50話 ガージャックもやるじゃん?オイ
アールvsガージャック
圧倒的な力の差でアールが押している。
ガージャックは全身血だらけの満身創痍だ。
一方のアールは無傷。
全ての攻撃をバリアで防いでいる。
何というチート!
既にガージャックの息は荒い。
深刻なダメージなのだろう。
「な、何ゆえ我輩を狙う?」
「あなたが先にカガリに手を出してきたんでしょう?」
「カガリとは・・・そ奴の事か?」
ガージャックがギロリと俺を見た。
あ、これ、俺がアールの弱みだと思われたかも。
「フフ、女に守られるとは情け無き男よ、カガリとやら。男なら正々堂々と我輩と一騎討ちを...」
「あー、煽っても無駄だよ?そんなので怒るほど子供じゃ無いんで・・・いや、まだ子供なんだけどさ、ここ最近まあ色々と達観させられる位の修羅場を経験してるから」
「フン、臆病者め!余裕ぶっていられるのも今のうちだ。我輩の魔法『永刃』の真髄を見よ!うぐおらあああぁぁ!!」
ガージャックが気合いを発すると、破壊されていた角、牙、爪が綺麗に復活した。
いや、復活どころか、それらはさらに伸び始める。
伸びて、伸びて、伸びて、伸びて、
更に伸びてゆく。
そしてそれらはグニャリと自分自身の方向へ曲がったかと思うと、一斉に自らの体を貫いた。
「うぎゃあああああぁぁぁぁ!!!」
奴自身からまるで断末魔のような悲鳴が上がった。
これはどういう事なのか?
自殺か?
もう勝てないと思って?
いや、そんな潔い良い奴じゃ無い筈だ。
「あああああぁぁぁぁ!!!」
悲鳴はまだ続く・・・と思ったら、
「ああああああはははははは!!!」
途中から笑い声に変わった。
やはり、何かの技なのだろう。
油断は禁物だ。
ガージャックの体には角、牙、爪が突き刺さっている。
その刃達が、奴の体で縦横無尽に暴れまわって、体中、刃が複雑に絡み合ってゆく。
絡み合って、絡み合って、更に伸びて伸びて、そして絡み合って、その体が頑強な刃の鎧と化してゆく。
最後に複雑に絡み合った角・牙・爪が右手のひらから突き出し剣になった。
左手のひらもパックリと裂けた。
奴はその左手を俺に向けると、
ズガガガガガガガ!
何かを撃って来た!
俺は上に飛び上がって回避した。
「遅い!」
目の前にガージャックが現れる。
そして右手の剣を振り下ろして来た。
「あんたも遅いけど?」
アールが俺の前に割って入り、剣を片手で受け止めた。
「超振動!」
三度の大技。
見た目こそ地味だがその威力は絶大だ。
ガージャックの体へ振動が走った。
「ぐがが・・・」
しかし、刃は壊れなかった。
「ぐはぁっ!た、耐えたぞ!」
奴の刃の剣、そして刃の鎧はまるでビクともしていなかった。
角・牙・爪が複雑に絡み合う事で強度が極限まで増したという事なのか。
「やるわね」
更に、アールが掴んでいる剣が解れてきて、アールの腕に絡みついた。それは、植物の蔦の様にアールの腕から肩へ、そして顔を覆って上半身から下半身へ、足まで覆い尽くした。
刃の蔦は更に二重、三重、そして四重、どんどん重なり、膨れ上がっていった。
そして、最終的には鞠の様な巨大な球体になった。
「ふはは!遂に捉えたぞ!生意気な小娘を!魔将軍たる我輩が人間を見逃すなどあり得んのだ!」
・・・おい、アール!大丈夫か?
≪・・・問題無いわ。データを取っているだけだから≫
・・・マジか?これから何か大技が炸裂しそうなんだけど?
≪本当にヤバかったならもっと慌ててるから。まあ見てなさい≫
「ぐはははははははっ!死ねえい!」
ガージャックは勝ち誇った様な高笑いの後、必殺の攻撃を発動させた。
アールを包んだ巨大な刃の鞠、そのありとあらゆる場所から鋭い角の先端がまるで棘の様に無数に突出したのだ。
「ぐはははははははっ!どうだ!串刺しにされた気分は!もっとも既に死んでいるかもしれんがな。だがこれだけでは終わらんぞ!食らえ!」
ズガガガガガガガッ!
何かが削れる音と共に、無数の棘が高速で回転を始めた。
これは、まるでミキサー?!
