39話 <委員長こと初瀬綾音の視点5>
召喚された翌日、早速、魔王討伐へ向けた訓練が始まる予定だった。
しかし、六条君とブルーネル・ブルトスカ騎士団長が口論の末、六条君を含め大半のクラスメイトが訓練をボイコットして帰ってしまった。
残されたのは私、留美、片山クリスティーナさん、上旗深雪さんに冷膳菜綱さん、そして三太刀葵さんだけだった。
騎士団長は今日が最後の訓練になるかもしれないと言って、予定していたメニューではなく、もっと実戦的な訓練を施してくれた。
ものすごく厳しかったけれど、騎士団長の動きを少しは体に刻む事が出来たと思う。
あとは自力での頑張り次第だ。
上手く鍛錬が進めば、騎士団長の必殺技を一つ修得出来る筈だ。
その夜は大広間での夕食だった。
長テーブルが数台並べられ、クラスメイトの人数分、椅子が並べられていた。
王女様は私達と食事を共にすると言って同席した。
六条君の隣だ。
テーブルに並んだのは昨日の晩餐会で残った肉がメインだった。
残りと言っても味は落ちておらず、あらためて調理し直された品もあって、その豪華さと美味しさは前日と遜色なかった。
私を含めた訓練組は疲れすぎて食欲が湧かなかったが、それでも最低限口に押し込められたのは料理が美味しいお陰だったと思う。
周りからも料理に対する絶賛の声があちこちから飛んでいた。
「うめえ!この世界の料理マジ美味すぎ!」
「食事だけで言えば本当にこの世界へ来て良かったわ!」
「言えてるよね!」
大部分の人はこちらでの生活を楽しんでいるようだ。
私だって同じ様に楽しめたらどれだけ楽か。
けれど一つだけ問題があった。
海月君がいない。
王女に聞くと、まだ訓練中だという。
『まさか!そんな・・・』
私達はとっくに訓練を終えてお風呂にも入って、休憩も取ってからここに来たのだ。
それなのに彼だけまだ訓練なんてあまりに酷すぎる!
すぐ訓練を止めさせるよう王女様に抗議したけれどそこに六条君が割って入ってきた。
「お前の提案で訓練2倍って事に決まった筈だ。王女を責めるのは違うんじゃないか?」
「それは、六条君が5倍なんて言うから・・・」
「確かに5倍って数字は出したが、それはあの場を収める交渉の為だ。俺はハナから5倍だろうが2倍だろうがそんな理不尽な話を通す気は無かったんだ。初瀬も同じ考えだと思ってたんだが、お前は2倍を強く推してきた。正直耳を疑ったよ。初瀬がそこまで海月を憎んでたってな」
「憎んでたのはあなたでしょ?海月君があなたより凄いSSSだったから!」
「別に憎んじゃいない、あの時説明しただろ?あいつに俺たちのリーダーは務まらないって。俺は合理的な判断を下したまでだ。そうしなきゃ俺たちは統率も取れず魔王討伐なんてとても成功させられないし元の世界にも帰れない。ヤツはこの世界が平和になる為に必要な犠牲だったんだよ。それが罪ってんなら、あの決断をした全員が同罪だ。委員長、お前も含めてな」
「だからって海月君だけが犠牲になるなんて間違ってる!彼だってクラスメイトなんだから!」
「そうやってお前だけ良い子ぶるのは止めろ。滑稽だぞ。お前も同じ穴の狢なんだ、いい加減分かった方が良い。
一つ例え話をしてやる。海月がSSSの力を取り戻したと仮定しよう。ヤツはどうするか?俺達に復讐しに来るだろうな。ここは日本じゃ無いんだ。本気で殺しにくるかもしれない。そうなると真っ先に殺されるの誰か?多分俺だろうな。それは自覚してるさ。けどな初瀬、その時はお前だって例外なく殺される側だぞ?」
「・・・どうしてそんな酷い事言うのよ?」
悲しかった。
とても。
同じ学校のクラスメイトに、同じ日本人に、同じ境遇に巻き込まれた者同士として、どうしてそこまで冷たくなれるのか?
