41話 <委員長こと初瀬綾音の視点7>
テーブルに所狭しと並べられた虫料理。
部屋全体が大混乱に陥っていた。
私を含めて・・・
そんな中、この場を治めたのはやはり六条君だった。
「うん、これは、不味いな」
見ると、六条君は一人、席に座って虫料理を食べていた。
「・・・・・」
唖然とするみんな。
勿論、私も同じ。
みんなが見守る中、六条君は小さな虫を口に放り込み、大きな虫を噛みちぎり、バリバリ音を立てながら平然と咀嚼している。
嘘でしょ?!
「これも不味い」
「・・・・・」
「これはデカすぎる。しかも硬いし不味い」
「・・・・・」
「これは特にグロいな。味はまだマシか?だが不味い事には変わりないな」
「・・・・・」
つ、ツワモノすぎる・・・
ひとしきり食べた六条君。
みんなが唖然とする中、フォークを置き、王女様を見た。
「王女様、虫しか食う物が無いなら仕方ないが、せめてこの味は何とかならないのか?はっきり言ってどれもゲロマズなんだが?」
嘘でしょ?!
そのゲロマズを食べたの?
平気な顔して?
「申し訳ありません、虫とはそもそもこういった味なのです。この世界の人間も決して美味しいと思って食べてはおりません。しかし、これしか食料がなく仕方が無いのです。六条様の世界では虫は美味しいのでしょうか?」
「日本では虫を食べる習慣が無いんだ。一部の地域でイナゴとか蜂の子とかを食べるらしいけど、この食卓に乗ってるやつ程グロくは無いし結構美味いって聞いた事があるな」
「では、そのイナゴと蜂の子に近い虫を探してみますわ」
「ああ、頼むよ。みんな!確かに魔獣の肉が食べられないのは残念だけど、文句を言ったところですぐには帰れないんだし食べなきゃ死ぬんだ。妥協するしかない。女子でも男子でも料理の得意な奴はいるか?日本の料理法とか調味料とか少しでも美味しくなるようにアドバイスはできる筈だ。それと王女様、料理人に虫の姿が分からないように調理するよう頼んで欲しい。俺達は虫の姿が苦手なんだ。分からなければ多少はマシになると思う」
「分かりましたわ。最大限ご要望に沿うよう料理人に申し付けますわ」
「ありがとう・・・みんな!とにかく俺達は生きなくちゃならない。生きて魔王を倒して日本に帰るんだ!そしたら美味い飯も思う存分食えるし、チート能力や金銀財宝を持ち帰って日本で最高の人生が送れる。ここは力を合わせて踏ん張ろう!」
「ああ。分かったよ!」
「六条っちが言うなら仕方ねえな」
「うん、六条君、私頑張ってみるよ」
「私、料理得意だから、何が出来るか考えてみるわ」
「みんなありがとう!助かる!」
六条君の言葉と行動でパニック状態だった彼らが落ち着きを見せた。
それどころか、このピンチを乗り越えるべく一致団結しだした。
恐れ入った。
私には到底ここまでみんなをまとめる事なんて出来ないだろう。
それどころか、私自身もパニックになっていたし。
六条君はこの瞬間だけは主人公してると思ってしまった。
「実は皆様にはもう一つお伝えしなければいけない事がございます」
王女様がそう切り出した時、食事の件でのインパクトがあまりに強過ぎた為か、その後、六条君の言葉でクラスメイトの結束がより強固になった為か、みんなの反応は意外と薄かった。
「何ですか?虫より嫌な話はやめてくださいよ?」
「あれ以上の衝撃はそうそう無いっしょ!」
「言えてるー」
「ははは!」
笑う余裕がある人さえいた位だ。
「残念なお知らせですので衝撃はあるかもしれません。しかし、今の皆様の結束があれば乗り越えられるでしょう!実は...」
王女様はそこで言葉を止めると持っていた紙のロールを開いて六条君に渡した。
紙は見たところ私達に馴染みのある材質ではない、これが羊皮紙という物だろうか?