無数の棘が敵の体を傷つけ、それが無数に重なる事で、肉をズタズタにする。
しかも蔦に囚われていて身動きも取れない。
これは、いくらバリアがあると言っても、この勢いで削り切られれば危ないんじゃないのかよ?
・・・アール本当に大丈夫か?!
ズガガガガガガガッ!
棘は容赦なく回り続ける。
そしてもう充分だろうという位にまでたっぷりと削り切った所で棘の回転は止まった。
勝利を確信したガージャックは既に余裕の表情だった。
「さて、肉片を拝んでやるか」
蔦の鞠が解れた。
どんどん解れ、最後にアールを包んだ最後の層の中が露わになる・・・・・
そこには誰も居いなかった。
しかも肉片どころか、血の一滴足りとも残っていない。
まあアールの体に血も肉も無いんだけど。
「・・・・・」
一瞬、状況を理解できないそぶりのガージャック。
「これは、どういう事だ?削り切ったという事か?しかし、少なくとも血の跡は残る筈・・・これは一体?」
ちょんちょん・・・
背後からガージャックの肩をつつく指が一本。
ちょんちょん・・・
振り向くガージャック。
そこには・・・・・無傷のアールがいた。
ガージャックの目が驚愕に見開かれた。
「貴様!一体どうやって?!」
「もう気は済んだ?」
アールはそう言うと、ガージャックの両肩にポンと手を置いた。
そしてギュッと肩を掴むと、
「超・超振動!」
「ぐはあああああああああ!!!」
ガージャックの全身を覆い尽くしていた刃の鎧が・・・ガラスの様に細かく砕け散ってしまった。
中から現れたガージャックの生身の肉体、それもまるでミンチの様にグチャグチャと崩れ、血に染まっていった。
「あんたがやりたかったミンチって、これ?」
もはや原型をとどめ無い位の血肉塗れになったガージャック。
辛うじて口を開くと、
「ば・・・げ・・・も・・・の」
一言、そう絞り出すと、
墜落して行った。
俺はアールの側へ急いだ。
「アール、驚いたぞ?」
「問題無いって言ったでしょ?」
「そうなんだけどさ、あれだけ蔦に絡まれて、ぐるぐる巻かれて鞠みたいになってさ、逃げられないじゃん普通。どうやったの?」
「転送よ」
「一言かい!・・・ってけど、出来るの?転送」
「ええ。色々と条件とか弊害もあるんだけど、今は借り物の体だしね。気にせずに使えるのよ」
「そうなんだ・・・流石は超科学」
「まあ、データはすぐに取れたし、最後まであんなのに付き合って囚われたままってのもシャクじゃない?私が後ろにいた時のアイツの顔、すっごくマヌケだったわよ?鼻水出てたし」
「相変わらず敵には容赦ねえなアールさん」
「瞬殺しなかっただけ優しいと思うんだけど・・・」
「まあ勝てたならいいや。けど、俺の出番って全く無かったな」
「カガリが出るまでも無かったし。それより戻りましょうか?」
「だな」
地上に戻ると、墜落したガージャックは・・・まだ生きていた。
「死なない様にバリアをかけておいたから。コイツには聴きたい事もあるしね」
ガージャックを引きずりながら馬車へ戻ると、ホリーが駆け寄って来た。
「カガリ殿!よくぞご無事で!」
「ああ。あの子はどうだ?」
「はい、御者殿が手当てをしてくれて、気は失っていますが、無事です!」
「そうか、良かった」
「それでその、肉の塊の様な者は一体?」
「コイツが元凶だった。ガージャックって言う魔族で、確か魔将軍って言ってたな」
「魔将軍ですか?!」
それを聞いたホリーが驚きの声を上げた。
「知ってるのか?」
「勿論です!魔将軍とは、魔王軍の中でも突出した強さを持つ魔族に贈られる称号です。その強さは、魔王には劣るものの、勇者以外の人間で勝てる者は、ほぼ存在しないと言われています」
「ほぼ存在しないって、人間と魔族ってそこまで差があるの?」
「はい。人間にも、Sランク冒険者やSランク騎士など、魔将軍に対抗できる人材はいます。しかし、数が圧倒的に足りていないのです」
「総合力でボロ負けしてるって事ね」
「はい。その様な絶望的な状況だからこそ、勇者は人類の希望足り得るのです」
「あんな奴らが希望ね」
「あくまで一般論ですが。しかし私はカガリ殿の境遇を聞いて、今代の勇者に疑問を抱いています。私の希望はむしろ落勇者であるカガリ殿のほうに有りますので」
・・・ま、まあそんなに期待されても困るけどさ
「とにかく、この魔族を尋問するぞ」




