42話 <委員長こと初瀬綾音の視点8>
「私と同盟を組まない?」
開口一番、片山さんはそう言った。
そして私は聞き返す。
「同盟?」
「うん、同盟。ここじゃなんだし、中に入れてもらえない?」
「え、ええ。もちろん・・・」
部屋の中、テーブルを挟んで片山さんと向かい合って座っている。
片山さんは、キョロキョロと部屋の中を観察していた。
「へえ、他の人の部屋ってこんな感じなんだ」
「片山さんの部屋は違うの?」
「それほど大した違いは無いけど。クラスメイトの部屋に初めて入ったからつい見回しちゃって。ごめんなさい」
初めて入ったというのは、こちらの世界に来てからの話だろう。
彼女には確か仲の良い友人がいた筈だ。
当然、日本では彼女の部屋に遊びに行った事くらいあるだろうし。
けれど、ここでは、まだ部屋を見せ合っていないという事なのだろうか?
私でさえ、もう何度か留美が部屋に来ているというのに。
「あれ?梨森さんの部屋へは行っていないの?」
「沙知?・・・あの子とは向こうにいたときに喧嘩しちゃって、そのまま疎遠になっちゃったのよ」
梨森沙知さん。
一緒にこの世界へ召喚されたクラスメイトの1人だ。
向こうでは、良く片山さんと一緒にいた印象だった。
「日本にいた頃、海月君のストーカー疑惑の時にね、先生に口止めされていたんだけど、沙知にだけはね、ずっと相談に乗って貰っていた事もあったし、本当の事を話したのよ。それで、海月君に謝罪に行く時について来て貰ったの。けど、その時にあの子『この事件のお陰で私とお近づきになれたんだから感謝しろ』だとか、他にも色々、海月君にひどい事を言っちゃって。結局、ろくに謝れなかったのよ。その事を責めたら喧嘩になっちゃって・・・」
「そうだったのね」
そういえば、海月君は、片山さんから『嫌われていると思っていた』と言っていた。
つまり、梨森さんのせいで海月君には片山さんの謝罪の想いが伝わっていなかったという事なのだろう。
私は、片山さんが必死に海月君を庇っていた意味の一端が分かった気がした。
彼女はずっと気に病んでいたのだ。
それこそ日本にいるときからずっと。
「それで、同盟の事だけど」
片山さんが本題に戻してきた。
「その事だったわね。同盟というのはつまり、私と片山さん、2人で手を組むという事よね?何に対しての同盟なのかしら?」
「そんなの決まってるでしょ?六条優馬よ」
来た。
なんとなく予想はしていたけれどやはり彼に対する同盟だった。
「あとはこの国に対して」
「この国に?それってスピーリヒル帝国に対してって事?」
「もちろん。だってこの国は私達を拉致したのよ?敵に決まってるでしょ?」
これは予想を超えていた。
まさか国全体を敵とみなしているとは。
確かに彼女の言いたい事は予想できるけれど、たった2人で相手にするには大きすぎる。
私は敢えて惚けて彼女の真意を聞く事にした。
「でも、この国は魔王討伐の必要があって仕方なく・・・」
「そんなの勝手な都合でしょ?考慮する余地すら無いわよ」
「でも、私達へのメリットも沢山あって・・・」
「あんなのメリットでも何でも無いわよ?考えてみて?過去に魔王討伐を果たして勇者の力を得たまま元の世界に戻った人達がいたとして、じゃあどうして地球ではそういう人達の話が残っていなかったのよ?」
「それは・・・力を隠して・・・」
「そんな必要ある?1人2人ならともかく、もの凄い力を持った人が数十人も地球に戻って来るのよ?やる事と言ったら、競うように欲望のまま振舞う事じゃない?みんな仲良く隠遁生活なんてする訳ないでしょ?」
「でも・・・過去の勇者が私達と同じ世界から来たとは限らないわ」
「確かに、それなら地球で彼らの話が無くても当然ね。でもそれだって本当にそうとは言い切れないでしょ?・・・結局、今の私には本当の事は分からないけど、でもこれだけは言い切れるわよ。この国の人達、特にあの王女は信用出来ないって」
「・・・・・」
私は沈黙で彼女に続きを促した。
「だってそうでしょ?あの人は最初、海月君の称号剥奪に反対だった。でも六条君と海月君を天秤にかけて、メリットのある方を選んだ。そして海月君の力が剥奪されて利用価値が無くなるやいなや、鉱山送りにするなんて言い出して彼を捨てようとした。結局、私達を単なる駒としか見ていないのよ。そんな人の事を信用しろって方が無理よ」