六条君は、それを受け取って目を通すと、何か汚い物でも見るような顔をした。
・・・嫌な予感がする。
「これは・・・予想はしていたが流石に早すぎないか?・・・みんな、海月が早くもリタイアして逃げ出した」
「はあ?ウソ月が?逃げたってどういう事?」
「そっくりそのまま読み上げるぞ・・・・・『私、海月加架梨は、勇者育成訓練に耐えられず、自らの意思で勇者の立場から逃げ出します。そして今後はこの国で一市民として生きていきます。この決断に関する一切の責任は私にあります』・・・だとさ。正直、俺としては遅かれ早かれこうなると思ってたし、これで俺達の結束が崩れるとも思ってないからショックも何も無いな」
王女様がホッと胸を撫で下ろした。
「そう言って頂けて安心致しました。それは昨夜、初日の訓練を終えた海月様が『もう訓練は耐えられない』と言ってお書きになりました。そして本日の朝、すでにお城を発たれました」
「速攻逃げ出してるってどうなの?まあそいつはもう過去の人間だしどうでもいいか。でも1日でギブアップってヘタレ過ぎじゃね?」
「言えてる!根性無さすぎだよね」
「けどさ、俺たちが魔王ぶっ倒したら何もしてないアイツも自動的に日本に戻れるって事だろ?ズルくないか?」
「それでしたら問題ありません。その羊皮紙に署名する事で既に契約破棄となっています。海月様はこの先、元の世界へ戻る事はありません。それにこの世界でも『落勇者』として死ぬまで迫害の対象になるでしょう」
「なら良いや。俺って不公平なの嫌いなんだよね。それにしてもこの世界からも迫害されるって、流石はウソ月語り、だよな。アイツ狙ってやってんじゃね?」
「ウケるー!」
私は全身から震えが込み上げるのを必死に堪えていた。
さっきまでみんなで頑張ろうと励まし合っていた人達とはとても思えなかった。
みんな海月君の事になるとガラッと人が変わる。
醜い方向へと。
彼ら自身はその事に気がついているのだろうか?
自分達が正しいと思っているのだろうか?
気分が悪い。
吐きそうだ。
さっきの虫など比べ物にならないくらい気持ちが悪い。
私は震えを堪えながら口を開いた。
「どうしてみんなそんなに冷たくなれるの?」
「は?」
「何か言いたい事がある訳?」
「言いたい事?あるわよ!海月君だってクラスメイトでしょ?どうしてそんな酷い事が言えるのよ?!」
予想はしていたがここで六条君が割って入って来た。
「何度も言うが、その言葉はそっくりそのまま自分に返ってくるぞ。特にこの件は明らかにお前が提案した訓練2倍が関わってきている。て事は、これに関しちゃみんな同罪じゃない、委員長、お前に全面的な責任がある。て事はだ、一番言う資格のない奴が正義ヅラして騒ぎ立ててるって事になる」
「そうだ!委員長が悪いんじゃねえかよ!」
「そうよ!私達を責める資格無いじゃない!」
私は一旦目を閉じた。
そして決意を固めると、カッと目を開いてみんなを見回した。
そして・・・
「・・・分かった。もういいわ。私が悪い。認めてやるわよ全部私が悪いって!だからもうみんなに意見しないし責任は全部私が負うわ!勿論、海月君に償う義務も全面的に私にあるから安心して。これから私は彼に償うために動くから!これは私だけの問題だから誰も口出しはしないでね!あと、もう委員長は辞めるわ。みんなに意見出来ないのなら務まらないから。私、疲れたしもう寝るわ。じゃあ!」
私は言いたい事を一気にまくし立てて大広間を出た。これが『ブチ切れる』ということなのか。
そう思った。
自分の部屋へ戻ってベッドに突っ伏した。
不思議と涙は出なかった。
悲しみより怒りが上回っている。
もうどうにでもなれ。
言いたいことは言った。
半ばやけくそだった。
けれど、間違っているとは思わないし、撤回する気も無い。
これからどうすればいいのか?
六条君だけでなく、クラスメイトのみんなとも溝が出来てしまった。
明日からどう接すれば良いのか?
日本にいるときはこんな事は無かった。
こんな訳の分からない状況に置かれたからこそ露呈した歪み。
日本にいるときも軋轢はあった。
海月君は周囲から浮いていて、悪口を言われたりしているのも知っている。
実際、何度か注意した事もあった。
けれどそれでも日本は平和だった。
だって彼が称号を奪われる事も無かったし、一人だけ辛い訓練を課される事も無かった。
城からたった一人で放り出される事も無ければ、落勇者などと呼ばれ迫害される危険性だって無かった筈なのだ。
「私は何一つ守れなかった・・・」
私は平時ではリーダーでいられるけれど、異常事態下ではリーダーとして失格だ。
それは充分理解した。
この状況でみんなを纏められる六条君こそが真のリーダーなのかもしれない。
少なくとも私よりはずっと適任だ。
もしかすると、彼が海月君にした仕打ちも、リーダーとしては正しかったのかもしれない。
そんな気さえした。
でも、私は納得しない。
出来ない。
だって私の怒りも失望も悲しみも全く晴れてないから。
もう私が正しいとか間違っているとかはどうでもいい。
私は、私の信じる道を行く。
今はそれが、海月君へ償う事だった。
「もう委員長も辞めたしやりたいようにやってやるわ」
私がそう決意した時、
「コンコン・・・」
誰かが私の部屋をノックした。
扉を開けると、片山クリスティーナさんがいた。
「片山さん・・・」
「夜分にごめんなさい。一つお願いがあって来たの・・・私と同盟を組まない?」




