44話 鉱山を出発するぞ、オイ
鉱山を秘密裏に支配下に置いて数日、
鉱山は俺の理想とする形に近付きつつあった。
アール演じる、偽スパガーラこと『偽スパ』が鉱山内のモヒカン職員に号令を下し、次々と改革を行ったのである。
まずは、職員達に囲われていた女性達。
彼女達を解放した。
これには改革早々、職員達から不満の声が上がったが、
偽スパの、
「君達、死にたいのかね?」
の一言で全員沈黙した。
本物のスパガーラこと『本スパ』はやはり職員から相当恐れられていたようだ。
まあ実際、かなり強かったからな。
ナンバー2のラングレーだって本スパとは比べ物にならないくらい弱かったし。
そう考えると恐れられているのも納得だ。
女性達を解放したと言っても、ただ鉱山の外へ逃した訳では無い。
荒療治にはなるが、超科学を使って脳の記憶を弄り、鉱山での精神的トラウマの記憶を消去したのだ。
そして、恐怖で萎縮した脳を正常に戻した。
これで、精神的な後遺症は無くなった。
彼女たちが鉱山へ入る事になった理由だが、殆どの女性は、小銭やパン虫の窃盗などの軽犯罪、借金からの奴隷落ち、山賊に攫われ鉱山へ直接売り飛ばされた、そして無実の罪で逮捕された、などの解放しても問題ない理由だった。
なので、それなりの金品を渡した上で近くの街まで送った。
軽犯罪者については、鉱山での精神的苦痛と相殺して罪を償ったとみなし、解放する事とした。
一部、殺人など重犯罪者が少しだけいたので、そいつらは新設した『女性用刑務所区画』へ移送した。
そこでキッチリ罪を償わせる予定だ。
次に、通常の労働者達だが、コイツらは数が非常に多いので、まだ作業中である。
時間はかかるが、1人づつ面談して、超科学による精度の高い嘘発見器にかけ、犯罪者かどうかの選別を進めている。
その結果、犯罪者だった場合には、これまた新設した『男性用刑務所区画』へ随時移送している。
刑務所では、犯罪の内容によって、量刑を設定し、刑期を務めさせる予定だ。
死刑は採用していないが、その換わり終身刑にした上で、超科学によって脳を弄り、罪悪感を極限まで敏感にする事で、心から罪の意識に苛まれる様にした。
これで死ぬまで苦しむ事になるだろう。
受刑者には労働もさせるが、これまでの様な、死ぬ前提の過酷な労働は廃止した。
日本の労働時間を参考に、無理のない形にしている。
寝る場所も、個室もしくは大部屋の牢獄を用意した。布団ありだ。あえて粗末な感じにしてるけどね。
無実の人については、即釈放した。
女性達同様、それなりの金品を渡して近くの街まで送り届けた。
「覚えてやがれ!」
「絶対復讐してやる!」
「後悔させてやるぞ!」
去り際に捨て台詞を吐く人が結構いたが、無実だったのだからそりゃそうだろう。
解き放った人達の中には、大量の政治犯も含まれていた。
中にはかなりの大物もいたようだ。
コイツらを世に放ったら国王や王女はさぞ迷惑するだろうな・・・ざまーみろ!
他に、拷問によって精神的にぶっ壊れていた人達も居た。
俺が入れられた時、馬車で一緒になったような人達だ。
彼等は、気の毒な事に鉱山に入れられてから比較的早めに死んで行くらしく、タッチの差で助けられなかった人も居た。
心からご冥福をお祈りする。
しかし生き残った人達は、これまた超科学で精神を回復させ、正気に戻してから解放した。
彼等の中にも陰謀に巻き込まれた大物貴族や都合が悪くなった政治家など、世に放てば大騒ぎになる人が含まれていた。
彼等は、正気に戻した俺達に感謝しながら去っていった。
次に、職員達の処遇だ。
元々、地獄の環境だった職場だから当然、それを利用して罪を犯して来た職員は多かった。
面談した殆どの職員が、多かれ少なかれ罪を犯していたのだ。
彼らも容赦なく刑務所へぶち込んだ。
それで職員の数が足りなくなったが、職員の大部分を占める『監視員』には、スチルヘルモーの小型版の様なナノマシン集合体を量産して監視に当たらせた。
一体一体が簡易AIを搭載しているので、人間の監視員よりはるかに優秀だ。
戦闘力だって申し分無い。
因みにラングレーと鉱山四天王は、意外な事に罪を犯していなかった。
かつての鉱山運営を鑑みて、逃亡者や反抗者への制裁に関する軽〜中程度の暴力については、ギリギリ許容範囲とみなして、罪から外したのだ。
結果、無罪となった。
要するに、アイツらはまともな脳筋だったって事だ。
当然、職員としてバリバリ働いて貰うつもりだ。
あとは、職員全員、モヒカン禁止にしようと思ったのだが、みんなが余りにも悲しそうな顔をするので、取り止めにした。
するとみんな大喜びだった。
モヒカン好き過ぎかよ!