自然に目から涙が溢れ出し止まる気配がなかった。
涙をポタポタ落としながら六条君を睨んだ。
彼は特に表情を変えず私を見つめていた。
「お二人共もうその辺になさいませ!皆様は魔王討伐へ向けて一丸となって望まなければなりませんのよ?この様なところでケンカをしている場合ではありませんわ。初瀬様、海月様の様子は私が後で見て参ります。それでよろしくて?」
「・・・お願いします」
王女様が取りなしてくれたけれど、六条君との溝は決定的になり、場の雰囲気もぶち壊しになった。
沈黙の食卓・・・
さっきまであんなに楽しげだったのに。
それをぶち壊したのは確かに私だった。
部屋へ戻る際、片山さんを呼び止めたけれど、
「ごめんなさい。今日は訓練で疲れたからまた今度にしてくれない?」
そう言われてしまった。
確かに今日の訓練はとても辛かった。
騎士団長曰く、
「初日は様子見のつもりだったが今日が私が教える最後になるかもしれないから全力でしごいてやる」
という事で、言葉通りそれは壮絶な訓練だった。
明日は一体どうなるのだろうか?
流石に今日の訓練ペースが続くのは正直辛い。
今は色々な事に対して不安しか感じなかった。
翌朝、騎士団長はもう居なかった。
私達の訓練から外れただけでなく、騎士団をクビになったそうだ。
何でも、騎士団は勇者を助け共に魔王討伐に臨まないといけないので、初日で勇者達と決裂した人間を置いてはおけないそうだ。
まさかそこまで徹底しているとは思わなかった。
一日とはいえ、私達に強くなる為の方法を叩き込んでくれた騎士団長には感謝しかない。
そして彼女をクビに追いやった六条君には溝だけでなく敵意の様なものまで芽生えてきた。
騎士団長の後任には副団長が昇格して新たな勇者担当になった。
新騎士団長はまだ若い男性でブラウンヘアの優男風、けれど流石は騎士団長に選ばれただけあって引き締まった体をしているし動きにも隙がない様に感じた。
「僕はこの度、新騎士団長になったラクロア・スラバントだ。よろしくね」
爽やかな笑顔で物腰は柔らかい。
「今日からみんなの訓練を担当するんだけど、気負わなくて良いからね。みんなは戦いの無い世界から来たって事だし、徐々に慣らしていくやり方にしたいと思う」
「やった!ラクロア団長は話せる人っぽい!」
「分かる!昨日の人は・・・ちょっと・・・ね?」
「もう居ないヤツの事はいいじゃん!ラクロア団長さん、宜しくです!」
「あ、ああ・・・よろしくね!とにかく、無理はしないように。あと相談などあれば聞くからね!」
みんなの切り替えの早さに若干引きつつも優しく対応してくれた。
実際、訓練が始まると、昨日の凄まじいシゴキとは全く別の、ごく無難な訓練内容だった。やはり昨日の一件を考慮して私達のやる気を無くさせない為に緩めの訓練にしたのだろう。早く魔王を倒せるようにならなきゃいけないのにこんな事で良いのだろうか?
昼休憩も和気藹々とどこか緩い雰囲気で進んでいった。
「お昼ご飯美味しー!」
「やっぱこっちの飯は最高だな!」
「ほんと、贅沢だよな!テンション上がるわ!」
まるでピクニック気分。
それを批判的な目で見てしまうのは私の気持ちに余裕が無くなっているせいかもしれない。
「あー、ちょっと良いかな?君達の中で『毒処理特効』っていうスキルを持っている人、手を上げてくれないかな?」
新騎士団長が尋ねてきたけれど誰も手を上げない。
ちなみに私達は、称号のランクについては王女様に報告しているけれど、それ以外のステータスについてはまだ聞かれていなかった。
なぜなら、魔王討伐するにあたって一番重要なのが称号のランクだから、という事らしい。逆に言うと、他は急いで確認する程のものでも無いのだろう。
とすると、その『毒処理特効』というスキルは、称号のランクの次に重要という事になるけれど・・・
「誰か居ないかな?数人は絶対にいる筈なんだけど?」