「・・・・・」
私は更に話を促す。
「私達が元の世界に戻るには、結局の所、王女の話を信じて魔王討伐を果たすしか無い。いくら疑っても、今はそうするしかない。けど、もし、魔王討伐以外で元の世界に帰る方法があるとしたら?それを王女が隠しているとしたら?これは私の想像でしかないけど、あの王女が信用出来ない以上、そういった事も調べておく必要があると思うのよ」
確かに、疑えばキリが無いけれど、何もしないよりは、もしもの時の為に動いておいた方が良い。
片山さんの言う事は的を射ていると思った。
「最後の理由は海月君を助ける為よ」
「海月君を?」
「そう。彼は称号を失ってなんの力も無くなったのよ。それなのにたった1人でお城から逃げ出すなんて、おかしいと思わない?だってここは日本じゃないのよ?なんの後ろ盾も保証もない、知り合いだって私達以外には居ないのよ?いくら私達の仕打ちが酷かったと言っても、彼にはここに残る以外に道は無かった筈なのよ」
確かにそうかもしれない。
称号の力があるのなら話は別だと思うけれど、何の力も無い中で1人でここを去るというのは、はっきり言って自殺行為だ。
片山さんは話を続けた。
「これはあくまで私の予想だけど、海月君は、鉱山へ送られたんじゃないかと思うの」
「鉱山へ?だってその話は無くなった筈じゃ?」
「だから、あの王女は信用出来ないって言ったでしょ?元々あの人は海月君を鉱山へ送るつもりだったのよ?なら、適当な理由をつけて実行していても不思議じゃない。現に彼は姿を消しているんだから」
私は背筋がゾワッと寒くなった。
私は海月君が書いたというあの手紙を鵜呑みにしていたのだ。
だからここを出て行ったのは彼の意思だとばかり思い込んでいた。
それがまさか鉱山送りにされているかもしれないなんて!
「まあ、それも単なる可能性の一つなんだけどね。でも、疑惑があるなら一刻も早く真実を知りたいのよ。だって、こうしている間にも海月君は大変な目にあっているかもしれないのよ?と言っても、何も知らないままここを飛び出す訳にもいかないし。だから私は、このお城で、私達に知らされていない事実を色々と探りたいの。それには初瀬さん、あなたの協力が必要なのよ」
「話は分かったわ・・・でもそれで、どうして私なの?」
「それは、あなたはまだ常識的な判断が出来ると思ったからよ。海月君の事も庇ってくれたし、六条君の影響力へ警戒もしていた。私も海月君を助けたいと思っているから目的も合うと思ったし。あとは初瀬さん、あなたさっき委員長を辞めたでしょ?」
「それが・・・何か?」
「委員長を辞めたって事は、クラスメイト全員の事を考えなくて良い、つまりアイツらに縛られないって事だから」
まさに片山さんの言う通りだ。
私は、みんなへの責任を降りて、海月君だけへの責任を果たす事に決めたばかりだったのだ。
「あとは、さっきみんなへタンカを切った事で、初瀬さんは完全にみんなを敵に回したから、これからみんなの目はあなたに向くと思うのよ。だから私はその裏でこっそりと動きやすくなるわ」
「じゃあ、私の役割は・・・?」
「どんどん、六条優馬や取り巻き達に反発して目立ちまくって欲しいの。そうすれば私が裏で動きやすくなるから。それにもし六条達に反発心がある人が他にいるなら、彼らが接近して来る可能性もあるわね」
「それって、他に仲間を増やすという事?」
「簡単には信用出来ないけど、そういう人は絶対いると思うのよ。何人か目ぼしを付けている人もいるしね。とにかく、初瀬さんの仕事は、思いっきり、六条達と喧嘩しちゃう事よ!」
なんだ、そんな事か。
それなら今の私でも簡単に出来そうだ。
だって、彼等には言いたいことが沢山あるのだから!
「話は分かったわ。最後に確認すると、同盟の目的は、六条君への警戒と、この国が隠している秘密や日本に帰る為の別の方法を探る事、そして海月君の捜索と救出。この3つが主軸という事でいいわね?」
「ええ」
「分かったわ。この同盟、受けましょう!」