それと実は、この鉱山は鉄を含む金属の埋蔵量が半端ない事が分かった。
折角なので、その金属を俺の為にガッツリ使う事にした。
まずは、等身大スチルヘルモーを大量生産する事とした。
本体はドロドロに溶けてしまったが、細かくデータを取っていた事もあったので、ナノマシン集合体を素材にして似たような能力を再現する方向で生産する事にしたのだ。
これは純粋に俺の戦力アップを図る目的だ。
これからは、この国の軍やクラスメイトの勇者達、それに魔王率いる軍など、色々な勢力と戦う可能性もあるだろう。
もしもの時の戦力は必要だ。
他にも諸々、超科学を駆使した機械や兵器を生産しようと思う。
あ、宇宙船も欲しいな。
すぐには無理だが、いつかこの世界の宇宙空間を飛んでみたい。
元々、俺の夢って宇宙飛行士だからね。
ただ、アール曰く、宇宙に関しては、本当に危険がいっぱいらしく、安易に宇宙に出る事はしたくないそうだ。
まずは無人偵察宇宙船を放って、近場の宇宙を探る必要があるらしい。
夢は広がるけど、実現するのはまだまだ先の話になると思う。
そんなこんなでいよいよ明日、鉱山を出発する事となった。
今夜は、新たな出発と、ホリーの『姫様を助ける』という目的の成功を願って、宴会を開いた。
出席者は、俺、ホリー、そして生アール。
テーブルに並べられたご馳走の数々。
俺が食いたい物、アールが食いたい物、そしてこの数日でホリーが食べたお気に入り料理の数々。
それら全てを、テーブル型全自動料理マシンである『ザ・料理長1号』に注文した。
そしたら、出るわ出るわ。
食べたそばから、空いた皿がシュッと消え、そしてまたシュッと山盛りの料理が盛られた皿が出現する。
無限ループである。
生アールは食事の必要は無いのだが、『宴会だし!』という事で、飯を消化できる構造に変えたらしい。
完璧なる無表情はそのままで、それはもうバクバクと食いまくっていた。
ホリーも「美味しい美味しい」言いながら食いまくっている。
「もう、ザ・料理長1号無しの生活は考えられません!」だって。
完全に地球の料理にどっぷり浸かってるな。
そして俺も、異世界でこれだけの素晴らしい料理が食べられる幸せを噛み締めていた。
だって、虫スタートだったからね。
悲惨としか言いようがないよ。
それが今は、日本にいた時だって食べた事無いようなご馳走を食べ放題なのだ。
ホント、俺の異世界生活、180度逆転したよ!
ホリーが言うには、この世界は本当に虫しか食べるものが無いらしい。
過酷すぎだろ!ここの食生活。
けどそれならクラスメイト達もみんな虫食ってるんじゃないか?
ざまーみろ!俺はご馳走食ってるぞ!
って一瞬喜んだけど、どうやらスピーリヒル帝国の王室だけは、毒のせいで食べる事が出来ないとされている魔獣肉を毒抜きする秘伝を持っているらしくて、豪華な魔獣肉料理を食べているそうだ。
しかも、その魔獣肉が途轍もなく美味しいらしい。
ホリーのお父さんが、昔スピーリヒル帝国に公務で立ち寄った際に、晩餐会で食べた事があるそうで、それはもう感動していたらしいのだ。
結局、あいつらは良い目ばっか見てるじゃん、ムカつくなー!そのうち見返してやるからな!
そして翌朝、出発の日になった。
留守は偽スパに任せる。
一昨日までは、生アールが偽スパに変身して仕事していたが、昨日からは、新たに偽スパ型ナノマシン集合体を作って稼働させているのだ。
当然、生アールは俺たちの旅に付いて来る。
新・偽スパとは脳内チップを介して通信をリンクさせているので、リアルタイムで情報が入って来るようにしてある。
と言っても、殆どの判断は偽スパ自身に任せるつもりだけど。
だって面倒だし。
偽スパは鉱山の外まで俺たちを見送りに来てくれた。
偽者なので当然、本スパの様に呪いでこの鉱山から出られない。
という縛りはない。出放題だ。
本スパの奴も、ダンジョン制覇の代償である『この地に縛り付けられる』という呪いが無ければ、それとも、もっと他の種類の呪いだったなら、もしかすると今もまだ凄腕冒険者として活躍していたのかもしれない。
そう考えると、アイツも憐れな奴だったのかもしれないな。
まあ悪党には変わりないけどさ。
「ご主人様、鉱山の事はこの偽スパめにお任せ下さい」
「ああ。頼んだぞ。盤石の運営に仕上げてくれよ?」
「お任せ下さい。スチルへルモーの開発も順調に進んでおりますのでお戻りになる頃には戦力も充実している事でしょう!」
「それは心強いな」
・・・ってここに戻るつもりは今のところ無いんだけど。
≪そうなの?でもここがカガリの秘密基地なのよ?≫
・・・秘密基地か。確かにな。そう考えると、このジメジメした陰気臭い地下空間も少しはマシに思えてきたよ。
いつかまた遊びに来ても良いかもな。




