無い滝座瀬と三津島にとって、王女や龍王に堂々と渡り合う六条は途轍もなく頼もしく見えた。
あの『海月を追放した出来事』にしても、
『嫌われ者の海月を放置すればSSS勇者の権限で女子は全員、無理やり奴の女にさせられるぞ』
という六条の言葉によって、
『六条君が悪い奴を懲らしめてくれた』
位にしか感じていなかった。
むしろその事で、悪者から守ってくれた六条への信頼が増した程だ。
だから、そんな六条から口説かれれば、
『そりゃキスするでしょ!』
この事であった。
しかし、彼女達は気付かない。
その時、六条のスキル
『勇者の口づけ』
が発動した事を。
このスキルは、口づけをした相手を無意識のうちに隷属化出来るというものだ。
文字通り『恋の奴隷』にしてしまう凶悪極まりないスキルだったのだ。
発動条件は、お互い同意の上での口と口によるキス。
つまり、無理矢理や、寝ている間、口以外の場所、などでは発動しない。
それでも、六条ほどのイケメンにとっては、それ程ハードルの高い条件では無かった。
既にこのスキルが発動した2人に対して、六条はどんな命令でも好き放題言える立場だった。
しかし実際には2人とキス以上の事はしていなかった。
なぜなら、六条はそれらの行為をスキルの力では無く自分の実力で勝ち取りたかったからだ。
だからこそ、2人に魔獣肉を食べさせて機嫌をとったりもした。
この旅の様な急展開さえ無ければ、じっくり関係を築いて、いずれ2人とは恋人関係になっていただろう。
しかし今は無理だ。
2人共、旅の楽しさ以上に不安や緊張の方が大きい。
そんな中で無理に口説けば断られる可能性もあるだろう。
完璧主義の六条にとって、自分がフられるのは我慢ならないのだ。
ならば、スキルの力で無理矢理に想いを遂げる方法もあるが、それにもリスクはあった。
このスキルは、ただ盲目的に命令に従う訳ではなく、自我が存在したまま命令に従うのだ。
つまり、もしそれが嫌な命令だったなら『嫌々やらされた』という記憶が残るのだ。
という事は、もしキス以上の行為を命令した場合、2人は命令にこそ逆らえないが、六条に対して『無理矢理させられた』と強い恨みが残ってしまうのだ。
それはまずい。
『今はまだな・・・』
なぜなら、もし龍王が『毒処理特効』を出し渋った場合、交換条件として、S勇者2人分の力を引き換えに差し出すつもりでいたからだ。
『その前に反抗されても厄介だ』
これが六条の思惑であった。
勿論、そうならないに越した事は無いが、もしもの際には2人を容赦なく切り捨てるつもりだった。
まさにその為に『自分の言葉に逆らえない』2人だけをこの旅に連れて来たのである。
実際、今回の旅への同行を希望するものは多くいた。
城での模擬的な訓練ではない、異世界での『本物の旅』が出来るのだ。
男子を中心にかなりの人数が手を上げた。
しかし、六条はそれらの申し出を全て断った。
いざという時、滝座瀬と三津島を犠牲にする事に反対されるのを防ぐ為と、この陰謀の目撃者を出さない為だ。
六条だって、このやり方がクラスメイト達の反感を買うことは当然分かっていた。
だからこその3人旅なのだ。
3人は、王女から借りた、龍王を探す魔道具『ドラゴンキングレーダー』を頼りに旅を続け、龍王に迫って行った。
その旅は、スピーリヒル帝国の全面的なバックアップもあって、比較的順調ではあったが、滝座瀬と三津島にとっては、慣れない環境から来るストレスでかなりの疲労が溜まっていた。
それでも、多くの偶然にも助けられながら、遂に龍王の近く、ドバシェックの街付近までどうにか辿り着く事が出来たのだ。
そして遂に3人の旅は大きな局面を迎える事になる。
「何あれ?ドラゴン?」
「ちょっと、デカ過ぎない?」
遠くからでも見えるそのシルエット。
目指す先には超巨大ドラゴンがそびえ立っていたのだ。
六条がドラゴンキングレーダーをかざすと、一際大きく点滅した。
「間違いない。あのデカブツが龍王だ」
しかし、何かがおかしい。
異変を感じた六条達は、誰にも見つからない様に隠れつつ、龍王へ近づいた。
すると、龍王は1人の男と対峙しているのが分かった。
その男は、スキンヘッドの頭に小さな角を三本生やし、肌は燻んだ水色、背後には細長い尻尾を二本、ウネウネと蠢かせ、背中から生えた大きな羽根を2枚、バタバタと羽ばたかせていた。
そして人の頭骸骨をへッドに付けた杖を片手に持ち、龍王の目線と同じ高さを飛んでいた。
「なにあれ?キモいんだけど?」
「だね。絶対悪者じゃん?アイツ」
「あれは・・・魔族か?」
六条はすぐにピンと来た。
魔族については、訓練の合間に行われる座学で既に習っていた。
そして目の前にいる男の外見や雰囲気は、習った特徴と良く似ていたのだ。
「優馬君、どうするの?」
「シッ!少し様子を見るぞ」
龍王は魔族に何かをされているみたいで、動けずにもがいているようだった。
どうやらこの2人は敵同士らしい。
更にジッと伺っていると、不意に龍王の体が光り始めた。
するとその途端、龍王が更に激しく苦しみ出したのだ。
魔族はというと・・・狂ったように笑い声を上げて何かを喋っていた。
そして苦悶の表情を見せる龍王が辛うじて口を開くと、何やら光る玉を吐き出した。
「あれは?!」
六条は知っていた。
あれは、龍王が海月から剥奪したSSS勇者の力だ。
なぜなら海月から奪った時も、勇者の力はあれと全く同じ光る玉の形をしていたからだ。
「優馬、あれって?」
滝座瀬もピンと来たようで、六条に聞いて来た。
「ああ。SSS勇者の力を封じた玉だ」
「嘘?!」
「海月から奪った時に見ただろ?あれはあの時と同じ玉だ」
六条は即決した。
「2人共、あの玉を奪うぞ!」




